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幽韻之志
52/静臥朗々たる青厳の主とは
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数日後、スタッフの腕を擦り抜けてあおちゃんが走り出す。
ふわふわな癖っ毛がブラシに絡まって痛かったのか、俺に髪を結って欲しいとおねだりする愛らしい表情をカメラが捉える。
「今日はここ、ねじねじして?」
「はい。お膝に座って…そう…いい子だね」
髪を梳かしながらリボンのついたゴムを選ぶ、あおちゃんはカメラを意識してひとつ摘まんで見せた。
手元がアップになり指の間でまとまっていく様子は別撮りで、どんな形で編集されて仕上がるのかは予想が出来ないけど俺はあくまでも青木昌宗というブランドのイメージを守りながら、新しい情報を常に世に送り出す仕掛け人。
歌舞伎青嵐とは異なる、思想
現代的なSM論破をしたって構わない。
情報社会の中で今まで在るものを現代的な解釈で繰り返すのではなく、誰もやってない事を生み出すのは、個性が重要。
青嵐が創り出した「変わらないもの」は青輝丸が受け継いで紡ぎ、俺は俺のままでいいと科戸さんに享受されたことを誇りに思いたい。
少し前髪が伸びているのを気にしていたのでピン留め、山吹色のつまみ細工の花飾りを添えて整えると満足気に両手を広げて自分の姿を見せる。
北都も同じようにして見せるけど、子供特有の…仕草…なんだろうか。
セットアップが終わりスチール撮影のスタジオに移動。
普段は泪町の店や劉青の邸宅を間借りしているが、普段の暮らしを撮影。劉青の邸宅は延床面積が首相官邸とほぼ同じで平屋、中心が庭になっている四角い構造で周囲は緑地で囲まれている。
泪町は戦後の闇市が基のドヤ街だが、そこに位置する工業地に国の要請を受けて建築した為、とにかく敷地が広大で家の裏に専用の飛行場と、地下に私鉄まで存在している。青輝丸の御所まで20キロの距離をわずか9分で高速移動する目的は、全て劉青たったひとりの為。
体内に猛毒を宿す劉青の存在自体が核兵器であり、環境破壊…俺が同居して死ねば総合的な整備システムに問題がある。
まるで炭鉱の洞穴に連れて行かれるカナリアの如し、俺は見張り番。
これを知るのは青の一門の隷属と、六喩会の家族だけ。
撮影スタッフはいつ死ぬかもわからない事を知らされずに雇われている。死んだとしても表沙汰になることはまず無い。
「一旦休憩入りまーす」スタッフの声に胸を撫で下ろす。
あおちゃんはまだ1歳にならない小さな女の子で、体力がそれほど無い。
撮影の合間に本を読んだり、宿題をこなして食事の後はお昼寝の生活スケジュールはそのまま、出来なければ配信は中止すると科戸さんから厳しく仰せ付かっている。
「午後から昌宗様の撮影は、別室で…」
打ち合わせだとインタビュー、だが別室という響きに嫌な予感。
あおちゃんと共演の日常系はあくまでもジャンルのひとつ。調教師・青木昌宗の確固たるブランド展開も本格的になれば心を脱いで賭す。SM経験は2年、素人同然の俺が雄弁に語れる筈もないと伏し目がちに唇を結ぶと木欒子が腕組み一言。
「誰なら、いいんですか」
そう言われても…誰なら…適任を宛がうに決まってる。
だとしたら絶対に無理な相手
コイツらの"敵"を招き入れるより他、断る方法が無い。
「瑠鶯……とか?」
すぐに出て来る名前がそれしか思いつかなかったが辺り一面、臭い虫でも噛んだような顔を歪め、木欒子においては表情ひとつ変えずに静止。
まだ俺が隷属だった頃、瑠鶯は期待の隷属候補といわれた麗人。
アナスタシアでは関東随一のミドルシニア調教師・丙對馬の一番弟子。類稀なる美しさと天性の才能を持つ瑠鶯と青輝丸の隷属は折り合いが非常に悪く結果、二大勢力分かれて後継のリゾは運営している。
過去に丙を連れ出し、デート飯…したことが原因で"誘拐犯"そして足抜けの容疑に掛けられた俺は青の一門を破門され、六喩会へと逃れてお家騒動に発展。
騒ぎになった瑠鶯を選抜するなんて不測の事態だ。
「アイツでいいなら俺でもいいだろ」
景虎ど天然宣言に踵を返す
木欒子は ガ チ ギ レ 寸前で、異様な雰囲気に包まれるのが面白くて、口元を隠して笑っていると玲音がため息をつきながら椅子から立ち上がる。
「昌宗様の完全復帰にリスクは付きもの。彼は…二代目歌舞伎青嵐、静臥朗々と人を食う修羅にして青厳の主。心は童貞の昌宗様が隷属如きに従うとでも?」
ど……っ!!!!
体は(済)で悪かったな。
玲音の圧に一歩も引かない木欒子の貫禄がぶつかり合う現場は一触即発。
まぁ瑠鶯を相手にするのは冗談だけど、縄捌きを忘れてるから指が戻ったら、お前等を順に縛り上げてやると愛想笑い。
「景虎くらいガタイ良いと縄よりチェーンだな」
「拘束…ですか?」
「大胸筋が大きいから両手を縛って立たせるだけでも見応えはある。体に巻いてもセクシーだが、太いしめ縄も似合いそうだな」
「そ、そんな…やっ…たこと、な……あ……ッ!!」
「視線を注がれるだけで敏感になって、ほら…どうした?顔が赤いよ」
何気ない言葉のあやとりに下半身が反応する景虎の動揺から視線を離し、差し入れのサンドイッチを頬張る。悪戯な俺に項垂れる木欒子が眼鏡のチェーンを払い、深いため息をひとつ、その瞳の奥に…期待…を孕んでいる事くらい俺にはお見通しだ。
ふわふわな癖っ毛がブラシに絡まって痛かったのか、俺に髪を結って欲しいとおねだりする愛らしい表情をカメラが捉える。
「今日はここ、ねじねじして?」
「はい。お膝に座って…そう…いい子だね」
髪を梳かしながらリボンのついたゴムを選ぶ、あおちゃんはカメラを意識してひとつ摘まんで見せた。
手元がアップになり指の間でまとまっていく様子は別撮りで、どんな形で編集されて仕上がるのかは予想が出来ないけど俺はあくまでも青木昌宗というブランドのイメージを守りながら、新しい情報を常に世に送り出す仕掛け人。
歌舞伎青嵐とは異なる、思想
現代的なSM論破をしたって構わない。
情報社会の中で今まで在るものを現代的な解釈で繰り返すのではなく、誰もやってない事を生み出すのは、個性が重要。
青嵐が創り出した「変わらないもの」は青輝丸が受け継いで紡ぎ、俺は俺のままでいいと科戸さんに享受されたことを誇りに思いたい。
少し前髪が伸びているのを気にしていたのでピン留め、山吹色のつまみ細工の花飾りを添えて整えると満足気に両手を広げて自分の姿を見せる。
北都も同じようにして見せるけど、子供特有の…仕草…なんだろうか。
セットアップが終わりスチール撮影のスタジオに移動。
普段は泪町の店や劉青の邸宅を間借りしているが、普段の暮らしを撮影。劉青の邸宅は延床面積が首相官邸とほぼ同じで平屋、中心が庭になっている四角い構造で周囲は緑地で囲まれている。
泪町は戦後の闇市が基のドヤ街だが、そこに位置する工業地に国の要請を受けて建築した為、とにかく敷地が広大で家の裏に専用の飛行場と、地下に私鉄まで存在している。青輝丸の御所まで20キロの距離をわずか9分で高速移動する目的は、全て劉青たったひとりの為。
体内に猛毒を宿す劉青の存在自体が核兵器であり、環境破壊…俺が同居して死ねば総合的な整備システムに問題がある。
まるで炭鉱の洞穴に連れて行かれるカナリアの如し、俺は見張り番。
これを知るのは青の一門の隷属と、六喩会の家族だけ。
撮影スタッフはいつ死ぬかもわからない事を知らされずに雇われている。死んだとしても表沙汰になることはまず無い。
「一旦休憩入りまーす」スタッフの声に胸を撫で下ろす。
あおちゃんはまだ1歳にならない小さな女の子で、体力がそれほど無い。
撮影の合間に本を読んだり、宿題をこなして食事の後はお昼寝の生活スケジュールはそのまま、出来なければ配信は中止すると科戸さんから厳しく仰せ付かっている。
「午後から昌宗様の撮影は、別室で…」
打ち合わせだとインタビュー、だが別室という響きに嫌な予感。
あおちゃんと共演の日常系はあくまでもジャンルのひとつ。調教師・青木昌宗の確固たるブランド展開も本格的になれば心を脱いで賭す。SM経験は2年、素人同然の俺が雄弁に語れる筈もないと伏し目がちに唇を結ぶと木欒子が腕組み一言。
「誰なら、いいんですか」
そう言われても…誰なら…適任を宛がうに決まってる。
だとしたら絶対に無理な相手
コイツらの"敵"を招き入れるより他、断る方法が無い。
「瑠鶯……とか?」
すぐに出て来る名前がそれしか思いつかなかったが辺り一面、臭い虫でも噛んだような顔を歪め、木欒子においては表情ひとつ変えずに静止。
まだ俺が隷属だった頃、瑠鶯は期待の隷属候補といわれた麗人。
アナスタシアでは関東随一のミドルシニア調教師・丙對馬の一番弟子。類稀なる美しさと天性の才能を持つ瑠鶯と青輝丸の隷属は折り合いが非常に悪く結果、二大勢力分かれて後継のリゾは運営している。
過去に丙を連れ出し、デート飯…したことが原因で"誘拐犯"そして足抜けの容疑に掛けられた俺は青の一門を破門され、六喩会へと逃れてお家騒動に発展。
騒ぎになった瑠鶯を選抜するなんて不測の事態だ。
「アイツでいいなら俺でもいいだろ」
景虎ど天然宣言に踵を返す
木欒子は ガ チ ギ レ 寸前で、異様な雰囲気に包まれるのが面白くて、口元を隠して笑っていると玲音がため息をつきながら椅子から立ち上がる。
「昌宗様の完全復帰にリスクは付きもの。彼は…二代目歌舞伎青嵐、静臥朗々と人を食う修羅にして青厳の主。心は童貞の昌宗様が隷属如きに従うとでも?」
ど……っ!!!!
体は(済)で悪かったな。
玲音の圧に一歩も引かない木欒子の貫禄がぶつかり合う現場は一触即発。
まぁ瑠鶯を相手にするのは冗談だけど、縄捌きを忘れてるから指が戻ったら、お前等を順に縛り上げてやると愛想笑い。
「景虎くらいガタイ良いと縄よりチェーンだな」
「拘束…ですか?」
「大胸筋が大きいから両手を縛って立たせるだけでも見応えはある。体に巻いてもセクシーだが、太いしめ縄も似合いそうだな」
「そ、そんな…やっ…たこと、な……あ……ッ!!」
「視線を注がれるだけで敏感になって、ほら…どうした?顔が赤いよ」
何気ない言葉のあやとりに下半身が反応する景虎の動揺から視線を離し、差し入れのサンドイッチを頬張る。悪戯な俺に項垂れる木欒子が眼鏡のチェーンを払い、深いため息をひとつ、その瞳の奥に…期待…を孕んでいる事くらい俺にはお見通しだ。
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