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幽韻之志

55/昂ずれど碕、儚く燃ゆる。

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 「んっもぉー!みんな大袈裟だよ」

 あおちゃんが腰に手を当ててフォローアップミルクを飲み干す。
 咄嗟に顔を庇った衝撃を左半身に受け、肩から腕にかけて内出血が広がる様子に玲音は…「鍛衡たんこうは気の波動で瞬間的に貫通するので問題は無い」というが夕方から発熱する。

 「39℃…熱冷まし飲ませた方がいいのかな」
 「乱気の作用だ。自然と治る、と思う」

 …と思うじゃねぇーよ!

 お前等の闘気を浴びて打撲からの発熱だぞ。
 もう寝る時間なのに、はしゃいで深夜の大運動が始まるのは熱せん妄でハイ?
 あおちゃんに噛みついて髪飾りを返さないから喧嘩になり、やきもちと寝グズりでギャン泣き。今夜はあおちゃんを本家に帰して、北都の看病をすることにした。

 店の奥にある座敷に布団を敷いて、北都を呼ぶ。

 「おいで、寝るよ」

 北都は身を寄せて寝る習性があり、寝間着の襟元に頭を突っ込み潜り込んだら遊び始めるので下着一枚で横になると擦り寄って来る。よしよし…頭を撫でて抱きしめると安心したように眠る。
 玲音は就寝時、全裸。
 俺なら…ドキドキして絶対に寝れない。
 退院してからまた一段と鍛え上げて痩せていた胸が逞しく膨らみ、どうしようもない程セクシーで目のやり場に困る。汗のフレグランスも堪らなく刺激的で違うこと考えてないと勃起する俺はただの変態。
 北都は無性別で幼く可愛いけど、ダディに憧れて…
 将来は官能的で逞しく育つのだろうか。

 どれくらい眠ったのか
 ふと気が付いて、眠る北都を触ると体温が下がっていつも通り、腹見せポーズで寝相が悪い。引き寄せると寝ぼけて噛みついたまま俺の肌を吸う。
 こういう所が、まだ赤ちゃんだな…くすぐったいぞ、こーらっそこはだめ。
 
 カチャ…背後からの金音に続いて…
 長い鞘が目の前に降りて、北都の小さな体が遠ざかる。


 「昌に愛撫するなんて百年早い」


 いつから居たのか
 全く気が付かなかったことに恥ずかしくなり寝間着に手を伸ばすと、遮られるばかりか、背後から抱きしめられ脚の間に玲音の30センチ以上長い脚を挟める格好でマウントを取られる。

 「ちょ…やめろって」
 「晃汰は良くて俺はダメなの?」
 「北都がいるだろ…さ、触んなっ」
 「じゃあキスで我慢する」

 俺が我慢できねぇーよ!離れろ、ああ…クソッ…顔が近づくと体が反応して、声が漏れ…そうになる。
 玲音はゲイじゃない。男の喘ぎ声は嫌いだし、そもそも興奮の度合いが普通じゃないから初夜は最悪の結果に。数々の屈辱的な台詞と行為が脳裏を過り、脇から差し込まれる手を挟んで応戦!やめろ、そこ触られて何度もイき…ッ…あ、声が漏れる口を手で押さえながら弱点特攻の先っぽを伏せて隠す。

 「無駄な抵抗はやめなさい」

 必死に抵抗しても圧倒的な力の差でねじ伏せられる。
 嫌じゃないのに「やめて」と言っているのではなく本当に嫌…玲音のことは好きだけど、体の相性や求める方向性が余りにも違い過ぎるのが嫌なのであって、もっと恋人風…というか…精神的な結びつきや体感としての気持ち良さを玲音とは共有できないことが辛く虚しい。
 自分の弱みを見せられない。
 本当に好きだから、傷ついてしまう自分が嫌いなんだよ。許せないのは、そこだ。

 「もう、お前のご主人様を辞めたい」

 ぐ…っと眉間に皺を寄せる玲音の反応に顔を反らして、唇から逃れる。

 「お前なんで戻って来たの」
 「なんで、とは」
 「俺のこと一度捨てた癖に…なんで戻って来たのか、聞いてンだよ」
 「そんなの俺の勝手だろ」
 「花形の時に俺の子守されられて嫌な思いを散々してきたのに、初めての時だって…俺として何がいいんだ?お前の方がよっほど…ご主人様みたいだ」
 「昌がいい理由は俺だけが知っていればいい」

 いつもより深い声色で…

 ま
 
 さ

 ぐ

 る

 な

 やめろ!子育て=オナ禁してんだからるだろ、バカ!! 

 お互い手の内は見せないということか。
 俺が駄々コネたくらいじゃ動揺しないのは奇々怪々の修羅場を潜り抜けて来た手慣れか、それとも大人の貫禄か、俺ぐらい手中に収めることなんかお前にとっては容易い事だな、ああそうに決まってる。
 どうして俺のことがいいの?なんて…
 愚問を心から恥じて降参する俺の悲しみに、どうか気が付くことなく乱暴に思う存分、犯してくれ。

 抱かれてしまえば誰でも一緒
 快楽に濡れて享受されたら俺は、きっと…お前の従順な犬になれる。

 汚い俺は夜に隠れて、胸に爪を立てた。
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