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第1節
第1節① 芽吹く力と崩壊した世界
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・・・・・・・・・・・・
あれ?
私は何しようとしてたんだっけ?
部屋も外も変わってない。
最後の記憶はたしか変な天使と話してそれから・・・覚えてない。
あとなんか変な感じがする。
頭の中がとてもスッキリしたようなそんな感覚。
とりあえずなにか試してみるとしますか。
「てい」
試しに飛んでみたところ天井まで届いてしまった。
そして軽やかに着地。
いやー、人間ってこんなに飛べるもんなんですね。
いやいやいやいや。
ちょっと凄くない。
「一体なにが・・・つぅ」
頭に、なにか、流れ込んで来る。
(頭が割れる。誰か・・・)
ずっとはこの痛みに耐えられない。
早く何とかしないと。
そこで頭は囁いてくる。
まるでいつも存在していた何かのように使い方が頭に刻まれる。
「こう・・・すればいいの?」
目の前に指で円を描く。
するとなぞった場所は切れ目が現れる。更に内側に円を小さく描く。
また切れる。
小さい方を殴ってみた。
瞬間、空間に穴が空いた。
反対側を覗いてみる。
同じように穴が空いていた。
というより空間そのものを切り取ったということ?
非常識この上ない。
「ほんとどうなって」
「お嬢様」
「なに」
「今すぐこのお屋敷からお逃げください。もうこの屋敷は持ちません」
「逃げるって何・・・から」
メイドの声は沈黙した。
それもそのはず。犬の形をした頭二つのバケモノがそこにいてメイドの頭を砕いているのだから。
メイドの服からピンク色のビンが落ちて転がってくる。
(嘘でしょ)
オルトロス。
文献によると頭が二つで鬣が1本ずつ。そして蛇の尻尾を持つらしい。
目の前の生物は確かにその姿を酷似しておりまさに本物と言っても過言じゃない。
逃げる?
逃げられない。
そんなことできる相手だとは思えない。
犬だから鼻もいいはず。
万事休すすぎる。
「ぐるるるるる」
「こんなところで死んでたまるか」
近くにあったメイドの落としたと思われるビンを拾う。
見た感じ香水の類でしょ。
犬の弱点といえば鼻。
これをぶっかけてやれば!
「ぎゃうん」
一時的でも動きを止めることはできる。
そして・・・こればっかりは行き当たりばったりだ。
いや、できるはずなんだ!!
「形を、形を想像して書く」
私が知る限り一番武器っぽいもの。
剣・・・そう剣だ。
できる限り繊細に、早く作り出すんだ。
躊躇している時間ももったいない。
指先で剣に似た形を作る。
そして光の線が浮かび上がる。
描いたとおりの形。
これをどう扱うか。
(お前は知っているはずだ)
そうわかる。
(使い方も分かっているはずだ)
それも知ってる。
(ならそれを実行しろ。お前の力を示せ)
言われなくても!
ガキン。
出来た剣先を軽く押して外し反対方向を掴んだ。
柄の部分はまるで本物みたいに形作らている。
イメージしながら作ったけどそれで正解だったということ。
スッ。
オルトロスがこちらを向く。
もう回復したのか。
切れ味は試してないからかなり不安が残る。
「がるぅ」
オルトロスがこちらに飛びかかる。だけども的が外れて横を通り過ぎた。
こちらに向かってきたのだから私の存在には気づいている。わざと外すとは獣であるオルトロスには考えられない。
考えられる可能性は・・・。
「視力・・・もしくは聴覚ってことかな」
そして鼻が異常に発達して耳と目が退化してるのならさっきのことも納得が行く。
耳で先ほどの剣を作った音を聞き取り目で確認して襲った。
しかし正確な情報を認識出来ないのか直撃コースをとれなかったんだ。
(鼻を封じて正解だった)
もし封じてなければあの速度に手も足も出なかったかもしれない。
でもなぜか動きが見えた。
能力といい身体能力といいなにがおきてるのだろうか。
わからないけど今はこの戦いに集中だ。
私は剣を構えた。
空間をくり抜き作り出した剣。
剣術はそこまで習ってないので不安がつのる。
真面目にやっとけばよかったなんて今更しても遅いけどね。
(行くよバケモノ)
今度は下半身に力を入れる。
そして一気に走り出すとすんなりとオルトロスの前までたどり着いた。
本当に一瞬だ。
詰められない距離だと思っていたのに5m近くを0に縮めた。
咄嗟に剣を横薙ぎにしてオルトロスの真横を通過する。
完全に切ったはずなのに重みも感覚もない。
気になって後ろを向くとやつはピンピンしていた。
オルトロスは私に襲いかかろうとする。
その時、オルトロスの体が上半分になって飛んできた。
慌ててしゃがむ。
グロテスクな光景がちらっと見えたけどそこは些細な問題です。
「い、生き残った・・・」
へたへたと床にお尻をつけてしまう。
足までガクガクしてる。
また目の前の人間の死体を見て夢なら覚めてほしいと思った。
あと、気がかりなのはお父様たちの安否。
あのバケモノが1匹であった保証はない。
でもその前に・・・。
「うえ、ちょっと臭いしヌメってる」
服はオルトロスの体液で濡れきっている。
着替えてからのほうが良さそう。
両親に会うのにこれはあんまりだ。
持っていた剣を投げ捨てクローゼットへ向う。
「クローゼットは・・・無事ですか」
さっと着替える。
学園に行くための私服。この時間に切ることになるとは思わなかった。
時間も思ったよりもないかもしれない。
慎重になおかつ早く動かないと。
それと香水の代わりも持ってかないと。
さっき作った剣は・・・は消えてるみたいだ。
とりあえず探してみる。
「これとか使えそうですね」
手に取ったのは痴漢撃退用の唐辛子スプレー。
香水よりこれなら効くと思う。
スカートのポケットの中にしまい込んでゆっくりとひらかれている扉の先へと向かった。
静かだ。だいぶ静か。
まるで誰1人もいないみたいに静かです。
ゾンビ映画みたいな状況になってるような気がしてならない。
(これはこれで怖いものがありますね)
あまり足音をたてないで進んでいく。
こういう時家が広いというのは少しいやだね。
この時間はお父様たちも寝室にいるはずなのでそちらの方に向かう。
こちらに向かってくる音もない。
多少安心して歩いていくとお父様たちの寝室に辿り着いた。
(無事でいるでしょうか)
カチャリ。
開けてみたらそこは悲惨な光景が広がっていた。
思わずもう一度閉めてしまった。
今お父様の服を着た誰かが血まみれで倒れていた。
それが脳裏で再生される。
吐き気がした。
メイドの時の比じゃない。
深く深く吐き気がした。
この時間、この場所にはお父様と、お母様しかいなかったはず。
あの姿は強盗にやられたのではなく犬型の化物に食われたかのような傷だった。
つまりあの犬はここに現れたんだ。
深夜、唐突に。
「でもお母様の姿はなかった・・・何処に行ったの」
ヨロヨロと動き初めて数分・・・ガタガタッと玄関近くの部屋から聞こえた。
もしかしてお母様?
壁によりながら慎重に音のした部屋へ寄っていく。
一応何が起きてといいように剣をもう一度作っておく。
覚悟を決めてすっと部屋を覗いて見た。
「ブヒッ、ブヒィ」
「ブヒブヒ」
二足歩行で立っている全裸で緑の豚が三匹。
そして奥の方に腰を降ってる同じ豚に・・・お母様?
私は確認すべく豚の群れに飛び込んだ。
瞬間私は足に力を入れて豚に急接近。
横に剣を薙ぐ。
切れ味抜群のその剣は豚を横に真っ二つにする。
豚の中身はグロテスクで見てられない。
「次」
女性に覆いかぶさっていた豚がこちらを向く。
なるほど、こちらの方が知性がありそうだ。
群れのリーダーなのだろう。
それにしたって運動神経が跳ね上がっている。
動体視力だって振り落とされる拳がスローモーションに見える。
「遅い」
ヒュォン。
首を直接狙って切りつけた。綺麗に切断されそのまま豚は倒れさる。
先ほどの犬と比べると遅いくらいであっという間に全滅させることが出来たけど・・・。
「お母様」
結論からいうと奥にいた女性はお母様であった。
服は千切られ白い液体で汚されている。
子供の私でさえ何が起きたのか明白な現場だった。
母の目はもう死んでいた。
この世の終わりを見てるかのように放心していた。
「くそっ」
犬がいる時点で他にもいると思ったけどこんな奴らがいたなんて。
お母様は生きてなかった方がマシという屈辱を受けていたなんて。
「・・・でもあなたが生きていてくれてありがたいわ。まだ生きる希望があるもの」
「お母様」
「ところで私の夫は?」
私は口を噤む。
話せるわけがない。
ここに来るまでに見た男の遺体。
あれがお父様である可能性は高い。
それをこの状態のお母様に言うのは酷だと思う。
だから言わない。
まだ隠し通すべきだ。
だから・・・私は。
「わからないです」
こう答えた。
これが1番お母様を安心させる言葉だと思ったから。
「それにしても・・・あなたすごい力を持ってるのね」
「私が持ったんだからお母様も持っているのでは?」
「・・・戦える力ではないみたいなの」
聞いてみると確かに。
しかしよりにもよって能力が『魅了体質』とかいうものだったなんて。
だから殺されるわけではなく体を弄ばれていた。
彼らにとっては魅力のある異性に見えたから。
死という事態は免れたものの。
さすがに酷というものではないかと私は思う。
「ところで、麗。どうしてあなたはそんな冷静なの?」
ラフィエルとかいう不思議な生き物にあったからだろうか。
それとも神父の話を聞いていたからだろうか。
それともさっき命を奪い、父の亡骸を見てしまったからか。
でもそれで守れるならいいと思っていた。
私とお母様はまずはお風呂場に向かう。
設備は壊れておらずお湯もしっかりと出た為お母様にはお風呂に入ってもらった。
それにしても変革が本当に起きるとは思わなかった。
事実は小説より奇なりってね。
私はお風呂場の外で見張りをしながら今後のことを考えることにした。
先ほどの戦いでわかったことは血などは物体として残るが骨や肉は塵になってしまうこと。
これは、お母様を介抱してる時に起きていた。
多分崩壊するまでの時間はさほどかからないんだと思う。
「外の世界はどうなってるんだろ」
まず次に心配なのは春雨きなこの安否だ。
神父は何だかんだしぶとい感じがするしほっといて平気でしょう。
後は水や食料の確保。
外の世界の情報も必要だと考えられるかな。
「それにしても・・・なんか不自然に身体能力は上がってるはずなのにこの違和感はいったい・・・」
「お答えしよう」
「うわっ・・・てあの時のクソ天使」
「うっわヒド、このチャーミングな僕になんて失礼な」
昨日の夜中お風呂に現れた天使が今目の前にいた。
握り潰したい。
「まぁいいか。ごほん、神の分身たる僕が応えよう」
「目の前から消えろエロ天使。握りつぶしますよ」
「ちよっとぉ、話くらいきいてぇ」
ちぃ、仕方ありませんね。
「手短に話して」
「見た目によらずせっかちなんだね。まぁいいけど」
ゴホンと咳き込んでラフィエルは語り出す。
神の世界で起きたこと、そしてこの世界に何があったのかを。
聞くだけでも荒唐無稽な話。
でもそれ以外にこの変化は考えられない。
能力や身体能力も上がったのもそのせいだそうで・・・。
「大体はこんなところだね。そして君の力なんだけど僕がわかる限りのことは答えるよ。能力はデメリットが存在してるのはわかるでしょ」
「ええ、痛いほどに」
お母様があんな風にされたのも能力によるデメリットによるところ。
あの能力の時点でデメリット満載だけど。
「そのデメリットは「魅了」なら他種族に常と言っていいほど体を狙われること。なら破格の君が使う能力はどんなデメリットがあると思う?」
私の能力は戦闘向き。
さらに加えては自分の想像通りに次元を切り取っている。
あまり変化はないのでデメリットなんてものを考えなかった。
「答えは時間が経てばわかるとは思う。あとは能力には全て制限があるんだ」
「制限・・・」
私の能力の制限には心当たりがあった。
制限はきっと『自分で触られる範囲のみ』『作ったものは離したら消える』『あとは切り取った分だけ疲れる』
と言ったところじゃないかと思う。
「まぁ、だいたい能力については理解出来たみたいだね。それじゃこの世界がどうしてこうなったのかという本質的な話をしよう」
やっと本題に入れるといった感じの声色。
私だって前置きが多いなとは思ったけどさ。
「結論から言おう。この世界は完全に別のものに変化した」
な、なんだってー。
と、とりあえずのってみた。
「先ほどのバケモノたちはその変化の果てにあったもの。世界とともに瘴気に蝕まれ進化した姿なんだ」
だからこの世界にいるはずもない異形の姿をした生物が存在してたのか。
あの豚しかりあの犬しかり。
しかも人間を襲う性質もありそうだった。
「瘴気は世界に蔓延した。嫌でもこの世界は戦乱の世に変わる。人間と化け物たちとの戦争。もう人間同士では争うことは無駄に等しい。それが今の世の中さ」
至るところにこんな生物がいる。
それは笑えない。
安全な場所なんてどこにもないと宣言されたのも同じだ。
「さて、話し終えたし僕はお暇するよ。もうすぐ力が消えて消滅するしね」
「あなたのその姿も能力だったわけ」
「まぁね♪」
笑って言ってるけど相当強力な力だ。
敵でなくてよかったと思ってる。
やがて、本当に力尽きたのか天使の姿が消える。
言いたいこと言われてだけだけどなんとなくやることはわかってきた。
「この世界で生きていく方法を探さないと行けないとかどこのゲームなんだか」
でもそこら辺の平凡な日常よりは面白い・・・か。
レールが決まっているデキレースよりは多少はね。
さてと、そろそろお母様が出る頃だけど・・・着替え持ってきてなかった。
まさか呼べば出てくるなんてことはないと思うけど。
「メイド長」
「はっ」
呼ばれてでてきたよ。
そしてピンピンしてるよ。
「はぁ、死んでも死なない人だとは思ったけど」
「お褒めいただきありがたき幸せ」
褒めてないわい。
どれだけポジティブなんだか。
「ところでお母様のおめしものは?」
「ここに」
サッと取り出したるはお母様が日常的に使われているお洋服。
ほんとこのメイド怖いわー。
「それにしても私が生きていて旦那様がいないのには疑問がないのですか?」
「別にない。お父様はお母様を守れって言ったんでしょ」
「その話は・・・奥様、着替え置いときますので着替え終わるまで外におりますね」
いつの間にかお母様に服を渡して私を呼びつける。
「その通りでございます。よくおわかりで」
それでもお母様があんな目にあってしまったようだけど。
「まさか武器を取りに行ってる間にそのような事になるとは思いませんでしたが」
「武器?」
「そうです。使い慣れて武器がないと戦いも不安でして」
そう言いながら左右の太もも付近をメイド長は捲りあげる。
太ももが眩し!!
ではなくとあるナイフのホルスターが取り付けられていた。
「コンバットナイフなんてよくこの家にありましたね」
「非常事態用に倉庫に隠しておりましたので」
一体どんな非常事態を想定していたのか気になるところ。
聞いたらとんでもない事になりそうだけど。
「小此木さん、着替えて終わったわ。こんなものでどうかしら」
「お似合いです」
戦うという格好ではないけどあんな格好でいるよりは大分マシなはず。
それとこれからの事を相談しなくちゃいけないと思う。
「あっ、お嬢様もメイド長とは呼びにくいでしょう。小此木とお呼びください」
5年以上一緒にいてその話が出たのがこのタイミンク・・・とても今更だよぉ。
呼びにくいのは同意するので小此木と今後呼びますが。
「では小此木。外はどうなってると思いますか?」
「なんとなく想像は出来ています。もし探索するのならば奥様方の安全は保証できませんね」
考えていることは同じらしい。
外の世界の危険。
だけどこうして侵入されて私たちしかいないような状況。
食料の備蓄も夏場なのだからすぐ腐って食べられなくなる。
電気もそのうち通らなくなると思われるし。
そうなると行動で表すしかない。
「小此木さん、今更気にしないで。それにここにいても危険なら前に進まないとダメじゃないの」
「その通りですね。頭が固くなりすぎてました。お嬢様は・・・」
「自分の身は自分で多分守れるから」
「・・・その言葉を信じて奥様の方に尽力させてもらいます」
これでいい。
私ならばお母様より自分を守れるはずだから。
家で簡単な携帯食料と服と下着2日分を準備。
洗える場面があるか分からないけど何日も同じ格好は女子として嫌だ。
「思ったより軽装ですね」
「無駄なものを省いただけよ」
「それに比べて奥様・・・旅行に行くつもりですか」
「いいじゃない、必要なものよ」
結構大きなキャリーケースをお母様は持ってきていた。
身だしなみに気を使ってるお母様だからってことはある。
中身を確認してみる。
身の回りの電化製品ばかり。ドライヤーとか使えるかわからない。
電池式なら使えるかもだけどこれはコンセント式だ。
こうして要らないものを放り投げた。
「麗ちゃんたちの鬼!」
「踏み砕かないだけでも良心的だと思うけど?」
「それはそれ、これはこれ」
お母様は意外にわがままだったようなので優しく諭しました。
ええ、2人がかりで微笑みながら威圧するような気配で。
「脅しには屈しません」
強情すぎる。
これは流石に仕方が無いかな。
良心的態度は止めにしよう。
「小此木」
「了解しました」
「「せいっ!!」」
「ノォォォォー」
お母様の前で全部踏み砕く。
いくら鬼と言われようとも無駄なものを持って行って生存率が下がるのはご遠慮願いたいのです。
「うう・・・麗ちゃんは私のことが嫌いなのですか?」
「いえ、好きですよ」
「ならどうしてこんなことを」
「それはお母様も言っていたじゃないですか」
一呼吸おいて一言。
「それはそれ、これはこれ」
「うぐぅ」
お母様がぐうの音も出なくなったところで荷物を再確認。
最低限は揃ったとこれで思う。
あと足りないものは調達できるのなら調達する道の方がいい。
荷物になるから。
「それで麗お嬢様はまずはどこに向かいますか?」
「国会議事堂がベストだと思う。あと私も麗と呼ぶ様に」
「はい、麗様」
絶対分かってそう言ってる。
性格悪い。
「麗ちゃん。国会議事堂の理由を教えてくれない」
「まず一つに日本で安全が一番約束されている場所だからです」
「安全が一番約束?」
「その理由は簡単です。偉い方々がそこに避難している可能性があるからですよ」
国会議事堂の人々らは自分の身を守ろうと一般人は外に追いやろうとするだろう。
だけどその中は一番の安全地帯。
食料なども当然備蓄があるはず。
拠点にするには十分すぎる程だ。
「そしてそのうち民衆も受け入れ始めるでしょう。優秀な能力を持つ者とその家族の受け入れを」
そうそれが行く理由だ。
これだけの事が起きた時点で戦力となる人間がどれだけいるか。
お母様のように外れの能力を持つ方も絶対にいる。
そして逆に私のように規格外も確かに存在する。
それを踏まえると受け入れは間違いなく行われる。
「奥様、私たちはきっと全員で入ることができます」
「そんなのわからないじゃない」
「お母様、私たちにはバケモノを討伐した実績があります。それを踏まえるとほっとけないと思いますよ」
「・・・私より麗ちゃんの方が大人みたいね」
それはきっと気のせい。
年齢からしても私は小学生6年生くらいですよ。
「では、不肖小此木が先陣をきりましょう」
玄関までゆっくりと進む。
広い空間なのでまだまだだけども着実に進んで言ってる。
そのまま無事に玄関まで辿り着き扉に手をかける。
小此木が開けますというジェスチャーをするとゆっくりと開いた。
その先には何が見えたかというと悲惨な状況であった。
柵がほとんど壊されているけどまだ阻むことは出来そうではあったのだが。
「助けてぇ、いやぁ」
「みんな逃げろぉ!!」
「ロリはいないかねー」
なんか1人変なのが混じってる。
というか見たことある気がするんだけど。
「無罪 迅・・・」
「おっ、そこにおわすは将来約束した九谷さんじゃありませんか」
「紛らわしい言い方はやめて!!」
半ば本気で言ってる可能性もいなめないけど。
その無罪先生はものすごいジャンプで私の家の柵を超えてきた。
大した身体能力だ(人のことは棚上げ)。
「あら、いい男」
そこのお母様なぜ頬を赤らめてるのですか?
「初めまして、このような状況で申し訳ありもせんが挨拶させていただきます。無罪 迅といいます」
「あらご丁寧にどうも、九谷の母です」
なぜ手を握りあって赤くなってるんですか。
アイドルに憧れるミーハーな表情に見えるよ。
「それで九谷 麗君、現状はどう思うかな」
「なんで私なのですか?」
「一番現状を理解してそうだからかな」
なるほど。
私がそこまでわかってるように見えたということか。
誰も彼も私のことを買い被り過ぎです。
まぁ、ここでは期待に応えましょう。
「現状は最悪としか言えないです」
ほう、と無罪は話を聞く体勢になった。
「何が起きてるのかここまで何もわからずバケモノは蔓延る。行くべき場所は決まっていてもそのルートの保証はない。これだけでも絶望的です」
「なるほどたしかにその通りだ。して何が最悪なのか」
そうだ。
そこなのだ。
「人間のパニック現象ですよ」
バケモノよりタチが悪いのは知性のある人間の方。
バケモノより、より厄介でこと異常事態なら何をするかわからない。
「なるほどなるほど確かにそれが一番危惧されるか。実際今もパニックが起きてるしな」
無罪がたしかに危険だと頷ずいた。
私だってこの光景を見てたじろいている。
人間はここまで正気を失えるのだ。
「分かりました。現状で状況を把握しているあなたたちについて行きます。それに未来の英雄もいるようですし」
無罪がこちらを向いてウィンク。
かいかぶりです。
そしてキモイですあっちいってください。
よるなしっし。
「どうやら娘さんには嫌われてるようです」
「そんなことは無いわよね?」
「そうですよ。気持ち悪いとは思ってますが」
「お子様がこんなこと仰ってますが!!」
「私の子供が間違ってるわけないじゃない」
「まさかの親ばかっ!」
うん、わかってた。
だって私の親だもの。
溺愛されてるのも知ってたし見た目イケメンとはいえ初めてあうやつに心を開くはずもない。
惜しむらくはなぜ抱きつくのかな?
「ぐぁあああ」
「おっと話しすぎましたかね」
無罪は手袋をはめる。
その直後、頭は一つだが先ほどのオルトロスのような犬が襲いかかろうとしていた。
速度は少し遅い。
個体差もありそうですね。
無罪が犬の方に向く。
「神に祈りを捧げよ」
胸を中心に十字に切る。
そして無罪が地面を蹴るとひび割れる。
えっ・・・
ひび割れたの?
「うそぉ」
勝手におちゃらけキャラだからもっと弱いかと思ってたよ。
そこは本当にごめんなさい。
「ぎゃうん」
犬はショックで動きが止まる。
止まった位置は無罪の目の前。全てが計算し尽くされてるかのように止まっていた。
「信仰無きものに魂の鉄槌を」
無罪が手を思い切り開くといきなり銃が現れた。
良く見えてなかったけど大体は把握出来た。
まず無罪の手が開かれた瞬間、ロボットのように腕全体が開くと銃が。
そこから射出されるように手元まで銃がやってくる。
あとは全部が元通りになって手に銃が急に現れたと思ってしまうわけだ。
この間が、1分もないしね
「さようなら」
簡易的な銃声がなった。
そこまで耳に音は来ないが威力は申し分なし。
犬の顔が跡形もなく爆発した。
「ていうか爆発した」
「爆裂弾、聞いたことはないかな」
「聞いたことあるとしてもそれは小説の中だけだよ」
はぁ・・・と溜息をつく。
さっきの変形もかなり非常識だが弾も非常識だ。
作り方はわからないけど超未来テクノロジーであることは間違いない。
非常識もここまで行くとアッパレです。
ふむ、人体改造頼んでおいて良かったなとか聞こえた気がしたけど無視で。
それでなにか変わるはずもないし・・・。
「それで、これは強行突破するのかい?」
「言わなくてもわかるでしょ?」
「道理だな。九谷君、母君を守ってやれ」
言われずとも守り抜きます。もちろん出来るだけですけど。
出来ることと出来ないことくらいはわきまえてる。
問題は・・・あの2人にあった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
「1匹2匹3匹4匹5匹6匹」
2人して怖すぎた。
何あれ無双状態じゃん完璧に。
能力も使わずにそこら辺にいるバケモノ達を倒していく。
私いらないわこれ。
「お二人共強いのね」
そういう問題ですかお母様。
「なにもやらなくていいのは素晴らしいんですけどね」
ガサガサ。
「なにか音がしますね」
ガサガサガサガサ。
「そういえば後ろでなにか動いてるようなきが・・・」
ガサガサガサガサガサガサ!
「うるさい」
振り向いてみるとそこには捨て猫です。拾ってくださいという文字とともに黒くて目がバッチリでちっちゃくて何より愛くるしい体を持った猫がそこにいた。
・・・意味わからないよ!!
「なんでこんな所にこんな変な生物が」
「変な生物じゃないにゃー」
喋った!!
「にゃーの前はリ・ニャースにゃ」
「名前的にアウト!!」
某ポ〇〇ンみたいな名前になってるよ。
著作権的に大丈夫この猫。
「消すか」
「この子想像よりずっと物騒にゃ」
「こんな歩く著作権侵害に慈悲はない」
「仮にも捨て猫になんて酷い仕打ち。悪魔にゃー」
喋る猫を捨て猫なんて言わせない。
それと悪魔って言うならあなたの方だから世間体的に。
「あっ、リーじゃないか」
「御主人様ァ」
無罪が掃討して戻ってくると猫が抱きつこうとするが。
べチッ。
叩き落とされた。
「何するにゃ御主人」
「お前みたいな歩く著作権侵害に慈悲はない」
「この子と同じこと言ってませんか」
「同じ見解なのは喜ばしいことだ」
私としては超不本意です。
「それでこれはなんなんです?」
「ふむ、それもある博士の発明品とでも言っておくよ」
これも発明品・・・まるで生き物みたいなんだけど。
どれだけのテクノロジーがその博士には操れるのか興味を持たずにはいられないが・・・。
「せっかく情報持ってきたのにその仕打ちかにゃ」
「情報ね・・・くだらないのだったら本当に滅するけどいい?」
「御主人様、この子止めてにゃ」
「やってしまえ」
「御主人ひどいにゃー」
とりあえず話をしたいらしいけどまずは歩きながらということになった。
こんな場所に留まっていてはまた狙われるかもしれないから。
「というか本当に酷いことになってる」
見る景色見る景色壊れてる家や道路。そして徘徊するバケモノ。
襲われる人間。
応戦する人間。
世紀末な格好してるやつ。
中二病患って前線に出てるやつ。
「仕方ないにゃ。この世界は終わったのだからにゃ」
「リー、その語尾はやめてくれ。さて何から話そうか」
後ろからアイデンティティを取らないでにゃとか言ってたけど私もそれ以上言うならマジで滅するわ。
うざいもん。
「本当に猫には辛いに・・・なんでもありません。キャラ作ってすみませんでした」
睨みつけたら語尾がなくなり人間っぽい口調になった。
これでイラつかなくてすみそうです。
「まず第一に私のところに一週間前、天使の幻影が現れた」
いきなりアクロバットなところ攻めてきた。
「天使ってあの天使ですか?」
そして表情も変えないで質問を返す小此木にもビックリです。
そこに憧れはしませんけどね。
「まぁどう見ても羽の生えた幼女だったんだが」
「コスプレ幼女とはなんとマニアックな」
「なんか誤解されてるようだが」
知らんですよ。
さっさと話を進めなさい。
「その幼女がいきなり言ったんだ「7月7日に世界が変革する。準備されたし。そして九谷の者を探せ、力になるだろう」ってね」
幼女って割には口調が大人びてる感じですね。
どうしてそんな幼女がこんな神父に?
まさか・・・援助。
「引くわー」
「君が何を思ってるかわからないけどそれだけは誤解だっ!!」
まっ、わかってましたけどね。
それにしてもその幼女はなぜ九谷の者を探せなんてことを?
世界中にごまんといそうな苗字なのに。
なぜピンポイントで私にこの男は来たのかもわからない。
「それでそれで終わり?」
「あぁ、その子はすぐ消えてしまったからね」
本当に肝心なところがわからない。
はぁ・・・話が進まないなぁ。
「そんにゃ事よりも囲まれてる」
「それくらいなら許して上げる。で、その相手はどこにいるのかな?」
「はっ?」
いつの間にか私は周りを客観的に見ていた。
気がついたら全てが終わっていた。
たったそれだけの事だった。
「ふむ、とくに戦闘なれはしてないみたいだね」
「この程度の相手、私たちの相手ではありません」
正しくバーサーカー。
いえ、狂戦士もビックリな戦いっぷりです。
「そう言えばこいつら死んだそばから灰になってないか」
確認していなかったけど確かにそうだった。
倒したバケモノたちは数分後には塵となり骨も肉も全てが消え去った。
「どうやら彼らからは資源を調達できそうにありませんね」
「流石に灰を食べるわけにもいきませんしね」
「ふーん。まぁいいか」
「なんでそんなに落ち着いてるの麗ちゃん」
なんでってそれは想定の範囲内だからかな?
だってその可能性はあると考えていたし資源が調達出来ないからこそ国会議事堂に向かうことにしたのだから。
「お母様は慌てすぎです。そこら辺の雑魚なら私でも薙ぎ払えます」
「随分な自信・・・麗ちゃんが羨ましいわ」
今の敵にも言えることだが全体的に速度が遅い。
あの頭二つの犬が速かっただけかもしれないけどそれに比べたら単なるじゃれあい程度のように思えた。
(チュートリアルがハードモードとかホントふざけてますよね)
そんなこと今更言っても仕方ないけどね。
「大きい獲物を狩っても収穫がないとなるとむやみに狩るのは面倒ですね」
どれだけの犠牲を払っても肉の一つも得られない。
それならいっそ隠れるべきなのは同意する。
「そういえばリー。携帯変化は可能なのかい」
「できるっちゃぁできるけど触媒になれる奴がいないと思う」
「そこの幼女なら触媒になれるだろ」
後で神父は一発殴る。
絶対にだ。
「いやですよ。こんなブス」
「死にたいようですね」
ガシィッ。
全力で顔をわしずかみにする。
このまま握り潰したい。
「やめろォ!!」
「やめる理由はない」
「リー、そのまま変化しろ」
「マジか御主人」
いいからやれと急かされリ・ニャースがはるか上空に飛んだ。
「何をする気?」
「見ていればわかる」
「・・・猫ちゃんがんば」
「そうですね。おやつにチーズを用意しましょう」
1人だけ食いしん坊の母親がいるんですけど。
そして降りてきたと思ったらなにか地面に刺さる。
これは・・・漆黒の刀。
怪しく光って吸い込まれそうな不思議な魅力に溢れている。
「ちょうど敵もいるし同調を確かめるべきだろうね」
そしてまたハードなチュートリアルが始まった。
同調率を試すってどうやるのかわからないんですけどぉ。
「考えるな感じろ」
「余計にわからないわぁっ!!」
根性論でなんとか出来るとか思わないんですけど。
すると剣の声。リニャースの声が頭に響いてきた。
(とりあえず動いてみる、それでわかるはず)
(動くだけでいいのね)
(それが1番同調率を確かめやすい手段・・・って言うか語尾に「にゃ」をつけないと喋りにくい)
(仕方ないからにゃをつけなさい)
(助かったにゃ、博士ににゃをつけないと猫じゃないとか言われて言語機能に追加したんだにゃ)
ということはそれなりに無理してたわけか。
結構強制的に言っていたという事かな?
まぁいいか。
とにかく今は目の前の敵を優先的に叩くよ。
目標はまだ視認出来ない。
かなり遠くにいるようだし警戒してるようだ。
なら好奇と言うべきでしょう。
(今から動くよ)
(了解だにゃ。飛びすぎないように注意するにゃ)
「へっ?」
軽く一歩で相手に接適した。
飛びすぎなんてものじゃない。
人間の身体能力の限界を超えている動きだ。
「やはり私の見立てに間違いはなかった」
「言ってる場合かっ!!」
待って、何m離れてると思ってる。
少なくとも100mは離れてる。それをことなげもなく聞き取れるとか聴覚まで・・・いや身体能力全般が上がっていそうだ。
(敵、攻撃してくるにゃ)
「ちっ」
攻撃してきたのは亀みたいな甲羅を持ち兎のような手足と頭を持っている人間程の大きさのバケモノ。
一言で言えば気持ち悪い。
その兎モドキは蹴りを入れてきていた。
そう蹴り。なんでラ〇ダーキックなんかしてんの。
その前に動体視力も良くなってるんかい。
「せい」
「ぎゅおおおおお」
「ふう、まずは1匹」
ザシュザシュ。
軽快に敵が切れる。
「2匹、3匹」
まるで剣に操られてるかのように倒していく。
ここまで動けるなんて思わなかった。
「4、5匹・・・ラスト」
「おお、同調率はかなり高いようだね」
まるで別人になったようだ。なんてね。
(お疲れだにゃ)
(そうだね疲れた気がしないけど)
(戻ったら解除するけどかなり疲労してるから頑張ってにゃ)
みんなの元に戻ったところでリニャースが元の姿に戻る・・・えっ。
身体中の力が一気に抜けて顔面から倒れ落ちた。
「なにこれ体が動かないんだけど・・・」
「仕方ない。それが反動なのだから」
反動って・・・これじゃ何一つ身動き取れないんですけど。
とある魔法使いが爆裂魔法うったあとみたいなんですけどぉ。
しかも動けないだけで身体中全体も痙攣してる。
筋肉痛と似た症状・・・というかそのものか。
「これはまた派手に反動が出たもんだ」
「知ってて使わせたのっ!?」
酷い、鬼畜ぅ。
いつか復讐してやる。
絶対にだ。
「あと、初期発動だから半日は動けないし筋肉痛は続くから」
「マジなんでそんなの使わせた」
本当にゆるすまじ。
「でも同調率は高いみたいだしいざと言う時は使いなよっと」
「ちょっ」
片腕で持ち上げられて乗せられた。
動けないことをいいことにそのまま運ばれていく。
下ろして!!
「あらあら麗ちゃん楽しそうね」
ちっとも楽しくないですよ。
お母様頭大丈夫ですか?
お目目も大丈夫ですか?
病院は・・・やってなさそうだなー・・・。
「しかしあの爆発的に向上した力。いったいどういうものなのでしょうか」
「リニャースは博士に作られたとある鉱物を用いて作られた試作機1号だからな」
話によると世界の崩壊が起きた際にとある鉱物が目の前に落ちてきたらしい。その鉱物の名前はまだ決まっていなかったがなにか不思議な魅力があったという。
そして使ってみたところリニャースという自我を持つ変身能力を得た武器が生まれた・・・とのことらしい。
意味がわからないよ。
どうして意思を持つ道具が出来たのか検討皆目つかないよ。
ほんとまだ一日もたってないのにファンタジー加速しすぎぃ。
「頭痛くなってきた」
「あら、麗ちゃん。病院いく?」
「やってたら是非行きたいものです」
もちろんやってると思いませんが。
それにしてもこれはこれで楽です。
とても快適、歩かなくていいって素晴らしい。
「国会議事堂まであとどれ位ですか?」
「あと2時間ほど歩く必要があるな」
うへぇ、以外に距離あるなー。しかも2時間といってもまるで体が動かない時間の真っ只中。
なんか本気でお荷物です。
「で、動けないところ悪いんだけど地面に置かせてもらうよ」
「ぐへぇ、ちょっと緩やかに下ろしなさいよ」
顔から落ちたじゃない。
あっ、でも口は動くようになってきた。
「すまない、また敵襲だ」
今度はなんだって言うんだろう。
なにやら慌てていたような・・・。
「お前ら、俺達になんのようだ」
無罪先生が声をかけると現れたのは5人ほどの男だった。
男達は下衆な笑みを浮かべて私たちを見ている。
どう見ても仲間とかそんなものじゃない。
こいつらは・・・。
「私たちはお忙しいのです。お帰りください」
「そんな事言わずに女は付き合ってくれよ」
「私には声をかけてくれないのですか?」
「野郎に声をかけても楽しめねぇだろうがふしゃー」
ただの変態で救いようのないおバカさん達のようだ。
それになによりこいつらは体を目当てに動いている。
まともに動けていたら引っぱたいて・・・。
「消えなさい」
バチコーン。
外でも響き渡る頬を叩く音が聞こえた・・・ってええっ
!
なにやってるの。
私がやりたかったのに。
「麗お嬢様から叩きたいってオーラを感じましたので」
「私のせいにしないでくれない」
小此木も私と似たタイプだから我慢出来なかっただろうけども。
男の1人は昏倒。頭から倒れた。
心配する必要はないけどかなり痛いと思う。
「てめぇ」
「さっさとその男を連れて帰ってください」
「はっ、こんだけの上玉味見せずして帰れるかよ」
「俺はそっちの幼女が好みかな、はあはあ」
うわぁ、ロリコンだ。
気持ち悪い。
体は少し気合で持ち上げられるくらいにはなったので立ち上がる。
いち早くロリコンから逃げなくては。
「大丈夫麗ちゃん」
「お母様、私は平気です。それよりもこの場から逃げましょう」
「その敬語やめてくれない」
いつもお母さんにいってる口調なんで急に変えられないんですごめんなさい。
「逃がすかよ」
腕を掴まれた。
くそう、力が出ない。
こんな男の腕など軽くひねれるほど鍛えていたけどまだリニャース使った時の反動が酷い。
まだ気合で立ち上がって歩くことしか出来ない。
「俺の目を見ろ」
「えっ」
いきなり視界真っ黒になる。
体もなんか急に倒れたような・・・。
「んだよ、これなんで動けねぇんだよ」
(私の声・・・なるほどそういう状況か)
どうやら私はロリコン体を乗っ取られたらしい。
大変不本意ではあるけどそれが事実らしい。
なお効果発動は至近距離で目を合わせることであると推測できそうだ。
そして体を乗っ取ることが出来る。一見強いが本人の状態異常を引き継ぐらしい。
倒れふしてるのがその証拠。
そもそもその状態でなければこんな男など蹴り飛ばしています。
ええ、これでも強いんです。
(さぁ、この先どうでる!!)
男達は散開した。
どうやら徹底抗戦がお望みらしい。
「くそぅ、やるしかねぇ」
「女の方はあまり傷をつけるなよ男と変な生物は殺してもいい」
「あーてるよ!!」
どうやら女を無傷で捕まえたいらしい。
だけどその考えは浅はかだ。
無罪と小此木、特にこの2人相手には。
「では片付けますが2人ずつでよろしいですか?」
「是非もなし」
無罪が右へ、小此木は左の2人に迫った。
特攻を仕掛けてくるなどと思わなかったのか動揺して足を止めた。
それを見た2人はこれとぞばかりに1人ずつ綺麗に気絶させた。
鮮やかな手口。
あまりにも鮮やかな手口であった。
「あと2人、早々にかたがつきそうですね」
「よくこれで生き残れたものだ」
小此木は腕をとり一気に締め上げて落とした。
無罪はボディに一撃、顎を左右に連打して昏倒させていた。
「お前らはいったい・・・」
「「人間です」」
「それくらい見ればわかってるわ」
敵がツッコミ入れる余裕があるとは驚きです。
「あとな、俺はあいつらと同じに見るなよ」
「油断はしてませんよ。ええっ、これっぽちも」
「の割には余裕じゃねぇか」
「脅威には感じてませんから」
「ふざけやがって吠えずらかくなよ」
残った二人の男が私に向かってくる。
ちょ、動けないんですけど私。
「そいつさえさらっちまえば・・・」
「させるわけがないでしょう」
一気に小此木が片方の男に接近する。
しかしこれは間違いだった。
「かかったな」
男は土を拾い上げる。
さらに小此木に向かって投げる。
この動作に小此木は軽く避けるが少し避けただけでは結果は変わらなかった。
「サンドバン(砂の爆弾)」
砂が連鎖的に爆発する。
その範囲は小さいものの音が激しいし土煙も舞っている。
多分威力は結構高いだろう。
少なくとも手榴弾のような威力があることだろう。
だがこういうものは連発はできない。
畳みかければいいものの男は息を切らしたまま何もしない。
冷却期間が少しだけ長いのかもしれない。
「まぁこの程度で小此木が死ぬなんて思わないけどね」
「まったくその通りですよお嬢様」
土煙の中から小此木が飛び出した。
その姿は服に焼き焦げた跡が付いていたものの軽い傷ですんでいた。
「くそぅ、サンドバン」
「種さえわかれば対処は出来るんですよ」
砂を投げようとした瞬間振りかぶった右手を避けるように左に曲がる。
その直後、男の顔色が変わった。
振り下ろした先の場所には何も無い。
砂がただ爆発しただけ。
次弾の装填も1度腰を降ろさなくてはならない。
「ばかなっ」
「戦闘で能力を見せつけることとは研究されるということだと知りなさい」
小此木は躊躇なく首に蹴りをいれる。
男は沈黙。
もう1人起きてる男はいるが怯えきっていて脅威にはならないだろう。
「この人は戦闘向きではない能力なのでしょうね。私たちに怯えてます」
「むしろ戦闘向きの方が少ないと思いますが?」
それは確かにと小此木が笑う。
小此木が笑う姿なんて始めてみた。
「ちくしょう、おいそこのお前」
そういえばこいつ残ってた。さっさと私の体返せ。
「はひっ」
「力を解除しろ」
「でもそんなことしたら」
「いいからはやくしろぉ」
私の声で声高々にいう。
そして急に寒気がし始めた。
体は乗っ取られたままだっていうのに気持ち悪い。
「ははっ、全滅しちまえお前らも俺らも」
「なっ、僕の能力は解除したら1時間は使えないのに」
「んなことぁしらねぇよ。こいつらをぶち殺せれば俺的には満足だァ!」
こいつっ!
早く体を返せ。
ズドン
(えっ?)
震度4で地震が起きたかの様な揺れが起きる。
圧倒的今までになかった程の絶望感。
それが目の前に降ってきた。
(なんだこいつ)
先ほどの化け物と酷似はしてる。
だけど全くの別物だ。
「グルァァァァァァァァァァアァァァォ!!!!」
咆哮で木々が暴れ、大地が震え、空が雲を覆う。
こいつは危険だ。
直感でそう理解した。
「うわぁっ!!」
「ちぃ」
能力を解いたやつと私に乗り移ってるやつが捕まった。
そしてうさぎは・・・恐怖を刻んだ。
『ぐぎゅるぅ』
「やめ」
2人の人間が一飲みにされ咀嚼される。
骨が砕かれる音、その時聞いた悲鳴。
何食わぬ顔でバケモノはおこなった。
怖い、怖い、怖い、怖い。
「・・・体が動くようになった」
意識もしっかりし始めた。
能力使った人間が死んだからだろう。
でもなぜか取り戻したはずの体が動かない。
そして私へと体を向けた。
食われる。
「麗様」
私の体が瞬間宙を浮きうさぎいた場所から離れた。
動けなかった。
こんなにも私は弱かった。
「うっ、ううう」
「泣いてる暇はありませんよ」
そんなことはわかっていた。
でも、でも。
でも現実は非情だった。
うさぎは私から目を背き一点の方向を向く。
その先にはお母様がいた。
嫌な予感がする。
動け体。
落ち着け心。
今なんとかしないと・・・。
『ぐぁぁあぁぁぉ』
いや、やめて。
その声は声に出ず。
ただ単にその結末を迎える。
うさぎは無罪の側を高速で通り過ぎお母様を捕まえる。
まさに一瞬の出来事。
「やめろ」
うさぎは口を大きく開けてお母様を連れていく。
「やめろ」
「ここは私めが」
小此木がうさぎに飛びかかる。
小此木は速い。そこら辺の運動神経のいい奴の数倍速い。だけどそれでも足りない。このバケモノ相手には・・・。
『グルォ』
「がっ!?」
反応速度を超える速度で腕を振り払われ小此木が吹き飛ぶ。
壊れたビルにぶつかりそのまま血反吐を吐く。
「小此木」
「しくじりました、前を見てくださいお嬢様」
「・・・!」
『グルァグ』
「いい加減邪魔ですよ」
無罪先生がうさぎを蹴り飛ばす。
お母様は奪い返せなかったもののもう1本の腕をけり飛びすことに成功していた。
「先生」
「そうです。先生です。さて、こいつをどう料理してあげましょうか」
人間離れしている。
さっきのだってかろうじて見えただけだったけど普通はあんな動きはできない。
不可能である。
体をひねり空中で腕を蹴り飛ばす。
そんな芸当などは。
「どうやら切れたみたいです」
『ギャオオォォオオオオォォォッ!!』
「体が・・・真っ赤に」
うさぎの体は白から真っ赤に変貌していた。
その姿はまるで悪魔に酷似しており足が震えてたまらない。
「まるで聖書のバケモノのようだ」
「そんな事言ってないではやく逃げて」
「そんなことをしたら君の母親は死ぬ。それになにもしないで殺される姿を見るなど私は嫌いだ」
「そんなこと言ってる場合じゃ」
「なぁに、少しくらい無茶しないで何が男だよって話だ。いくぜバケモノ、バケモノ同士打ち合おうか」
無罪の速度では小此木には及ばない。
でもそれを補って感覚が非常に鋭い。
だけどそれではまだ足りない。
「超再生か」
瞬く間に腕が生える。
核を潰さないと永遠に回復し続けるというのだろうか。
お母様は泣き叫んでいる。
離して、離して・・・と。
私は助けたい。
なんでこの体は動かないんだ。
「頭で動く。それが君の弱点だ九谷麗」
「えっ?」
「時には感情に任せて戦え、たとえ勝てなくても、たとえ負けることがなくても大切なものを掴みたいなら戦うんだ」
なにそれ意味がわからない。
勝てなくてもいい?
負けることがなくてもいい?
矛盾してる。
どっちも同じ言葉だよそれは!
「少しくらい頭は解れたか? 」
「えっ?」
もしかしてくだらないこと考えさせたのは恐怖を打ち勝たせる為?
そこまで計算して言ったということ。
「1人ではこいつから君のお母さんを救い出すことは出来ない。少しでも確率を上げるために手伝ってくれ」
「わかったよ、やってやる」
そういえば体が軽い。
もしかするとこれも私の体をのっとったやつのデメリットなのだろう。
あいつには悪いが非常にありがたい。
元に戻った体を動かしうさぎのバケモノの前に立つ。
「母さんを・・・返せぇ!!」
速度では敵わない。
なら人間の持ち味を活かすしかない。
能力を使用丸く円盤に盾のように。
相手は襲ってくる。
右腕を振り上げている。
あの攻撃。小此木が遠くまで吹っ飛んだところからまともにくらえば同じ運命。
それならば!
「グルァ!?」
「何を驚いてるんですか?
相手は人間ですよ」
そう、まともにくらわなければいい。
いくらこの力でもまともにくらえばどうなるかわからない。
だから受け流した。
盾を右手に取り付けるようにするとうまくくっつく事がなければ何も出来なかっただろう。
「流石は未来の大英雄」
「ちゃかすな」
「ははっ、口調が強気になってるぞ」
そうじゃないと潰れそうだからだよ。
察して。
まだうさぎの手にはお母様が握られている。
あの手が少しでも力が入るとお母様は死ぬ。
油断はできない。
「やっとこれでイーブンてところか。おい、これからどうする」
「勝算あるんじゃなかったんかい!!」
びっくりだよ。
「正直2人でも勝率1割いけばいいかなーくらいなんだ」
「1割とかないわー」
やらなきゃ死ぬけどやってもそれとか本当にやだ。
「上手くいけば撤退してくれるとは思うが・・・」
うさぎはおお振りでまた振り落としてきた。
もう1度私は受け流し弾く。
「全然その気配がない」
「その前に母さん助けないと」
「そうしたいのはやまやまなんだがそっちの方の腕のガードがきつくてね。上手くできないんだ」
うさぎは何も無い方の手でしか攻撃してきてはいない。
だからこそ攻撃が読みやすいということもあるが庇うということはあいつに取っても大切なものという事だ。
この場合食事という意味でだとは思うけどね。
逆に言えば庇っている今しか救うことができない。
「左右から行きますよ」
「あいよ」
「リニャース!!」
「あいにゃー」
今度は直接手に鉄の感触。
力が湧き上がってくる。
左足に力を入れた。
真正面に行けば潰されるのはこっち。
右に飛び距離を取る。
無罪も私の反対側に移動が終わっていた。
そして私から動き出す。
戦闘に不慣れな私が囮になるべきだからだ。
無罪は意図を理解して少し待ってから動き出した。
「お母様を返せ」
剣を大振りに攻撃するフリをする。
予想通りにガードしようと左手を使ってきた。
「スキありだ」
無罪が相手の背後に回っておりお母様のいる右手に手を添えていた。
「ぶっ飛べ」
瞬間右腕がちぎれ飛んだ。
血が出てないところを見るとこいつには血液が通ってない種類。
痛みを感じないはずのうさぎから泣いてるような咆哮が放たれる。
右手は私の方に飛んでくる。
お母様今助け・・・。
『ぐぉぉおおおぉぉぉ』
「ま・・・す」
まさに一瞬のことだった。
うさぎがこちらに飛んできて自分の右手ごと母さんを食べた。
私の頭に血が上り涙が溢れていく。
絶対に許さない。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!
「お母様ぁぁっ!!」
死体すら残らない。
弔うことも出来ない。
こんなに悲しいことは無い。
こいつだけは生かしておけない。
私は無我夢中で走り出した。
今までとは違い考えもなく走り出した。
そしてある変化に無罪が気づく。
「リニャースが変形してる」
私の手には二つの剣が握られていた。
元々は1本。今度は同じものが2本。
私にはそんなことは関係ない。
ただあいつを切るのみ。
「うぁぁぁぁぁっ!」
(ちょっと抑えるにゃ。私が持たないにゃ)
関係ない。
もっと出力を上げろ。
こいつを切り刻む力を寄越せ。
私はうさぎに今度は殺すつもりで切りかかる。
ニヤリと笑いうさぎは綺麗に避けた。
「殺気を隠せ、読まれるぞ」
「殺気・・・今は抑えられないよ」
「今だけでも抑えろ。そうじゃないと・・・なんだあれは」
うさぎの背後にさらに大きなうさぎ。
5mはあるかもしれない。
なんでここまで気づかなかったんだ。
こんな巨体見つからないはずがないのに。
巨大なうさぎは目の前にいたうさぎに手をかける。
逃げ出そうとしたものの身動きさえできてない。
その口は大きく開き今度はうさぎが丸呑みにされる。
この時私の怒りはどこかにいってしまう。
圧倒的恐怖。
怒りの矛先の消失。
なんともどうしょうもない気持ちになっていた。
「ゴァァアァァァァッ!!!」
巨大なうさぎの姿が消える。
気づかなかった理由はこれだ。
そこにいるのは今見たから感じる。
でも姿だけが見えないんだ。
気配はどんどん遠ざかっていく。
私たちは生き残った。
でも代償はとてつもなくでかい。
私は膝をおり頭を伏せた。
「なんで、なんで」
お母様が殺されなきゃならないの。
私は泣きじゃくった。
反動を受けた体の痛みなど関係なしに泣いた。
時間にして1時間。
一生分涙を流したもしれない。
「少しは落ち着いたか?」
「・・・ほんの少しは」
「それだけでも強い方だ。こんな事があれば普通の人間は立ち上がれない。ふさぎ込むだろう」
わかってる。
でもお母様は死は戻らない。
もっと私が早く動いていればお母様は死ななかったかもしれない。
だけどもうこれは過ぎたことなのだ。
お母様は今死んだのだ。
「ねぇ、これから私は何をすればいいと思う」
「さぁ、わからんさ。だがやるべき事はわかってるだろ」
「やるべき事?」
「真っ当に死ぬまで生き残ることだよ」
それは当たり前で日常的な平凡で何のひねりもない答え。
だけど胸に染み込んだ。
こんなところでふさぎ込んでるわけにはいかない。
まだまだこれからなのだから。
「ありがとうございます」
「おいおい、私にお礼なんて雨が降るのか?」
「冗談は言わないでください。これはケジメです」
お母様を助けようとしてくれたこの教師に誠意を。
今の私に出来るのはこれくらいです。
「口調がいきなり変わるとなんかキショいな」
「殺しますよ?」
「前言撤回、物騒なのと辛辣さは変わりなかったわ」
失敬です。
ではまずは小此木を助けに行きましょう。
生きてるとは思いますが負傷はしてるでしょうし。
お母様、私はあなたの分まで生きてみせます。
そして必ず・・・一死報いてやります。
あれ?
私は何しようとしてたんだっけ?
部屋も外も変わってない。
最後の記憶はたしか変な天使と話してそれから・・・覚えてない。
あとなんか変な感じがする。
頭の中がとてもスッキリしたようなそんな感覚。
とりあえずなにか試してみるとしますか。
「てい」
試しに飛んでみたところ天井まで届いてしまった。
そして軽やかに着地。
いやー、人間ってこんなに飛べるもんなんですね。
いやいやいやいや。
ちょっと凄くない。
「一体なにが・・・つぅ」
頭に、なにか、流れ込んで来る。
(頭が割れる。誰か・・・)
ずっとはこの痛みに耐えられない。
早く何とかしないと。
そこで頭は囁いてくる。
まるでいつも存在していた何かのように使い方が頭に刻まれる。
「こう・・・すればいいの?」
目の前に指で円を描く。
するとなぞった場所は切れ目が現れる。更に内側に円を小さく描く。
また切れる。
小さい方を殴ってみた。
瞬間、空間に穴が空いた。
反対側を覗いてみる。
同じように穴が空いていた。
というより空間そのものを切り取ったということ?
非常識この上ない。
「ほんとどうなって」
「お嬢様」
「なに」
「今すぐこのお屋敷からお逃げください。もうこの屋敷は持ちません」
「逃げるって何・・・から」
メイドの声は沈黙した。
それもそのはず。犬の形をした頭二つのバケモノがそこにいてメイドの頭を砕いているのだから。
メイドの服からピンク色のビンが落ちて転がってくる。
(嘘でしょ)
オルトロス。
文献によると頭が二つで鬣が1本ずつ。そして蛇の尻尾を持つらしい。
目の前の生物は確かにその姿を酷似しておりまさに本物と言っても過言じゃない。
逃げる?
逃げられない。
そんなことできる相手だとは思えない。
犬だから鼻もいいはず。
万事休すすぎる。
「ぐるるるるる」
「こんなところで死んでたまるか」
近くにあったメイドの落としたと思われるビンを拾う。
見た感じ香水の類でしょ。
犬の弱点といえば鼻。
これをぶっかけてやれば!
「ぎゃうん」
一時的でも動きを止めることはできる。
そして・・・こればっかりは行き当たりばったりだ。
いや、できるはずなんだ!!
「形を、形を想像して書く」
私が知る限り一番武器っぽいもの。
剣・・・そう剣だ。
できる限り繊細に、早く作り出すんだ。
躊躇している時間ももったいない。
指先で剣に似た形を作る。
そして光の線が浮かび上がる。
描いたとおりの形。
これをどう扱うか。
(お前は知っているはずだ)
そうわかる。
(使い方も分かっているはずだ)
それも知ってる。
(ならそれを実行しろ。お前の力を示せ)
言われなくても!
ガキン。
出来た剣先を軽く押して外し反対方向を掴んだ。
柄の部分はまるで本物みたいに形作らている。
イメージしながら作ったけどそれで正解だったということ。
スッ。
オルトロスがこちらを向く。
もう回復したのか。
切れ味は試してないからかなり不安が残る。
「がるぅ」
オルトロスがこちらに飛びかかる。だけども的が外れて横を通り過ぎた。
こちらに向かってきたのだから私の存在には気づいている。わざと外すとは獣であるオルトロスには考えられない。
考えられる可能性は・・・。
「視力・・・もしくは聴覚ってことかな」
そして鼻が異常に発達して耳と目が退化してるのならさっきのことも納得が行く。
耳で先ほどの剣を作った音を聞き取り目で確認して襲った。
しかし正確な情報を認識出来ないのか直撃コースをとれなかったんだ。
(鼻を封じて正解だった)
もし封じてなければあの速度に手も足も出なかったかもしれない。
でもなぜか動きが見えた。
能力といい身体能力といいなにがおきてるのだろうか。
わからないけど今はこの戦いに集中だ。
私は剣を構えた。
空間をくり抜き作り出した剣。
剣術はそこまで習ってないので不安がつのる。
真面目にやっとけばよかったなんて今更しても遅いけどね。
(行くよバケモノ)
今度は下半身に力を入れる。
そして一気に走り出すとすんなりとオルトロスの前までたどり着いた。
本当に一瞬だ。
詰められない距離だと思っていたのに5m近くを0に縮めた。
咄嗟に剣を横薙ぎにしてオルトロスの真横を通過する。
完全に切ったはずなのに重みも感覚もない。
気になって後ろを向くとやつはピンピンしていた。
オルトロスは私に襲いかかろうとする。
その時、オルトロスの体が上半分になって飛んできた。
慌ててしゃがむ。
グロテスクな光景がちらっと見えたけどそこは些細な問題です。
「い、生き残った・・・」
へたへたと床にお尻をつけてしまう。
足までガクガクしてる。
また目の前の人間の死体を見て夢なら覚めてほしいと思った。
あと、気がかりなのはお父様たちの安否。
あのバケモノが1匹であった保証はない。
でもその前に・・・。
「うえ、ちょっと臭いしヌメってる」
服はオルトロスの体液で濡れきっている。
着替えてからのほうが良さそう。
両親に会うのにこれはあんまりだ。
持っていた剣を投げ捨てクローゼットへ向う。
「クローゼットは・・・無事ですか」
さっと着替える。
学園に行くための私服。この時間に切ることになるとは思わなかった。
時間も思ったよりもないかもしれない。
慎重になおかつ早く動かないと。
それと香水の代わりも持ってかないと。
さっき作った剣は・・・は消えてるみたいだ。
とりあえず探してみる。
「これとか使えそうですね」
手に取ったのは痴漢撃退用の唐辛子スプレー。
香水よりこれなら効くと思う。
スカートのポケットの中にしまい込んでゆっくりとひらかれている扉の先へと向かった。
静かだ。だいぶ静か。
まるで誰1人もいないみたいに静かです。
ゾンビ映画みたいな状況になってるような気がしてならない。
(これはこれで怖いものがありますね)
あまり足音をたてないで進んでいく。
こういう時家が広いというのは少しいやだね。
この時間はお父様たちも寝室にいるはずなのでそちらの方に向かう。
こちらに向かってくる音もない。
多少安心して歩いていくとお父様たちの寝室に辿り着いた。
(無事でいるでしょうか)
カチャリ。
開けてみたらそこは悲惨な光景が広がっていた。
思わずもう一度閉めてしまった。
今お父様の服を着た誰かが血まみれで倒れていた。
それが脳裏で再生される。
吐き気がした。
メイドの時の比じゃない。
深く深く吐き気がした。
この時間、この場所にはお父様と、お母様しかいなかったはず。
あの姿は強盗にやられたのではなく犬型の化物に食われたかのような傷だった。
つまりあの犬はここに現れたんだ。
深夜、唐突に。
「でもお母様の姿はなかった・・・何処に行ったの」
ヨロヨロと動き初めて数分・・・ガタガタッと玄関近くの部屋から聞こえた。
もしかしてお母様?
壁によりながら慎重に音のした部屋へ寄っていく。
一応何が起きてといいように剣をもう一度作っておく。
覚悟を決めてすっと部屋を覗いて見た。
「ブヒッ、ブヒィ」
「ブヒブヒ」
二足歩行で立っている全裸で緑の豚が三匹。
そして奥の方に腰を降ってる同じ豚に・・・お母様?
私は確認すべく豚の群れに飛び込んだ。
瞬間私は足に力を入れて豚に急接近。
横に剣を薙ぐ。
切れ味抜群のその剣は豚を横に真っ二つにする。
豚の中身はグロテスクで見てられない。
「次」
女性に覆いかぶさっていた豚がこちらを向く。
なるほど、こちらの方が知性がありそうだ。
群れのリーダーなのだろう。
それにしたって運動神経が跳ね上がっている。
動体視力だって振り落とされる拳がスローモーションに見える。
「遅い」
ヒュォン。
首を直接狙って切りつけた。綺麗に切断されそのまま豚は倒れさる。
先ほどの犬と比べると遅いくらいであっという間に全滅させることが出来たけど・・・。
「お母様」
結論からいうと奥にいた女性はお母様であった。
服は千切られ白い液体で汚されている。
子供の私でさえ何が起きたのか明白な現場だった。
母の目はもう死んでいた。
この世の終わりを見てるかのように放心していた。
「くそっ」
犬がいる時点で他にもいると思ったけどこんな奴らがいたなんて。
お母様は生きてなかった方がマシという屈辱を受けていたなんて。
「・・・でもあなたが生きていてくれてありがたいわ。まだ生きる希望があるもの」
「お母様」
「ところで私の夫は?」
私は口を噤む。
話せるわけがない。
ここに来るまでに見た男の遺体。
あれがお父様である可能性は高い。
それをこの状態のお母様に言うのは酷だと思う。
だから言わない。
まだ隠し通すべきだ。
だから・・・私は。
「わからないです」
こう答えた。
これが1番お母様を安心させる言葉だと思ったから。
「それにしても・・・あなたすごい力を持ってるのね」
「私が持ったんだからお母様も持っているのでは?」
「・・・戦える力ではないみたいなの」
聞いてみると確かに。
しかしよりにもよって能力が『魅了体質』とかいうものだったなんて。
だから殺されるわけではなく体を弄ばれていた。
彼らにとっては魅力のある異性に見えたから。
死という事態は免れたものの。
さすがに酷というものではないかと私は思う。
「ところで、麗。どうしてあなたはそんな冷静なの?」
ラフィエルとかいう不思議な生き物にあったからだろうか。
それとも神父の話を聞いていたからだろうか。
それともさっき命を奪い、父の亡骸を見てしまったからか。
でもそれで守れるならいいと思っていた。
私とお母様はまずはお風呂場に向かう。
設備は壊れておらずお湯もしっかりと出た為お母様にはお風呂に入ってもらった。
それにしても変革が本当に起きるとは思わなかった。
事実は小説より奇なりってね。
私はお風呂場の外で見張りをしながら今後のことを考えることにした。
先ほどの戦いでわかったことは血などは物体として残るが骨や肉は塵になってしまうこと。
これは、お母様を介抱してる時に起きていた。
多分崩壊するまでの時間はさほどかからないんだと思う。
「外の世界はどうなってるんだろ」
まず次に心配なのは春雨きなこの安否だ。
神父は何だかんだしぶとい感じがするしほっといて平気でしょう。
後は水や食料の確保。
外の世界の情報も必要だと考えられるかな。
「それにしても・・・なんか不自然に身体能力は上がってるはずなのにこの違和感はいったい・・・」
「お答えしよう」
「うわっ・・・てあの時のクソ天使」
「うっわヒド、このチャーミングな僕になんて失礼な」
昨日の夜中お風呂に現れた天使が今目の前にいた。
握り潰したい。
「まぁいいか。ごほん、神の分身たる僕が応えよう」
「目の前から消えろエロ天使。握りつぶしますよ」
「ちよっとぉ、話くらいきいてぇ」
ちぃ、仕方ありませんね。
「手短に話して」
「見た目によらずせっかちなんだね。まぁいいけど」
ゴホンと咳き込んでラフィエルは語り出す。
神の世界で起きたこと、そしてこの世界に何があったのかを。
聞くだけでも荒唐無稽な話。
でもそれ以外にこの変化は考えられない。
能力や身体能力も上がったのもそのせいだそうで・・・。
「大体はこんなところだね。そして君の力なんだけど僕がわかる限りのことは答えるよ。能力はデメリットが存在してるのはわかるでしょ」
「ええ、痛いほどに」
お母様があんな風にされたのも能力によるデメリットによるところ。
あの能力の時点でデメリット満載だけど。
「そのデメリットは「魅了」なら他種族に常と言っていいほど体を狙われること。なら破格の君が使う能力はどんなデメリットがあると思う?」
私の能力は戦闘向き。
さらに加えては自分の想像通りに次元を切り取っている。
あまり変化はないのでデメリットなんてものを考えなかった。
「答えは時間が経てばわかるとは思う。あとは能力には全て制限があるんだ」
「制限・・・」
私の能力の制限には心当たりがあった。
制限はきっと『自分で触られる範囲のみ』『作ったものは離したら消える』『あとは切り取った分だけ疲れる』
と言ったところじゃないかと思う。
「まぁ、だいたい能力については理解出来たみたいだね。それじゃこの世界がどうしてこうなったのかという本質的な話をしよう」
やっと本題に入れるといった感じの声色。
私だって前置きが多いなとは思ったけどさ。
「結論から言おう。この世界は完全に別のものに変化した」
な、なんだってー。
と、とりあえずのってみた。
「先ほどのバケモノたちはその変化の果てにあったもの。世界とともに瘴気に蝕まれ進化した姿なんだ」
だからこの世界にいるはずもない異形の姿をした生物が存在してたのか。
あの豚しかりあの犬しかり。
しかも人間を襲う性質もありそうだった。
「瘴気は世界に蔓延した。嫌でもこの世界は戦乱の世に変わる。人間と化け物たちとの戦争。もう人間同士では争うことは無駄に等しい。それが今の世の中さ」
至るところにこんな生物がいる。
それは笑えない。
安全な場所なんてどこにもないと宣言されたのも同じだ。
「さて、話し終えたし僕はお暇するよ。もうすぐ力が消えて消滅するしね」
「あなたのその姿も能力だったわけ」
「まぁね♪」
笑って言ってるけど相当強力な力だ。
敵でなくてよかったと思ってる。
やがて、本当に力尽きたのか天使の姿が消える。
言いたいこと言われてだけだけどなんとなくやることはわかってきた。
「この世界で生きていく方法を探さないと行けないとかどこのゲームなんだか」
でもそこら辺の平凡な日常よりは面白い・・・か。
レールが決まっているデキレースよりは多少はね。
さてと、そろそろお母様が出る頃だけど・・・着替え持ってきてなかった。
まさか呼べば出てくるなんてことはないと思うけど。
「メイド長」
「はっ」
呼ばれてでてきたよ。
そしてピンピンしてるよ。
「はぁ、死んでも死なない人だとは思ったけど」
「お褒めいただきありがたき幸せ」
褒めてないわい。
どれだけポジティブなんだか。
「ところでお母様のおめしものは?」
「ここに」
サッと取り出したるはお母様が日常的に使われているお洋服。
ほんとこのメイド怖いわー。
「それにしても私が生きていて旦那様がいないのには疑問がないのですか?」
「別にない。お父様はお母様を守れって言ったんでしょ」
「その話は・・・奥様、着替え置いときますので着替え終わるまで外におりますね」
いつの間にかお母様に服を渡して私を呼びつける。
「その通りでございます。よくおわかりで」
それでもお母様があんな目にあってしまったようだけど。
「まさか武器を取りに行ってる間にそのような事になるとは思いませんでしたが」
「武器?」
「そうです。使い慣れて武器がないと戦いも不安でして」
そう言いながら左右の太もも付近をメイド長は捲りあげる。
太ももが眩し!!
ではなくとあるナイフのホルスターが取り付けられていた。
「コンバットナイフなんてよくこの家にありましたね」
「非常事態用に倉庫に隠しておりましたので」
一体どんな非常事態を想定していたのか気になるところ。
聞いたらとんでもない事になりそうだけど。
「小此木さん、着替えて終わったわ。こんなものでどうかしら」
「お似合いです」
戦うという格好ではないけどあんな格好でいるよりは大分マシなはず。
それとこれからの事を相談しなくちゃいけないと思う。
「あっ、お嬢様もメイド長とは呼びにくいでしょう。小此木とお呼びください」
5年以上一緒にいてその話が出たのがこのタイミンク・・・とても今更だよぉ。
呼びにくいのは同意するので小此木と今後呼びますが。
「では小此木。外はどうなってると思いますか?」
「なんとなく想像は出来ています。もし探索するのならば奥様方の安全は保証できませんね」
考えていることは同じらしい。
外の世界の危険。
だけどこうして侵入されて私たちしかいないような状況。
食料の備蓄も夏場なのだからすぐ腐って食べられなくなる。
電気もそのうち通らなくなると思われるし。
そうなると行動で表すしかない。
「小此木さん、今更気にしないで。それにここにいても危険なら前に進まないとダメじゃないの」
「その通りですね。頭が固くなりすぎてました。お嬢様は・・・」
「自分の身は自分で多分守れるから」
「・・・その言葉を信じて奥様の方に尽力させてもらいます」
これでいい。
私ならばお母様より自分を守れるはずだから。
家で簡単な携帯食料と服と下着2日分を準備。
洗える場面があるか分からないけど何日も同じ格好は女子として嫌だ。
「思ったより軽装ですね」
「無駄なものを省いただけよ」
「それに比べて奥様・・・旅行に行くつもりですか」
「いいじゃない、必要なものよ」
結構大きなキャリーケースをお母様は持ってきていた。
身だしなみに気を使ってるお母様だからってことはある。
中身を確認してみる。
身の回りの電化製品ばかり。ドライヤーとか使えるかわからない。
電池式なら使えるかもだけどこれはコンセント式だ。
こうして要らないものを放り投げた。
「麗ちゃんたちの鬼!」
「踏み砕かないだけでも良心的だと思うけど?」
「それはそれ、これはこれ」
お母様は意外にわがままだったようなので優しく諭しました。
ええ、2人がかりで微笑みながら威圧するような気配で。
「脅しには屈しません」
強情すぎる。
これは流石に仕方が無いかな。
良心的態度は止めにしよう。
「小此木」
「了解しました」
「「せいっ!!」」
「ノォォォォー」
お母様の前で全部踏み砕く。
いくら鬼と言われようとも無駄なものを持って行って生存率が下がるのはご遠慮願いたいのです。
「うう・・・麗ちゃんは私のことが嫌いなのですか?」
「いえ、好きですよ」
「ならどうしてこんなことを」
「それはお母様も言っていたじゃないですか」
一呼吸おいて一言。
「それはそれ、これはこれ」
「うぐぅ」
お母様がぐうの音も出なくなったところで荷物を再確認。
最低限は揃ったとこれで思う。
あと足りないものは調達できるのなら調達する道の方がいい。
荷物になるから。
「それで麗お嬢様はまずはどこに向かいますか?」
「国会議事堂がベストだと思う。あと私も麗と呼ぶ様に」
「はい、麗様」
絶対分かってそう言ってる。
性格悪い。
「麗ちゃん。国会議事堂の理由を教えてくれない」
「まず一つに日本で安全が一番約束されている場所だからです」
「安全が一番約束?」
「その理由は簡単です。偉い方々がそこに避難している可能性があるからですよ」
国会議事堂の人々らは自分の身を守ろうと一般人は外に追いやろうとするだろう。
だけどその中は一番の安全地帯。
食料なども当然備蓄があるはず。
拠点にするには十分すぎる程だ。
「そしてそのうち民衆も受け入れ始めるでしょう。優秀な能力を持つ者とその家族の受け入れを」
そうそれが行く理由だ。
これだけの事が起きた時点で戦力となる人間がどれだけいるか。
お母様のように外れの能力を持つ方も絶対にいる。
そして逆に私のように規格外も確かに存在する。
それを踏まえると受け入れは間違いなく行われる。
「奥様、私たちはきっと全員で入ることができます」
「そんなのわからないじゃない」
「お母様、私たちにはバケモノを討伐した実績があります。それを踏まえるとほっとけないと思いますよ」
「・・・私より麗ちゃんの方が大人みたいね」
それはきっと気のせい。
年齢からしても私は小学生6年生くらいですよ。
「では、不肖小此木が先陣をきりましょう」
玄関までゆっくりと進む。
広い空間なのでまだまだだけども着実に進んで言ってる。
そのまま無事に玄関まで辿り着き扉に手をかける。
小此木が開けますというジェスチャーをするとゆっくりと開いた。
その先には何が見えたかというと悲惨な状況であった。
柵がほとんど壊されているけどまだ阻むことは出来そうではあったのだが。
「助けてぇ、いやぁ」
「みんな逃げろぉ!!」
「ロリはいないかねー」
なんか1人変なのが混じってる。
というか見たことある気がするんだけど。
「無罪 迅・・・」
「おっ、そこにおわすは将来約束した九谷さんじゃありませんか」
「紛らわしい言い方はやめて!!」
半ば本気で言ってる可能性もいなめないけど。
その無罪先生はものすごいジャンプで私の家の柵を超えてきた。
大した身体能力だ(人のことは棚上げ)。
「あら、いい男」
そこのお母様なぜ頬を赤らめてるのですか?
「初めまして、このような状況で申し訳ありもせんが挨拶させていただきます。無罪 迅といいます」
「あらご丁寧にどうも、九谷の母です」
なぜ手を握りあって赤くなってるんですか。
アイドルに憧れるミーハーな表情に見えるよ。
「それで九谷 麗君、現状はどう思うかな」
「なんで私なのですか?」
「一番現状を理解してそうだからかな」
なるほど。
私がそこまでわかってるように見えたということか。
誰も彼も私のことを買い被り過ぎです。
まぁ、ここでは期待に応えましょう。
「現状は最悪としか言えないです」
ほう、と無罪は話を聞く体勢になった。
「何が起きてるのかここまで何もわからずバケモノは蔓延る。行くべき場所は決まっていてもそのルートの保証はない。これだけでも絶望的です」
「なるほどたしかにその通りだ。して何が最悪なのか」
そうだ。
そこなのだ。
「人間のパニック現象ですよ」
バケモノよりタチが悪いのは知性のある人間の方。
バケモノより、より厄介でこと異常事態なら何をするかわからない。
「なるほどなるほど確かにそれが一番危惧されるか。実際今もパニックが起きてるしな」
無罪がたしかに危険だと頷ずいた。
私だってこの光景を見てたじろいている。
人間はここまで正気を失えるのだ。
「分かりました。現状で状況を把握しているあなたたちについて行きます。それに未来の英雄もいるようですし」
無罪がこちらを向いてウィンク。
かいかぶりです。
そしてキモイですあっちいってください。
よるなしっし。
「どうやら娘さんには嫌われてるようです」
「そんなことは無いわよね?」
「そうですよ。気持ち悪いとは思ってますが」
「お子様がこんなこと仰ってますが!!」
「私の子供が間違ってるわけないじゃない」
「まさかの親ばかっ!」
うん、わかってた。
だって私の親だもの。
溺愛されてるのも知ってたし見た目イケメンとはいえ初めてあうやつに心を開くはずもない。
惜しむらくはなぜ抱きつくのかな?
「ぐぁあああ」
「おっと話しすぎましたかね」
無罪は手袋をはめる。
その直後、頭は一つだが先ほどのオルトロスのような犬が襲いかかろうとしていた。
速度は少し遅い。
個体差もありそうですね。
無罪が犬の方に向く。
「神に祈りを捧げよ」
胸を中心に十字に切る。
そして無罪が地面を蹴るとひび割れる。
えっ・・・
ひび割れたの?
「うそぉ」
勝手におちゃらけキャラだからもっと弱いかと思ってたよ。
そこは本当にごめんなさい。
「ぎゃうん」
犬はショックで動きが止まる。
止まった位置は無罪の目の前。全てが計算し尽くされてるかのように止まっていた。
「信仰無きものに魂の鉄槌を」
無罪が手を思い切り開くといきなり銃が現れた。
良く見えてなかったけど大体は把握出来た。
まず無罪の手が開かれた瞬間、ロボットのように腕全体が開くと銃が。
そこから射出されるように手元まで銃がやってくる。
あとは全部が元通りになって手に銃が急に現れたと思ってしまうわけだ。
この間が、1分もないしね
「さようなら」
簡易的な銃声がなった。
そこまで耳に音は来ないが威力は申し分なし。
犬の顔が跡形もなく爆発した。
「ていうか爆発した」
「爆裂弾、聞いたことはないかな」
「聞いたことあるとしてもそれは小説の中だけだよ」
はぁ・・・と溜息をつく。
さっきの変形もかなり非常識だが弾も非常識だ。
作り方はわからないけど超未来テクノロジーであることは間違いない。
非常識もここまで行くとアッパレです。
ふむ、人体改造頼んでおいて良かったなとか聞こえた気がしたけど無視で。
それでなにか変わるはずもないし・・・。
「それで、これは強行突破するのかい?」
「言わなくてもわかるでしょ?」
「道理だな。九谷君、母君を守ってやれ」
言われずとも守り抜きます。もちろん出来るだけですけど。
出来ることと出来ないことくらいはわきまえてる。
問題は・・・あの2人にあった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
「1匹2匹3匹4匹5匹6匹」
2人して怖すぎた。
何あれ無双状態じゃん完璧に。
能力も使わずにそこら辺にいるバケモノ達を倒していく。
私いらないわこれ。
「お二人共強いのね」
そういう問題ですかお母様。
「なにもやらなくていいのは素晴らしいんですけどね」
ガサガサ。
「なにか音がしますね」
ガサガサガサガサ。
「そういえば後ろでなにか動いてるようなきが・・・」
ガサガサガサガサガサガサ!
「うるさい」
振り向いてみるとそこには捨て猫です。拾ってくださいという文字とともに黒くて目がバッチリでちっちゃくて何より愛くるしい体を持った猫がそこにいた。
・・・意味わからないよ!!
「なんでこんな所にこんな変な生物が」
「変な生物じゃないにゃー」
喋った!!
「にゃーの前はリ・ニャースにゃ」
「名前的にアウト!!」
某ポ〇〇ンみたいな名前になってるよ。
著作権的に大丈夫この猫。
「消すか」
「この子想像よりずっと物騒にゃ」
「こんな歩く著作権侵害に慈悲はない」
「仮にも捨て猫になんて酷い仕打ち。悪魔にゃー」
喋る猫を捨て猫なんて言わせない。
それと悪魔って言うならあなたの方だから世間体的に。
「あっ、リーじゃないか」
「御主人様ァ」
無罪が掃討して戻ってくると猫が抱きつこうとするが。
べチッ。
叩き落とされた。
「何するにゃ御主人」
「お前みたいな歩く著作権侵害に慈悲はない」
「この子と同じこと言ってませんか」
「同じ見解なのは喜ばしいことだ」
私としては超不本意です。
「それでこれはなんなんです?」
「ふむ、それもある博士の発明品とでも言っておくよ」
これも発明品・・・まるで生き物みたいなんだけど。
どれだけのテクノロジーがその博士には操れるのか興味を持たずにはいられないが・・・。
「せっかく情報持ってきたのにその仕打ちかにゃ」
「情報ね・・・くだらないのだったら本当に滅するけどいい?」
「御主人様、この子止めてにゃ」
「やってしまえ」
「御主人ひどいにゃー」
とりあえず話をしたいらしいけどまずは歩きながらということになった。
こんな場所に留まっていてはまた狙われるかもしれないから。
「というか本当に酷いことになってる」
見る景色見る景色壊れてる家や道路。そして徘徊するバケモノ。
襲われる人間。
応戦する人間。
世紀末な格好してるやつ。
中二病患って前線に出てるやつ。
「仕方ないにゃ。この世界は終わったのだからにゃ」
「リー、その語尾はやめてくれ。さて何から話そうか」
後ろからアイデンティティを取らないでにゃとか言ってたけど私もそれ以上言うならマジで滅するわ。
うざいもん。
「本当に猫には辛いに・・・なんでもありません。キャラ作ってすみませんでした」
睨みつけたら語尾がなくなり人間っぽい口調になった。
これでイラつかなくてすみそうです。
「まず第一に私のところに一週間前、天使の幻影が現れた」
いきなりアクロバットなところ攻めてきた。
「天使ってあの天使ですか?」
そして表情も変えないで質問を返す小此木にもビックリです。
そこに憧れはしませんけどね。
「まぁどう見ても羽の生えた幼女だったんだが」
「コスプレ幼女とはなんとマニアックな」
「なんか誤解されてるようだが」
知らんですよ。
さっさと話を進めなさい。
「その幼女がいきなり言ったんだ「7月7日に世界が変革する。準備されたし。そして九谷の者を探せ、力になるだろう」ってね」
幼女って割には口調が大人びてる感じですね。
どうしてそんな幼女がこんな神父に?
まさか・・・援助。
「引くわー」
「君が何を思ってるかわからないけどそれだけは誤解だっ!!」
まっ、わかってましたけどね。
それにしてもその幼女はなぜ九谷の者を探せなんてことを?
世界中にごまんといそうな苗字なのに。
なぜピンポイントで私にこの男は来たのかもわからない。
「それでそれで終わり?」
「あぁ、その子はすぐ消えてしまったからね」
本当に肝心なところがわからない。
はぁ・・・話が進まないなぁ。
「そんにゃ事よりも囲まれてる」
「それくらいなら許して上げる。で、その相手はどこにいるのかな?」
「はっ?」
いつの間にか私は周りを客観的に見ていた。
気がついたら全てが終わっていた。
たったそれだけの事だった。
「ふむ、とくに戦闘なれはしてないみたいだね」
「この程度の相手、私たちの相手ではありません」
正しくバーサーカー。
いえ、狂戦士もビックリな戦いっぷりです。
「そう言えばこいつら死んだそばから灰になってないか」
確認していなかったけど確かにそうだった。
倒したバケモノたちは数分後には塵となり骨も肉も全てが消え去った。
「どうやら彼らからは資源を調達できそうにありませんね」
「流石に灰を食べるわけにもいきませんしね」
「ふーん。まぁいいか」
「なんでそんなに落ち着いてるの麗ちゃん」
なんでってそれは想定の範囲内だからかな?
だってその可能性はあると考えていたし資源が調達出来ないからこそ国会議事堂に向かうことにしたのだから。
「お母様は慌てすぎです。そこら辺の雑魚なら私でも薙ぎ払えます」
「随分な自信・・・麗ちゃんが羨ましいわ」
今の敵にも言えることだが全体的に速度が遅い。
あの頭二つの犬が速かっただけかもしれないけどそれに比べたら単なるじゃれあい程度のように思えた。
(チュートリアルがハードモードとかホントふざけてますよね)
そんなこと今更言っても仕方ないけどね。
「大きい獲物を狩っても収穫がないとなるとむやみに狩るのは面倒ですね」
どれだけの犠牲を払っても肉の一つも得られない。
それならいっそ隠れるべきなのは同意する。
「そういえばリー。携帯変化は可能なのかい」
「できるっちゃぁできるけど触媒になれる奴がいないと思う」
「そこの幼女なら触媒になれるだろ」
後で神父は一発殴る。
絶対にだ。
「いやですよ。こんなブス」
「死にたいようですね」
ガシィッ。
全力で顔をわしずかみにする。
このまま握り潰したい。
「やめろォ!!」
「やめる理由はない」
「リー、そのまま変化しろ」
「マジか御主人」
いいからやれと急かされリ・ニャースがはるか上空に飛んだ。
「何をする気?」
「見ていればわかる」
「・・・猫ちゃんがんば」
「そうですね。おやつにチーズを用意しましょう」
1人だけ食いしん坊の母親がいるんですけど。
そして降りてきたと思ったらなにか地面に刺さる。
これは・・・漆黒の刀。
怪しく光って吸い込まれそうな不思議な魅力に溢れている。
「ちょうど敵もいるし同調を確かめるべきだろうね」
そしてまたハードなチュートリアルが始まった。
同調率を試すってどうやるのかわからないんですけどぉ。
「考えるな感じろ」
「余計にわからないわぁっ!!」
根性論でなんとか出来るとか思わないんですけど。
すると剣の声。リニャースの声が頭に響いてきた。
(とりあえず動いてみる、それでわかるはず)
(動くだけでいいのね)
(それが1番同調率を確かめやすい手段・・・って言うか語尾に「にゃ」をつけないと喋りにくい)
(仕方ないからにゃをつけなさい)
(助かったにゃ、博士ににゃをつけないと猫じゃないとか言われて言語機能に追加したんだにゃ)
ということはそれなりに無理してたわけか。
結構強制的に言っていたという事かな?
まぁいいか。
とにかく今は目の前の敵を優先的に叩くよ。
目標はまだ視認出来ない。
かなり遠くにいるようだし警戒してるようだ。
なら好奇と言うべきでしょう。
(今から動くよ)
(了解だにゃ。飛びすぎないように注意するにゃ)
「へっ?」
軽く一歩で相手に接適した。
飛びすぎなんてものじゃない。
人間の身体能力の限界を超えている動きだ。
「やはり私の見立てに間違いはなかった」
「言ってる場合かっ!!」
待って、何m離れてると思ってる。
少なくとも100mは離れてる。それをことなげもなく聞き取れるとか聴覚まで・・・いや身体能力全般が上がっていそうだ。
(敵、攻撃してくるにゃ)
「ちっ」
攻撃してきたのは亀みたいな甲羅を持ち兎のような手足と頭を持っている人間程の大きさのバケモノ。
一言で言えば気持ち悪い。
その兎モドキは蹴りを入れてきていた。
そう蹴り。なんでラ〇ダーキックなんかしてんの。
その前に動体視力も良くなってるんかい。
「せい」
「ぎゅおおおおお」
「ふう、まずは1匹」
ザシュザシュ。
軽快に敵が切れる。
「2匹、3匹」
まるで剣に操られてるかのように倒していく。
ここまで動けるなんて思わなかった。
「4、5匹・・・ラスト」
「おお、同調率はかなり高いようだね」
まるで別人になったようだ。なんてね。
(お疲れだにゃ)
(そうだね疲れた気がしないけど)
(戻ったら解除するけどかなり疲労してるから頑張ってにゃ)
みんなの元に戻ったところでリニャースが元の姿に戻る・・・えっ。
身体中の力が一気に抜けて顔面から倒れ落ちた。
「なにこれ体が動かないんだけど・・・」
「仕方ない。それが反動なのだから」
反動って・・・これじゃ何一つ身動き取れないんですけど。
とある魔法使いが爆裂魔法うったあとみたいなんですけどぉ。
しかも動けないだけで身体中全体も痙攣してる。
筋肉痛と似た症状・・・というかそのものか。
「これはまた派手に反動が出たもんだ」
「知ってて使わせたのっ!?」
酷い、鬼畜ぅ。
いつか復讐してやる。
絶対にだ。
「あと、初期発動だから半日は動けないし筋肉痛は続くから」
「マジなんでそんなの使わせた」
本当にゆるすまじ。
「でも同調率は高いみたいだしいざと言う時は使いなよっと」
「ちょっ」
片腕で持ち上げられて乗せられた。
動けないことをいいことにそのまま運ばれていく。
下ろして!!
「あらあら麗ちゃん楽しそうね」
ちっとも楽しくないですよ。
お母様頭大丈夫ですか?
お目目も大丈夫ですか?
病院は・・・やってなさそうだなー・・・。
「しかしあの爆発的に向上した力。いったいどういうものなのでしょうか」
「リニャースは博士に作られたとある鉱物を用いて作られた試作機1号だからな」
話によると世界の崩壊が起きた際にとある鉱物が目の前に落ちてきたらしい。その鉱物の名前はまだ決まっていなかったがなにか不思議な魅力があったという。
そして使ってみたところリニャースという自我を持つ変身能力を得た武器が生まれた・・・とのことらしい。
意味がわからないよ。
どうして意思を持つ道具が出来たのか検討皆目つかないよ。
ほんとまだ一日もたってないのにファンタジー加速しすぎぃ。
「頭痛くなってきた」
「あら、麗ちゃん。病院いく?」
「やってたら是非行きたいものです」
もちろんやってると思いませんが。
それにしてもこれはこれで楽です。
とても快適、歩かなくていいって素晴らしい。
「国会議事堂まであとどれ位ですか?」
「あと2時間ほど歩く必要があるな」
うへぇ、以外に距離あるなー。しかも2時間といってもまるで体が動かない時間の真っ只中。
なんか本気でお荷物です。
「で、動けないところ悪いんだけど地面に置かせてもらうよ」
「ぐへぇ、ちょっと緩やかに下ろしなさいよ」
顔から落ちたじゃない。
あっ、でも口は動くようになってきた。
「すまない、また敵襲だ」
今度はなんだって言うんだろう。
なにやら慌てていたような・・・。
「お前ら、俺達になんのようだ」
無罪先生が声をかけると現れたのは5人ほどの男だった。
男達は下衆な笑みを浮かべて私たちを見ている。
どう見ても仲間とかそんなものじゃない。
こいつらは・・・。
「私たちはお忙しいのです。お帰りください」
「そんな事言わずに女は付き合ってくれよ」
「私には声をかけてくれないのですか?」
「野郎に声をかけても楽しめねぇだろうがふしゃー」
ただの変態で救いようのないおバカさん達のようだ。
それになによりこいつらは体を目当てに動いている。
まともに動けていたら引っぱたいて・・・。
「消えなさい」
バチコーン。
外でも響き渡る頬を叩く音が聞こえた・・・ってええっ
!
なにやってるの。
私がやりたかったのに。
「麗お嬢様から叩きたいってオーラを感じましたので」
「私のせいにしないでくれない」
小此木も私と似たタイプだから我慢出来なかっただろうけども。
男の1人は昏倒。頭から倒れた。
心配する必要はないけどかなり痛いと思う。
「てめぇ」
「さっさとその男を連れて帰ってください」
「はっ、こんだけの上玉味見せずして帰れるかよ」
「俺はそっちの幼女が好みかな、はあはあ」
うわぁ、ロリコンだ。
気持ち悪い。
体は少し気合で持ち上げられるくらいにはなったので立ち上がる。
いち早くロリコンから逃げなくては。
「大丈夫麗ちゃん」
「お母様、私は平気です。それよりもこの場から逃げましょう」
「その敬語やめてくれない」
いつもお母さんにいってる口調なんで急に変えられないんですごめんなさい。
「逃がすかよ」
腕を掴まれた。
くそう、力が出ない。
こんな男の腕など軽くひねれるほど鍛えていたけどまだリニャース使った時の反動が酷い。
まだ気合で立ち上がって歩くことしか出来ない。
「俺の目を見ろ」
「えっ」
いきなり視界真っ黒になる。
体もなんか急に倒れたような・・・。
「んだよ、これなんで動けねぇんだよ」
(私の声・・・なるほどそういう状況か)
どうやら私はロリコン体を乗っ取られたらしい。
大変不本意ではあるけどそれが事実らしい。
なお効果発動は至近距離で目を合わせることであると推測できそうだ。
そして体を乗っ取ることが出来る。一見強いが本人の状態異常を引き継ぐらしい。
倒れふしてるのがその証拠。
そもそもその状態でなければこんな男など蹴り飛ばしています。
ええ、これでも強いんです。
(さぁ、この先どうでる!!)
男達は散開した。
どうやら徹底抗戦がお望みらしい。
「くそぅ、やるしかねぇ」
「女の方はあまり傷をつけるなよ男と変な生物は殺してもいい」
「あーてるよ!!」
どうやら女を無傷で捕まえたいらしい。
だけどその考えは浅はかだ。
無罪と小此木、特にこの2人相手には。
「では片付けますが2人ずつでよろしいですか?」
「是非もなし」
無罪が右へ、小此木は左の2人に迫った。
特攻を仕掛けてくるなどと思わなかったのか動揺して足を止めた。
それを見た2人はこれとぞばかりに1人ずつ綺麗に気絶させた。
鮮やかな手口。
あまりにも鮮やかな手口であった。
「あと2人、早々にかたがつきそうですね」
「よくこれで生き残れたものだ」
小此木は腕をとり一気に締め上げて落とした。
無罪はボディに一撃、顎を左右に連打して昏倒させていた。
「お前らはいったい・・・」
「「人間です」」
「それくらい見ればわかってるわ」
敵がツッコミ入れる余裕があるとは驚きです。
「あとな、俺はあいつらと同じに見るなよ」
「油断はしてませんよ。ええっ、これっぽちも」
「の割には余裕じゃねぇか」
「脅威には感じてませんから」
「ふざけやがって吠えずらかくなよ」
残った二人の男が私に向かってくる。
ちょ、動けないんですけど私。
「そいつさえさらっちまえば・・・」
「させるわけがないでしょう」
一気に小此木が片方の男に接近する。
しかしこれは間違いだった。
「かかったな」
男は土を拾い上げる。
さらに小此木に向かって投げる。
この動作に小此木は軽く避けるが少し避けただけでは結果は変わらなかった。
「サンドバン(砂の爆弾)」
砂が連鎖的に爆発する。
その範囲は小さいものの音が激しいし土煙も舞っている。
多分威力は結構高いだろう。
少なくとも手榴弾のような威力があることだろう。
だがこういうものは連発はできない。
畳みかければいいものの男は息を切らしたまま何もしない。
冷却期間が少しだけ長いのかもしれない。
「まぁこの程度で小此木が死ぬなんて思わないけどね」
「まったくその通りですよお嬢様」
土煙の中から小此木が飛び出した。
その姿は服に焼き焦げた跡が付いていたものの軽い傷ですんでいた。
「くそぅ、サンドバン」
「種さえわかれば対処は出来るんですよ」
砂を投げようとした瞬間振りかぶった右手を避けるように左に曲がる。
その直後、男の顔色が変わった。
振り下ろした先の場所には何も無い。
砂がただ爆発しただけ。
次弾の装填も1度腰を降ろさなくてはならない。
「ばかなっ」
「戦闘で能力を見せつけることとは研究されるということだと知りなさい」
小此木は躊躇なく首に蹴りをいれる。
男は沈黙。
もう1人起きてる男はいるが怯えきっていて脅威にはならないだろう。
「この人は戦闘向きではない能力なのでしょうね。私たちに怯えてます」
「むしろ戦闘向きの方が少ないと思いますが?」
それは確かにと小此木が笑う。
小此木が笑う姿なんて始めてみた。
「ちくしょう、おいそこのお前」
そういえばこいつ残ってた。さっさと私の体返せ。
「はひっ」
「力を解除しろ」
「でもそんなことしたら」
「いいからはやくしろぉ」
私の声で声高々にいう。
そして急に寒気がし始めた。
体は乗っ取られたままだっていうのに気持ち悪い。
「ははっ、全滅しちまえお前らも俺らも」
「なっ、僕の能力は解除したら1時間は使えないのに」
「んなことぁしらねぇよ。こいつらをぶち殺せれば俺的には満足だァ!」
こいつっ!
早く体を返せ。
ズドン
(えっ?)
震度4で地震が起きたかの様な揺れが起きる。
圧倒的今までになかった程の絶望感。
それが目の前に降ってきた。
(なんだこいつ)
先ほどの化け物と酷似はしてる。
だけど全くの別物だ。
「グルァァァァァァァァァァアァァァォ!!!!」
咆哮で木々が暴れ、大地が震え、空が雲を覆う。
こいつは危険だ。
直感でそう理解した。
「うわぁっ!!」
「ちぃ」
能力を解いたやつと私に乗り移ってるやつが捕まった。
そしてうさぎは・・・恐怖を刻んだ。
『ぐぎゅるぅ』
「やめ」
2人の人間が一飲みにされ咀嚼される。
骨が砕かれる音、その時聞いた悲鳴。
何食わぬ顔でバケモノはおこなった。
怖い、怖い、怖い、怖い。
「・・・体が動くようになった」
意識もしっかりし始めた。
能力使った人間が死んだからだろう。
でもなぜか取り戻したはずの体が動かない。
そして私へと体を向けた。
食われる。
「麗様」
私の体が瞬間宙を浮きうさぎいた場所から離れた。
動けなかった。
こんなにも私は弱かった。
「うっ、ううう」
「泣いてる暇はありませんよ」
そんなことはわかっていた。
でも、でも。
でも現実は非情だった。
うさぎは私から目を背き一点の方向を向く。
その先にはお母様がいた。
嫌な予感がする。
動け体。
落ち着け心。
今なんとかしないと・・・。
『ぐぁぁあぁぁぉ』
いや、やめて。
その声は声に出ず。
ただ単にその結末を迎える。
うさぎは無罪の側を高速で通り過ぎお母様を捕まえる。
まさに一瞬の出来事。
「やめろ」
うさぎは口を大きく開けてお母様を連れていく。
「やめろ」
「ここは私めが」
小此木がうさぎに飛びかかる。
小此木は速い。そこら辺の運動神経のいい奴の数倍速い。だけどそれでも足りない。このバケモノ相手には・・・。
『グルォ』
「がっ!?」
反応速度を超える速度で腕を振り払われ小此木が吹き飛ぶ。
壊れたビルにぶつかりそのまま血反吐を吐く。
「小此木」
「しくじりました、前を見てくださいお嬢様」
「・・・!」
『グルァグ』
「いい加減邪魔ですよ」
無罪先生がうさぎを蹴り飛ばす。
お母様は奪い返せなかったもののもう1本の腕をけり飛びすことに成功していた。
「先生」
「そうです。先生です。さて、こいつをどう料理してあげましょうか」
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「どうやら切れたみたいです」
『ギャオオォォオオオオォォォッ!!』
「体が・・・真っ赤に」
うさぎの体は白から真っ赤に変貌していた。
その姿はまるで悪魔に酷似しており足が震えてたまらない。
「まるで聖書のバケモノのようだ」
「そんな事言ってないではやく逃げて」
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無罪の速度では小此木には及ばない。
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だけどそれではまだ足りない。
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瞬く間に腕が生える。
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お母様は泣き叫んでいる。
離して、離して・・・と。
私は助けたい。
なんでこの体は動かないんだ。
「頭で動く。それが君の弱点だ九谷麗」
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どっちも同じ言葉だよそれは!
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「1人ではこいつから君のお母さんを救い出すことは出来ない。少しでも確率を上げるために手伝ってくれ」
「わかったよ、やってやる」
そういえば体が軽い。
もしかするとこれも私の体をのっとったやつのデメリットなのだろう。
あいつには悪いが非常にありがたい。
元に戻った体を動かしうさぎのバケモノの前に立つ。
「母さんを・・・返せぇ!!」
速度では敵わない。
なら人間の持ち味を活かすしかない。
能力を使用丸く円盤に盾のように。
相手は襲ってくる。
右腕を振り上げている。
あの攻撃。小此木が遠くまで吹っ飛んだところからまともにくらえば同じ運命。
それならば!
「グルァ!?」
「何を驚いてるんですか?
相手は人間ですよ」
そう、まともにくらわなければいい。
いくらこの力でもまともにくらえばどうなるかわからない。
だから受け流した。
盾を右手に取り付けるようにするとうまくくっつく事がなければ何も出来なかっただろう。
「流石は未来の大英雄」
「ちゃかすな」
「ははっ、口調が強気になってるぞ」
そうじゃないと潰れそうだからだよ。
察して。
まだうさぎの手にはお母様が握られている。
あの手が少しでも力が入るとお母様は死ぬ。
油断はできない。
「やっとこれでイーブンてところか。おい、これからどうする」
「勝算あるんじゃなかったんかい!!」
びっくりだよ。
「正直2人でも勝率1割いけばいいかなーくらいなんだ」
「1割とかないわー」
やらなきゃ死ぬけどやってもそれとか本当にやだ。
「上手くいけば撤退してくれるとは思うが・・・」
うさぎはおお振りでまた振り落としてきた。
もう1度私は受け流し弾く。
「全然その気配がない」
「その前に母さん助けないと」
「そうしたいのはやまやまなんだがそっちの方の腕のガードがきつくてね。上手くできないんだ」
うさぎは何も無い方の手でしか攻撃してきてはいない。
だからこそ攻撃が読みやすいということもあるが庇うということはあいつに取っても大切なものという事だ。
この場合食事という意味でだとは思うけどね。
逆に言えば庇っている今しか救うことができない。
「左右から行きますよ」
「あいよ」
「リニャース!!」
「あいにゃー」
今度は直接手に鉄の感触。
力が湧き上がってくる。
左足に力を入れた。
真正面に行けば潰されるのはこっち。
右に飛び距離を取る。
無罪も私の反対側に移動が終わっていた。
そして私から動き出す。
戦闘に不慣れな私が囮になるべきだからだ。
無罪は意図を理解して少し待ってから動き出した。
「お母様を返せ」
剣を大振りに攻撃するフリをする。
予想通りにガードしようと左手を使ってきた。
「スキありだ」
無罪が相手の背後に回っておりお母様のいる右手に手を添えていた。
「ぶっ飛べ」
瞬間右腕がちぎれ飛んだ。
血が出てないところを見るとこいつには血液が通ってない種類。
痛みを感じないはずのうさぎから泣いてるような咆哮が放たれる。
右手は私の方に飛んでくる。
お母様今助け・・・。
『ぐぉぉおおおぉぉぉ』
「ま・・・す」
まさに一瞬のことだった。
うさぎがこちらに飛んできて自分の右手ごと母さんを食べた。
私の頭に血が上り涙が溢れていく。
絶対に許さない。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!
「お母様ぁぁっ!!」
死体すら残らない。
弔うことも出来ない。
こんなに悲しいことは無い。
こいつだけは生かしておけない。
私は無我夢中で走り出した。
今までとは違い考えもなく走り出した。
そしてある変化に無罪が気づく。
「リニャースが変形してる」
私の手には二つの剣が握られていた。
元々は1本。今度は同じものが2本。
私にはそんなことは関係ない。
ただあいつを切るのみ。
「うぁぁぁぁぁっ!」
(ちょっと抑えるにゃ。私が持たないにゃ)
関係ない。
もっと出力を上げろ。
こいつを切り刻む力を寄越せ。
私はうさぎに今度は殺すつもりで切りかかる。
ニヤリと笑いうさぎは綺麗に避けた。
「殺気を隠せ、読まれるぞ」
「殺気・・・今は抑えられないよ」
「今だけでも抑えろ。そうじゃないと・・・なんだあれは」
うさぎの背後にさらに大きなうさぎ。
5mはあるかもしれない。
なんでここまで気づかなかったんだ。
こんな巨体見つからないはずがないのに。
巨大なうさぎは目の前にいたうさぎに手をかける。
逃げ出そうとしたものの身動きさえできてない。
その口は大きく開き今度はうさぎが丸呑みにされる。
この時私の怒りはどこかにいってしまう。
圧倒的恐怖。
怒りの矛先の消失。
なんともどうしょうもない気持ちになっていた。
「ゴァァアァァァァッ!!!」
巨大なうさぎの姿が消える。
気づかなかった理由はこれだ。
そこにいるのは今見たから感じる。
でも姿だけが見えないんだ。
気配はどんどん遠ざかっていく。
私たちは生き残った。
でも代償はとてつもなくでかい。
私は膝をおり頭を伏せた。
「なんで、なんで」
お母様が殺されなきゃならないの。
私は泣きじゃくった。
反動を受けた体の痛みなど関係なしに泣いた。
時間にして1時間。
一生分涙を流したもしれない。
「少しは落ち着いたか?」
「・・・ほんの少しは」
「それだけでも強い方だ。こんな事があれば普通の人間は立ち上がれない。ふさぎ込むだろう」
わかってる。
でもお母様は死は戻らない。
もっと私が早く動いていればお母様は死ななかったかもしれない。
だけどもうこれは過ぎたことなのだ。
お母様は今死んだのだ。
「ねぇ、これから私は何をすればいいと思う」
「さぁ、わからんさ。だがやるべき事はわかってるだろ」
「やるべき事?」
「真っ当に死ぬまで生き残ることだよ」
それは当たり前で日常的な平凡で何のひねりもない答え。
だけど胸に染み込んだ。
こんなところでふさぎ込んでるわけにはいかない。
まだまだこれからなのだから。
「ありがとうございます」
「おいおい、私にお礼なんて雨が降るのか?」
「冗談は言わないでください。これはケジメです」
お母様を助けようとしてくれたこの教師に誠意を。
今の私に出来るのはこれくらいです。
「口調がいきなり変わるとなんかキショいな」
「殺しますよ?」
「前言撤回、物騒なのと辛辣さは変わりなかったわ」
失敬です。
ではまずは小此木を助けに行きましょう。
生きてるとは思いますが負傷はしてるでしょうし。
お母様、私はあなたの分まで生きてみせます。
そして必ず・・・一死報いてやります。
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