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珈琲とチーズケーキ
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週末は休日返上、こんな事で有給消化が実現するのか。
宗一郎との約束をキャンセルするのが忍びなくて、ギリギリまで書類をまとめて先方に連絡を取りながら夏空を仰ぐ。
いい天気だ、仕事してる場合じゃない…何やってんだ、俺は。
「お疲れ様です」
声をかけられ反射的に顔を上げると、路嘉が立っていた。
「今日、出勤してるって聞いたから」
「会社では話かけるなと言った筈だ」
「いいでしょう、誰も居ないし…お昼食べた?これ、差し入れ」
手渡されたビニール袋には缶コーヒーとチーズケーキ。
これはコンビニで再販したやつじゃないか
どこで入手したのか尋ねる寸でに言葉を堰き止める。
あの日の嘘に傷つく自分に追い立てられ、路嘉に嫌な思いをさせるくらいなら黙っている方が利口だ。
「何も聞かないんだね」
今にも泣きだす揺らぎに俺の方が動揺して、肩に手を伸ばしてしまった。
しまった。今、勤務中…
場所を弁えて手を引くと路嘉の目から涙がこぼれる。
泣かせて、しまった…。
俺は完全に悪者になった気分で、ため息をつかないようにゆっくり息を吐くと心拍数が跳ね返り急がせる。緊張感に耐え切れずオフィスから路嘉を連れ出して話だけでも聞くことにした。
頼む、頼むから声を出して泣かないでくれ。
社内で部下を泣かせるなんてコンプライアンスを重要視しているうちの会社ではあってはならないこと。一部始終、監視カメラで録画されている。
どんな理由で相手が感情的になっても泣いたらまずい、落ち着け。
宗一郎のように慰めてやる術を直ぐに思いつくほどロマンチストでもなければ、和真のように優しい言葉で包み込んでやれる度量も、俺には無い。
惨憺たる状況に路嘉の言葉が続く。
「もっとキレイに遊んでよ」
「遊び…て、誰もそんなこと言ってないだろ」
「そんな風にしか見えないよ」
「じゃあ聞くけどお前この間、誰と飲んでた?」
つい声を荒げてしまい、驚いて足を止める路嘉の背中を押しながら暗がりの給湯室へ押し込みドアを閉めた途端に抱きつかれた勢いで壁に手を付く。
背後のドア越しに台車を押しながら電話の取次ぎをする業者の騒々しさ、狭間に立たされる俺は息を潜めて、見上げる路嘉から顔を背けた。
「怒ってるの?友達と飲んでた」
「そうか。いつもならすぐ既読になるのに返事がなかったから」
「絢斗には関係ないでしょう」
「お前のこと心配して悪いのかよ」
「悪いけど?絢斗が構ってくれないから慰めて貰ったの」
………は??
「奥さんいる人だし一回だけ。もうしないから、ちゃんと俺のこと見てて」
何を言ってるのか理解できなくて、語彙力…
そうか、俺は浮気をされたんだな。起きてしまった事は変えられない、路嘉の男らしさに絶望するのではなく俺ができる償いを建設的に考えよう。
路嘉が飽きないように満足させて…やれる自信が全くない。
メンタル落ちたくらいで不倫するなんざ、どういう了見だ。ふざけたこと言いやがって今度やったらただで済むと思うなよ。そんな意味合いを込めて小悪魔の頭を撫でてやる俺の精一杯なエピソードを聞く宗一郎は気の毒そうな目で、ルージュのファルコネを注いだ。
宗一郎との約束をキャンセルするのが忍びなくて、ギリギリまで書類をまとめて先方に連絡を取りながら夏空を仰ぐ。
いい天気だ、仕事してる場合じゃない…何やってんだ、俺は。
「お疲れ様です」
声をかけられ反射的に顔を上げると、路嘉が立っていた。
「今日、出勤してるって聞いたから」
「会社では話かけるなと言った筈だ」
「いいでしょう、誰も居ないし…お昼食べた?これ、差し入れ」
手渡されたビニール袋には缶コーヒーとチーズケーキ。
これはコンビニで再販したやつじゃないか
どこで入手したのか尋ねる寸でに言葉を堰き止める。
あの日の嘘に傷つく自分に追い立てられ、路嘉に嫌な思いをさせるくらいなら黙っている方が利口だ。
「何も聞かないんだね」
今にも泣きだす揺らぎに俺の方が動揺して、肩に手を伸ばしてしまった。
しまった。今、勤務中…
場所を弁えて手を引くと路嘉の目から涙がこぼれる。
泣かせて、しまった…。
俺は完全に悪者になった気分で、ため息をつかないようにゆっくり息を吐くと心拍数が跳ね返り急がせる。緊張感に耐え切れずオフィスから路嘉を連れ出して話だけでも聞くことにした。
頼む、頼むから声を出して泣かないでくれ。
社内で部下を泣かせるなんてコンプライアンスを重要視しているうちの会社ではあってはならないこと。一部始終、監視カメラで録画されている。
どんな理由で相手が感情的になっても泣いたらまずい、落ち着け。
宗一郎のように慰めてやる術を直ぐに思いつくほどロマンチストでもなければ、和真のように優しい言葉で包み込んでやれる度量も、俺には無い。
惨憺たる状況に路嘉の言葉が続く。
「もっとキレイに遊んでよ」
「遊び…て、誰もそんなこと言ってないだろ」
「そんな風にしか見えないよ」
「じゃあ聞くけどお前この間、誰と飲んでた?」
つい声を荒げてしまい、驚いて足を止める路嘉の背中を押しながら暗がりの給湯室へ押し込みドアを閉めた途端に抱きつかれた勢いで壁に手を付く。
背後のドア越しに台車を押しながら電話の取次ぎをする業者の騒々しさ、狭間に立たされる俺は息を潜めて、見上げる路嘉から顔を背けた。
「怒ってるの?友達と飲んでた」
「そうか。いつもならすぐ既読になるのに返事がなかったから」
「絢斗には関係ないでしょう」
「お前のこと心配して悪いのかよ」
「悪いけど?絢斗が構ってくれないから慰めて貰ったの」
………は??
「奥さんいる人だし一回だけ。もうしないから、ちゃんと俺のこと見てて」
何を言ってるのか理解できなくて、語彙力…
そうか、俺は浮気をされたんだな。起きてしまった事は変えられない、路嘉の男らしさに絶望するのではなく俺ができる償いを建設的に考えよう。
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