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黎明叙情録

3/冷酷な旦那様に溺愛される囚われの男娼

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 「とめきを 妾 に貰う」


 ……め……はぁあああ??
 
 問答無用で俺を担いで、拉致監禁。
 暴れて降ろされた先は"いい香り"がする蘇芳色のシェーズドロング。シルクのベルベッドと木の造りから年季の入ったアンティークであることが分かる。
 ここは西ノ宮の反対側に在る、東の離宮。
 和の設えで統一された本家とは異なるシノワズリー調な空間は、一般的な戸建て二軒分ほどの広さに中国の骨董品を詰め込んだ異世界。俺もコレクションの一部にするつもりか?

 「今日から君は、上臈じょうろう女房だよ」
 「奴隷…じゃなくて?」
 「私のことは旦那様と呼んで、いいね」

 声色が激甘
 ぞ…っとして平手打ち、足蹴にして家具の後ろに隠れる。

 「いいワケねぇーだろ!!!!」

 ふざけんな
 男なのに女房呼ばわり…冗談じゃない。
 俺は捨てられたと思って何度も諦めたのに、劉青りゅうせいと入れ替わって傍に居てくれた親心を見せられたら、複雑な気持ちが荒ぶる。

 「ほら、こっちにおいで」
 「嫌だ!あっちの家に帰る…妾…って、なんかもっと他に無いの!?」
 「上臈女房なら忠興も手を出せまい」

 上から覗き込む、青嵐のしたり顔に恥ずかしさが込み上げて泣きっ面を見せまいと隅に身を寄せる。

 男を覚えて分かった事がある。

 相手の裸やセックスを想像できない男とは事を成せない。とはいえ向き合えば事が運ぶ…でも青嵐と交わったら最後、防ぎようの無い手立てで全てを暴かれ、奪われ、従順に躾けられ俺の秩序が壊される。
 無理無理無理無理無理……ぜ……ッッてぇー無理!!!!

 「とめき、居るかい?」

 科戸さんの声に反応して、隠れていた棚の扉を開けた。

 「末子の仔山羊が御出ましだ」
 「おや、狼でも来たのかい?」

 四つん這いになって柱時計の木箱から這い出る。
 泣いても泣いても、涙が止まらない俺の心を救ってくれるのは、もうこの人しかいない。説得できるとは到底思えないが言いたいことは山ほどあって、何から順に話せばいいのか分からない俺は声を絞り上げるようにして大声で泣いた。

 「慇懃を通ずる、それが貴方のお役目です」
 「い…ん…ぎん?」
 「年頃が情を通じる事を云います」
 「青嵐と…や……ぁあだ……俺、何か悪いことした?」

 首を横に振る科戸さんに抱きしめられる。

 「離宮での生活はふたりきり。依代雛よりしろひなは疎か、私が立ち入る事も出来ません」


 ……助けて……


 ああ、また俺の視線を振り切って、指先の温もりが遠ざかる。
 どんなに名前を呼んで、
 許しを乞うとも、
 振り返る事のない後ろ姿は冷酷ではなく愁いに満ちて、俺は…

 自分勝手な行為を恩人にこれ以上向けられなかった。

 二度までも親に捨てられる俺は、旦那様と情を通じる為だけに存在するいやらしい人形。飽きっぽい青嵐の事だ、すぐに新しい間夫と入れ替わり、また・・捨てられる。
 誰でもない俺になったら…
 玲音にも見限られ裸一貫、世間に放り投げられる未来の姿に…フフッ…笑いが込み上げた。このまま生きてる方が余程、こ・わ・い。こんな事くらいで命が切り離せるなら、安いものだと自分で帯を解く俺の覚悟をよく見ておけ。

 ◇

 翌朝、旭日昇天の勢いで朝勃する青嵐は一睡もできず、愚図る俺を相手取り…終には全裸で土下座を決める。

 「この通りです。どうか、お許しを」

 はぁ?両手をついて謝っても、許してなるものか。
 青嵐に体を許したくない俺は着物を脱いだ時からいいだけ泣きまくって絶拒。
 そう、あの歌でお馴染み<泣いてばかりいる仔猫ちゃん>作戦!淫魔の青嵐とて、こちらが誠意を以て拒めば無理強いはしないどころかあがなう始末。
 男の性欲は身勝手な生理現象、故に頼まれてもいない事に対して起こる筈が無い。
 逆に言えば相手が絶望から諦めてしまえば受け入れて成立する。
 決して「許さない」精神的ガン萎えに匹敵する断固拒否の姿勢であり続ければ、本能が刺激され、どんな男でも嫌になって元来逃げ出そうとする。そこを更に掘り下げて、お前が悪いと一晩中泣き続けるとどうなる・・・・のか?


  謝 罪 である(立証)


 「こっち見ないで!!」
 「目隠しされてますけど…」
 「厭らしい目で見るから」
 「ねぇとめき?乳首ピンクで乳輪ぷっくりしてるのは、男に吸われて…」

 知らんがな。遺伝が強くなって髪も肌も白くなった頃から、唇や乳首もの色が変わってこうなった。血行がよくなると顔や掌が血潮に染まり、特に性器は熟いなう禁色の一片染いっこんぞめ。通称・いちごみるくの愛称で親しまれている。

 まさか無料で拝めるとでも?

 妾とは、経済的援助を伴う愛人を指す。
 いわゆる援交の上位、セックスも有料である権利が発生する。
 金を払えないなら、見るな・触るな・近寄るな。
 秋の夜長を泣き通す雄虫に音に誘われるお前は愚老、健康寿命を延伸させる気など一切無い。今すぐ俺の目の前で息絶えてくれても構わない圧で睨みプイッと匙から顎を反らす。

 「昨日から何も食べないで眠らない…病気なの?」
 「旦那様が嫌いな病気です」
 「青嵐でいい…痛…ッ!?」

 手に噛み付いて威嚇
 このくらい朝飯前【ざまぁ】捕まえようとする腕を擦り抜けて、廊下に飛び出す。
 憎き青鬼にみつからないよう、じっと隠れて夜の帳が下りる頃そっと肩を温めるショールの香りに懐かしさを覚えた。
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