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幽韻之志
69/一生一誉の男闘呼道
しおりを挟む「ふーん、男風ねぇ…地獄だよ?」
業界ナンバーワンの売り上げを叩き出す、現役GV男優の晃汰が笑いながら整えられた髭を撫でる。
「男道場は新宿と歌舞伎町、どっち?」
「港区らしい…」
「お?流行りの港区男子か。いい路線だな」
「己、よくも家の敷居を跨いでくれたものだ。万死に値する」
「親方様!何卒ご容赦下さいませ」
ガシャーンバリィーーーーーンッ!!!!
目の前でぶち抜かれる襖を眺めながら…
それのどこがいけないのか?考えが古いんだよ、今はジェンダーが世界市場だと晃汰は手酌酒。ふざけるな!息子の将来を案ずる親の憤りが爆発。それを受け止める為に依代雛の玲音がいて、パチンと黄楊の駒の歩を打つ劉青いわく…
「我が子が風俗で働く親の境地に、せめて末子の貞操を願う忠興の悲しみよ」
「いや、風俗が家業なんですけどね。ここん家」
「萌華と寧々のお勤めを今でも反対している親心は複雑というもの」
晃汰の実姉にあたる宇賀神姉妹は長女・寧々が女王様、次女・萌華はМ嬢。
風俗は家業であり日常だと思っていたが親としては許しがたい職務だろう。
本番は ―― 絶 対 禁 止 ―― 但しヘルス行為は認める。
それさえ守れば目を瞑ると宇賀神姉妹にも約束させており、俺だってどこの誰か?わからない男に体を預ける筈もなく、結婚を前提としたお付き合いをしてくれる人じゃないと無理だと玲音に聞こえるように言うと速やかにその場を立ち去った。
「昌が同業になるのは大歓迎。一緒に気持ちよくなろうね?」
鬼の形相で振り返る、玲音を挑発する晃汰は悪戯っぽく絡む。
科戸さんよりアイツの方が深刻なのは見なかった事にして、まずはプレ幼稚園が無事に終わってからの勤務でその間に一般の仕事が見つかれば俺はそれでもいいと思っていたが、現実は甘くない。
◇
「302番の方…」公共職業案内所の窓口で判明した驚愕の事実。
自分の戸籍が無い。
身分証明を所持しない為、個人情報を照会してから間に無く窓口の動きが慌ただしくなり、駆けつけた警備員に連行され、擦りガラスの間仕切りで仕切られた空間で聞き取りが始まる。
「恐れ入りますが、亡くなった山田昌夫さんとのご関係は」
個人が特定できず"なりすまし"の可能性と"ある事件"の関連性を疑う職員は警戒を強める。
どうやら俺は社会的に撲滅されている様だ。
実家の固定電話も局番が「現在使われていない」ガイダンスが流れて住所を調べると空家になっていた。
俺のせいで一家離散?
親に迷惑をかけるつもりは無かっただけに途方に暮れて泪町に戻ると待っていた玲音が振り返る。
まるで幽霊にでも遭った様な顔で…ああ、俺死んでたんだっけ。
アナスタシア勤務だった頃
池袋で起きた凄惨な暴行事件と人身事故の関連性が一致。
俺の死を巡り、最高裁まで争う家族と弁護団により加害者の風俗関係者及び当時、未成年で風俗勤務していた女性たちは全員実刑判決で勝訴となった。多額の損害賠償金と慰謝料については不明。今も遺族は痛みを訴え続けている始末。
社会に絶望し、暴行の末に駅のホームで意識を失い…潰えた…俺の末路はすべて演出であり、事実とは異なることを両親は全く知らない。
―――俺は、もう……死んでいる……―――
税金や年金の督促が一度も来なかった理由は「死亡届」が受理されており、青木昌宗という架空の人物として生まれ変わったから。突然の出来事を受け入れることができず、科戸さんに尋ねると「死んだつもりで家に嫁いだのでは?」つもりじゃなくて俺、死んでますから…っ…!!
「禍根を裁き、貴方が歩んできた道を肯定することで、これから進むべき道は照らされて往く」
「それは餞の言葉ですか」
「身嗣がれた命、果たせる大儀を私に示しなさい」
青木昌宗として生きる。
某の覚悟を試される名前であり逃れられない呪怨を課せられる俺の惛沈に、この男は灌頂という名の冷水を浴びせる。俺は…俺はもうこの男のもので自分の意思も価値も無い。
給料を前借して買った洋服が入った紙袋が重く感じたのは夏の湿度のせい。紅い立葵に見送られる帰り道はどこか悲しくて涙が出そうになった。
◇
賑やかなホールに笛の音。
あおちゃんと手を繋いで並ぶ列の順は最後から3番目、あおちゃんはフリルスカートの下にスパッツ履いて俄然やる気だ。
親子競技のルールは簡単。
コースにカードが置いてあり、子供が絵と文字を読み取り、障害物をクリアしてゴールする流れだが…
「3枚のうち1枚"当たり"があります」
当たり判定のカードはナイショ、だがこの順だと流れを見てわかる。
①床に置かれたリングを3回ジャンプする
②カゴの中のボールを親子で運ぶ
③当たり、走ってゴール。
ここで注意したいことがひとつ。あおちゃんには予知能力がある、3枚のうちどれが当たりなのか?事前にわかってしまうので力を使わないよう指で合図を送る。左手の甲を2回ノックして2本指を返すと、力強く頷いて線の前に立つ…よーいどん!!
スタートダッシュから3馬身差をつけて、誰よりも早く左側のカードをめくるあおちゃんに追い付き後ろから見ると「おかあさん」の文字。
よかった、当たり…だよ?
シッターの場合、一緒に走ってゴールするよう俺は聞いていたがあおちゃんは辺りを見回して担任・ののか先生の手を引っ張ってゴールを目指す。
???
先生が応じてくれたからよかったけど、俺…あ、男だからお母さんじゃないのか。
苦笑いしながら旗の待機列に並ぶとあおちゃんがこっそり耳打ちする。
「先生のお腹に赤ちゃんがいるの、みんなには内緒だよ?」
途切れる息をそっ…と、吐き出す。
これは大人の事情で由々しき事態。しかし声にしてしまえば、きっと悟られるだろう。笑顔で応じてあげらければ
悲しい出来事になってしまう。視てはいけないと教えても事実の境界線をあおちゃんは踏み越えて知る、それを制限
するということは否定するだけの理由を説明しなければならない。
ののか先生は風俗嬢
それより他に妊娠する理由があるのかは別として、ああ…心臓が止まるかと思った。
「見なさい!人生で初めての賞状それも1番、い・ち・ば・ん!!」
帰るなりドヤ顔で若衆に賞状を見せびらかす。
最終的には純金縁の額に入れて飾る始末、応接間の一番見える所に飾るよう科戸さんが微笑む。
その背景に立派な花がたくさん並ぶ。
プレ幼稚園御卒業おめでとうございます・〇〇一同、他お祝いの品が青輝丸の御所にも多く寄せられ今夜は祝賀ムードの総仕舞い。やんやと騒ぐ声に紛れて抜け出した先で、やっと心を開放してため息ひとつ…胸の前で手を握る。
これから男風に務める俺に不安が無いわけではない。
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SМはプレイ重視だが風俗は完全ボディ接客で本指名を返す術を見出すべく思いを巡らせていると、玲音の視線が刺さる。
科戸さんよりも反対(過激)派
給料前借=借金返済の為に体を売る、俺はお前のご主人様にふさわしくない男だ。諦めてくれ。
「毎晩、俺が買い取ってやるよ」
「黙って俺の亡骸を捨て置け」
「それが許せるなら、依代雛としての路を俺は選ばなかった」
唇から行脚する指先に愛しさを込めて、月明かりの下でふたりの影が重なる。
「俺が帆に成り全ての災厄を受ける。昌宗様の海路に日和が訪れるよう、お祈り申し上げます」
汗ばむ肌の香りに包まれて頷く
毎晩お前に抱かれるなんて悪夢みたいなこと言わないでくれ。知らなかった頃はそればかり望んで、はしたない真似をしたことが今になって恥ずかしい。これからは何があっても地獄の底まで一蓮托生。お前は俺の為に、俺はお前と一緒なら何処までも淫らに堕ちていく覚悟だ。
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