宇宙(そら)の魔王

鳴門蒼空

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青の星 エリスティア小隊の到着と隕石群④ エリスのフルリンクと戦艦のパワーアップ

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「エリス。任務完了だぜ」

「ご苦労。ならジーンは急ぎこちらに戻り、ナノグリフと共に引き続き青の星に送り込まれている敵兵の撃退を頼む」

「言われなくてもわかってるって、任せとけ」

 ジーンとエリスはそれだけ言葉を交わしあうと、通信を切った。

「さて、次は私の番か」

 とはいえ、この戦艦の索敵機能をもってしても、隕石群の発生源が完全に特定できないか。

 エリスがブリッヂの前面に立ち上がっている索敵規模を最大限に広げた球形の巨大な3Ⅾモニターを見ながらそう呟く。

 ならば、事は簡単だ。レーダーの精度と索敵規模をもっと広げればいい。それにはあれをやるしかないか。多少疲れるし、力を消耗するがこの際仕方あるまい。

 己のやるべきことが決まったエリスの行動は素早かった。

 目を瞑り、精神を集中させた一瞬後、瞳を開けると共にある言葉を口にする。

「『フルリンク』」

 その言葉を呟くと共に、エリスの体内を循環し、エリスの体と融合しているナノエフェクトが脈動する。

 そして次の瞬間には、小型戦艦ナノグリフとエリスの体内を循環するナノエフェクトが一体化を始める。

 ナノエフェクトと融合しているエリスたちにしかできない機械とのブッキングだ。

 エリスは自身の精神と力であるナノエフェクトを戦艦ナノグリフと『生体リンク』させ、一時的にナノグリフの索敵機能を上げようとしているのだ。

 そしてエリスの体を流れるナノエフェクトは、まるで生き物の中を流れる血液のように、小型戦艦ナノグリフの中へと流れ込み、まるで生き物のように戦艦そのものを脈動させる。

 そして小型戦艦ナノグリフと感覚を共有したエリスの意思は、エリスのナノエフェクトとのブッキングにより、その索敵能力であるレーダーの能力を飛躍的に向上させた。

 エリスは飛躍的に向上させたナノグリフの索敵機能を使って、ナノグリフ本来の索敵機能の数倍の距離の索敵を開始すると、巨大な質量とエネルギーの塊を検知する。

 これほどの質量とエネルギー。惑星イシュラからワープしてきた魔王か!? 敵の位置は? ここから約50000キロ、毎時5ロムで移動中か。敵の居場所を特定できたとはいえ、そこに向かうにはワープしなければならない。それにはまず、ワープ軌道上に点在している遮蔽物。つまり青の星へと向かっている隕石群を排除しなければならない、か。ならば答えは簡単だ。今後の憂いを取り除いておくためにも、青の星に迫りくる流星群と見まごうばかりの隕石群。まずあれを何とかしなくてはな。それともう一つ。念のための手段も講じておくか。

 そう思ったエリスは、撃ちもらした隕石群を追ってニーナの向かった青の星。地球へと左目の視覚。いや感覚を向けると共に、コンソールに素早く手を走らせた。

 といっても、今のエリスは実際にコンソールに手を伸ばして操作しているわけではない。艦と『生体リンク』した精神世界で、コンソールを超高速で操作しているのだ。

 そしてそれと同時に、戦艦と感覚を共有しているエリスの右目の視覚モニターに映っているこの星域周辺に飛来してきている数千もの隕石群を次々とロックしていく。

 この時戦艦と感覚を共有しているエリスには、隕石群の軌道や、どうしたら隕石を効率よく撃ち落とせるかなどの情報が、脳内を駆け巡っていた。

 そして、距離によるレーザーのずれなどを考慮し修正する。

 無論本来この小型戦艦ナノグリフの能力では、数千もの隕石群を同時にロックオンし、攻撃するほどの能力はない。だが、今、この戦艦はエリスとのブッキング。つまりエリスの体内に流れるナノエフェクトと機械とのブッキング。『生体リンク』によって、その能力を飛躍的に向上させている。そのため本来は無理な攻撃もエリスのナノエフェクトによって、艦の能力を数倍以上に引き上げているために可能なのだ。

 そして、そこに天才的なエリスの能力が加わったために、小型戦艦ナノグリフは、今や大型戦艦に勝るとも劣らないほどの力を得ているのである。

 そして索敵を行いながら、数千にも上る隕石群をロックオンし、小型戦艦ナノグリフのフォトンエネルギーを水面下で充填していたエリスが声をあげる。

「目標オールロック。多重フォトンブラスト一斉照射っ」

 エリスの声に応じて、小型戦艦ナノグリフに搭載されている左右の丸形レンズを覆っていたシャッターが開くと共に、何百発にものぼるフォトンブラストが目標物に向かって一斉に解き放たれる。

 解き放たれた数百ものフォトンブラストは、エリスが計算しつくした理想的な軌道を描きながら、次々と数千にも上る隕石群に向かって突き進み、次々と隕石を貫いていく。

 フォトンブラストに貫かれた隕石群は、隕石の欠片を撒き散らし、辺りの隕石を巻き込みながら、次々と砕け散ってレーダー上から消失していった。

 そして数分後には、周辺宙域にあった隕石群。そのほぼ全てが綺麗さっぱりと、周辺宙域からもレーダー上からも消え失せたのだった。

 小型戦艦ナノグリフの能力を底上げして、隕石群を殲滅したエリスが、小型戦艦ナノグリフとの『生体リンク』を解いたのち、任務を終えて、いつの間にかブリッヂに戻ってきていたジーンに声をかける。

「ジーン。この宙域の隕石群は一掃した。次はこの隕石群の本体に向かって飛ぶぞ」

「おうって言いたいところだけどよエリス。俺たちの役目は魔王の追跡任務だったはずだぜ? 魔王を見つけた後レイラに連絡しなくていいのかよ?」

「まだこの隕石群の本体が、魔王かどうかはっきりしていない現状では、レイラに報告しても意味があるまい?」

「まぁ確かにそうだけどよ」

 エリスの言い分に不満そうに呟くジーン。

「それにだジーン。現状でレイラに連絡を入れたところで、あれだけの痛手をこうむったレヴァティーン艦隊が、そうやすやすと魔王迎撃に動けるとは思えん。艦隊の失われた人員や物資を補給するだけでもかなりの時間を有するからな」

「まぁ確かに、惑星イシュラ戦域では,レイラたちレヴァティーン艦隊も結構な痛手をこうむってたからな」

 ジーンが惑星イシュラでの魔王との戦闘を思い出しながら呟いた。

「それに、たとえレヴァティーン艦隊が動けたとしても、単独で行動している我々ですらこちらに来るまで一ヶ月ほどの年月を有したのだ。今更レイラたちに報告したところで、どうしようもあるまい。だが、ジーン。お前の言い分にも一理ある。お前の言う通りレイラには連絡だけは入れておく」

 言うとエリスは、素早く船のコンソールを叩きレヴァティーン艦長であり、レヴァティーン艦隊を率いるレイラに連絡をいれようとするが、こういう時に限って案の定レイラへの通信はつながらなかった。

「やはりな」

「やはりって、どういうことだよエリス?」

「たぶん魔王が我々の行動を見越して、自分の動きを邪魔されぬようこのあたり、つまり自分のいる周辺星域に強力なジャミングを起こしているのだろう。そのためレヴァティーン艦隊との連絡がつかない」

「なら、俺たちはこれからどうすりゃいいんだ?」

「簡単だ。我々だけで青の星の神器を食らおうとしている魔王を食い止めればいいだけのことだ」

 レヴァティーン艦隊と互角以上に戦いを繰り広げ、惑星爆発に巻き込まれても平然としているような化け物をこれから相手にしようとしているのに、眉根一つ動かさず、ジーンの問いかけに答えるエリス。

「ではジーン。我々は隕石群本体に向かって飛ぶぞ」

「おうよ」

 ジーンの返答を聞いたエリスは、小型戦艦ナノグリフのエネルギーを急速充填させた後、魔王と思われるものがいると思われる星域に向かって、ワープを開始したのだった。
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