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旅立ち
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「そんな…解けないって…」
衝撃的なジジイの言葉に、俺は目の前が真っ暗になった。アリアも言葉をなくし、ジジイは気まずそうにモゾモゾしている。
「でもなにか手はあるでしょ?!アンタ随分長生きそうだから、なんか絞り出しなさいよ!!」
アリアが怒鳴ると、ジジイはうーんと唸り、
「お前さん、妖精だな…お前達の王に会ったことはあるか?」
「王様?そりゃ昔は…でも私、迷子になってここまで来たんだから、もう10年位お会いしてないわよ…」
アリアがちょっと寂しそうに言う。
「妖精王なら、ワシの呪いを解くことが出来る…かもしれん」
なに!それなら早く言え!かもしれんってとこが引っかかるが、俺はすぐにも王様に会いに行く!!
「そうだろうな…それしか方法はないだろう。だが待て。ワシも悪いとは思っとるから、ちょっと準備をしてやろう」
ジジイは俺に、とりあえず髭を刺しているフォークを取れ、そして杖をよこせと言う。ジジイはこの杖と呪文で俺に魔法をかけたような…一瞬不安がよぎったが、もう信じるしかない。俺は言われた通りにジジイを解放し、杖を渡した。
ジジイは頷いて杖を受け取ると、小刀を取り出し、木で出来た杖の先を削り出した。え?大事なもんじゃないのかよ…。
さすがはノーム、あっという間になにやら平べったい長方形のものを作りあげた。横一センチ、縦五センチくらいか。端に穴が開いていて、紐を通すとペンダントになった。
「この杖には魔力がある。このペンダントも、お前の役に立つだろう」
それから洞窟の奥に置いてあった大きな袋を開けた。中には眩い金貨がいっぱい詰まっている。驚いていると、無造作にざっくり両手ですくい、
「旅費にしろ」
と言ってくれた。
ジジ…爺さん。俺はちょっと感激した。コイツのせいでこんなことになってるんだけど。
爺さんはそれから杖を一振りすると、空中に虹色に光る粉が現れた。杖をアリアの方にもう一振りすると、その粉はアリアの中にざざぁっと入っていく。
「えっ!なにこれ?!」
アリアが驚くのも構わず
「これはお前さんが持っていろ。こいつに何かあった時、念じながら振りかけるんだ。きっと役に立つだろう」
「あ、ありがとう…」
俺は礼を言ったが、まだ気になる事があるので顔が曇っていたらしい。爺さんは他に何か希望があるなら出来るだけのことはしてやろうと言ってくれた。なんか急にいい人になったな…アリアに説教されたのがそんなにこたえたのか?
俺はこの際だからと
「俺がいない間、薬草を時々家に届けてほしい」
と言ってみた。
「叔父さんちはまだ他に子どもがいるし、暮らしは楽じゃないんだ。俺が旅に出て、薬草を採ったり、仕事を手伝ったりする奴がいなくなると困ると思う。たまにでいいから、この辺の貴重な薬草を届けてくれたらありがたい。俺も安心できる」
爺さんは頷き、
「わかった。だがそれもそう長くはできない。ワシらノームは一年程起きて仕事をしたら、また眠る。50年程だな。だからまたワシが眠りにつくまでだ。起きている間はできるだけのことはしよう」
そうなのか…50年も、一人で…俺は、ついはしゃいじゃったという爺さんの言葉を思い出した…。
「わかった。それでいい。一年できっと戻ってくる。それまで皆を頼む」
俺は爺さんに頭を下げた。これで心置きなく旅に出られる。
「気をつけてな」
「いろいろありがとう。あんたが起きてるうちに帰ってくるよ」
最後に爺さんはもう一度杖を振り、
「術を少し弱くしておく。だが完全ではないし長くは保たん。2、3日ってとこだろう。急いで準備をして早く出発しろ」
あれ、そういえば俺にかけられた呪いってどんなものなんだろう…。
「お前にかけた呪いは、周りの人間がお前に激しい欲望を抱くというものだ。すぐにも押し倒したくなるような。近くにいる者や、狭い空間では特に効く。人との距離には気をつけろ」
なるほど…だから叔母さんも…俺は申し訳なくなった。叔母さん、今頃どんな気持ちでいるだろう…
だがこの爺さんをもう心から怒れない。俺は頷き、もう一度爺さんに礼を言って洞窟を後にした。
家に着いたが、帰りにくい。朝からいなくなった俺を皆心配しているだろうし、叔母さんも気まずいだろう…
ウロウロしていると、末っ子のローリーに見つかった。
「ユーリ!お帰り!!どこ行ってたの?皆心配してるよ!」
無邪気に喜んで俺の手を引っ張り、家に連れて行く。俺は観念して大人しく従った。
叔父は畑に出ていて留守だったが、叔母はいた。俺を見ると、
「あら!お帰り!どこ行ってたの?心配するでしょ!」
いつも通りだ。俺がアレっと思った時、窓の外に杖が見えた。そうか、爺さんが来て、叔母さんになんかしたんだな。おそらく昨日の記憶を消すとか…ありがとう。
「ごめんなさい…ちょっと森に…」
モゴモゴ呟く。
「そんなことだと思ったわ。薬草だったら無理しなくていいのよ。お腹は空いてる?」
俺は頷き、温かいスープとパンを食べた。いつもの食事だが、なんだか鼻にツンときた。
そんなわけで、俺はアリアと旅に出た。急にそんなことを言い出した俺を皆心配してくれたが、ここにはない薬を手に入れたい、実は前から考えていたことだ、一年たったら戻ってくると説得したら、最終的にはわかってくれた。
寂しくないと言ったら嘘になるが、呪いを解くためには仕方がない。でも正直ちょっとワクワクもする。妖精の王様にも会ってみたいし、何より広い世界を見て回れると思うと!!
行ってきます!
俺は元気よく歩き出した。
衝撃的なジジイの言葉に、俺は目の前が真っ暗になった。アリアも言葉をなくし、ジジイは気まずそうにモゾモゾしている。
「でもなにか手はあるでしょ?!アンタ随分長生きそうだから、なんか絞り出しなさいよ!!」
アリアが怒鳴ると、ジジイはうーんと唸り、
「お前さん、妖精だな…お前達の王に会ったことはあるか?」
「王様?そりゃ昔は…でも私、迷子になってここまで来たんだから、もう10年位お会いしてないわよ…」
アリアがちょっと寂しそうに言う。
「妖精王なら、ワシの呪いを解くことが出来る…かもしれん」
なに!それなら早く言え!かもしれんってとこが引っかかるが、俺はすぐにも王様に会いに行く!!
「そうだろうな…それしか方法はないだろう。だが待て。ワシも悪いとは思っとるから、ちょっと準備をしてやろう」
ジジイは俺に、とりあえず髭を刺しているフォークを取れ、そして杖をよこせと言う。ジジイはこの杖と呪文で俺に魔法をかけたような…一瞬不安がよぎったが、もう信じるしかない。俺は言われた通りにジジイを解放し、杖を渡した。
ジジイは頷いて杖を受け取ると、小刀を取り出し、木で出来た杖の先を削り出した。え?大事なもんじゃないのかよ…。
さすがはノーム、あっという間になにやら平べったい長方形のものを作りあげた。横一センチ、縦五センチくらいか。端に穴が開いていて、紐を通すとペンダントになった。
「この杖には魔力がある。このペンダントも、お前の役に立つだろう」
それから洞窟の奥に置いてあった大きな袋を開けた。中には眩い金貨がいっぱい詰まっている。驚いていると、無造作にざっくり両手ですくい、
「旅費にしろ」
と言ってくれた。
ジジ…爺さん。俺はちょっと感激した。コイツのせいでこんなことになってるんだけど。
爺さんはそれから杖を一振りすると、空中に虹色に光る粉が現れた。杖をアリアの方にもう一振りすると、その粉はアリアの中にざざぁっと入っていく。
「えっ!なにこれ?!」
アリアが驚くのも構わず
「これはお前さんが持っていろ。こいつに何かあった時、念じながら振りかけるんだ。きっと役に立つだろう」
「あ、ありがとう…」
俺は礼を言ったが、まだ気になる事があるので顔が曇っていたらしい。爺さんは他に何か希望があるなら出来るだけのことはしてやろうと言ってくれた。なんか急にいい人になったな…アリアに説教されたのがそんなにこたえたのか?
俺はこの際だからと
「俺がいない間、薬草を時々家に届けてほしい」
と言ってみた。
「叔父さんちはまだ他に子どもがいるし、暮らしは楽じゃないんだ。俺が旅に出て、薬草を採ったり、仕事を手伝ったりする奴がいなくなると困ると思う。たまにでいいから、この辺の貴重な薬草を届けてくれたらありがたい。俺も安心できる」
爺さんは頷き、
「わかった。だがそれもそう長くはできない。ワシらノームは一年程起きて仕事をしたら、また眠る。50年程だな。だからまたワシが眠りにつくまでだ。起きている間はできるだけのことはしよう」
そうなのか…50年も、一人で…俺は、ついはしゃいじゃったという爺さんの言葉を思い出した…。
「わかった。それでいい。一年できっと戻ってくる。それまで皆を頼む」
俺は爺さんに頭を下げた。これで心置きなく旅に出られる。
「気をつけてな」
「いろいろありがとう。あんたが起きてるうちに帰ってくるよ」
最後に爺さんはもう一度杖を振り、
「術を少し弱くしておく。だが完全ではないし長くは保たん。2、3日ってとこだろう。急いで準備をして早く出発しろ」
あれ、そういえば俺にかけられた呪いってどんなものなんだろう…。
「お前にかけた呪いは、周りの人間がお前に激しい欲望を抱くというものだ。すぐにも押し倒したくなるような。近くにいる者や、狭い空間では特に効く。人との距離には気をつけろ」
なるほど…だから叔母さんも…俺は申し訳なくなった。叔母さん、今頃どんな気持ちでいるだろう…
だがこの爺さんをもう心から怒れない。俺は頷き、もう一度爺さんに礼を言って洞窟を後にした。
家に着いたが、帰りにくい。朝からいなくなった俺を皆心配しているだろうし、叔母さんも気まずいだろう…
ウロウロしていると、末っ子のローリーに見つかった。
「ユーリ!お帰り!!どこ行ってたの?皆心配してるよ!」
無邪気に喜んで俺の手を引っ張り、家に連れて行く。俺は観念して大人しく従った。
叔父は畑に出ていて留守だったが、叔母はいた。俺を見ると、
「あら!お帰り!どこ行ってたの?心配するでしょ!」
いつも通りだ。俺がアレっと思った時、窓の外に杖が見えた。そうか、爺さんが来て、叔母さんになんかしたんだな。おそらく昨日の記憶を消すとか…ありがとう。
「ごめんなさい…ちょっと森に…」
モゴモゴ呟く。
「そんなことだと思ったわ。薬草だったら無理しなくていいのよ。お腹は空いてる?」
俺は頷き、温かいスープとパンを食べた。いつもの食事だが、なんだか鼻にツンときた。
そんなわけで、俺はアリアと旅に出た。急にそんなことを言い出した俺を皆心配してくれたが、ここにはない薬を手に入れたい、実は前から考えていたことだ、一年たったら戻ってくると説得したら、最終的にはわかってくれた。
寂しくないと言ったら嘘になるが、呪いを解くためには仕方がない。でも正直ちょっとワクワクもする。妖精の王様にも会ってみたいし、何より広い世界を見て回れると思うと!!
行ってきます!
俺は元気よく歩き出した。
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