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幽韻之志

26/杰貢なる魂の帰依

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 あおちゃんを預かって一週間


 「デートしよう」玲音から突然の申し出に戸惑う。

 
 で、えぇ…
 そんなことしてる場合じゃないだろ!!

 「ダメだって!自分達の楽しみの為に、そんな…」
 「ずっとあおのことばかり、離れる時間も大事」
 「ごめん…お前も疲れてるよな」
 「たまには息抜きしよう」
 
 慣れない子育てに玲音が疲れている、そう思った。
 食事と買い出し…2時間の猶予だがそれでも息抜きになる。腕から離すとあおちゃんは察して断固拒否。
 今生の別れとばかりに泣き喚く。

 「あおちゃんを連れて行くことはできないの?」
 「鳴き声が煩くて何言ってるか聞こえない」

 赤ちゃんの声は単調に繰り返される警笛音と同じで、耳に煩いだけではなくずっと聞いてると不安になる。
 子育てから解放されたいと思う気持ちより、苦労を買って出る性分に従ってしまう俺は引き留める玲音の腕を擦り抜け、あおちゃんの元に走り出すと、初めて両手を伸ばして抱っこを求めてくれた。

 勢い余って抱き合う
 俺は何度も謝って、あおちゃんが笑ってくれるまで優しく語り掛けた。
 

 「ああ、嫌だ…ママっこになる」誰がママだ?


 赤ちゃんを連れてのおでかけはハードルが高く、玲音のスポーツカーはシートの形状が特殊でチャイルドシートの取り寄せに日数が掛かる上、車内は窮屈なため、あおちゃん専用メルセデスCLSクラスのクーペを用意。新型4ドアは5人乗り、長時間のドライブに適したナッパレザーをチャイルドシート(特注品)でも使用する高級感あふれるブーブー!国内に3台しかないブルーメタリックを厳選。

 外が寒くなって来たので帽子など、おしゃれ着も準備してモデル級に可愛いあおちゃんを絶賛する俺とは対照的にあおちゃんが生活の中心になることへの不満を連ねる玲音の怪訝さ。

 理屈はこうだ。

 玲音は俺の依代鄙よりしろひな(身代り人形)で、身の回りの世話の一切を賄う奴隷。
 ご主人様は浮気っぽくて種馬の景虎と隠れていいことするわ、子どもを引き取るお人好しで不器用なのに厄介事を次々に買って出る。その癖、お前には迷惑かけたくないと無理を押して、玲音に頼らないことが屈辱に他ならないという奴隷根性を遺憾なく発揮。

 「出会った頃の昌宗は乱暴者で我儘だったのに」
 「では聞き分けが良くて優しいのは仮初の姿ということに?」
 「いや、根の優しさが育ち過ぎ」
 「我々にしてみればなんてつまらないご主人様であることか」
 「すぐ謝る癖も一向に直す気が無い…」

 視線の先にいる俺は、あおちゃんの寝がえりがあと少しで腕が抜けると褒めちぎる下僕スタイル。小さな女の子の言いなりになってる俺の将来を案ずる玲音がため息をつく。

 「意地悪しないで、もっと許してあげたら良かったのかな」
 「性奴隷として?」
 「昌宗様は常に理性的です。誰しも過去の辛い経験から生きる意味を見出すもの、修羅の道で悟りを開きし者が行きつく先が六喩会であることは事実…しかし」
 「誰にも正体を明かさないのが昌宗の魅力」
 「化けの皮を剥がしてやりたい雑念に駆られますね」
 「そーゆーのが意地悪ってゆーんだよ、ばぁーか」

 陰獣に、俺の気持ちなんか解るまい。

 赤ちゃんは純粋で本能のままに生きる。
 行きたい所へ行って、掴みたいものを掴む。お腹が空いたら泣いてたくさんミルクを飲んで眠る様の愛らしさに俺は情緒を覚え始めていた。
 自分の汚さや醜さに関わらず、単純に求められることが何よりも嬉しい。成長と共に俺を理解するようになれば罵り貶す、その時まで…愛情の在処をあおちゃんとの関係に見つけたいと願う。
 今まで青嵐が誰かに施してきた調教をロクでもないと決めつけて来たが、そこには確かな愛情が育まれ次の世代に宿す連鎖に俺も繋がれている。
 いつも辛くて、悲しくて、逃げる事ばかり考えていた。
 でも、逃げられない理由が愛しさ…だとしたら否定することは困難だ。この感情は優しさではない。責任感と理性のバランスを保つことで自分を律し、境界の先にある闇に堕ちるのが恐い。
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