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幽韻之志
41/鬼仔の隠れ彌埜乎
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鬼はそと、福はうち。
炒った大豆をぱらぱらと撒く俺を眺める晃汰は、開け放たれた窓際で煙草を吹かす。
「鬼は外…か。窓閉めるぞ」
劉青の邸宅は広いので鬼の間に気の向く儘、豆を撒いては玲音が片付ける。
まるで子供のやり取りだが厄払いに関しては理解が深い、劉青の計らいで今夜は赤飯とうぐすいの煮豆を食べる節分の夜に小鬼が来た。
「あお…ちゃん。えっ!どうしたの」
半袖の作務衣姿に裸足で外に立つあおちゃんは、背中に風呂敷包みを背負って寒さに駆け足をする。
こんな夜中にひとりで、どうやってここまで来たの?
半纏を脱ぎながら急ぎ早、あおちゃんを包むと微笑みながら俺に言った。
「家出…しちゃった」
生後10ヶ月で家出
科戸さんに勘当された?心当たりが多過ぎて状況を把握できず困惑する俺とは裏腹に笑う小鬼がそっと囁く。
「この日のためにお小遣いを貯めたの、見て?」
計画的犯行?
風呂敷の中から出てきたのは大量のご祝儀袋と、10枚一束にされた札束と古い金貨。イギリス最古の金貨だ。世界に数枚しか存在しない54万ポンド(約8000万円)これは歴代天皇陛下即位の記念金貨。
どうしてこれを子供にやるんだ、常識の概念が狂ってる。
「パジャマで家出か。追っ手は?」
「彼奴ら全員腰抜けのバカだよ。二度まで同じ手を食らうかっつーの」
「ふーん。で、軍資金はどうやって…ああ、これか」
晃汰が賽子を指で摘まむと、はっとするあおちゃんが口を尖らせる。
「す、すごろくの賽子…だよ?」
「大人のトランプやってんじゃないの」
「しらなぁーい」
「一月は松、二月は?」
「梅」
「すがわらは一役何点?」
「20点…バカにすんな、勝負してやろうか」
完全に花札の役と点払いを覚えている。
聞けば本家は賭博の名所、昔ながらのチンチロリンや麻雀他、日常的に楽しめるシステム搭載。風呂敷の中から出てきた総額から犯罪のニオイが…
「悪銭身に付かず、これは俺が責任を以て預かります」
「とめきは無職の引きニートだから、全部あげる」
「どこでそんな言葉を覚えてくるの」
「お父様が言ってた」
おのれ科戸忠興め!俺の位置付けをニートだなんて、人生の休暇中だと脚色してくれたっていいじゃないか。無職で社会的信用と貯蓄は皆無であることはあおちゃんに知られたくなかったのに、まぁこの様子じゃ俺がSM調教師だった過去もバレるのは時間の問題だな。
「科戸さんに連絡して迎えに来て貰おう」
「まぁ待て、ウチで匿うのは目に見えてる。問題は…」
なぜ、家出をしたのか?
節分の夜にパジャマで家出をした理由を言わないあおちゃんは口を尖らせたまま両足をブラブラさせてチラッと俺を見る。そこへ飛び込んで来た玲音があおちゃんを見て安否確認を急ぐ。
あおちゃんの失踪
及び本家にトラップが仕掛けらけ、負傷者は23名。現在も犯人を捜している様子が伝えられた瞬間すっとぼけるてラララ、歌って他人事。
「からくり装置の餅罠や跳ね上げ式の括罠が随所に、悪戯が過ぎます」
「キャハハ!お父様は一度も掛からなかったのに」
「科戸さんは?」
「御用邸におられたので無事です」
「此れしきの事で私が受けた屈辱は晴れないんだから…」
まだ生え揃わない歯を食いしばり、玲音を睨み返す。
「アイツが土下座するまで、ぜぇーったいに帰らないんだから!!」
椅子の上で仁王立ちするあおちゃんご立腹の理由は許嫁・森寛九朗との婚約。
え?……婚約……肩を落として首を傾げると慌てて取り繕う。
「誤解しないで!親同士が勝手に決めたことなの」
「ああ、うん…」
「レンのばかぁ!!とめきに言わないでよ、内緒にしてたのに…」
森寛九朗は皇室の流れを組む財閥の生き残りで御曹司、現在8歳の秀才で縁談は親同士が進めていると玲音が耳打ちする。一筋縄ではいかぬ幼女の遊び相手を努める少年は婚約を意識しており、一生添い遂げる事を科戸さんに報告。盗み聞きしたあおちゃんは婚約破棄だと怒り狂ってこの騒動。
僅か10ヶ月にして荒ぶる嵐のお姫様
本当に嫁に行けるのか?早いとこ間違えて貰ってくれる相手の弱みを握って手を打っておけと誰しもが口を閉ざす状況を俺が宥める。
「ご縁は大切に。あおちゃんは自分の好きな人に嫌われたら悲しくなるでしょう。俺は意地悪なんかしない子だって信じてるよ?」
布団の上に寝転がる姿は小さな女の子だが、見た目からは想像もできない言葉が飛び出す。
ふたりありてまよう、騒がず心静かに待てば吉。
「おみくじに書いてたの」
「ふたり?恋敵がいるのかな」
「もぉーやめてよぉ…とめきだったら結婚してもいーけど?」
「俺と?気持ちは嬉しいけど現実的じゃないな」
「どうして?あおちゃんはとめきのこと大好きだよ」
「ありがとう。結婚は家と家が繋がる為の仕来りなんだ。あおちゃんは本家の大切なお姫様で、誰よりも幸せになる権利がある。俺じゃ幸せにできないよ」
「ねぇとめき…」
「うん、なに?」
「とめきと一緒にいるとここがあったかくなって、いい子になれるの」
胸に手を当て、目を閉じる。
それは俺の祈りが届いてる証拠。あおちゃんにかけられた"魔法"だと科戸さんの教えを信じる、純粋な瞳に込められた願いは永遠に叶うことは無いだろう。
炒った大豆をぱらぱらと撒く俺を眺める晃汰は、開け放たれた窓際で煙草を吹かす。
「鬼は外…か。窓閉めるぞ」
劉青の邸宅は広いので鬼の間に気の向く儘、豆を撒いては玲音が片付ける。
まるで子供のやり取りだが厄払いに関しては理解が深い、劉青の計らいで今夜は赤飯とうぐすいの煮豆を食べる節分の夜に小鬼が来た。
「あお…ちゃん。えっ!どうしたの」
半袖の作務衣姿に裸足で外に立つあおちゃんは、背中に風呂敷包みを背負って寒さに駆け足をする。
こんな夜中にひとりで、どうやってここまで来たの?
半纏を脱ぎながら急ぎ早、あおちゃんを包むと微笑みながら俺に言った。
「家出…しちゃった」
生後10ヶ月で家出
科戸さんに勘当された?心当たりが多過ぎて状況を把握できず困惑する俺とは裏腹に笑う小鬼がそっと囁く。
「この日のためにお小遣いを貯めたの、見て?」
計画的犯行?
風呂敷の中から出てきたのは大量のご祝儀袋と、10枚一束にされた札束と古い金貨。イギリス最古の金貨だ。世界に数枚しか存在しない54万ポンド(約8000万円)これは歴代天皇陛下即位の記念金貨。
どうしてこれを子供にやるんだ、常識の概念が狂ってる。
「パジャマで家出か。追っ手は?」
「彼奴ら全員腰抜けのバカだよ。二度まで同じ手を食らうかっつーの」
「ふーん。で、軍資金はどうやって…ああ、これか」
晃汰が賽子を指で摘まむと、はっとするあおちゃんが口を尖らせる。
「す、すごろくの賽子…だよ?」
「大人のトランプやってんじゃないの」
「しらなぁーい」
「一月は松、二月は?」
「梅」
「すがわらは一役何点?」
「20点…バカにすんな、勝負してやろうか」
完全に花札の役と点払いを覚えている。
聞けば本家は賭博の名所、昔ながらのチンチロリンや麻雀他、日常的に楽しめるシステム搭載。風呂敷の中から出てきた総額から犯罪のニオイが…
「悪銭身に付かず、これは俺が責任を以て預かります」
「とめきは無職の引きニートだから、全部あげる」
「どこでそんな言葉を覚えてくるの」
「お父様が言ってた」
おのれ科戸忠興め!俺の位置付けをニートだなんて、人生の休暇中だと脚色してくれたっていいじゃないか。無職で社会的信用と貯蓄は皆無であることはあおちゃんに知られたくなかったのに、まぁこの様子じゃ俺がSM調教師だった過去もバレるのは時間の問題だな。
「科戸さんに連絡して迎えに来て貰おう」
「まぁ待て、ウチで匿うのは目に見えてる。問題は…」
なぜ、家出をしたのか?
節分の夜にパジャマで家出をした理由を言わないあおちゃんは口を尖らせたまま両足をブラブラさせてチラッと俺を見る。そこへ飛び込んで来た玲音があおちゃんを見て安否確認を急ぐ。
あおちゃんの失踪
及び本家にトラップが仕掛けらけ、負傷者は23名。現在も犯人を捜している様子が伝えられた瞬間すっとぼけるてラララ、歌って他人事。
「からくり装置の餅罠や跳ね上げ式の括罠が随所に、悪戯が過ぎます」
「キャハハ!お父様は一度も掛からなかったのに」
「科戸さんは?」
「御用邸におられたので無事です」
「此れしきの事で私が受けた屈辱は晴れないんだから…」
まだ生え揃わない歯を食いしばり、玲音を睨み返す。
「アイツが土下座するまで、ぜぇーったいに帰らないんだから!!」
椅子の上で仁王立ちするあおちゃんご立腹の理由は許嫁・森寛九朗との婚約。
え?……婚約……肩を落として首を傾げると慌てて取り繕う。
「誤解しないで!親同士が勝手に決めたことなの」
「ああ、うん…」
「レンのばかぁ!!とめきに言わないでよ、内緒にしてたのに…」
森寛九朗は皇室の流れを組む財閥の生き残りで御曹司、現在8歳の秀才で縁談は親同士が進めていると玲音が耳打ちする。一筋縄ではいかぬ幼女の遊び相手を努める少年は婚約を意識しており、一生添い遂げる事を科戸さんに報告。盗み聞きしたあおちゃんは婚約破棄だと怒り狂ってこの騒動。
僅か10ヶ月にして荒ぶる嵐のお姫様
本当に嫁に行けるのか?早いとこ間違えて貰ってくれる相手の弱みを握って手を打っておけと誰しもが口を閉ざす状況を俺が宥める。
「ご縁は大切に。あおちゃんは自分の好きな人に嫌われたら悲しくなるでしょう。俺は意地悪なんかしない子だって信じてるよ?」
布団の上に寝転がる姿は小さな女の子だが、見た目からは想像もできない言葉が飛び出す。
ふたりありてまよう、騒がず心静かに待てば吉。
「おみくじに書いてたの」
「ふたり?恋敵がいるのかな」
「もぉーやめてよぉ…とめきだったら結婚してもいーけど?」
「俺と?気持ちは嬉しいけど現実的じゃないな」
「どうして?あおちゃんはとめきのこと大好きだよ」
「ありがとう。結婚は家と家が繋がる為の仕来りなんだ。あおちゃんは本家の大切なお姫様で、誰よりも幸せになる権利がある。俺じゃ幸せにできないよ」
「ねぇとめき…」
「うん、なに?」
「とめきと一緒にいるとここがあったかくなって、いい子になれるの」
胸に手を当て、目を閉じる。
それは俺の祈りが届いてる証拠。あおちゃんにかけられた"魔法"だと科戸さんの教えを信じる、純粋な瞳に込められた願いは永遠に叶うことは無いだろう。
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