こちとら一般人なんよ~絆されたからには巻き込まれる運命~

クスノキ

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ごめんね、ジョーカーは譲れない~3~

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「会議、ちょっと会議!話さないといけないことが山ほどあるでしょ」

「うむ……そうだな、ここまで来れば問題ないだろう」

来た道を戻り続けて、それなりの距離を移動したところで。二人はエディから下りると、お互いにめちゃくちゃ気まずそうな顔をして向き合った。それもこれもさっきのメカリカ盗難事件のせいである。勿論、やったのは自分達なので自業自得なのだが。
まず何よりも先に、シエマーは頭を下げた。今までの騎士然とした礼ではなく、ただ詫びる為に平身低頭しているようだった。

「すまない。君を私の事情に付き合わせた挙げ句、巻き込んでしまった。その上、守り切ることすらできないとは……この所業は、我が命をもって詫びるしか」

「いやいや、いらないから!詫びに命かけたら何の意味もないでしょうがこのおバカ!」

慌てて否定して頭を上げさせた後、一息吐いて気を落ち着かせるノマル。謝らないといけないのは、何もシエマーだけではない。今度はノマルが深々と頭を下げて「私も、ごめん」と言った。

「普通にめちゃくちゃお荷物だったし、変にやわらかバリア張ったせいでやりづらかったでしょ。個人的には最後戦犯だったのが一番堪えてる」

「いや、そんなことはない。先に行けと言っておいてなんだが、私だけだとしても彼奴から逃げるのは不可能だったゆえにな。それに、君の障壁のおかげで体力を消耗せずに済んだのだ、その性質を考慮した上で行動できなかった私の責任だろう」

「でも」と言いかけた口が閉じる。これ以上何か言ったとしても似たようなやり取りになるのは分かりきっていた。それならばと、ノマルはシエマーの胴体に目を向ける。平気そうにしているが、あれだけ吹き飛ぶほどの威力だったのだから、内臓の安否が気になるところであった。

「ねえ、おなか大丈夫なの?凄い痛そうだったけど」

「うむ、特に支障ない。私の体は魔法の効きが悪い代わりに頑丈なのでな」

異世界ボディの強度がどれほどのものか、全く想像がつかないノマルはその言葉を信じるしかなかった。性格的にはやせ我慢をしていても不思議ではないが、だからといって服を剥ぎ取りにかかるわけにもいかないので。

はぁ、とため息を吐いたノマルはへにょりと眉を下げる。詫び云々はもう置いておくとしても、まだまだ反省することはある。自分達のせいで咎められるであろうゼンデスのことだ。こちらを故意に逃がしたことはバレなくても、取り返せなかった責任を問われるのは明白。気に病んだところで今更どうすることもできないし、また会えるとも限らないが、次に会うことがあれば誠心誠意謝りたかった。

「ゼンデスが見逃してくれたから、この程度で済んだんだもんね……あの人、結構言ってることがちぐはぐだったけど、どういうつもりだったんだろう」

「これまで帰って来なかった調査員は皆奴に葬られたはず。この期に及んで些細な情で揺らぐとは思えない。となれば、やはり君の姿が原因か」

「子供じゃないって言ったんだけどなぁ……まぁ、ちょっと泣きそうな顔してたし、もしかしたらトラウマ蘇ったのかもね。何にせよ、悪いことしちゃって申し訳ない」

頭にのった大きな手の感触を思い出して、変な人だったなとノマルは思った。怖い言動をするくせに、次の瞬間にはからりと笑う。仕事なら平気で人を殺めるのに、子供には手を出さない良心はある。今までの人達とはまた違った方向で、ゼンデスの思考はいまいち読めなかった。

変だけど、結局いい人だったんだろう。自分の職務や責任も、全部置いて助けてくれたのだから。
その割には最後の最後まで結構容赦なくて怖かったわけだが、一先ずそれは除いておくとして。

シエマーが腕を組みながら「しかし」と切り出した。眉を寄せた深刻そうな顔をしている。

「ああなってしまっては、私が奴を倒す他道はない。ゆえに、その覚悟すらないのであればとるべき行動ではなかったと、今は自省しているのだが。こうして時折何かを見落とす悪癖は、直さねばならないな」

「意外とポンコツ……まぁ確かにちょっと、抜けてるもんね。人のこと言えないけどさ」

言動や見た目通り普段はしっかりしているのだが、たまに元々の天然気味な性格が悪さをするらしい。とはいえ今回の件はそれ以前に、根っこが善人すぎて深く考えられていなかった節もあるが。
私以上にダメージ受けてそうだな、と思ったところで「……ポンコツ」とひっそり呟く声。そこでノマルがようやく思考の海から浮上すると、心なしかしんなりしている様子のシエマーに気づく。あれ、もしかしなくても追い討ちかけたか?

「ごめんごめん何ていうか言葉の綾ってやつ?そもそもよく考えたら私達めちゃくちゃ悪事に向いてないわけで、計画性がないのは当然っちゃ当然なんよ」

「計画性がない……」

「ごめんて!」

フォローできっちりトドメを刺してしまったが、流石にシエマーも立派な大人である。少ししてキリリと表情を引き締めたあたり、なんとか割り切れたらしい。うっかり言葉がナイフにならないよう気をつけよ、とノマルは冷や汗を垂らした。

こうしていくら現状確認と反省をしても状況としては何一つ変わらないのだが、多少なりとも心の整理はできた二人。表面上は落ち着いたところで、次に考えなければならないのはこれからのことについてだ。

「で、これからどうする?リバフォトの街には戻るんでしょ……って、そういえばあのメカリカ、調べるならバラすことになるよね。できるの?」

「私は魔工学を修めていないゆえ、分解する術を持たない。よって、調査はアルモニアス公国にいる専門家に依頼するつもりだ」

ノマルは「だろうね」と頷いた。ゼンデス曰く魔工学の結晶とのことなので、最初からシエマーには無理だろうと思っていた。というか、魔工学ってなんだって話なのだけれども。話が逸れる上に聞いても分からなさそうなので、一旦放置しておく。

「ってことはまた結構な距離だなぁ……そっからの予定がどう転ぶか分からないし、先に村帰った方がいいんじゃない?心配させちゃ悪いし」

「うむ、そうだな。終わりの見えぬ旅だ、別れは告げておくべきだろう」

「マジ早めに見えるといいんだけど」

切実な願いである。今決まっている予定だけでも時間がかかりそうなのに、旅の目的──つまり星海大戦の謎を解き明かすとなると、どう足掻いたって長引くに決まっているので。
現状一番困るのは自分達のしたことが無駄になる、帝国が全然悪くなかった場合である。申し訳ないがどうか帝国が悪い国であってくれと、ろくでもないことを祈っておくノマル。別に全てが明らかになりさえすれば誰かのせいでなくとも構わないし、罪は償うつもりではあるけれど。

「ま、途方もない感あるとはいえ、一個ずつやっていったらその内なんとかなるでしょ。知らんけど」

「果てしない道のりであっても、歩み続ければいつか辿りつけよう。だが、これからは後に悔いぬ選択をしたいものよ」

毎回こんな綱渡りしてたら命がいくらあっても足りないが、流石に今後は大丈夫だろう。なんて根拠の無い楽観が透けて見える二人。それは、自分の中で安全な選択を選び続けるつもりだからなのだろうが──残念ながら、危険は自分から飛び込まずとも現れるものである。
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