俺のご主人様がこんなに優しいわけがない

及川まゆら

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幽韻之志

51/斯く一逸き雅を成し向ける

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 パンツが見えてしまう(青輝丸あおきまるの興奮要素)


 靴は諦めてスカートをもう少し長めの膝丈に整えてリモート会議に出席。
 あおちゃんは本家でお稽古
 もうすぐ1歳。普通なら一升餅を背負って歩くのがやっとな年頃なのに科戸さんに投げ飛ばされたら受身を取れる迄、成長しているのに対して「子供はあっという間に大きくなりますね」と、笑う鬼。

 「高い高いなんてやったら銭湯の煙突より高く飛ばされそうだな」
 「間違いなくそうなりますね。もう少し左に、開けますか」
 「ああ、すまない」
 「肩を落として、合わせが…昌宗…緊張してる?」

 玲音の顔が近い。恥ずかしがって交わすと肩を撫でられ、耳元で囁く。

 「太いので…苦しければ、お申し付けください」

 いやらしく聞こえるのは俺にその気があるから。違う、そうじゃない。
 正装で御召おめしの袴を履くことになり、ヘアスタイルを整えて化粧までするリモート会議の実態は青輝丸の配信。それも生で!俺が出演することは事前にRizoNEXIA(通称リゾ)で告知されており厳選なる抽選で選ばれし300名の前に晒される。
 御所内で撮影された俺の画像が世間に出回り、死亡説や陰謀説などあらゆる身勝手な情報を払拭する為の対談という形で、歌舞伎青嵐の品格を守るのが目的だ。
 汗が出ないメイクを施された俺はいつもと違って凛々しく、妖艶。
 多少の打ち合わせはしたがディレクターの容姿が目を見張るほどの美形、誰かと思えば海外の高級車メーカー勤務の経験がある男、俺でも名前を知っている大物だ。バカみたいに金を掛けた設えに緊張しない筈がない、俺は息を呑んでリモート会議が始まる合図に小さく頷いた。

 物々しい雰囲気かと思いきや、気さくな挨拶とスタッフの笑い声で始まる。

 質疑応答も普段使いの自然な言葉でいいと言われたが…

 「へぇ…とめきは普段、何してるの?」
 「最近は料理、とか…その…家庭料理の粋ですが」

 と、と、とめき、て言わないで!!
 これ全世界配信なのに新造の名前で未だに呼ばれるのが恥ずかしくて、言葉を選んでいると青輝丸が子育てをしていることを暴露。もうすぐ1歳になる一人娘がいる話になり、口から心臓が飛び出そう。
 詳しく言わないとしても、あおちゃんの存在を世間に公表していいのか?

 「まさかお前がパパになっていたなんて」
 「娘にこれ…見られたりしないよね?」
 「今度お嬢さんとご一緒に配信しませんか」
 「えぇ…仕事の事を今まで話した事がないので、堪忍してください」
 「あ、今のエロくていいですねぇ」
 「無自覚なんだよ、コイツ」

 何がどうなってエロいのか、よくわからんが緊張して冷たくなった指先を合わせて息を吐きかけると投銭アラートぽぽぽぽーん!
 一瞬で1000$
 画面の下に、縦一列で表示されるシステムに冷や汗、変なこと言えねぇ!!
 青輝丸は慣れた様子で軽快に話しているが、俺は最後まで言葉を詰まらせながら姿勢を正して脇を閉めて、二丁目のオカマを微妙に再現したかのような状態で広報の画面に切り替わる。

 「ダメだ、全然喋れない」
 「それがいいんだろ。生配信に求められるのはリアルだ」

 ヘアスタイルや胸元を手直しされる青輝丸はプロポリスのジェルを飲み込んでさわやかな吐息をつくと俺をみつめて腕を伸ばす。素直に応じて受取り、おやつを食べると美味しくて青輝丸の手から直接食べている所で画面が切り替わり、視聴者待望のツーショットに電撃速報。


 <伝説の調教師・青木昌宗が現役…復帰…?!>


 トレンド第一位を獲得。
 アナスタシアの後継にあたるリゾは業界最大手の会員制アダルトサイト。
 現在配信が行われているのはプライベートモードで年間利用額が一定額を超えたハードユーザーだけが利用できるゴールデンタイム。その一部が抜粋されツーショットがニュースになれば一般ユーザーは呼吸困難に陥り、口から泡を吹いて緊急搬送されてもおかしくはない。
 青輝丸の古参ファンなんか…もう、青輝丸の手から渡るおやつをすぐに調べ上げてインフルエンサーが感知、完売。
 波及効果でメディアもついてくる、トレンドは発生源よりも拡散力の強さだ。
 それほどの影響力を兼ね備えながら無自覚にいつも通り振る舞う俺と、狙って演出する青輝丸のプロ根性が時代を創る。俺のチャンネルが今後立ち上がるらしく全て有料、高額になるほど俺のプライベートに近づける商法。
 SMプレイは一切無し。
 脱がずとも稼げるなんて、現場入りしてた下済み時代が嘘みたいだ。

 「チャンネル登録宜しくお願い致します」

 俺の挨拶に投銭が加速してリモート会議は無事、終了。
 僅か1時間程度の配信で小数点が…

 「3カン、順調なスタートです」 
 「キラの配信で最高額か?」
 「やはりお二方揃うと画が強い、コラボ配信を毎週やりたいですね」
 カンは、カンマの数で…10…とはいえ事前の広報に相当額を投じているのだから当然の報酬だろう。
 久しぶりに会う景虎はスーツが弾けそうな筋肉を蓄え、シャツのボタンを開けており、目のやり場が無い俺は遺憾砲を放つ。

 「配信が家でも出来るなら…やるけど?」

 俺の何気ない一言に北都を抱き上げる玲音からNGが飛ぶ。

 「個人の配信じゃないんだよ、わかってるの?」
 「わか…ん、ない」

 しょぼくれる俺を背に両手を広げる北都が首を横に振りながら

 「ダディ!まさむねいじめないで、いやいやっ」

 睨まれたら怖いのにイカ耳で応戦する北都の愛らしい姿をハァハァしながら盗撮する青輝丸いわく日常系であおちゃんも出演する方法を検討。コンセプトがまとまり次第、撮影開始で新たな「仕事」がこの春から始動する。
 青木昌宗としてこれまで何か働きがあったわけではなく科戸さんから店を預かり、厄介事ばかりで一銭にもならない俺が稼げる道は鉄板アダルトを舞台にした、ここしかない。
 科戸さんはあっさりOK
 あおちゃんは令朝参りを立派に務めて抜群の知名度がある最高のパートナー。まずは録画を撮り溜めて20分程度のトークから規模を広げていく方針で決まった。

 「伝説の調教師が子育て世代に贈る、ウェルネス…癒し、新ジャンルだな」
 「晃汰も友情出演してくれると助かる」
 「アウトドアやりてぇーな、焚火」

 青…姦…じゃなくてキャンプね、なんだ男っぽい発想で安心したよと薩摩焼酎を注いだグラスを差し出せばセクシーな吐息が漏れる。

 「顔出しNGの個撮は、どうよ」
 「お断りします。そんなの他人に見せなくてもいいだろ」
 「あー、そう?」

 ニヤニヤしてるけど晃汰はGV男優、リゾの大きな収入源。
 人気の個撮シリーズはここ数年の社会的背景を受けて巨大マーケットに変貌。有料動画が無料サイトに流出、情報開示請求のビジネスが発達して組織的な採取が個人に向けられる手法だ。
 いわゆる不労所得、不当な利益を承けようとする副業や税金を逃れる者は後を絶たない。副産物を煽り、法の元、不特定多数を相手に仕掛けるのは永遠に利益を生み出すサイクルでその一巡を鶴の一声で施行する科戸さんの権力者らしい思想。
 息子を利用して一儲け、時代を創る事に何の躊躇いもない悪徳商法に飛んで火に居る…本能か。
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