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幽韻之志

33/さりとて愛為る獣燐の苑

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 「きゃい!とぉーえ…ちぃ」
 「その呼び方も何だか懐かしいな…て、俺まさむね!」

 鼻がくっつく距離であおちゃんと笑い合って頭を洗う。小さな手に白い泡がついて、にぎにぎ…ふんわり感を黙って見つめる。どうしたの?

 「ちーの?」

 短い腕を伸ばして頭を触るとホイップされた泡に興奮して足をバタつかせる。
 頭くしゅくしゅ~!
 項から上に手で泡をしぼるとソフトクリームみたいな形になり、ちーの…


 ……ち……あ、フラペチーノ?


 木欒子もくろじが持っていたカップは、ふわふわホイップで間違いない。
 ちーのの正体が分かってハイタッチする俺達はお風呂上りにタブレット見ながら、これだ!雪の結晶が舞い降りる限定ノエルシリーズ第一弾はストロベリーチーズケーキ。

 「ちごちぃーの!」 

 万歳して大喜びするあおちゃんに玲音が一言。




 「赤ちゃんはフラペチーノ飲めません」




 あ、そっか…
 柔らかくてもこんなに甘いものは赤ちゃんに与えてはいけないんだと学習する。
 絶望するあおちゃんはまた熱が出そうな勢いだが、ハーフバースデーにあおちゃんが食べれるケーキを用意して貰うことは出来ないか。木欒子に相談して和食のメニューから洋食に変更、後日送られてきた試作の写真はカクテルグラスの中が層になっているフラペチーノ風デコレーションケーキ。

 「オーツミルク使用、フルーツの自然な甘さで大人も美味しく頂けます」
 「豆乳だとアレルギー源になるんだ?」
 「まだ0歳なので様子を見て与えたいとの事」
 「はちみつは生ものになるのか、覚えておこう」

 素敵なクリスマスディナーにうっとり…ヨダレ増量。
 玲音の膝の上で甘える姿を微笑ましく見つめながら木欒子にハーフバースデーには行かないことを告げて何か言われる前に頭を下げる。こうやって謝ることにも慣れてきた。

 「昌宗様をひとりには出来ません。私が責任をもって姫を預かりますので、二人っきりのクリスマスをお寛ぎください」

 悪戯っぽく唇に指を立てて、囁く。
 玲音と…二人っきり、え?何をしたらいいの。そんなことされても困る。

 「玲音には特別な思いがあるのでしょう?こちらで整えますので心の休養を…」
 「心も体も休まらないから、余計なことしないでくれ」
 「……ああ、若い者同士ですからね?」
 「玲音はその…対象じゃないから」
 「他に好きな人ができましたか」
 「俺に惚れられたって。それに玲音は…」

 同性愛者でもなければ、恋愛感情が性欲に結び付かないアセクシュアル。ただ一度火が付いたらオラオラ系で本強スゴ過ぎて手に負えないタチなんです。助けて!とか言える筈もなく咳払い、視線を反らす。

 「あおちゃんのお気に入り。俺なんて養父とは名ばかりな奴隷」
 「年の離れた兄妹のようにも見えますが」
 「あはは。全然懐いてくれないし、毎日がやっとだよ。情けない」
 「姫の執拗な嫌がらせに耐え、感慨を託する所存…ああ、なんという純真」

 あおちゃんに嫉妬してると思われているのか?
 ガキっぽい発想、てのは自覚しているけど奴隷特有の解釈に理解が追いつかない。


 「昌宗様にご神託賜り恐悦至極にございます。私で宜しければ…」


 何なりと命令を―――。


 腰に宛がう手の温もりと吐息に耳まで真っ赤になる。
 木欒子が堂々と誘ってくるなんて意外。それを見ていた玲音が険しい顔でこちらに向かってくると腕を引き寄せられ抱き留められた。嬉しいなんて到底思えないこんな些細な行為にでさえ、本当は胸がときめく俺の本音は誰にも言えない。

 ・・・・・

 クリスマスソング

 手を叩いて踊る
 ご機嫌なあおちゃんの様子を見ながら、キッチンでおやつ作り。
 俺は無銭無職で時間だけはある!てなると料理くらいしか出来なくて、玲音が甘いお菓子なんて食べる所は一度も見たことがないけど、気持ちの問題。

 「とぉーえちっ」

 既に伝い歩きができるあおちゃんがキッチンの壁で、いないいないばぁして遊ぶ。

 「今日のおやつはプリンだよ」
 「あっちあっち!」
 「あっちは玲音の…あおちゃんはプリンね」

 バターや砂糖を使ったクッキーは赤ちゃんの体の負担になるから、あおちゃんがもっと大きくなったらねと言い聞かせてプリンを食べさせた後、オーブンのタイマーが鳴る。いい香り…市松模様のアイスボックスは焼き色がキレイに仕上がっていた。

 これなら、と皿に並べてお隣さんへ。

 甘い香りを残して部屋を出ると廊下に見慣れない男がひとり、こちらを見ていた。
 スーツ姿で長身の…
 うわ、首が長い…ガイジン?…日本語わかるだろうか。

 「りゅじー!りゅじー!!」
 「はーい、どうぞ上がってください」

 気後れしながら皿を片手に入ると香立にアロマ香が揺らぐ、格子の壁から明かりが漏れる。黒い壁紙に銀の花模様、木製のアンティーク家具で統一されたシノワズリ―な空間はリビングが吹き抜けの二階建て。格子に緩やかな曲線を交えた手すりの向こう側から階段に脚を下ろす、木欒子はチェーンの付いた眼鏡を外して俺をじっと見ていた。

 「あの、これ…差し入れに」

 皿に並べたクッキーを上から眺める、金色の長い睫毛が羽ばたく。
 この男、どこかで会ったような?
 あおちゃんがクッキーを配り始めるが、男は迷惑そうに拒む。イラッとするあおちゃんはクッキーを男の口に強制的に捻じ込んで飛び上がる。

 「くっちー!」
 「やめて、ぽめ吉の作ったクッキーなんて…」

 俺の名を"ぽめ吉"と呼ぶのはたすくしかいない。

 たった1年合わない間にミモザの髪薫る美少年が見上げるほど巨大なオリンポスの神々と見紛うルックスに激変。首が長くて耳が大きくて少し、尖ってる?

 「若の種族は16歳になると急激に成長するのを、ご存じありませんか」

 木欒子の手を取り膝の上で甘える姿は美術館で見る絵画の様に芸術的。
 距離感が完全に恋人同士
 【R指定】あおちゃんには見せられない。
 二人の関係は各々総括にあたる代表で馴染みが深い、とはいえ丞は青輝丸に一途であどけない天使の純粋という印象が抜けきらず、大人びた声で呼ばれるとこっちが恥ずかしい。

 「奴隷にお菓子焼いてくれるご主人様なんているんだね」
 「ええ、今日まで奴隷やってて本当に良かった」
 「そうなの?みんな料理上手だと思っていたけど…」
 「みんなって、誰のこと?」

 「青嵐が…」言いかけて自分でも驚く。
 去年の暮れ、入院していた部屋で蕎麦打ちをしてくれた事を今まで誰にも話した事がなかった。別に隠していたわけじゃないけど心底辛かった時に青嵐からの労いが嬉しかった、なんて自慢話を繰り広げる寸でに誤魔化す。

 「こんなの作った所で玲音が食べてくれるとは思えないけど」
 「玲音に、ですか?」
 「もうすぐクリスマスだろ。プレゼントに、て…変かな」
 「手料理をプレゼントという発想が"彼氏のすること"ですよ?」

 彼氏の一言に、動揺。
 断じてそのような思い上がった感情では無いと否定すると丞が飽きれた様子で首を傾げた。

 「奴隷が捨て駒である自覚が足りないんだよ。礼を重んじるのはいいけど勘違いしないで、俺達は道具に過ぎない」

 俺とお前じゃ生き方が違う。
 でも、俺は青嵐や科戸さんが料理を作ってくれたり、優しくしてくれるのが嬉しくて同じことをすればいいと思い込んでる錯覚に顔を伏せる。

 また、余計なことをしてしまった。

 残りのクッキーに手が伸びてあっという間に無くなる。
 「まだあるから取って来る」と、走り出す
 俺は内心…傷ついていた。
 手料理のプレゼントは安易で、それも男からっていうのが普通に考えて気持ち悪い。無かった事にすればいいとキッチンに飛び込むと玲音がいて…


 「おかえり。あおにおやつ作ったの?」


 バレてる!!!!
 いつもはもっと帰りが遅いのに
 今日に限って、あーどうしよう。かける言葉も見つかりません。

 「あおは…?」
 「お隣さんちにいる」
 「ふぅーん。俺が留守の間に隷属と、何してるの?」

 壁ドンからの展開に目を閉じて、玲音の唇から逃れる。

 「俺以外で済ませて来いよ、お前なら相手に不自由しないだろ」
 「昌宗よりいい男なんて…青嵐様くらい?」

 そこで具体的な名前出すんじゃねぇーよ。
 前から気になってたけど、お前青嵐とやったことあんの?淫乱化猫の具合は如何ほどに?どうでもいいがお前の汗は性癖に刺さるから近寄るんじゃねぇバカ野郎。

 「嘘、昌宗が一番好きだよ」
 「俺はもうお前のこと好きじゃない」

 玲音の言葉が止まって大きく深呼吸したのがわかった。


 「お前にとっては主従関係の好きしか値しないんだろうな…」


 この様じゃ、お前に相応しいご主人様とは言い難い。そう呟いて腕の中から抜ける。玲音はそのまま黙って俺の背中を見送った。
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