こちとら一般人なんよ~絆されたからには巻き込まれる運命~

クスノキ

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ごめんね、ジョーカーは譲れない~2~

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早めの夕食を食べた後「そういえば」と思い出したようにシエマーが口を開く。ついで出てきた言葉が「何でも運ぶンデス」だったので、ノマルはまたもや吹き出してしまった。慌てて呼び方をメカリカに変更してもらうことに。不意打ちの破壊力が凄まじい為致し方なし。
さて、では気を取り直して。

「あのメカリカ、どうも変わった気配がしたように思ってな」

「気配?機械に気配も何も、いやまぁ動いてるけどさ、そういう気配のことじゃないんでしょ」

「うむ……どこか身近で覚えのある感覚、恐らく動力から生じている気配だろう。微かに、だが確かに感じたあれは、一体……奴の言っていたナントカエネルギーとやらが鍵なのは間違いないが」

要はそれが分からないことには、機械が星喰に襲われない理由も分からないということだ。しかし、そもそもまだ襲われないという話自体が不確実な情報である。星海大戦にあまり関係がなさそうだしこっちの調査は一旦打ち止めかな、とノマルが勝手に思っていたところで。

「今実用可能な程になっているということは、相当前から研究していたのだろう。少なくとも星海大戦の時には既に開発中であったはず。だとすると……どうしても疑念が拭えないのだ。奴らが当時既に星喰を誘導する魔道具を手にしていて、その所為でレクイエが滅びたのではと……しようのない空想が尽きない」

「あり得ない話ではないもんね……」

仮定の話を考えるのも無理はない。ただの偶然なんかではなく、恨む先があるのではないかと。そう思いたい気持ちが痛いほど伝わってきて、ノマルは自分の考えを改めた。やっぱり、メカリカの調査も大事なことだ。メカリカの詳細を調べれば、星喰を誘導する力があるかどうかも分かるだろう。帝国が悪いかどうか判断するきっかけになるかもしれない。

「星海大戦で星喰も相応に屍の山となった。そしてその素材の大部分は、帝国が手に入れたと聞く……それを研究に用いる為、ひいては我が国を滅ぼす為……そう考えても、何らおかしなことではないだろう」

「ますます怪しい……でも、それってどうやって調べたらいいの?帝国の偉い人に直接悪いことしたんですかって聞きに行けるわけないし、というかそもそも誰に聞いても教えてくれなさそう」

「事の真偽を確かめたいとはいえ、そう簡単に情報は渡さないだろう。そして、他に帝国を調べる手がかりも伝手も無いとなると……残された手段は、メカリカを奪う他あるまい」

ノマルは驚いて目を見開いた。あのシエマーの口から出た作戦とは思えなかったからだ。おっとそうきたか、と軽く流すには随分予想外な方向である。

「え、え?盗るの?」

「気は進まないが、今まで帝国が度々小競り合いを仕掛けてきたことを思えば小さなこと。加えて、他国の情報を集める為暗躍している密偵はそれ以上に手段を選ばぬことも多い」

シエマーは複雑そうに眉をひそめているが、否定はしなかった。普段あれだけお人好しなシエマーだが、今は国の騎士として合理的な判断を下しているのかもしれない。あるいは、世の中のもっと暗い部分を知っているからか。
予想外の選択で困惑しているノマルはなんと言うべきか言葉に詰まった。事単体で見れば悪くても、そうしなければならない理由もあるし、そもそもお互い様のようでもある。世界的に倫理観の差があるということも、なんとなく分かる。まぁそれはそれとして、心中かなり複雑なのだが。ゼンデスの笑顔を思い出せば尚更、やりづらいことこの上ない。

「決行は、そうだな……夜明け前としよう」

「お、おう。マジか」

「無論、君が手を汚す必要は無い。エディガウラと共に待機してくれたら、その間に私が持ってこよう」

そういうことではないんだよな、と渋い顔のノマル。自分が巻き込まれるかどうかではなく、止めるか否かで悩んでいるのだ。普通にいい子ちゃんであるノマルは脳内でそれはもう審議に審議を重ね、シエマーの人柄や事の及ぼす影響まで考慮した上で──最終的に可決した。主な理由は悪事の為ではないことと、他に調べる手段がなかったことである。あとは、彼が自分で決めたことに口を出したくはないと思ったのも少し。
そして、ノマルはポッと指先に光を生成する。野宿の際試しに使ってみたらできてしまった、太陽の神由来の力である。懐中電灯と言うとしょぼい気はするが、便利な力ではあった。

「ううん、私も行く。ほら、ライト係は必要でしょ?」

「しかし」

「いいの!ちょっと、いやかなり抵抗あるけど、一個盗って、じゃなくて借りてくるだけだと思えば!」

言い訳でしかない言葉になってダメージを受けながら、ノマルは無理やりついて行くことにした。正直止めない時点で同罪なので、共犯者になろうが同じことである。この際大事の前の小事と割り切って。

まぁ、ほら、どこぞの勇者だって人の家から物盗むし!

なんてガバガバ理論で無理やり誤魔化すあたり、まだまだ若いゲーマー脳のノマルだった。






夜明け前まで睡眠を取った二人は、建設中の建物までやって来ていた。人の気配がないことを確認してから薄暗がりをライトで照らすと、停止しているメカリカの姿が浮かび上がる。それをどうにかこうにか魔道具の鞄に収め、無事入ったことに驚きながら一息吐いた。それなりに大きかったし重かったのだが、本当によく入ったものである。非常に便利なことに、入れてしまえば不思議パワーで軽くなるのは有り難かった。

「うーん、罪悪感」

「一体であれば作業にさほど影響は出ないはずだ。等価交換にはならぬとしても、せめて星の欠片を置いていこう」

大きく綺麗な星の欠片(それなりに価値があるらしい)を代わりに置いて、その場を後にする。やってしまったのなら、バレない内にとっとと退散しなければならない。妙に鼓動がうるさい心臓のまま、エディのところへと進み出して──不意に、シエマーが振り返って剣を抜いた。ついで渡された鞄に首を傾げている間に、ゆらりと現れた人影。

「他は間抜け、でも俺は違う。それだけじゃあ終わらない。終わらせない」

地の底から響くような恐ろしい声。義手と生身の手を打ち合わせて、凶悪な笑みを浮かべたゼンデスが立っている。当然ながら、昼間のような軽い雰囲気は微塵もなかった。

「あーあ、もう朝日は見れないぜ。ホント残念、お前ら運ねェなァ!」

言うやいなやシエマーに向かって突進したゼンデスは、その勢いのまま義手を振りかぶる。剣と義手がぶつかり、ガギンッと大きな金属音が鳴ってようやくノマルは我に返った。慌ててシエマーにバリアを張り、様子が見えるように広範囲を照らす。

「ノマル!先に、エディガウラの元へッ」

「はぁっ!?嫌だよ、こうなった以上一蓮托生だから!」

「あァ、安心しろ。二人仲良く送ってやるからよォ!」

「全く安心できないんやけど!?」

言ってる間もゼンデスが殴り続けている為、凄い早さで減っていくバリアの耐久値。実戦で使ったことのないノマルはどうしていいか分からないまま、とにかく減った分を補充することしかできない。
この状況を打開するにはシエマーがゼンデスを戦闘不能にするしかないのだが、一向に反撃しないまま時が過ぎていく。受け止めるか回避するかの二択であるところを見るに、攻撃する意思がないのだろう。そりゃそうだろうな、とノマルは思った。だって、圧倒的にこちらが悪いのだから。

「オラオラァ、どれだけ待っても俺ァバテねェぜ!チンタラしてっと他のヤツも来るかもなァ!」

じりじりと後退しているためエディの方には近づいているのだが、辿り着いたところでやたら足の速いゼンデスから逃げ切れるとは思えない。どうすれば無力化できるだろうかと考えて、戦えないノマルは話せば分かることに期待して、ゼンデスを説得してみることにする。

「ごめん、私達どうしてもメカリカが必要なの!確かめなきゃいけないことがあるから、だから、お願い見逃して!」

「ンー、俺ァこれが仕事なんだ。メカリカに関して探ってきたヤツは皆殺し、たとえ人畜無害な子供であってもな。でもまァ気が進まねェから見逃そうと思ったのによ、そっちが悪ィんだぜ?ソイツ持ってかれたらいろいろ面倒だからな」

「ごもっともすぎて何も言い訳できない」

今のところ放っておいても大して害はないと思われているのか、立ち塞がるシエマーを無視してまでノマルに襲いかかってこようとはしない。しかし攻撃の手を止めることはなく、シエマーが倒れればこちらに向かってくると容易に想像できた。
ゼンデスはバリアに雑な攻撃を仕掛けながら、目をノマルの方へ向ける。最初よりもいくらか凶悪さが鳴りを潜めていた。代わりに、聞き分けの悪い子供を見るような仕方なさが滲んでいる。

「なァ、ちびっ子。今大人しく返してくれりゃ、なかったことにできるぜ?そしたら俺も血ィシャワーで落とさなくて済む。お互い楽だろ?」

「うぅ物騒……でもだって、こうせんとめちゃくちゃ遠回りになるどころか分からん可能性大なんやもん!こんな出だしの段階で詰まるわけには……」

気持ち的にはさっさと返して解放されたいところだが、そうもいかないのである。メカリカは間違いなく帝国の暗部を調べる為のきっかけなのだ。ここで折れてしまっては何の意味もない。ここで諦めてしまったら、せっかく開けたシエマーの道が狭まることになる!
拳を握りしめたノマルは、胸を張って真っ直ぐに見返した。自分にできることが何もないからこそ、気持ちだけでも負けてはいられないから。

「本当にごめん!でも、諦めるわけにはいかないから!」

ゼンデスは笑った。鋭い牙が並んでいるのがよく見える、相変わらずやたら怖い顔で。

「よく言ったなちびっ子、俺ァ勇敢なヤツは好きだぜ!けど残念だなァ、すぐに無謀だって分からせることになるからよォ!!!」

ついに補充が間に合わず砕け散ったバリア、そこへ飛んでくる拳に合わせてシエマーが剣を構えた。凄まじい衝撃を逃がすように剣の端で少しだけ逸らし、最小限の動きで回避。そしてすり抜けたゼンデスがそのままノマルの方へ向かわないように、後方へ跳び退いた。

「……くっ、やむをえんか」

拉致が明かないと悟ったのか、シエマーは剣を上に構えた。そして大きく振りかぶると、その攻撃は当然義手に防がれる。隙だらけに見えたが構え方の割に力が入っていなかったらしく、そこから剣を薙ぐように振り払いながら──ゼンデスの右足へ蹴りを繰り出した。

「イッテェ!生身のすね蹴っちゃ駄目だろ、痛ェんだからよ!」

「いやそっちは殺そうとしてきてるのに!?んな無茶な」

パワー系なら相応に頑丈なのかと思いきや、ちょっとすねを蹴られただけで大げさに痛がるゼンデス。これなら案外簡単に無力化できるかも、と思ったのも束の間。

「アーもう、痛いのはキライなんだよ……つーことで、さっさと終わらせるとするかなァ!!!」

痛みでやや後ろに下がっていたゼンデスは再び地面を蹴ってシエマーに肉薄すると、ノマルが張り直したバリアを見て口を開いた。吐き出された炎がバリアの表面を覆うように広がり、一瞬ゼンデスの姿が見えなくなる。

「シエマー、後ろ!」

シエマーが勢いよく振り返ると、反動で長い三つ編みが弧を描く。そうしてバリアからはみ出した三つ編みの端を、ゼンデスはガシッと掴んだ。力強く引っ張られたせいで、つられて引き寄せられるシエマー。自分から近づいた形になったということで、ゼンデスがバリアの内側に入ってしまい。バリアの性質上、入り込んでしまったものを弾き出す力はないので。
体勢を崩した隙を狙い、シエマーの腹部にゼンデスの拳が思いっきりぶつかった。途端、吹っ飛ばされたシエマーが地面を転がっていく。

「シエマー!」

悲痛な声で名前を叫ぶノマル。シエマーが痛そうにしつつもすぐに起き上がり、近場に落ちてしまった剣を拾おうとするよりも前に──ノマルの前に、ぬっと大きな影。
「ひっ」と小さな悲鳴を上げて、ノマルは動けなくなってしまった。遠くの方に出しているライトによって逆光となり、見下ろすゼンデスの表情はよく見えない。バリアを自分にかけようとしたが、集中できていないせいか、いつまでたっても発動しなかった。
因果応報だぁと涙目で思う。振り上げた拳の影を見て、両手を胸元で握りしめたまま目を瞑った。

「……ん?」

待てども待てども、何の衝撃も音もない。恐る恐る目を開けたノマルは、ゼンデスがそのまま固まっていることに気づく。
丁度その時、朝日から放たれる光がゼンデスの顔を照らした。ぎゅっと眉間にしわを寄せ、唇を引き結んでいるその顔。ノマルにはなんだか、泣きそうな顔に見えた。

「ンー……そういや俺、子ども好きでよ。子どもが元気だとハッピーなわけ。んで、子どもは一人じゃ生きられない」

世間話でもするような軽さで、それでいて噛みしめるような声色で。急に何の話だと訝しんでいると、構えていた義手を下ろし、代わりに生身の手が伸びてきた。ぽん、とあの時と同じように何の遠慮もなく頭に置かれて。でもその撫で方は豪快さの欠片もなく、ただゆるやかに髪の上を滑った。

「やっぱやめた。朝日、しっかり拝んでおけよちびっ子」

最後にくしゃっとかき乱すように撫でると、何にも考えていなさそうな笑顔を浮かべて「じゃ!」と言い残し。去って行くゼンデスの背が小さくなり、やがて見えなくなったところで。

「じゃ、ではないんだが???」

我に返ったところで反射的にツッコミを入れるノマル。遅れて回り出した冷静な思考も同じように疑問符を浮かべる始末である。訳が分からない。

「いま、なに、え?なんで見逃されたの?」

「分からない。だが、奴も思うところがあったようだ」

「マジいま頭まわらん、昨日と今日で情緒ジェットコースターなんしかわからん」

「考えるのは後にした方がいい」と言われて「それはそう」と頷くノマル。全ての感情と理由、罪を置き去りにして、ノマル達はエディと合流した後その場から離れた。
とりあえず一つ分かったことは。

私達、死ぬほど悪事に向いてねぇな!!!

人間、慣れないことはすべきではないのかもしれない。
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