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第十一話 エピソード 腹をすかせた獣の少女

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「お母さんお腹すいたよ」

 小さなキツネ耳とキツネの尻尾を生やした末の妹が口にした。

「もう少しまっててね。そうすればきっとお父さんたちが、おいしい獲物をたくさん取ってきてくれるからね」

 タヌキの耳と尻尾を揺らしながら、お母さんが末の妹の頭を撫でながら答える。

 うん。お母さんの言っていることは間違ってない。

 きっとヒステリア森林に狩りに行ったお父さんたちが、たくさんの獲物を狩って帰ってきてくれるはずだ。

 ただお父さんたちが、狩りに行ってからもうだいぶ立つ。

 かれこれ半月は経っているはずだ。

 普通一度狩りにでれば三日や四日は村に帰って来なくても不思議じゃない。

 なぜなら、狩りをしていれば、時に獲物が見つからず森の奥へ分け行ったり、時に見つけた獲物を追跡して、森の奥へと追跡したりするからだ。

 だからヒステリア森林に狩りに行ったお父さんたちの帰りがいつもより、多少遅くなったとしても、それはしかたのないことなのだ。

 ただ今回は、その仕方のないことが、いつもよりほんの少し長くなっているだけだ。

 決して狩りに行ったお父さんたちになにかあったわけではないのだ。

 わたしは自分にそう言い聞かせながら、お腹空いたとお母さんに駄々をこねる妹の頭を撫でてやる。 

「もうすぐ。きっともうすぐお父さんたちが帰って来るからそれまで我慢してようね」

 わたしは末の妹に笑いかける。

「うん」

 わたしとお母さんに頭を撫でられた妹は、口をきゅっとむすんで、それ以上我が儘を言うのをやめた。

 本当はお腹が空いているのに、口をきゅっとむすんで我慢している妹の頭を撫でながらわたしは思っていた。

 いくらなんでも、半月も帰って来ないなんてきっとお父さんたちに何かあったのかもしれない。

 ううん。

 わたしは首をふって自分の考えを否定する。

 あれほど狩りが得意なお父さんたちだ。きっと獲物を追いかけてるだけだ。そうだよね、お父さん。

 わたしは、自分の頭をふとよぎった考えをふりはらうように、妹の頭を撫で続けた。

 それから数日の月日が流れた。

 お父さんたちはまだ帰って来ない。

 お父さんたちの狩りの獲物をあてにしていた村の食料は、ほとんど底をつきかけている。

 その証拠に、村のみんなで寄せ集めている村にある倉庫が空っぽになっていた。

 去年冬を越すために蓄えていた干し肉が、とうとう底をついたのだ。

 しかも私の家には、もう干し肉の欠片一つ残されていなかった。

 それに最初はお腹が空いたとわたしやお母さんに駄々をこねていた妹も、今はもうお腹が空きすぎて、ただお母さんに抱かれるだけで、小さなキツネ耳や小さなキツネ尻尾を振るうことも、駄々の一言さえ口にすることがなくなった。

 しかも妹を抱いている少し小太りだった元気もので有名だったタヌキ獣人のお母さんですら、わたしと妹になけなしの食料をあげたせいで腕の皮と骨がくっついているように、体の脂肪や贅肉がごっそり抜け落ちていたからだ。

 あれじゃまるでタヌキのミイラだ。

 もう少ししたら本当のミイラになってしまう。

 このままじゃまずい。

 妹や母の様子を見て、そう思ったわたしは、自分の犬耳と尻尾ををピンと立てるとある決心を決めた。

 そう、二人のために、ヒステリア森林に分け入って、食べ物を、獲物を狩ってくると。

 わたしは大好きな二人を生かすために、誰にも告げずにヒステリア森林へと食べ物を探しに分け行って行ったのだった。

 そうしてヒステリア森林に分け入っていったわたしは、獲物の匂いをかぎ取るために、クンクンと小さな鼻をひくつかせながら森の中を歩き回っていたのだが、なぜかわたしの前には灰色狼はおろか、野ウサギや野ネズミの一匹すら現れることはなかった。

 そのためわたしは、普段足を踏み入れないヒステリア森林の奥深くへと、さらに歩を進めていった。 

 わたしがクンクンと鼻をひくつかせて獲物を探しながら、森の奥に歩を進めていると、私の鼻を脂ぎったブタの背油のような匂いがくすぐってくる。

 オークだ。

 それはけして近づいてはならないと、お父さんに強く言い含められていたオークの臭いだった。

 だが腹を極限まで空かせていたわたしは、臭いをたどりオークの姿を見つけると、無意識に飢えた本能の赴くままにオークに飛びかかっていった。

 だが数舜後には、オークを捕まえるどころか非力なわたしは、武装したオークにあっさりと捕まって、伸し掛かられてしまったのだった。
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