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幽韻之志
56/厭穢欣浄の行脚
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「まーしゃーむーねっ」
北都の声に目覚めると玲音の姿はなく、気まずさを払拭するように微笑んで北都を撫でる。
「ごはんごはん」
「お腹空いたの?今、作るから退けて…」
「あっち、いる!いる!」
玲音が先に起きて作ってるのかな。そのまま厨房にふらっと出たら桃吾と目が合って、お互い「あ…」全裸の俺に息を飲む、桃吾の視線が下がる。
「お…おはようございます」消入りそうな声で挨拶をする桃吾がお膳に皿を並べる。
「とぉーご、おはよ!」
「北都ちゃんお熱は下がりましたか」
「あいっ、げんきです」
ふたりが話している間に寝間着に袖を通して、下着が…いつの間に脱げていたんだ。玲音め、キスで我慢するってあれ嘘だったのかよ。久しぶりの肌心地に思いだし笑い、布団を畳んでいると、お膳と炊飯器を持って来た桃吾が一瞬、躊躇いがちに口元を結ぶ。
「どうした?」
「いえ、あの…若い男性の香り…が…したので」
若い…男―――???
続いて外の引き戸に付けた南部鉄器の風鈴が鳴り、軽快な足音を慣らして晃汰の…
「うわぁ…精子くせぇーな」
思いがけない一言に動揺する。
な、
な、
なに言ってるの!!!!
「あ、寝起きか…うっす!」
「こぉーた、うっす!!」
「お前の父ちゃん昨日なぁーにしてた?」
「とぉ…ちゃ?」
子供に変なこと聞かないで。
完全に疑われてる(昨晩は未遂のまま就寝)エッチな匂いって、なに?
しかも匂いの発生源が俺っぽくて晃汰いわく若い男の匂い=精子くさい判定に桃吾が言葉を慎む。
「不衛生な匂いってこと?」
「どぉーせガキが寝た後、夜の営み…だろ」
「してません」
「まぁ、寝起きは汗臭くなるもんだよな。おかわり」
「昌宗様の香りは胸がときめきます。はい、どうぞ」
何歳になれば加齢臭がしてくるのかわからないが、耳の裏の匂い(?)が発酵してくるのは話に聞く。けどここにいる年の順でいえば、俺、桃吾、晃汰…ふたりは男性のシンボルが、ほのかに香る。
晃汰の香水は男のお色気ムンムン系。
体臭と混ざり合い夕暮れにはムスクが香り立つ、ラストノートを纏う。
桃吾はシプレ系。柑橘の香りをブレンドしており、エキゾチックなジャスミンの浅い香りがラストまで心地よい。
年齢による体臭とのマッチング、といわれてもピンとこない俺は夕方から販売するおばんざいや弁当を仕込み、湯気立つ厨房で汗を拭うと生臭い香り…これか…着物の裾で汗を拭う癖があるので気を付けようと思っても、なかなか腰に下げた手ぬぐいを顔に、とはいかない。
体臭は人によって感じ方が違うけど、まさか自分が劇場の男子トイレ相当な精子臭さを放っていたなんて考えるほどにストレスだ。
北都のおやつにちぎりパンを作る桃吾はベンチタイムに小休止。
「桃吾はどんな香水使ってるの?」
「奴隷が香水を使うのは厳禁です」
「あ、そうか…シャンプーとか?お前いい匂いするよな」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
クスッと笑う桃吾がバッグの中から幾つかアイテムを見せてくれた。
「これがリップバームで、シアバターで保湿を…」
「乳製品なの?」
「シアバターは植物の種子から採れるオーガニックの保湿剤です」
「それ唇に塗るの!!」
「はい。100%天然素材なので食べても平気ですよ」
今は男がリップクリーム塗る時代なのか。
コスメ男子ってやつか、さすが金持ちの男は違うな。
他にもシャンプーやシャワージェルなど聞いたことがない専門用語を浴びせられ、話かけたのが間違いだったと後悔しながら、一際美しく輝く小さなスティックに目を奪われる。
蜂の巣を模した彫刻にピンクのダイヤモンドが光を反射させるアトマイザーは父親から譲り受けた大切なものだと終い込む。
「祖父から受け継がれた家宝です」
「へぇ…香水のボトルだろ?森嗣久家のお宝ってことは相当の価値があるな」
桃吾が16歳の誕生日に父親から受け継いだアトマイザーは青嵐が祖父にくれたご褒美。それを聞いた瞬間、俺の顔付が変わる。そうだ、桃吾は3代続く奴隷の一族。このアトマイザーにはきっと青嵐御用達あの香りが潜んでいる。
俺の大っ嫌いな淫乱の媚香
イランイラン
あのディルドくせぇ匂いがすると青嵐が近くにいるんじゃないか警戒する、迷惑な代物。
「青嵐様も精…エッチな香りが…して、興奮します」
今、せいって言わなかった?
借り暮らし時代にオナってバイオハザード扱いされた忌々しい黒歴史が思いだされ、目が虚ろになる。
歌舞伎青嵐のセイの字は、精子のセイ。
二代目・淫乱化猫と呼ばれる俺、ケツから天然ローション垂らす交尾専用ボディで男の精子を絞り出す為だけに存在している肉便器だとバレたら、穏やかな桃吾でさえ性的採取で種をまき散らかす。健全第一!ここでずっと飯を作って引きこもっているのが安泰だ。
「お疲れ様でした。昌宗様…これ、よかったら試してください」
帰り際、迎えに来た戊之頭から紙袋を受取り、カウンターに置いた。
「シャワージェルやバブルバーをご用意致しました」
「あ、昼間言ってたやつか」
「はい。北都ちゃんと一緒にバスタイムをお楽しみください。それではお先に失礼します」
フローラルな香りに興味津々の北都が尻尾ブンブン振って匂いを嗅ぐ。
北都は水が怖くて風呂キライ、こんなんで喜ぶのか?正直なめてたけど青い惑星のようなボールの匂いがお気に入りで包んでる袋をかじって放さない。
「食べちゃだめ、劉青ンちでお風呂借りようね」
店を閉めてから北都を自転車の前かごに乗せる。
あおちゃんがいない時しか前かごには乗れないので内緒のサインを送ると、にっこり笑って頷く。天竺から商店街のアーケードを通って劉青の家までひと漕ぎ、さぁ今夜はふたりで宇宙に冒険だ。
北都の声に目覚めると玲音の姿はなく、気まずさを払拭するように微笑んで北都を撫でる。
「ごはんごはん」
「お腹空いたの?今、作るから退けて…」
「あっち、いる!いる!」
玲音が先に起きて作ってるのかな。そのまま厨房にふらっと出たら桃吾と目が合って、お互い「あ…」全裸の俺に息を飲む、桃吾の視線が下がる。
「お…おはようございます」消入りそうな声で挨拶をする桃吾がお膳に皿を並べる。
「とぉーご、おはよ!」
「北都ちゃんお熱は下がりましたか」
「あいっ、げんきです」
ふたりが話している間に寝間着に袖を通して、下着が…いつの間に脱げていたんだ。玲音め、キスで我慢するってあれ嘘だったのかよ。久しぶりの肌心地に思いだし笑い、布団を畳んでいると、お膳と炊飯器を持って来た桃吾が一瞬、躊躇いがちに口元を結ぶ。
「どうした?」
「いえ、あの…若い男性の香り…が…したので」
若い…男―――???
続いて外の引き戸に付けた南部鉄器の風鈴が鳴り、軽快な足音を慣らして晃汰の…
「うわぁ…精子くせぇーな」
思いがけない一言に動揺する。
な、
な、
なに言ってるの!!!!
「あ、寝起きか…うっす!」
「こぉーた、うっす!!」
「お前の父ちゃん昨日なぁーにしてた?」
「とぉ…ちゃ?」
子供に変なこと聞かないで。
完全に疑われてる(昨晩は未遂のまま就寝)エッチな匂いって、なに?
しかも匂いの発生源が俺っぽくて晃汰いわく若い男の匂い=精子くさい判定に桃吾が言葉を慎む。
「不衛生な匂いってこと?」
「どぉーせガキが寝た後、夜の営み…だろ」
「してません」
「まぁ、寝起きは汗臭くなるもんだよな。おかわり」
「昌宗様の香りは胸がときめきます。はい、どうぞ」
何歳になれば加齢臭がしてくるのかわからないが、耳の裏の匂い(?)が発酵してくるのは話に聞く。けどここにいる年の順でいえば、俺、桃吾、晃汰…ふたりは男性のシンボルが、ほのかに香る。
晃汰の香水は男のお色気ムンムン系。
体臭と混ざり合い夕暮れにはムスクが香り立つ、ラストノートを纏う。
桃吾はシプレ系。柑橘の香りをブレンドしており、エキゾチックなジャスミンの浅い香りがラストまで心地よい。
年齢による体臭とのマッチング、といわれてもピンとこない俺は夕方から販売するおばんざいや弁当を仕込み、湯気立つ厨房で汗を拭うと生臭い香り…これか…着物の裾で汗を拭う癖があるので気を付けようと思っても、なかなか腰に下げた手ぬぐいを顔に、とはいかない。
体臭は人によって感じ方が違うけど、まさか自分が劇場の男子トイレ相当な精子臭さを放っていたなんて考えるほどにストレスだ。
北都のおやつにちぎりパンを作る桃吾はベンチタイムに小休止。
「桃吾はどんな香水使ってるの?」
「奴隷が香水を使うのは厳禁です」
「あ、そうか…シャンプーとか?お前いい匂いするよな」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
クスッと笑う桃吾がバッグの中から幾つかアイテムを見せてくれた。
「これがリップバームで、シアバターで保湿を…」
「乳製品なの?」
「シアバターは植物の種子から採れるオーガニックの保湿剤です」
「それ唇に塗るの!!」
「はい。100%天然素材なので食べても平気ですよ」
今は男がリップクリーム塗る時代なのか。
コスメ男子ってやつか、さすが金持ちの男は違うな。
他にもシャンプーやシャワージェルなど聞いたことがない専門用語を浴びせられ、話かけたのが間違いだったと後悔しながら、一際美しく輝く小さなスティックに目を奪われる。
蜂の巣を模した彫刻にピンクのダイヤモンドが光を反射させるアトマイザーは父親から譲り受けた大切なものだと終い込む。
「祖父から受け継がれた家宝です」
「へぇ…香水のボトルだろ?森嗣久家のお宝ってことは相当の価値があるな」
桃吾が16歳の誕生日に父親から受け継いだアトマイザーは青嵐が祖父にくれたご褒美。それを聞いた瞬間、俺の顔付が変わる。そうだ、桃吾は3代続く奴隷の一族。このアトマイザーにはきっと青嵐御用達あの香りが潜んでいる。
俺の大っ嫌いな淫乱の媚香
イランイラン
あのディルドくせぇ匂いがすると青嵐が近くにいるんじゃないか警戒する、迷惑な代物。
「青嵐様も精…エッチな香りが…して、興奮します」
今、せいって言わなかった?
借り暮らし時代にオナってバイオハザード扱いされた忌々しい黒歴史が思いだされ、目が虚ろになる。
歌舞伎青嵐のセイの字は、精子のセイ。
二代目・淫乱化猫と呼ばれる俺、ケツから天然ローション垂らす交尾専用ボディで男の精子を絞り出す為だけに存在している肉便器だとバレたら、穏やかな桃吾でさえ性的採取で種をまき散らかす。健全第一!ここでずっと飯を作って引きこもっているのが安泰だ。
「お疲れ様でした。昌宗様…これ、よかったら試してください」
帰り際、迎えに来た戊之頭から紙袋を受取り、カウンターに置いた。
「シャワージェルやバブルバーをご用意致しました」
「あ、昼間言ってたやつか」
「はい。北都ちゃんと一緒にバスタイムをお楽しみください。それではお先に失礼します」
フローラルな香りに興味津々の北都が尻尾ブンブン振って匂いを嗅ぐ。
北都は水が怖くて風呂キライ、こんなんで喜ぶのか?正直なめてたけど青い惑星のようなボールの匂いがお気に入りで包んでる袋をかじって放さない。
「食べちゃだめ、劉青ンちでお風呂借りようね」
店を閉めてから北都を自転車の前かごに乗せる。
あおちゃんがいない時しか前かごには乗れないので内緒のサインを送ると、にっこり笑って頷く。天竺から商店街のアーケードを通って劉青の家までひと漕ぎ、さぁ今夜はふたりで宇宙に冒険だ。
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