1 / 31
世界線α・被験者「藤城廣之」の受難
第一話 最期の一言
しおりを挟む
──家さ、帰りてえな。
狭い介護ベッドの上、指先すらろくに動かせない脱力しきった身体、もはや死人のように生気を失った祖父の虚ろな目に僕が気を引かれていた時の事だった。横たわる祖父が口にした最期の言葉は、今でも僕の耳に残っている。
不思議だった。
なぜならあの時、祖父がいたのは自宅だったからだ。けれども祖父は家に帰りたいと言った。その直後に一筋の涙を流し、それきり祖父の口はピクリとも動かなかった。
僕が初めて見た、人が死ぬ瞬間だった。
「姉ちゃん、やっぱり変だよ」
「変って、何が?」
僕と三つ違いの姉は洗面台の鏡の前で耳にピアスを装着しながら不機嫌そうに答えた。僕はそんな姉をじっと見つめながら口を開いた。
「だからさあ……」
「やだ! もしかして、この髪型が変なの?」
「いや、爺ちゃんの事だよ」
「はあ? なんで今?」
見当違いな言葉に僕がため息をついたら、姉は鏡ごしに僕を睨みつけた。おいおい、僕の話を遮っておいてそれは理不尽すぎやしないか。
そんな露骨に嫌な顔をしないでほしい。これだから姉には話しかけづらいんだ。
「というかさ、女の人って面倒くさいよね。化粧もして、髪もセットして、アクセサリーで着飾って。それで全体を見て、また手直しするだろう? どれだけ追加アイテムを増やす気なのさ」
「何よ、その言い方。それを言うなら男だって同じじゃない」
「あ、本当だ。でもさ、少なくても僕はそこまで気にしないよ。ファッションにさほど興味ないし。それにきっと、他人から見ても姉ちゃんの装備はもう十分だと思うよ」
「ファッションに興味のないやつの意見は参考にならないわよ」
ごもっともな意見だ。思いがけず姉の冷たい言葉が僕の胸に突き刺さるが、僕は論点がずれた事に気付いて話を元に戻す。
「落ち着いてよ、姉ちゃん。僕は喧嘩したいわけじゃないんだ。ファッションの話じゃなくてさ、僕が話したいのは爺ちゃんの事だよ」
「だから何が? 内容を言いなさないよ。それに先に吹っ掛けたのはあんたじゃない」
「ごめん、ごめん」
端から姉と喧嘩をする気は毛頭ない。僕は早々に両手を上げて降参ポーズをした。すると姉はすかさず髪をまた弄くり始める。あ、香水まで足してら。僕は途端に顔をしかめた。よりにもよって、僕の嫌いな甘ったるいフローラルな香りだったからだ。(ここで懲りずに、香水いらなくない? と言う勇気は僕にはない)
姉は忙しそうにまだ手を動かしている。何を修正したのか、相変わらず僕にはその変化がちっとも分からない。
ちなみに僕は、姉に恋人がいない事を把握している。
「そういえば、姉ちゃんはどこに行くんだっけ?」
「友達と飲み会」
おや? じゃあ、手直しはいらないのでは……?
僕は思わず出かけたその疑問を無理やりゴクリと飲み下した。これ以上、余計な事を言うべきではないと、僕は十六年間の人生経験から学んでいる。けれども僕がよっぽど変な顔をしていたのか、姉の眉がつり上がる。僕はそれを見て、目の前の人物の怒りの沸点へ徐々に近付いている事を察した。ああ、やっちまった。
「あんたさ、いい加減に内容を言いなさいよ。それって重要? 今じゃないとだめ?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「だったら後にして! 邪魔なのよ!」
「はいはい。分かったよ」
痺れを切らした姉が怒鳴ったので、さすがにリビングへ引き返す事にした。リビングに避難すると、呆れ顔をした母が洗った皿を拭きながら僕を待っていた。
「廣之、あんた何してんのよ。音羽の出かける邪魔しちゃだめじゃない」
「うん。僕も反省してるよ。まさか姉ちゃんがあんなに気合を入れてるとはね」
「あのねえ、女は何をするにも色々と準備が大変なのよ」
「女同士でも? 友達なのに?」
あんたも彼女が出来れば分かるわよ、との母の小言を僕は華麗に受け流す。
ふーん。我が姉の付き合いはそんなもんなのか。まあ確かに今回の事で、女の身支度がどれほど大変かが分かった。ついでに邪魔をすればこっぴどく叱られる事も学習できた。やっぱり、合戦前の人に横槍を入れちゃいけないんだ。とはいえ、洗面台の占拠はぜひともやめていただきたい。お陰で歯ブラシが取れなかったじゃないか。
「素直に立ち退き要求すれば良かった」
「あんたは全然反省していないわね」
母の鋭い指摘は全く持ってその通りである。特に言い返すつもりはなかったので、僕は姉にするはずだった持論を、代わりに母に展開させる事にした。
「母さん、爺ちゃんの事だけどさ。爺ちゃんって本当に認知症だったの?」
「何よ、急に」
「だって何度考えてもおかしいよ。爺ちゃんとは普通に会話ができてたじゃないか。なのに……」
──家さ、帰りてえな。
あの一言はおかしい。僕は祖父と周囲の人間とで認識のズレがあった事を今でも妙に思っていた。
祖父が望んだ通り、在宅医療での最期だった。核家族だった僕らはその日、祖母から連絡があって移動すると家族全員で祖父を看取った。それなのに、祖父は悲しそうに呟いたのだ。僕はそれが妙に引っ掛かっていた。
生前、寝たきりになっても祖父とは何とか途切れ途切れの会話で意思疎通ができていた。けれど周りの大人たちは認知症だと決めつけて、祖父を遠巻きにしていた。
たしかに時々、祖父は物忘れこそあったけれど、少なくとも僕とは会話が成立していた。だから、周りの大人たちが祖父を忌避する理由が僕にはさっぱり分からなかったのだ。
「……時々ね、会話が噛み合わなかったのよ。お婆さんとも、誰ともね」
母は困ったような寂しそうな表情で、ぽつりとぽつりと話し出した。
「お婆さんとのなれそめだとか、家族旅行とか、友人と遊んだ日々だとか。大事な思い出から些細な日常まで……記憶の擦れ違いって言うのかしら? そういうのが度々あったのよ」
「それって……例えばどんな?」
僕はいつの間にか緊張していた。僕の知らない祖父が、誰かの記憶の中で確実に存在していたのだ。
他の人と擦れ違っていた祖父との思い出の断片がようやく見つかる気がしたからか、僕は謎の高揚感に胸を膨らませていた。
「例えば、そうねえ……。ああ、ほら。庭に小さな池があったじゃない?」
「ああ、あったね。昔、姉ちゃんと夏に水遊びしてたっけ」
「いつだったか、お爺さんがお婆さんに言い出したらしいのよ。あそこで飼っていた金魚はどうしたって」
「え、それ本当?」
「本当の話よ」
驚くしかなかった。僕の記憶だと、あの池で生き物を飼っていた記憶なんて全く無かったからだ。
「ていうか、金魚って池で飼うものなの? 金魚鉢とかじゃなくて?」
「そうよねえ。私もおかしいなって思ったわ。でも、お爺さんはその後も金魚を池で飼っていたって言い張ってたそうよ」
なんでも僕と姉が毎年のように祭りで金魚を取って来ては嬉しそうに自慢してくるもんだから、祖父が張り切って水槽で金魚の世話をしたらしい。
しまいには金魚が大きくなって水槽に入り切らないので、それで金魚を庭の池へ放ったそうだ。しかも、池で育てている内に金魚はいつの間にか鯉ぐらいの大きさまで成長してしまい、その立派な姿を見て、また僕たちが意気揚々と金魚を取ってきたそうだ。
なぜだか僕もその辺の記憶は曖昧だ。
「そうなんだ……。え、じゃあ庭の桜の木も?」
「ええ。あれも椿だってずっと言い張ってたでしょう?」
祖父母と僕ら家族は、入学式だとか七五三だとか、そういったイベントごとに、毎年写真を撮っていた。出来上がった写真を見ては「昔より背が伸びた」だとか「覇気のない締まり顔だ」とか他愛もない話をするのだ。それ自体はごく一般的な家庭と大差ないだろう。そして単純な僕は見事にその影響を受けてしまい、極々自然と趣味が写真撮影になっていた。淡白な人生を綴る、僕の唯一の趣味である。
その趣味の写真撮影を自宅の庭で行っていた時の事だ。祖父はなんの前触れも無しに、心底残念そうな声で言ったのだ。
──変わっちまったな……。この椿もよ。
瞬間、祖父の手元から一房の花が零れ落ちた。祖父以外、その場にいた全員がひどく驚いた。誰が見てもそれは、桜の花だったからだ。
ここまでの母の話からすると、やはり祖父は認知症のような気がする。落胆するしかなかった。僕を縛っていた違和感の正体に近付く気がしてたのに。けれど、祖父がただの認知症ではないと、どこか諦めきれない僕も確かに存在しているわけで。
「椿か……。ちょっと調べてみようかな」
「調べた所で意味が無いと思うわよ。紛れもなく、あれはずっと桜の木よ。事実でしかないんだもの」
「いいんだよ。僕が納得できればそれで」
母に小言を挟められつつ、僕は自室へと退散する。
こうして、僕は探偵気取りで祖父とみんなとの認識の違いについて探る事にした。
結果、僕は想像を絶する真実にぶち当たる。それはガラスの破片に触れるよりも遙かに覚悟が必要な事実だった。繊細に扱わわなければ、世界の理すらも崩壊させてしまうほどのものだったのだ。
まさか、そんな大事になるとは露知らず。この時の僕は何かを背負うなんて、そんな立派な覚悟は微塵も無かった。ただ、「怠惰な日常にひとあじ変化を起こそうかな」と、楽観的な考えに流されているだけだった。
祖父の死から数日後。僕の青春は祖父に導かれるように、忙しなく刺激的なものへと急速に変わっていく。
狭い介護ベッドの上、指先すらろくに動かせない脱力しきった身体、もはや死人のように生気を失った祖父の虚ろな目に僕が気を引かれていた時の事だった。横たわる祖父が口にした最期の言葉は、今でも僕の耳に残っている。
不思議だった。
なぜならあの時、祖父がいたのは自宅だったからだ。けれども祖父は家に帰りたいと言った。その直後に一筋の涙を流し、それきり祖父の口はピクリとも動かなかった。
僕が初めて見た、人が死ぬ瞬間だった。
「姉ちゃん、やっぱり変だよ」
「変って、何が?」
僕と三つ違いの姉は洗面台の鏡の前で耳にピアスを装着しながら不機嫌そうに答えた。僕はそんな姉をじっと見つめながら口を開いた。
「だからさあ……」
「やだ! もしかして、この髪型が変なの?」
「いや、爺ちゃんの事だよ」
「はあ? なんで今?」
見当違いな言葉に僕がため息をついたら、姉は鏡ごしに僕を睨みつけた。おいおい、僕の話を遮っておいてそれは理不尽すぎやしないか。
そんな露骨に嫌な顔をしないでほしい。これだから姉には話しかけづらいんだ。
「というかさ、女の人って面倒くさいよね。化粧もして、髪もセットして、アクセサリーで着飾って。それで全体を見て、また手直しするだろう? どれだけ追加アイテムを増やす気なのさ」
「何よ、その言い方。それを言うなら男だって同じじゃない」
「あ、本当だ。でもさ、少なくても僕はそこまで気にしないよ。ファッションにさほど興味ないし。それにきっと、他人から見ても姉ちゃんの装備はもう十分だと思うよ」
「ファッションに興味のないやつの意見は参考にならないわよ」
ごもっともな意見だ。思いがけず姉の冷たい言葉が僕の胸に突き刺さるが、僕は論点がずれた事に気付いて話を元に戻す。
「落ち着いてよ、姉ちゃん。僕は喧嘩したいわけじゃないんだ。ファッションの話じゃなくてさ、僕が話したいのは爺ちゃんの事だよ」
「だから何が? 内容を言いなさないよ。それに先に吹っ掛けたのはあんたじゃない」
「ごめん、ごめん」
端から姉と喧嘩をする気は毛頭ない。僕は早々に両手を上げて降参ポーズをした。すると姉はすかさず髪をまた弄くり始める。あ、香水まで足してら。僕は途端に顔をしかめた。よりにもよって、僕の嫌いな甘ったるいフローラルな香りだったからだ。(ここで懲りずに、香水いらなくない? と言う勇気は僕にはない)
姉は忙しそうにまだ手を動かしている。何を修正したのか、相変わらず僕にはその変化がちっとも分からない。
ちなみに僕は、姉に恋人がいない事を把握している。
「そういえば、姉ちゃんはどこに行くんだっけ?」
「友達と飲み会」
おや? じゃあ、手直しはいらないのでは……?
僕は思わず出かけたその疑問を無理やりゴクリと飲み下した。これ以上、余計な事を言うべきではないと、僕は十六年間の人生経験から学んでいる。けれども僕がよっぽど変な顔をしていたのか、姉の眉がつり上がる。僕はそれを見て、目の前の人物の怒りの沸点へ徐々に近付いている事を察した。ああ、やっちまった。
「あんたさ、いい加減に内容を言いなさいよ。それって重要? 今じゃないとだめ?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「だったら後にして! 邪魔なのよ!」
「はいはい。分かったよ」
痺れを切らした姉が怒鳴ったので、さすがにリビングへ引き返す事にした。リビングに避難すると、呆れ顔をした母が洗った皿を拭きながら僕を待っていた。
「廣之、あんた何してんのよ。音羽の出かける邪魔しちゃだめじゃない」
「うん。僕も反省してるよ。まさか姉ちゃんがあんなに気合を入れてるとはね」
「あのねえ、女は何をするにも色々と準備が大変なのよ」
「女同士でも? 友達なのに?」
あんたも彼女が出来れば分かるわよ、との母の小言を僕は華麗に受け流す。
ふーん。我が姉の付き合いはそんなもんなのか。まあ確かに今回の事で、女の身支度がどれほど大変かが分かった。ついでに邪魔をすればこっぴどく叱られる事も学習できた。やっぱり、合戦前の人に横槍を入れちゃいけないんだ。とはいえ、洗面台の占拠はぜひともやめていただきたい。お陰で歯ブラシが取れなかったじゃないか。
「素直に立ち退き要求すれば良かった」
「あんたは全然反省していないわね」
母の鋭い指摘は全く持ってその通りである。特に言い返すつもりはなかったので、僕は姉にするはずだった持論を、代わりに母に展開させる事にした。
「母さん、爺ちゃんの事だけどさ。爺ちゃんって本当に認知症だったの?」
「何よ、急に」
「だって何度考えてもおかしいよ。爺ちゃんとは普通に会話ができてたじゃないか。なのに……」
──家さ、帰りてえな。
あの一言はおかしい。僕は祖父と周囲の人間とで認識のズレがあった事を今でも妙に思っていた。
祖父が望んだ通り、在宅医療での最期だった。核家族だった僕らはその日、祖母から連絡があって移動すると家族全員で祖父を看取った。それなのに、祖父は悲しそうに呟いたのだ。僕はそれが妙に引っ掛かっていた。
生前、寝たきりになっても祖父とは何とか途切れ途切れの会話で意思疎通ができていた。けれど周りの大人たちは認知症だと決めつけて、祖父を遠巻きにしていた。
たしかに時々、祖父は物忘れこそあったけれど、少なくとも僕とは会話が成立していた。だから、周りの大人たちが祖父を忌避する理由が僕にはさっぱり分からなかったのだ。
「……時々ね、会話が噛み合わなかったのよ。お婆さんとも、誰ともね」
母は困ったような寂しそうな表情で、ぽつりとぽつりと話し出した。
「お婆さんとのなれそめだとか、家族旅行とか、友人と遊んだ日々だとか。大事な思い出から些細な日常まで……記憶の擦れ違いって言うのかしら? そういうのが度々あったのよ」
「それって……例えばどんな?」
僕はいつの間にか緊張していた。僕の知らない祖父が、誰かの記憶の中で確実に存在していたのだ。
他の人と擦れ違っていた祖父との思い出の断片がようやく見つかる気がしたからか、僕は謎の高揚感に胸を膨らませていた。
「例えば、そうねえ……。ああ、ほら。庭に小さな池があったじゃない?」
「ああ、あったね。昔、姉ちゃんと夏に水遊びしてたっけ」
「いつだったか、お爺さんがお婆さんに言い出したらしいのよ。あそこで飼っていた金魚はどうしたって」
「え、それ本当?」
「本当の話よ」
驚くしかなかった。僕の記憶だと、あの池で生き物を飼っていた記憶なんて全く無かったからだ。
「ていうか、金魚って池で飼うものなの? 金魚鉢とかじゃなくて?」
「そうよねえ。私もおかしいなって思ったわ。でも、お爺さんはその後も金魚を池で飼っていたって言い張ってたそうよ」
なんでも僕と姉が毎年のように祭りで金魚を取って来ては嬉しそうに自慢してくるもんだから、祖父が張り切って水槽で金魚の世話をしたらしい。
しまいには金魚が大きくなって水槽に入り切らないので、それで金魚を庭の池へ放ったそうだ。しかも、池で育てている内に金魚はいつの間にか鯉ぐらいの大きさまで成長してしまい、その立派な姿を見て、また僕たちが意気揚々と金魚を取ってきたそうだ。
なぜだか僕もその辺の記憶は曖昧だ。
「そうなんだ……。え、じゃあ庭の桜の木も?」
「ええ。あれも椿だってずっと言い張ってたでしょう?」
祖父母と僕ら家族は、入学式だとか七五三だとか、そういったイベントごとに、毎年写真を撮っていた。出来上がった写真を見ては「昔より背が伸びた」だとか「覇気のない締まり顔だ」とか他愛もない話をするのだ。それ自体はごく一般的な家庭と大差ないだろう。そして単純な僕は見事にその影響を受けてしまい、極々自然と趣味が写真撮影になっていた。淡白な人生を綴る、僕の唯一の趣味である。
その趣味の写真撮影を自宅の庭で行っていた時の事だ。祖父はなんの前触れも無しに、心底残念そうな声で言ったのだ。
──変わっちまったな……。この椿もよ。
瞬間、祖父の手元から一房の花が零れ落ちた。祖父以外、その場にいた全員がひどく驚いた。誰が見てもそれは、桜の花だったからだ。
ここまでの母の話からすると、やはり祖父は認知症のような気がする。落胆するしかなかった。僕を縛っていた違和感の正体に近付く気がしてたのに。けれど、祖父がただの認知症ではないと、どこか諦めきれない僕も確かに存在しているわけで。
「椿か……。ちょっと調べてみようかな」
「調べた所で意味が無いと思うわよ。紛れもなく、あれはずっと桜の木よ。事実でしかないんだもの」
「いいんだよ。僕が納得できればそれで」
母に小言を挟められつつ、僕は自室へと退散する。
こうして、僕は探偵気取りで祖父とみんなとの認識の違いについて探る事にした。
結果、僕は想像を絶する真実にぶち当たる。それはガラスの破片に触れるよりも遙かに覚悟が必要な事実だった。繊細に扱わわなければ、世界の理すらも崩壊させてしまうほどのものだったのだ。
まさか、そんな大事になるとは露知らず。この時の僕は何かを背負うなんて、そんな立派な覚悟は微塵も無かった。ただ、「怠惰な日常にひとあじ変化を起こそうかな」と、楽観的な考えに流されているだけだった。
祖父の死から数日後。僕の青春は祖父に導かれるように、忙しなく刺激的なものへと急速に変わっていく。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
年下の地球人に脅されています
KUMANOMORI(くまのもり)
SF
鵲盧杞(かささぎ ろき)は中学生の息子を育てるシングルマザーの宇宙人だ。
盧杞は、息子の玄有(けんゆう)を普通の地球人として育てなければいけないと思っている。
ある日、盧杞は後輩の社員・谷牧奨馬から、見覚えのないセクハラを訴えられる。
セクハラの件を不問にするかわりに、「自分と付き合って欲しい」という谷牧だったが、盧杞は元夫以外の地球人に興味がない。
さらに、盧杞は旅立ちの時期が近づいていて・・・
シュール系宇宙人ノベル。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる