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初めてには疑問と驚きが付き物なので~2~
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色々複雑ながらもお腹が満たされたノマルは、ようやくマエクスを借りる場所までやって来ていた。街の端にあったのでそこそこ距離が遠く、やっと着いたと吐いたため息。胃はなんとか無事だった。
そういえばあれだけ疲れていたのに割と歩けているなと不思議に思って、そもそも筋肉痛になっていないのは変だなと気づいた。何でだろうねとシエマーに聞くと「神の力が肉体にも影響しているのだろう」との見解が。思わずかみのちからってすげー、と間抜けな声を出してしまった。
しかし、なんだかんだ体力はしっかり消耗しているので、歩かなくてよくなるのはとても有難い。マエクスという生き物の乗り心地は知らないが、少なくとも歩くよりはマシだろう。
大きな厩舎を眺めつつ、その横にある建物へ入る。気の良さそうなおじさんがカウンターの向こうに座っていた。
「いらっしゃい、そこの嬢ちゃんと乗るなら一頭だな」
「ああ。彼女は初めてでな、できれば気性の穏やかな奴を頼めるか」
「大人しい子は何頭かいるんだが……期間はどれくらいだ?」
「余裕を持って見積もれば、往復六日ほどになる」
「うーん、ちぃと長旅だな。それなら嬢ちゃんに来てもらって、あの子らに選ばせるか」
ん?え?とわたわたするノマルを、おじさんは「いいからいいから」と笑顔で厩舎へ連れて行き。
ずらりと並んだ馬房のような部屋から、動物の顔がちらちらと覗いている。馬のような体をベースに、つるりとした短毛と所々に生えた大きい鱗、そして頭の左右に角。随分個体差があるらしく、鱗の生え方から角の形までそれぞれ違っているようだった。
「これが、マエクス?うわぁ、可愛い」
「なんだァ嬢ちゃん、見るのも初めてなのか?はは、それで感想が可愛いなら問題ないだろうよ。とはいえ、説明くらいはさせてくれ。この子らは俺の大事な子なんでな」
んん、と咳払いをしたおじさんは、それはそれは自慢げに話し始めた。本当にマエクスが好きなんだと実感できるやけにキラッキラな目で。
どういう性質の生き物なのか、食べるものとか、どう接すればいいのか。基本的なことを色々と教えてくれた。とはいえ、鳥型の星喰を振り切る速さはまさに風のようだとか、パンを買ってくるよう頼んだらちゃんと袋を咥えて持って帰ってきたとか、大半がうちの子自慢の内容だったが。とりあえずマエクスの速さと賢さを言いたいのは分かった。
ノマルがおじさんの話に合わせてしっかり反応していたからだろうか。おじさんは嬉しそうに鼻の下を擦り、にかっと笑った。
「まァなんだ。一旦好きに見てきな、気になる子がいれば説明するからよ。どうせならお互い気に入るのが一番だ。ほら、兄貴も一緒に」
「私は彼女の兄では「こまけぇこたぁいいから!」……うむ」
シエマーが押しの強さに負けているのを見てつい吹き出しながらも、本題へと頭を切り替えるノマル。どんな子がいるんだろうかと、順番に部屋を覗いていくことに。
見上げるほどの大きさと鱗や角の威圧感に全くビビることなく、可愛さを噛み締めるノマル。ある程度の言葉は分かるそうなので、こんにちはと挨拶しながら一匹ずつ見ていく。君は目がまんまるで可愛いねとか、鱗がカッコいいねとか都度褒める様を見て、シエマーは意外そうに目を瞬いた。
「君は、動物相手には随分やわらかいのだな」
「やわらかい?ああ、態度がね。まぁ私動物好きだから。可愛いし、癒されるし、何より余計なことなんも考えなくていい!」
にこにこと楽しそうに厩舎内を見回したノマルは、ふと少し奥の部屋に目が止まった。周りの子が皆気になって顔を出しているところ、そこだけほんの僅かに鼻先が見える程度で。大人しい子なのかなと考えて、そっと遠巻きに部屋を覗き込んでみる。
そこにいたマエクスはとても煌びやかだった。真っ白な体に緑色の鱗、そして金色の角。頭の辺りだけ長い毛が髪のように垂れていて、伏せられたエメラルドの瞳を縁取るまつ毛まで美しい。そのあまりの神々しさにノマルは目を見張った。
「わっ、めちゃくちゃキレーな子だ……ん?でも、なんかちょっと元気なくない?」
「ふむ。白妙に翠玉、黄金とくれば、引く手数多の至宝だろう。何故こうも気落ちしているのだろうか」
「うーん分からん……ね、君。どこか痛いの?それか、お腹空いたとか?」
はいは首を縦に、いいえは横に振るように教えているらしいが、このマエクスはふいっと首を背けてしまった。シエマーと顔を見合せて首を傾げていると、距離を置いていたおじさんが慌てたようにやって来た。
「あーその子、エディガウラは……この厩舎でも相当な別嬪なんだが、中々気難しい子でな。兄貴が貰われてから誰も乗せたがらないどころか、外に出ようともしない。元々草原がよく似合うお転婆娘だったのに、今じゃすっかり高貴なお嬢様が板についちまってよ」
まァそんなところも可愛いんだが、というおじさんの親バカはスルーして。誰も乗せたがらないのはともかく、外に出ようとしないのは不味くないだろうか。
「でも、大丈夫なの?こういう動物にとって運動は大事でしょ?」
「そりゃあな。現にエディも、ちょっとばかし体重が落ちてる。筋肉が減ってんだろうよ。だからまァ、うちも外へ出るよう誘導してはいるんだが、確率は五分五分だな」
「そっか……ごめんおじさん、もちょっと離れててくれる?お話くらいはさせてもらえるかなって」
「ああ、いろいろ話してやってくれ。兄貴がいなくなって、エディも寂しいのかもしれん」
何か悩みがある時近しい人にほど相談しにくいというのは、ままある事だ。賢いのであれば人間と同じようにそんな状態になっていてもおかしくは無い。そう思ったノマルはどう接するのがいいものか考えて、やっぱりやめた。正解なんて無いのだから、体当たり式のコミュニケーションくらいが丁度いい。
「話、聞いてたでしょ?あのおじさん、君のこととっても気にかけてくれてるんだよ。それでも外に出ないのは、きっと理由があるんだよね」
知性を湛えた深いエメラルドがノマルを真っ直ぐに見返している。どうやら、話す気にはなってくれたらしい。
「ね、外は好き?」と聞くと、エディガウラは首を縦に振った。そして「走るのも好き?」という問いかけにも縦に振って答えた。ノマルは首を捻る、だったらどうして外に出ないのか。思い出したのは『兄が貰われてから』という言葉であった。
「お兄さんみたいに誰かに貰われるのが嫌なの?」
途端、物凄い勢いで縦に振ったのを見て、その圧にちょっと驚くノマル。一体どれだけ嫌なのか、鼻息が荒いところを見るにかなりのものである。
「うーん、でもそれと外に出ないことに何の関係が……?」
「……思うに。彼女ほどの見目であれば、少し外を出歩いただけで皆の注目を集めてしまう。それが起点となって引き取られることを恐れているのでは」
「確かに!」とシエマーの言葉に納得してぽん、と手を叩くノマル。こんなに綺麗な子が外にいたら確実に目を引くだろうなとしょんもりする。自分も視線が吸い込まれた自覚があるので。
「まぁでも安心しなよ!あの親バカおじさんなら無理矢理誰かに引き渡したりなんかしないよ。それは君が一番よく分かってるんじゃないかな?それでも不安なら、私がちゃんと言っといてあげるから」
エディガウラは『気持ちは有難いのだけど、それだけじゃないのよね』と言わんばかりにふんす、と鼻を鳴らした。
「……うむ。このエディガウラとやら、どうも煮え切らないようだが」
「あれ!?違ったのかぁ。じゃあ何なんだろ……」
はいかいいえで答えられるものでないといけないので、いまいちエディガウラの考えを絞り込めず苦戦するエセ探偵の二人。賢いとはいえ動物の考えは人と異なるのもあって、中々予想がしづらかった。
「まさかただ単に違う環境に行くのが怖いってわけじゃないだろうし」
ノマルがぼそっと呟いて、あーでもないこーでもないと考えていると。シエマーがこっそりノマルに彼女の顔を見るように促す。不思議に思って見てみれば、固まった顔に明後日の方向を見ている目、そして不自然にだらりと垂れた舌。
「恐らくだが、図星だ」
「ええーー!!!うそぉ、元お転婆娘で現高飛車なお嬢様だったらそんなにビビったりしないかなって思ったんだけど?」
「本人も気にしているようだ、あまり言わない方がいい」
あまりの衝撃に脳内処理に時間をかけていたら、なんだなんだとおじさんがやって来た。かくかくしかじかで諸々を説明したところ、おじさんはそれはもう可笑しそうに笑い出した。
「ダッハッハ!ま、まァ確かに昔から見栄っ張りの割にいつも兄貴にくっついてたし、近場以外は行ったことがないからな。んで、人を乗せないのは逃げやすいからか。ハハ、外面は立派になったが、中身がついてこなかったんだな」
笑いながら撫でるおじさんの頭を鼻先で小突くエディガウラ。鼻息は荒いが、その軽さを見るにただの照れ隠しであるのは明白である。
「うちは肝の据わった勇敢な子が多くて考えもしなかったが……そうだなァ、珍しい子だから憂き目に遭わんようにと、ちいと過保護にしすぎたか」
少ししんみりしたおじさんは、次の瞬間には眩しい笑顔で「よしアンタら、腕に自信はあるか?」と聞いた。
シエマーが「中級の星喰であればいつでも討ち取れる程度だ」と言ったのを聞いて慌てたのはノマルである。戦えはしないけれどそれでも一応できることはあるので「ば、バリアくらいならはれますッ!」とまるで面接のようにカチコチで叫び。
「じゃ、是非うちのエディを連れて行ってくれ。安心しろ、万全じゃなくともエディの速さはピカイチだ」
「わ、私達はいいんだけど、その、めちゃくちゃ嫌がってない?」
「ハッハッ、これは拗ねてるだけだ。本気で嫌なら部屋の隅っこに行ってテコでも動かんようになる。まぁ仮にそうだったとしても、そろそろ外の世界を知らないとな」
凄い不満そうに頭をぶんぶん振っているが、別に嫌ではないらしい。マジかと思いつつ、おじさんに落ち着かせてもらってからエディガウラに近づくノマル。
エディと呼んでいいかと聞くと、渋々といった様子で首を縦に振ってくれる。横からおじさんの「今みたいに尻尾を振っているのは機嫌がいい印だ」という補足が飛んできた。面白い子だなぁと思ってくすりと笑う。
「私の名前はノマル、こっちはシエマー。ちょっとの間だけど、よろしくね」
「シエマーだ、暫し世話になる」
新しい仲間は高い位置からジトりと睨みつけて『まぁ、世話してあげないこともないわ』と言うように、仕方なさそうな鳴き声を上げた。
そういえばあれだけ疲れていたのに割と歩けているなと不思議に思って、そもそも筋肉痛になっていないのは変だなと気づいた。何でだろうねとシエマーに聞くと「神の力が肉体にも影響しているのだろう」との見解が。思わずかみのちからってすげー、と間抜けな声を出してしまった。
しかし、なんだかんだ体力はしっかり消耗しているので、歩かなくてよくなるのはとても有難い。マエクスという生き物の乗り心地は知らないが、少なくとも歩くよりはマシだろう。
大きな厩舎を眺めつつ、その横にある建物へ入る。気の良さそうなおじさんがカウンターの向こうに座っていた。
「いらっしゃい、そこの嬢ちゃんと乗るなら一頭だな」
「ああ。彼女は初めてでな、できれば気性の穏やかな奴を頼めるか」
「大人しい子は何頭かいるんだが……期間はどれくらいだ?」
「余裕を持って見積もれば、往復六日ほどになる」
「うーん、ちぃと長旅だな。それなら嬢ちゃんに来てもらって、あの子らに選ばせるか」
ん?え?とわたわたするノマルを、おじさんは「いいからいいから」と笑顔で厩舎へ連れて行き。
ずらりと並んだ馬房のような部屋から、動物の顔がちらちらと覗いている。馬のような体をベースに、つるりとした短毛と所々に生えた大きい鱗、そして頭の左右に角。随分個体差があるらしく、鱗の生え方から角の形までそれぞれ違っているようだった。
「これが、マエクス?うわぁ、可愛い」
「なんだァ嬢ちゃん、見るのも初めてなのか?はは、それで感想が可愛いなら問題ないだろうよ。とはいえ、説明くらいはさせてくれ。この子らは俺の大事な子なんでな」
んん、と咳払いをしたおじさんは、それはそれは自慢げに話し始めた。本当にマエクスが好きなんだと実感できるやけにキラッキラな目で。
どういう性質の生き物なのか、食べるものとか、どう接すればいいのか。基本的なことを色々と教えてくれた。とはいえ、鳥型の星喰を振り切る速さはまさに風のようだとか、パンを買ってくるよう頼んだらちゃんと袋を咥えて持って帰ってきたとか、大半がうちの子自慢の内容だったが。とりあえずマエクスの速さと賢さを言いたいのは分かった。
ノマルがおじさんの話に合わせてしっかり反応していたからだろうか。おじさんは嬉しそうに鼻の下を擦り、にかっと笑った。
「まァなんだ。一旦好きに見てきな、気になる子がいれば説明するからよ。どうせならお互い気に入るのが一番だ。ほら、兄貴も一緒に」
「私は彼女の兄では「こまけぇこたぁいいから!」……うむ」
シエマーが押しの強さに負けているのを見てつい吹き出しながらも、本題へと頭を切り替えるノマル。どんな子がいるんだろうかと、順番に部屋を覗いていくことに。
見上げるほどの大きさと鱗や角の威圧感に全くビビることなく、可愛さを噛み締めるノマル。ある程度の言葉は分かるそうなので、こんにちはと挨拶しながら一匹ずつ見ていく。君は目がまんまるで可愛いねとか、鱗がカッコいいねとか都度褒める様を見て、シエマーは意外そうに目を瞬いた。
「君は、動物相手には随分やわらかいのだな」
「やわらかい?ああ、態度がね。まぁ私動物好きだから。可愛いし、癒されるし、何より余計なことなんも考えなくていい!」
にこにこと楽しそうに厩舎内を見回したノマルは、ふと少し奥の部屋に目が止まった。周りの子が皆気になって顔を出しているところ、そこだけほんの僅かに鼻先が見える程度で。大人しい子なのかなと考えて、そっと遠巻きに部屋を覗き込んでみる。
そこにいたマエクスはとても煌びやかだった。真っ白な体に緑色の鱗、そして金色の角。頭の辺りだけ長い毛が髪のように垂れていて、伏せられたエメラルドの瞳を縁取るまつ毛まで美しい。そのあまりの神々しさにノマルは目を見張った。
「わっ、めちゃくちゃキレーな子だ……ん?でも、なんかちょっと元気なくない?」
「ふむ。白妙に翠玉、黄金とくれば、引く手数多の至宝だろう。何故こうも気落ちしているのだろうか」
「うーん分からん……ね、君。どこか痛いの?それか、お腹空いたとか?」
はいは首を縦に、いいえは横に振るように教えているらしいが、このマエクスはふいっと首を背けてしまった。シエマーと顔を見合せて首を傾げていると、距離を置いていたおじさんが慌てたようにやって来た。
「あーその子、エディガウラは……この厩舎でも相当な別嬪なんだが、中々気難しい子でな。兄貴が貰われてから誰も乗せたがらないどころか、外に出ようともしない。元々草原がよく似合うお転婆娘だったのに、今じゃすっかり高貴なお嬢様が板についちまってよ」
まァそんなところも可愛いんだが、というおじさんの親バカはスルーして。誰も乗せたがらないのはともかく、外に出ようとしないのは不味くないだろうか。
「でも、大丈夫なの?こういう動物にとって運動は大事でしょ?」
「そりゃあな。現にエディも、ちょっとばかし体重が落ちてる。筋肉が減ってんだろうよ。だからまァ、うちも外へ出るよう誘導してはいるんだが、確率は五分五分だな」
「そっか……ごめんおじさん、もちょっと離れててくれる?お話くらいはさせてもらえるかなって」
「ああ、いろいろ話してやってくれ。兄貴がいなくなって、エディも寂しいのかもしれん」
何か悩みがある時近しい人にほど相談しにくいというのは、ままある事だ。賢いのであれば人間と同じようにそんな状態になっていてもおかしくは無い。そう思ったノマルはどう接するのがいいものか考えて、やっぱりやめた。正解なんて無いのだから、体当たり式のコミュニケーションくらいが丁度いい。
「話、聞いてたでしょ?あのおじさん、君のこととっても気にかけてくれてるんだよ。それでも外に出ないのは、きっと理由があるんだよね」
知性を湛えた深いエメラルドがノマルを真っ直ぐに見返している。どうやら、話す気にはなってくれたらしい。
「ね、外は好き?」と聞くと、エディガウラは首を縦に振った。そして「走るのも好き?」という問いかけにも縦に振って答えた。ノマルは首を捻る、だったらどうして外に出ないのか。思い出したのは『兄が貰われてから』という言葉であった。
「お兄さんみたいに誰かに貰われるのが嫌なの?」
途端、物凄い勢いで縦に振ったのを見て、その圧にちょっと驚くノマル。一体どれだけ嫌なのか、鼻息が荒いところを見るにかなりのものである。
「うーん、でもそれと外に出ないことに何の関係が……?」
「……思うに。彼女ほどの見目であれば、少し外を出歩いただけで皆の注目を集めてしまう。それが起点となって引き取られることを恐れているのでは」
「確かに!」とシエマーの言葉に納得してぽん、と手を叩くノマル。こんなに綺麗な子が外にいたら確実に目を引くだろうなとしょんもりする。自分も視線が吸い込まれた自覚があるので。
「まぁでも安心しなよ!あの親バカおじさんなら無理矢理誰かに引き渡したりなんかしないよ。それは君が一番よく分かってるんじゃないかな?それでも不安なら、私がちゃんと言っといてあげるから」
エディガウラは『気持ちは有難いのだけど、それだけじゃないのよね』と言わんばかりにふんす、と鼻を鳴らした。
「……うむ。このエディガウラとやら、どうも煮え切らないようだが」
「あれ!?違ったのかぁ。じゃあ何なんだろ……」
はいかいいえで答えられるものでないといけないので、いまいちエディガウラの考えを絞り込めず苦戦するエセ探偵の二人。賢いとはいえ動物の考えは人と異なるのもあって、中々予想がしづらかった。
「まさかただ単に違う環境に行くのが怖いってわけじゃないだろうし」
ノマルがぼそっと呟いて、あーでもないこーでもないと考えていると。シエマーがこっそりノマルに彼女の顔を見るように促す。不思議に思って見てみれば、固まった顔に明後日の方向を見ている目、そして不自然にだらりと垂れた舌。
「恐らくだが、図星だ」
「ええーー!!!うそぉ、元お転婆娘で現高飛車なお嬢様だったらそんなにビビったりしないかなって思ったんだけど?」
「本人も気にしているようだ、あまり言わない方がいい」
あまりの衝撃に脳内処理に時間をかけていたら、なんだなんだとおじさんがやって来た。かくかくしかじかで諸々を説明したところ、おじさんはそれはもう可笑しそうに笑い出した。
「ダッハッハ!ま、まァ確かに昔から見栄っ張りの割にいつも兄貴にくっついてたし、近場以外は行ったことがないからな。んで、人を乗せないのは逃げやすいからか。ハハ、外面は立派になったが、中身がついてこなかったんだな」
笑いながら撫でるおじさんの頭を鼻先で小突くエディガウラ。鼻息は荒いが、その軽さを見るにただの照れ隠しであるのは明白である。
「うちは肝の据わった勇敢な子が多くて考えもしなかったが……そうだなァ、珍しい子だから憂き目に遭わんようにと、ちいと過保護にしすぎたか」
少ししんみりしたおじさんは、次の瞬間には眩しい笑顔で「よしアンタら、腕に自信はあるか?」と聞いた。
シエマーが「中級の星喰であればいつでも討ち取れる程度だ」と言ったのを聞いて慌てたのはノマルである。戦えはしないけれどそれでも一応できることはあるので「ば、バリアくらいならはれますッ!」とまるで面接のようにカチコチで叫び。
「じゃ、是非うちのエディを連れて行ってくれ。安心しろ、万全じゃなくともエディの速さはピカイチだ」
「わ、私達はいいんだけど、その、めちゃくちゃ嫌がってない?」
「ハッハッ、これは拗ねてるだけだ。本気で嫌なら部屋の隅っこに行ってテコでも動かんようになる。まぁ仮にそうだったとしても、そろそろ外の世界を知らないとな」
凄い不満そうに頭をぶんぶん振っているが、別に嫌ではないらしい。マジかと思いつつ、おじさんに落ち着かせてもらってからエディガウラに近づくノマル。
エディと呼んでいいかと聞くと、渋々といった様子で首を縦に振ってくれる。横からおじさんの「今みたいに尻尾を振っているのは機嫌がいい印だ」という補足が飛んできた。面白い子だなぁと思ってくすりと笑う。
「私の名前はノマル、こっちはシエマー。ちょっとの間だけど、よろしくね」
「シエマーだ、暫し世話になる」
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