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青の星 青の星戦域⑤ 宇宙(そら)での戦い 宇宙怪獣星喰い
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「おいぃマジかよ!? この数」
「これは思っていた以上だな」
ワープを終えた二人の目の前には、視覚ではとても収まりきらないほどの青の星に向かっている万を超えると思われる隕石群の姿があった。
「こんなもん、いったいどーしろってんだよ?」
目の前の光景にジーンが愚痴をこぼしていた。
「だがいつまでも愚痴をこぼしてばかりではいられない。一気に叩くぞジーン」
「おうよっ」
ジーンの返答を聞くや否や再度ナノグリフと『生体リンク』したエリスが、すぐさま多数の隕石群をロックすると、先ほど急速充填したナノグリフのえんねるぎーを使って攻撃を開始する。
「多重フォトンブラスト」
万を超える隕石群。その三分の一ほどがエリスの放った多重フォトンブラストの一撃を受けて一瞬で焼失する。
そこにジーンの扱う手動迎撃システムであるガトリングキャノンを撃ち込む。
だが、それでも隕石群。その三分の一と少しを迎撃できたに過ぎなかった。
そのためすぐさま第二撃準備に取り掛かる。
「これよりエネルギーの急速充填を開始する」
『生体リンク』を解除したエリスがエネルギーを充填しながら、ナノグリフに状況説明を求める。
「ナノグリフ。状況は?」
『青の星に向かっている隕石群の31%の迎撃に成功』
「ってことは、あと約三分の二を撃ち落としゃあ終わりってことか?」
ナノグリフの答えを聞いたジーンが、エリスに意気揚々と問いかける。
「ああ、ナノグリフ。残りの隕石群の数は?」
ジーンに尋ねられたエリスはナノグリフに隕石群の数を訪ねる。
『隕石群残り約6000』
「うしっあと二回も今のを撃ち込めば終わるぜ」
ジーンが楽観的な漢字に意気揚々という。
「だといいが……」
それとは対照的にエリスが何かを危惧しているのか、神妙な表情で呟いていると、案の定次の瞬間には、ナノグリフがエリスの危惧していた通りの答えを即答し、ジーンの楽勝気分に水を差す
『新たな隕石群補足』
「はっ新たな隕石群? どういうことだよ?」
「ナノグリフ」
エリスに促されたナノグリフが新たな隕石群の出所を確認する。
『新たな隕石群は、隕石群の後方の巨大隕石から生み出された模様』
「巨大隕石から生み出されただって!?」
ジーンが目を見開き驚きの声を上げる。
それとは対照的に、エリスがさして驚いているわけでもなく冷静な口調で言った。
「やはりあれが原因か、これはどうあっても胴元を叩くしかないようだな」
エリスは隕石群の先にある巨大な質量と熱源を有した小惑星ほどもある彗星を睨み付ける。
「胴元ってエリス。どういうことだよ? まさかっ」
「ああ、そのまさかだ。先ほど私が巨大な質量と熱源を探知したといっただろう。それが魔王と思われる巨大な小惑星ほどもある彗星だ」
「お前は魔王が彗星だっていうのかよ!?」
「ああ、魔王とは自立進化型機械の総称だ。自立進化型なら、魔王が彗星に変貌していたとしてもおかしくないだろう?」
エリスの言う通り、宇宙科学者たちの最新の研究で魔王は、自立進化型兵器とされている。そのため戦うたびに様々なことを学習して、常に姿かたちを変え進化し続けているのである。
だが実際は、これすら科学者たちの推測や憶測にすぎないとされている説もあり、まだまだ魔王に対して謎が多いのも事実である。
「確かにそうだけどよ、エリス。さすがにあの巨大彗星が魔王ってのは、その推理は突拍子もないんじゃないか?」
「思い出してみろジーン。惑星イシュラでの奴の姿を」
「確か……奴は星の中に潜んでいやがった」
エリスに言われたことを思い出して、ジーンが納得気に呟いた。
「そういうことだ。ジーン。主砲で無尽蔵に隕石群を生み出すあの巨大彗星を撃墜するぞ」
「おうよっ」
エリスの指示にジーンが意気揚々と答える。
「だがただ主砲を撃ち込んだだけでは、あの巨大彗星は破壊できないだろう。お前の力が必要だ」
「なるほどな。そういうことかよ。だからニーナでなく俺を連れてきたってわけか。そういうことなら任せてもらおうじゃねぇか!」
エリスの説明にジーンが俄然やる気を出して力強く答える。
「ではジーン。私はサポートに回り、ナノグリフのコントロール権限を一時お前に渡す。あとは任せたぞ」
「おうよっセラフ級の戦艦に乗ったつもりでいやがれ! さっそく行くぜナノグリフ! 『フルリンク』!」
ジーンが気合の雄たけびを上げると、エリスの座席の左前にあったジーンの座席がブリッヂ中央にあるエリスの座席と入れ替わり、戦艦のコントロール権限が渡される。
そしてジーンのナノエフェクトと小型戦艦ナノグリフが『生体リンク』する。
ジーンの感覚は船と一体化し、船と自分の感覚を共有する。
もちろんエリスが『生体リンク』したときのように、圧倒的な情報収集能力や索敵機能。追尾機能が特に今日行かされたわけではない。ジーンの能力は攻撃特化型。つまり純粋な艦のパワーアップだ。
力強い推進力と強力なシールド。そして小惑星ぐらいなら、簡単に貫き撃ち砕く攻撃力が艦に備わる。
「エリスッさっそくぶっ放していいのかよ!」
戦艦と『生体リンク』して少しばかりハイになっているのか、ジーンが嬉々とした表情を浮かべながら叫ぶ。
「待て。まだだ。お前の力が最も生きる位置に艦を移動させる。ジーン。お前は私の指示があるまで力を溜めて備えていろ」
「わかったぜっ」
ジーンの返答を聞いたエリスは、冷静に状況や相手との質量やエネルギー量の差などを考慮して、ジーンの攻撃が最も威力を発揮すると思われる特定の位置を探し出そうとする。
もちろんその間にも艦に向かって飛来してくる隕石群などw、自動迎撃システムなどを用いて迎撃するもの怠らない。
そして、ジーンの攻撃が元も威力を発揮すると思われる特定の位置を探し出すことに成功すると、小型戦艦ナノグリフを彗星の正面へと移動させる。
エリスの策はこうだ。向かってくる巨大彗星の中心に、ジーンのナノエフェクトによって強化された小型戦艦ナノグリフの主砲真正面からぶつける。
真正面から彗星の中心にぶつかった主砲は、青の星に向かっている巨大彗星と正面衝突する。
そうすれば強化された艦の主砲と、青の星に向かっている趨勢の推進力が互いにぶつかり合い主砲の破壊力が何倍にも膨れ上がるからだ。
つまり、エリスが行おうとしているのは、飛来する彗星の力を利用した一種のカウンター攻撃なのである。
飛来する隕石群を自動迎撃システムで撃ち落としながら、エリスが船の位置を艦に幾つも取り付けられている小型バーニアで微調整して、巨大彗星の中心核が狙える真正面へと移動させると、小型戦艦のAIであるナノグリフが音声を発する。
『巨大彗星の正面に移動が完了しました。主砲、射程に入ります』
「今だジーン。撃てぇっ」
エリスの号令の元。ブリッヂ中央にいるジーンが狙いを定めて、小型の銃を模した主砲発射用コントローラーの引き金を引く。
「おうよっフルバースト!」
ジーンと『生体リンク』し、その威力を格段に上げた小型戦艦ナノグリフの主砲が、巨大彗星に向かって真っ正面から放たれる。
そして接触。ジーンのナノエフェクトによって強化された小型戦艦ナノグリフの主砲と、魔王と思われる巨大彗星が真っ正面からぶつかり合った。
「うしっ手ごたえありっ仕留めたぜっ!」
フルバーストで力を使い果たしたジーンが、艦との『生体リンク』を解きながら、にやり自信ありげな笑みを浮かべる。
だが、次の瞬間。予想だにしない事態が起きたために、ジーンの顔色が変わる。
なぜなら、小惑星をも貫くことのできるジーンのナノエフェクトによって強化された小型戦艦ナノグリフの主砲が、巨大彗星と接触した瞬間。いとも簡単に弾かれてしまったからだ。
そのためジーンと『生体リンク』して威力を高めていた小型戦艦ナノグリフの主砲は、結局彗星の表面をわずかばかりに削り取っただけで、四散してしまったのだった。
「なっ俺のフルバーストが弾かれただと!?」
「驚いている場合ではないっこのままではまずいぞジーンッ舵をきれっ」
巨大彗星の正面に回っていたために、このままでは巨大彗星と正面消灯することを察していたエリスが、冷静な口調で指示を飛ばす。
さらにそこへ周辺宙域の状況を分析していた船のAIであるナノグリフが警報を鳴らす。
『先ほどの衝撃により多数の隕石群が発生しました。回避行動に移ってください」
そうナノグリフの言う通り、先ほどジーンが放ったフルバーストが弾かれながらも、彗星の表面にわずかばかりのダメージを与えていた。
そのため削り取った彗星の表面の破片群が、新たな隕石群となり、まるで突撃艦のように小型戦艦ナノグリフに向かって突っ込んできたからだ。
「ちっわかってっけどよう。ちっとばっかまずい状況だぜこれは」
ナノグリフからの状況説明を聞いて、手元にあるレーダーを目にしながら細かい操舵操船や会費と言った小技が苦手なジーンが声を荒らげる。
「問題ない。操船は私がする。ジーンはしばしの間休息していろ」
それだけ告げると、ジーン委代わりすぐさまエリスが舵を切ると共に、エリスは周辺宙域に漂っているダストや隕石群などを交わす最適なルートを脳内で瞬時に導き出しながら、同時に隕石群回避の航路データを作成してナノグリフに送る。
「ナノグリフ。かわしきれないものは撃ち落とせ。可能か?」
『問題ありません』
航路データを受け取ったナノグリフが、エリスの指示通りの航路を辿りつつ、かわしきれない隕石群や破片。宇宙ダストなどを撃ち落としながら回避行動をとる。
こうしてジーンが回避などの操作操船が苦手なことを知っていたエリスの迅速な判断により、小型戦艦ナノグリフは、巨大彗星の破片をギリギリで交わすことに成功していた。
もしエリスが瞬時に隕石群を回避する航路を導き出せず、またジーンと操船を代わっていなければ、今頃小型戦艦ナノグリフは、宇宙の藻屑となって消えていただろう。
とはいっても、音速をはるかに超える速度で艦のギリギリを通過する彗星の欠片の衝撃により、大地震が起きた時のような揺れが戦艦内を襲う。
「ジーン無事か?」
座席に座り何とか揺れに耐えながら、操縦桿を握っていたエリスが声をかける。
「ああ、なんとかな」
かなりの力を消耗したために踏ん張りがきかず、先ほどの揺れのせいで座席を転げ落ちたジーンが頭を左右に振り、何とか座席を掴み立ち上がりながら返答を返す。
二人が何とか揺れに耐えたのち。上げた視線の先には、先ほど艦の主砲により表面を削られた巨大彗星の姿があった。
なぜ巨大彗星が彼らの視線の先にあるのかというと、エリスが隕石群回避の航路を作成しながらも、巨大彗星監視のために巨大彗星からそう離れず、また平行するような航路をとったためだ。
エリスたちの視線の先で、先ほどの攻撃で表面を削られて姿を現したのは、エリスの予期していた魔王ではなく。全身が岩石と思われる幾つもの硬い岩盤のようなもので覆われた。松ぼっくりのような見た目をした巨大な生物だった。
『生物』と、なぜ確定して言えるのかというと、小型戦艦ナノグリフの主砲によって削られた表面に、小さな小惑星ぐらいなら丸のみにできるほどの口のようなものが存在していたからだ。
その姿を目にしたエリスが、最悪の事態がさらなる最悪の事態を呼び込んで、状況を悪化させていることを知り、苦虫を噛み潰したかのような声を上げる。
「あれは……星を喰らうという第一種危険指定生物宇宙怪獣『星喰い』だ」
「なっ!? これだけの巨大なエネルギーと質量を有していて魔王じゃないのかよ!?」
エリスの説明にジーンも驚愕の声を上げた
「ああ、魔王ではないとはいえ、まずいぞ。あんなものが今ニーナが降り立っている青の星に向かっているのだ」
「だけどよエリス。星喰いってのは星を喰らおうとするんだから、喰らおうとする星には激突しねぇんじゃねぇか?」
「いや、奴は星を喰らうといっても、星の資源やそこに住む生物を喰らうわけではない。奴の狙いは魔王と同じく星の中心核にある膨大なエネルギーを有した星のコアだ。そのため星喰いはまず、そこに行きつくまでに邪魔になるであろう星の外皮を破壊する。星の外皮とは、その星と共に生き共に暮らす星と共生関係にある生命であり、その星の文明だ。星と共生関係にある生命や文明は、いわば外敵から身を護るその星の防衛機能そのものだからな。そのためまず星喰いは、星と共生関係にある種と文明を滅ぼすために、外部から星そのものに激突し、破壊する。そして、星そのものの防衛機能が完全に破壊された跡。奴は無防備になった星の文字通り外皮を破壊しながら星の中心部へと向かい。むき出しになった生きた星のコアを喰らう」
「それってマジかよ」
「ああ、奴が青の星に着くまでに何としてでも、奴の侵攻を阻まねばならない。と、言いたいところだが、残念だが。今の我々に奴の侵攻を阻む術はない」
「だったら、もう一度俺のフルバーストで……」
「無理だな。ただの小惑星なら主砲を強化できるジーン。お前のフルバーストで撃ち砕くことはできるだろうが、あれは『星喰い』その名の通り星を喰らうものだ。その体の強度は小惑星などの比ではないぞ。もし、まともにやり合ってあれを貫くには、最低でもセラフ級の力が必要だ」
セラフ級とは、エリスたちの乗船している小型戦艦とは違い、攻撃特化型戦艦などの上位に当たる宇宙四大天使たちの名を冠した戦艦たちのことだ。
「それに一度主砲を発射してしまえば、次にまた撃てるまである程度の時間をおかなくては主砲の威力に艦が持たない。特にお前のフルバーストで強化された主砲は桁違いの威力だからな。主砲どころか、下手をしたらこの艦自体が反動に耐えられずに大破してしまう」
「うぐっ確かにそうだけどよ……」
自分でもそのことを分かっていたジーンが、痛いところをつかれたとばかりに一瞬口をつぐむ。だが、気を取り直して反論する。
「だがようエリス。そうでもしないとこいつを抑えられないだろうが!」
「わかっている。だが、今のこの艦の状態で、先ほどの彗星の表面しか削り取れなかったお前のフルバーストを使ったとして、第一種危険指定生物と呼ばれる『星喰い』をその一撃で確実に仕留められるのか? セラフ級の戦艦ならともかく、我々が駆るこの小型戦艦で」
「うぐっ確かに巡洋艦クラスなら何とかなったかもしれねぇけど、いくらフルリンクして主砲の攻撃力を上げたとしても、確かにこの小型戦艦じゃちっと無理かもな」
さすがのジーンもいくら強化できるとはいえ、小型戦艦の攻撃力の限界を知っているのか、エリスの言い分に反論しようとはしなかった。
「魔王ではなかったとはいえ、あれが青の星に向かって突き進んでいるのは確かだ」
「マジかよ。あんなもんがまともに衝突したら」
「ああ、青の星も、そこにいるニーナもまずいことになる」
隕石群をいくら落としたところでこの宇宙怪獣『星喰い』をどうにもできないのでは話にならない。こうなったら一刻も早く青の星に降りたニーナを回収しなくてはならない。そう考えたエリスはすぐさま行動に移す。
「ジーン。今すぐ青の星に降りたニーナを回収しに行くぞ」
「んなことより子の彗星を何とかするのが先じゃねぇのかよ?」
「今の我々の戦力ではあれを食い止めることは不可能だ。本隊を破壊できなければたとえその破片である隕石群をいくら落としていても意味がない。急ぎニーナを回収して、青の星より離脱する」
そう宣言するとエリスは小型戦艦ナノグリフを駆り、急ぎニーナを回収するために青の星へと進路をとったのだった。
「これは思っていた以上だな」
ワープを終えた二人の目の前には、視覚ではとても収まりきらないほどの青の星に向かっている万を超えると思われる隕石群の姿があった。
「こんなもん、いったいどーしろってんだよ?」
目の前の光景にジーンが愚痴をこぼしていた。
「だがいつまでも愚痴をこぼしてばかりではいられない。一気に叩くぞジーン」
「おうよっ」
ジーンの返答を聞くや否や再度ナノグリフと『生体リンク』したエリスが、すぐさま多数の隕石群をロックすると、先ほど急速充填したナノグリフのえんねるぎーを使って攻撃を開始する。
「多重フォトンブラスト」
万を超える隕石群。その三分の一ほどがエリスの放った多重フォトンブラストの一撃を受けて一瞬で焼失する。
そこにジーンの扱う手動迎撃システムであるガトリングキャノンを撃ち込む。
だが、それでも隕石群。その三分の一と少しを迎撃できたに過ぎなかった。
そのためすぐさま第二撃準備に取り掛かる。
「これよりエネルギーの急速充填を開始する」
『生体リンク』を解除したエリスがエネルギーを充填しながら、ナノグリフに状況説明を求める。
「ナノグリフ。状況は?」
『青の星に向かっている隕石群の31%の迎撃に成功』
「ってことは、あと約三分の二を撃ち落としゃあ終わりってことか?」
ナノグリフの答えを聞いたジーンが、エリスに意気揚々と問いかける。
「ああ、ナノグリフ。残りの隕石群の数は?」
ジーンに尋ねられたエリスはナノグリフに隕石群の数を訪ねる。
『隕石群残り約6000』
「うしっあと二回も今のを撃ち込めば終わるぜ」
ジーンが楽観的な漢字に意気揚々という。
「だといいが……」
それとは対照的にエリスが何かを危惧しているのか、神妙な表情で呟いていると、案の定次の瞬間には、ナノグリフがエリスの危惧していた通りの答えを即答し、ジーンの楽勝気分に水を差す
『新たな隕石群補足』
「はっ新たな隕石群? どういうことだよ?」
「ナノグリフ」
エリスに促されたナノグリフが新たな隕石群の出所を確認する。
『新たな隕石群は、隕石群の後方の巨大隕石から生み出された模様』
「巨大隕石から生み出されただって!?」
ジーンが目を見開き驚きの声を上げる。
それとは対照的に、エリスがさして驚いているわけでもなく冷静な口調で言った。
「やはりあれが原因か、これはどうあっても胴元を叩くしかないようだな」
エリスは隕石群の先にある巨大な質量と熱源を有した小惑星ほどもある彗星を睨み付ける。
「胴元ってエリス。どういうことだよ? まさかっ」
「ああ、そのまさかだ。先ほど私が巨大な質量と熱源を探知したといっただろう。それが魔王と思われる巨大な小惑星ほどもある彗星だ」
「お前は魔王が彗星だっていうのかよ!?」
「ああ、魔王とは自立進化型機械の総称だ。自立進化型なら、魔王が彗星に変貌していたとしてもおかしくないだろう?」
エリスの言う通り、宇宙科学者たちの最新の研究で魔王は、自立進化型兵器とされている。そのため戦うたびに様々なことを学習して、常に姿かたちを変え進化し続けているのである。
だが実際は、これすら科学者たちの推測や憶測にすぎないとされている説もあり、まだまだ魔王に対して謎が多いのも事実である。
「確かにそうだけどよ、エリス。さすがにあの巨大彗星が魔王ってのは、その推理は突拍子もないんじゃないか?」
「思い出してみろジーン。惑星イシュラでの奴の姿を」
「確か……奴は星の中に潜んでいやがった」
エリスに言われたことを思い出して、ジーンが納得気に呟いた。
「そういうことだ。ジーン。主砲で無尽蔵に隕石群を生み出すあの巨大彗星を撃墜するぞ」
「おうよっ」
エリスの指示にジーンが意気揚々と答える。
「だがただ主砲を撃ち込んだだけでは、あの巨大彗星は破壊できないだろう。お前の力が必要だ」
「なるほどな。そういうことかよ。だからニーナでなく俺を連れてきたってわけか。そういうことなら任せてもらおうじゃねぇか!」
エリスの説明にジーンが俄然やる気を出して力強く答える。
「ではジーン。私はサポートに回り、ナノグリフのコントロール権限を一時お前に渡す。あとは任せたぞ」
「おうよっセラフ級の戦艦に乗ったつもりでいやがれ! さっそく行くぜナノグリフ! 『フルリンク』!」
ジーンが気合の雄たけびを上げると、エリスの座席の左前にあったジーンの座席がブリッヂ中央にあるエリスの座席と入れ替わり、戦艦のコントロール権限が渡される。
そしてジーンのナノエフェクトと小型戦艦ナノグリフが『生体リンク』する。
ジーンの感覚は船と一体化し、船と自分の感覚を共有する。
もちろんエリスが『生体リンク』したときのように、圧倒的な情報収集能力や索敵機能。追尾機能が特に今日行かされたわけではない。ジーンの能力は攻撃特化型。つまり純粋な艦のパワーアップだ。
力強い推進力と強力なシールド。そして小惑星ぐらいなら、簡単に貫き撃ち砕く攻撃力が艦に備わる。
「エリスッさっそくぶっ放していいのかよ!」
戦艦と『生体リンク』して少しばかりハイになっているのか、ジーンが嬉々とした表情を浮かべながら叫ぶ。
「待て。まだだ。お前の力が最も生きる位置に艦を移動させる。ジーン。お前は私の指示があるまで力を溜めて備えていろ」
「わかったぜっ」
ジーンの返答を聞いたエリスは、冷静に状況や相手との質量やエネルギー量の差などを考慮して、ジーンの攻撃が最も威力を発揮すると思われる特定の位置を探し出そうとする。
もちろんその間にも艦に向かって飛来してくる隕石群などw、自動迎撃システムなどを用いて迎撃するもの怠らない。
そして、ジーンの攻撃が元も威力を発揮すると思われる特定の位置を探し出すことに成功すると、小型戦艦ナノグリフを彗星の正面へと移動させる。
エリスの策はこうだ。向かってくる巨大彗星の中心に、ジーンのナノエフェクトによって強化された小型戦艦ナノグリフの主砲真正面からぶつける。
真正面から彗星の中心にぶつかった主砲は、青の星に向かっている巨大彗星と正面衝突する。
そうすれば強化された艦の主砲と、青の星に向かっている趨勢の推進力が互いにぶつかり合い主砲の破壊力が何倍にも膨れ上がるからだ。
つまり、エリスが行おうとしているのは、飛来する彗星の力を利用した一種のカウンター攻撃なのである。
飛来する隕石群を自動迎撃システムで撃ち落としながら、エリスが船の位置を艦に幾つも取り付けられている小型バーニアで微調整して、巨大彗星の中心核が狙える真正面へと移動させると、小型戦艦のAIであるナノグリフが音声を発する。
『巨大彗星の正面に移動が完了しました。主砲、射程に入ります』
「今だジーン。撃てぇっ」
エリスの号令の元。ブリッヂ中央にいるジーンが狙いを定めて、小型の銃を模した主砲発射用コントローラーの引き金を引く。
「おうよっフルバースト!」
ジーンと『生体リンク』し、その威力を格段に上げた小型戦艦ナノグリフの主砲が、巨大彗星に向かって真っ正面から放たれる。
そして接触。ジーンのナノエフェクトによって強化された小型戦艦ナノグリフの主砲と、魔王と思われる巨大彗星が真っ正面からぶつかり合った。
「うしっ手ごたえありっ仕留めたぜっ!」
フルバーストで力を使い果たしたジーンが、艦との『生体リンク』を解きながら、にやり自信ありげな笑みを浮かべる。
だが、次の瞬間。予想だにしない事態が起きたために、ジーンの顔色が変わる。
なぜなら、小惑星をも貫くことのできるジーンのナノエフェクトによって強化された小型戦艦ナノグリフの主砲が、巨大彗星と接触した瞬間。いとも簡単に弾かれてしまったからだ。
そのためジーンと『生体リンク』して威力を高めていた小型戦艦ナノグリフの主砲は、結局彗星の表面をわずかばかりに削り取っただけで、四散してしまったのだった。
「なっ俺のフルバーストが弾かれただと!?」
「驚いている場合ではないっこのままではまずいぞジーンッ舵をきれっ」
巨大彗星の正面に回っていたために、このままでは巨大彗星と正面消灯することを察していたエリスが、冷静な口調で指示を飛ばす。
さらにそこへ周辺宙域の状況を分析していた船のAIであるナノグリフが警報を鳴らす。
『先ほどの衝撃により多数の隕石群が発生しました。回避行動に移ってください」
そうナノグリフの言う通り、先ほどジーンが放ったフルバーストが弾かれながらも、彗星の表面にわずかばかりのダメージを与えていた。
そのため削り取った彗星の表面の破片群が、新たな隕石群となり、まるで突撃艦のように小型戦艦ナノグリフに向かって突っ込んできたからだ。
「ちっわかってっけどよう。ちっとばっかまずい状況だぜこれは」
ナノグリフからの状況説明を聞いて、手元にあるレーダーを目にしながら細かい操舵操船や会費と言った小技が苦手なジーンが声を荒らげる。
「問題ない。操船は私がする。ジーンはしばしの間休息していろ」
それだけ告げると、ジーン委代わりすぐさまエリスが舵を切ると共に、エリスは周辺宙域に漂っているダストや隕石群などを交わす最適なルートを脳内で瞬時に導き出しながら、同時に隕石群回避の航路データを作成してナノグリフに送る。
「ナノグリフ。かわしきれないものは撃ち落とせ。可能か?」
『問題ありません』
航路データを受け取ったナノグリフが、エリスの指示通りの航路を辿りつつ、かわしきれない隕石群や破片。宇宙ダストなどを撃ち落としながら回避行動をとる。
こうしてジーンが回避などの操作操船が苦手なことを知っていたエリスの迅速な判断により、小型戦艦ナノグリフは、巨大彗星の破片をギリギリで交わすことに成功していた。
もしエリスが瞬時に隕石群を回避する航路を導き出せず、またジーンと操船を代わっていなければ、今頃小型戦艦ナノグリフは、宇宙の藻屑となって消えていただろう。
とはいっても、音速をはるかに超える速度で艦のギリギリを通過する彗星の欠片の衝撃により、大地震が起きた時のような揺れが戦艦内を襲う。
「ジーン無事か?」
座席に座り何とか揺れに耐えながら、操縦桿を握っていたエリスが声をかける。
「ああ、なんとかな」
かなりの力を消耗したために踏ん張りがきかず、先ほどの揺れのせいで座席を転げ落ちたジーンが頭を左右に振り、何とか座席を掴み立ち上がりながら返答を返す。
二人が何とか揺れに耐えたのち。上げた視線の先には、先ほど艦の主砲により表面を削られた巨大彗星の姿があった。
なぜ巨大彗星が彼らの視線の先にあるのかというと、エリスが隕石群回避の航路を作成しながらも、巨大彗星監視のために巨大彗星からそう離れず、また平行するような航路をとったためだ。
エリスたちの視線の先で、先ほどの攻撃で表面を削られて姿を現したのは、エリスの予期していた魔王ではなく。全身が岩石と思われる幾つもの硬い岩盤のようなもので覆われた。松ぼっくりのような見た目をした巨大な生物だった。
『生物』と、なぜ確定して言えるのかというと、小型戦艦ナノグリフの主砲によって削られた表面に、小さな小惑星ぐらいなら丸のみにできるほどの口のようなものが存在していたからだ。
その姿を目にしたエリスが、最悪の事態がさらなる最悪の事態を呼び込んで、状況を悪化させていることを知り、苦虫を噛み潰したかのような声を上げる。
「あれは……星を喰らうという第一種危険指定生物宇宙怪獣『星喰い』だ」
「なっ!? これだけの巨大なエネルギーと質量を有していて魔王じゃないのかよ!?」
エリスの説明にジーンも驚愕の声を上げた
「ああ、魔王ではないとはいえ、まずいぞ。あんなものが今ニーナが降り立っている青の星に向かっているのだ」
「だけどよエリス。星喰いってのは星を喰らおうとするんだから、喰らおうとする星には激突しねぇんじゃねぇか?」
「いや、奴は星を喰らうといっても、星の資源やそこに住む生物を喰らうわけではない。奴の狙いは魔王と同じく星の中心核にある膨大なエネルギーを有した星のコアだ。そのため星喰いはまず、そこに行きつくまでに邪魔になるであろう星の外皮を破壊する。星の外皮とは、その星と共に生き共に暮らす星と共生関係にある生命であり、その星の文明だ。星と共生関係にある生命や文明は、いわば外敵から身を護るその星の防衛機能そのものだからな。そのためまず星喰いは、星と共生関係にある種と文明を滅ぼすために、外部から星そのものに激突し、破壊する。そして、星そのものの防衛機能が完全に破壊された跡。奴は無防備になった星の文字通り外皮を破壊しながら星の中心部へと向かい。むき出しになった生きた星のコアを喰らう」
「それってマジかよ」
「ああ、奴が青の星に着くまでに何としてでも、奴の侵攻を阻まねばならない。と、言いたいところだが、残念だが。今の我々に奴の侵攻を阻む術はない」
「だったら、もう一度俺のフルバーストで……」
「無理だな。ただの小惑星なら主砲を強化できるジーン。お前のフルバーストで撃ち砕くことはできるだろうが、あれは『星喰い』その名の通り星を喰らうものだ。その体の強度は小惑星などの比ではないぞ。もし、まともにやり合ってあれを貫くには、最低でもセラフ級の力が必要だ」
セラフ級とは、エリスたちの乗船している小型戦艦とは違い、攻撃特化型戦艦などの上位に当たる宇宙四大天使たちの名を冠した戦艦たちのことだ。
「それに一度主砲を発射してしまえば、次にまた撃てるまである程度の時間をおかなくては主砲の威力に艦が持たない。特にお前のフルバーストで強化された主砲は桁違いの威力だからな。主砲どころか、下手をしたらこの艦自体が反動に耐えられずに大破してしまう」
「うぐっ確かにそうだけどよ……」
自分でもそのことを分かっていたジーンが、痛いところをつかれたとばかりに一瞬口をつぐむ。だが、気を取り直して反論する。
「だがようエリス。そうでもしないとこいつを抑えられないだろうが!」
「わかっている。だが、今のこの艦の状態で、先ほどの彗星の表面しか削り取れなかったお前のフルバーストを使ったとして、第一種危険指定生物と呼ばれる『星喰い』をその一撃で確実に仕留められるのか? セラフ級の戦艦ならともかく、我々が駆るこの小型戦艦で」
「うぐっ確かに巡洋艦クラスなら何とかなったかもしれねぇけど、いくらフルリンクして主砲の攻撃力を上げたとしても、確かにこの小型戦艦じゃちっと無理かもな」
さすがのジーンもいくら強化できるとはいえ、小型戦艦の攻撃力の限界を知っているのか、エリスの言い分に反論しようとはしなかった。
「魔王ではなかったとはいえ、あれが青の星に向かって突き進んでいるのは確かだ」
「マジかよ。あんなもんがまともに衝突したら」
「ああ、青の星も、そこにいるニーナもまずいことになる」
隕石群をいくら落としたところでこの宇宙怪獣『星喰い』をどうにもできないのでは話にならない。こうなったら一刻も早く青の星に降りたニーナを回収しなくてはならない。そう考えたエリスはすぐさま行動に移す。
「ジーン。今すぐ青の星に降りたニーナを回収しに行くぞ」
「んなことより子の彗星を何とかするのが先じゃねぇのかよ?」
「今の我々の戦力ではあれを食い止めることは不可能だ。本隊を破壊できなければたとえその破片である隕石群をいくら落としていても意味がない。急ぎニーナを回収して、青の星より離脱する」
そう宣言するとエリスは小型戦艦ナノグリフを駆り、急ぎニーナを回収するために青の星へと進路をとったのだった。
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