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領主
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違う…俺は奴隷じゃないからもう放して…
ぐったりと抱き抱えられながら訴えるが、聞こえているのかいないのか、馬上の男はまっすぐ前を見て答えない。ちらりと見えた後方には半裸の人々が徒歩でついてきており、おそらくアリとハッサンに捕まった奴隷達だろう。喜んでいいのかわからないというような不安げな顔をしている。
暫く行くと石造りの頑丈そうな建物があった。塀に囲まれ、門番がいる。行列を見ると、何も言わず門を開けた。中に入るとまず石の段があり、アリとハッサンが縛られていた。奥の、更に一段上がったところに椅子に座った偉そうな人物がいて、奴隷達は順番に台の上に引き立てられては何か質問されている。偉そうな奴の両脇には男が二人立っており、質問はその男達がしていた。質問が少ない奴もいれば、何回かやり取りしている奴もいる。それが終わると奴隷達は建物の右手の裏の方に連れていかれるが、たまに左手に行かされる者もいた。
いよいよ俺の番になり、裸の体に布を巻きつけたまま台に上がる。偉そうな奴は60歳くらいか、薄く残った髪は白く、背は高くなさそうだが太っているし、高いところにいるので大きく見えた。
上がってきた俺を見て、縛られていたハッサンが
「ユーリ!おい、そいつは奴隷じゃない!俺達の女だ!!」
と叫び、背後の兵士に殴られた。俺は思わず目を逸らす。
「名前はユーリというのか?」
立っている男が言う。一人はまだ若く30前後、長い黒髪を後ろで一つに束ねている。もう一人は40半ばくらいか、黒い髭を生やした逞しい大男だった。
「俺はただの旅人で…奴隷ではないです!!助けてください!解放してください!!」
俺は夢中で訴えた。すると真ん中の男が
「東から来たのか?」
と尋ねてくる。俺は必死で
「そうです!お願いです!俺は奴隷じゃありません!!」
と叫ぶ。男は髭を撫でながら、
「布を取れ」
と命じた。俺の後ろに立っていた兵士が俺の体に巻きついていた布を剥ぎ取り、慣れた様子で俺の両腕を押さえた。
「!?」
素っ裸の女体の俺をジロジロ眺め、男は顎をしゃくった。すると兵士は俺を建物の左手に連れて行く。
「どこに行くんだよ?!俺は奴隷じゃないんだよ!!」
暴れる俺を兵士は待機していた別の男に引き渡す。俺はずるずると引き摺られていった。
何人かの男女と一緒に荷馬車の後ろに乗せられ、どこかに連れていかれる。皆暗い顔をしていた。俺は女体のままだが、いつ男に戻るかわからない。そのことも俺を不安にさせる。急に男になったら大騒ぎだ。下手したら魔物の類だと思われて殺されるかもしれない…
考えていると荷馬車が止まった。正面ではなく裏手だが、美しく手入れされた芝生に囲まれた大きな屋敷だ。
俺達は一ヶ所に集められ、女達はそばの小屋に連れていかれる。そこは質素だがちゃんとした風呂で、俺達は後から来たこの屋敷の使用人らしき女達にゴシゴシと洗われた。ぬるい湯を頭からかけられ、お世辞にも丁寧とは言えないがとりあえずさっぱりはした。脱衣所で用意されていた服に着替える。貫頭衣のようなもので、腰を長めの帯でしめる。
それから屋敷の中に連れて行かれた。広く豪華な広間でかたまっていると、先程の3人が入ってきた。白髪の男は椅子に座り、満足そうに俺達を見渡し告げる。
「ワシはお前達を救ってやった。これからここで働いてもらう。賃金は出すから奴隷ではない。何かあればこの二人に言うがいい」
なんだそれ…俺はめまいがした。要するにこいつは奴隷商を捕まえるついでに目ぼしい奴をピンハネしたってことか…それじゃあやってることは奴隷商と変わらない。いや、金も払わない、危険も伴わないだけタチが悪い。憤るが、二人の男は腰から長剣を下げており、皆何も言えない。情けないが俺も…いや、俺にはアリアやノームがついている!俺が言わなきゃ誰が言う!!
「俺達は奴隷ではありません。ここで働きたい人もいるかもしれないが、帰りたい奴はすぐに家に帰して欲しい。救ってくれたと言うのならそうすべきだ。じゃないとあなたも奴隷商と変わらない」
言い放つと、三人の男も奴隷達もぎょっとした。二人の男は剣の柄に手をかける。すると真ん中の男が笑いながら
「威勢がいいな!帰りたいなら帰ればいい。無事に帰れるとは保証せんがな。なにしろお前達は無一文。どこから来たのか知らんが、帰るなら、ここで旅費を稼いでからの方が良くはないかな」
「そうしたい人はそうすればいい。じゃあ俺は帰らせてもらいます」
確かにそれには一理あるので、そこは個人の判断に任せようと俺は外に出ようとする。すると若い方の男が俺を羽交締めにした。
「?!なんだよ?!!帰っていいって…」
「お前はダメだ。おとなしくせんと、奴隷商の仲間として引っ立てるぞ」
「ハッサンとやらが、お前は自分達の女だと言うとったなぁ…」
真ん中の男がニヤニヤと髭を撫でつつ言う。
俺は悔しくて歯軋りした。
ぐったりと抱き抱えられながら訴えるが、聞こえているのかいないのか、馬上の男はまっすぐ前を見て答えない。ちらりと見えた後方には半裸の人々が徒歩でついてきており、おそらくアリとハッサンに捕まった奴隷達だろう。喜んでいいのかわからないというような不安げな顔をしている。
暫く行くと石造りの頑丈そうな建物があった。塀に囲まれ、門番がいる。行列を見ると、何も言わず門を開けた。中に入るとまず石の段があり、アリとハッサンが縛られていた。奥の、更に一段上がったところに椅子に座った偉そうな人物がいて、奴隷達は順番に台の上に引き立てられては何か質問されている。偉そうな奴の両脇には男が二人立っており、質問はその男達がしていた。質問が少ない奴もいれば、何回かやり取りしている奴もいる。それが終わると奴隷達は建物の右手の裏の方に連れていかれるが、たまに左手に行かされる者もいた。
いよいよ俺の番になり、裸の体に布を巻きつけたまま台に上がる。偉そうな奴は60歳くらいか、薄く残った髪は白く、背は高くなさそうだが太っているし、高いところにいるので大きく見えた。
上がってきた俺を見て、縛られていたハッサンが
「ユーリ!おい、そいつは奴隷じゃない!俺達の女だ!!」
と叫び、背後の兵士に殴られた。俺は思わず目を逸らす。
「名前はユーリというのか?」
立っている男が言う。一人はまだ若く30前後、長い黒髪を後ろで一つに束ねている。もう一人は40半ばくらいか、黒い髭を生やした逞しい大男だった。
「俺はただの旅人で…奴隷ではないです!!助けてください!解放してください!!」
俺は夢中で訴えた。すると真ん中の男が
「東から来たのか?」
と尋ねてくる。俺は必死で
「そうです!お願いです!俺は奴隷じゃありません!!」
と叫ぶ。男は髭を撫でながら、
「布を取れ」
と命じた。俺の後ろに立っていた兵士が俺の体に巻きついていた布を剥ぎ取り、慣れた様子で俺の両腕を押さえた。
「!?」
素っ裸の女体の俺をジロジロ眺め、男は顎をしゃくった。すると兵士は俺を建物の左手に連れて行く。
「どこに行くんだよ?!俺は奴隷じゃないんだよ!!」
暴れる俺を兵士は待機していた別の男に引き渡す。俺はずるずると引き摺られていった。
何人かの男女と一緒に荷馬車の後ろに乗せられ、どこかに連れていかれる。皆暗い顔をしていた。俺は女体のままだが、いつ男に戻るかわからない。そのことも俺を不安にさせる。急に男になったら大騒ぎだ。下手したら魔物の類だと思われて殺されるかもしれない…
考えていると荷馬車が止まった。正面ではなく裏手だが、美しく手入れされた芝生に囲まれた大きな屋敷だ。
俺達は一ヶ所に集められ、女達はそばの小屋に連れていかれる。そこは質素だがちゃんとした風呂で、俺達は後から来たこの屋敷の使用人らしき女達にゴシゴシと洗われた。ぬるい湯を頭からかけられ、お世辞にも丁寧とは言えないがとりあえずさっぱりはした。脱衣所で用意されていた服に着替える。貫頭衣のようなもので、腰を長めの帯でしめる。
それから屋敷の中に連れて行かれた。広く豪華な広間でかたまっていると、先程の3人が入ってきた。白髪の男は椅子に座り、満足そうに俺達を見渡し告げる。
「ワシはお前達を救ってやった。これからここで働いてもらう。賃金は出すから奴隷ではない。何かあればこの二人に言うがいい」
なんだそれ…俺はめまいがした。要するにこいつは奴隷商を捕まえるついでに目ぼしい奴をピンハネしたってことか…それじゃあやってることは奴隷商と変わらない。いや、金も払わない、危険も伴わないだけタチが悪い。憤るが、二人の男は腰から長剣を下げており、皆何も言えない。情けないが俺も…いや、俺にはアリアやノームがついている!俺が言わなきゃ誰が言う!!
「俺達は奴隷ではありません。ここで働きたい人もいるかもしれないが、帰りたい奴はすぐに家に帰して欲しい。救ってくれたと言うのならそうすべきだ。じゃないとあなたも奴隷商と変わらない」
言い放つと、三人の男も奴隷達もぎょっとした。二人の男は剣の柄に手をかける。すると真ん中の男が笑いながら
「威勢がいいな!帰りたいなら帰ればいい。無事に帰れるとは保証せんがな。なにしろお前達は無一文。どこから来たのか知らんが、帰るなら、ここで旅費を稼いでからの方が良くはないかな」
「そうしたい人はそうすればいい。じゃあ俺は帰らせてもらいます」
確かにそれには一理あるので、そこは個人の判断に任せようと俺は外に出ようとする。すると若い方の男が俺を羽交締めにした。
「?!なんだよ?!!帰っていいって…」
「お前はダメだ。おとなしくせんと、奴隷商の仲間として引っ立てるぞ」
「ハッサンとやらが、お前は自分達の女だと言うとったなぁ…」
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俺は悔しくて歯軋りした。
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