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幽韻之志

22/儀旗はためく孟虎に沈む

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 エロ漫画でよくあるシュチエーション


 『フェラで起こされる』


 実際やられてみると気持ちいいより、その先に続くものがないとただの極刑。
 いい加減、射精させろよ。尿に混じって排泄される量なんか微々たるもので玉パンッパンだぞ?行き場のない老廃物を溜め込む調教は、うんざりだ。

 「今まで誰からも性教育を受けたことないの?」
 「ねぇーよ、Mじゃないし」
 「手当たり次第に男漁ってる癖に…」

 わざと聞こえるように言ってくる粗悪さとは裏腹に、俺の健康を配慮した広島県産カキの炊き込みご飯と良質なタンパク質が勢揃い。ちょっとした妄想で爆発しそうなのに精力満点の男子ごはんは常識を逸脱しているとしか思えない。
 何回でもイカせてくれる晃汰と真逆の厳しい射精管理に今日も翻弄される、屈辱。
 
 ゴミをひとまとめにして縛る
 俺は立ち膝でゴミの回収がいつなのか、玲音に聞くと地下に分別無しで放り投げられるシューターがあると教えられた。マンションは勝手が違うんだな。

 「俺が行くよ。ついでに散歩してくる」

 不機嫌な玲音の返事は無く、そのまま出た。
 距離を置かないと執着が強まり保護欲と警戒心からよく吠えるのは犬の習性。
 そして鼻が利く。男の残り香なんかさせて帰ったらどうなるか…
 マンション内では誰とも顔を合わせることなく地下のシューターに足を踏み入れ、灯りを辿っていると頭から袋を被せられ手に持っていたゴミを落とす。後ろ手に縛られそのままエレベーターの中に引きずり込まれた。
 一体、何が起きているのか?
 音でしか判断できない状況だが、抑え付けられたり殴る蹴るが無い。
 どうやら車で運ばれる様だがトランクにぶち込まれたりキャリーケースに収納されるのではなくシートに置かれて随分とまぁ丁重に扱われるものだと感心する。
 重いドアが開いた先はおそらくモーテルだろう。
 肩をぶつけながら階段を上った先で立ち止まり、腕を解かれる。自分で袋を外すと、景虎が離れて座っていた。


 「ご無礼をお許しください」


 景虎は縄を片手に近づく…察した。
 ラブホテルではよく殺人事件が起きる。それも頻繁に…従業員は犯罪に関する清掃も仕事のうちと聞く。
 こんな所で声を張り上げたって誰も助けに来ない。
 観念した俺は正面に座る景虎を迎えて、ため息を漏らした。

 「お縄を頂戴したく存じます」

 はい、どうぞと両手を前に出すと首を横に振る。

 「……あ、俺が縛るの?」

 恥ずかしそうに頷く景虎から犯罪めいた香りはしなかった。
 腐っても元調教師。早縄で首掛け後ろ手、十文字に縛り上げ、相手の背中に座る姿は白い悪魔。本縄となれば長さが…

 「いや、俺を誘拐して迄することかよ!」
 「抜け駆けでもしないと昌宗様を独り占めにできません。さぁ思う存分どうぞ」

 参ったなぁ
 じゃあ縛りますかと手がける筈もなく、静まり返った空間に気まずさが漂う。
 俺は過去にネカフェ難民で…
 思い出すのも腹立たしい青嵐との出会いに歯を食いしばりながら顔を上げた。

 「俺に嗜虐的な性志向は無い。この業界に入ったのも青嵐に騙されて…初っから底辺の陰キャ、わかるだろ?風俗で食っていくしかなかったんだ。だからお前が望むような事はしてやれない」

 確かな技術が俺にあるとしても、緊縛は仕事で食っていく苦々しい行為であり、性的興奮に至らない。自分の中でずっとそれは変わらない約束事みたいなもの。太客にもよく言われたSMとセックスは別物、だと。
 でも景虎にとっては、縛られることが入口で到達点が肉欲なんだろう。

 「では俺がご奉仕します」
 「お前が俺としたい理由は、なに?」
 「性欲に理由はありません」
 「正論だな。だからといって許すつもりは…おい、ちょっと待て!!」

 お姫様抱っこでベッドに置かれると、俺に跨り服を脱ぐ。
 下から見るとセクシー極まりない筋肉の躍動感に圧倒的な雄の眼差し。獰猛だが怖くはないのは景虎が純正で、瞳の奥に何かを隠しているから…何も暴いてやろうとは思わない。脱いだ服で両手を縛られ、頭の上で押さえつけられた時に見せた俺を憐れむ瞳が閉ざされる。
 性欲には抗えない、か… 
 にじり寄る膝がシーツに埋まり、軋むベッドの上で俺は冷静に考えていた。
 この男はあげまん種馬スタリオン
 一時の我慢と引き換えに逆転人生が始まるとしたら…僅かでいい、幸運が訪れるのならと顔を横に倒して膝を伸ばす。

 どうせ玲音とは出来ない。

 ここで何が起ころうと、かつて優しかったあの瞳に蔑まされ、惨めな思いをする残酷さに比べたら、腹を裂かれるくらい多少の怪我だ。

 唇が重なる瞬間
 鳴り響くコールに眼を見開く。
 
 一切を掻き消すコールに急かされる唇が遠ざかり、ベルトを外され、剥き出しになる俺の裸体を見た景虎は眉をしかめ「据え膳食わぬは男の恥」膝の裏に手を入れて脚を開かせ宛がう。


 ―――――……ガチャ


 階段下のロックが、解除。
 続いて俺の名前を呼びながら階段を駆け上がる足音が近づき、部屋に繋がるドアを開けた玲音が見たものは…

 ベッドの上で縛られ景虎の下敷きにされる、哀れな俺の姿。

 数秒間の沈黙を破る玲音が走り出し"何か"を手に取り持ち替える。咄嗟に景虎の胸を蹴って形勢逆転する俺はあと一歩で辿り着く玲音を声で制止するが止まらない。

 「やめろ!」 

 目の前で振りかぶる玲音の懐に飛び込む。
 右手の親指を握り、左手の内側から外側をぐるりと返す様に腕を回せば、腕に巻いてた布が解けて両腕を開き縄抜け。そのまま玲音を抱き留めると肌の下で激しく鼓動が高鳴り、俺を気に留めることなく景虎に向かっていく歩みを阻む。
 玲音はペンを片手に手ぎっている。5センチあれば筋肉を破って骨まで届く、押し込めばペン先は内臓に到達するだろう。
 このままじゃ済まない。
 景虎を守れるのは俺だけだ…体を密着させてもなお、前に出る玲音を制止できない。踏ん張っても足の裏を擦らせて寄り切り、景虎に脅威が迫る。

 「玲音、落ち着けって!!」

 ベッドに散らばる縄を掴み、指先で蛇口を手編みながら反対の手で縄を張って玲音が振り下ろす腕を受け流す。

 クソ強ぇ!巻ききれるか。

 出来ないと景虎が殺られる、その一心で玲音の腕を捉えて首の後ろに足掛け親指に蛇口を通し紐を引くと、俯せの姿勢から背中を反らせ両足に頭を挟まれた。
 上体を捕らわれた姿勢からの反撃
 だが、喉は外している。前は見えないが…これなら…膝で踏ん張り、まずは捉えた腕だけ後手に縛り、腕を自分の頭より高く伸ばして縄を引きながらアキレス腱を思い切り噛むと反射的に攣る。次に足首に縄を掛け、腕と足が一本で繋がれた縄を強く引くと玲音は身動きが取れない捕縛の餌食になった。

 「ま、昌宗…!?」
 「いい格好だな」
 「痛っ…やめなさい、昌……ああ、ん……」
 「ああーンじゃねーだろ!テメェは仕置きだコラ!!」

 早縄から徐々に雲衛十文字と縄が進み、動けば首が絞まるこの緊縛は罪人が責所で吐く迄問われる苦悶の一手。5分もしないうちに生え際に汗を滲ませ、表情を歪める玲音の緊縛姿に悦を決め込んで縄を解きながら話しかける。

 「いいか、俺に何があってもお前は黙っていろ」
 
 誰の命もひとつしかない
 どのような事情があっても傷つければ贖罪を背負う事になる。守るべきは何か?見誤るなと縄の端を掴み束ねて、玲音の温かな肌に手を伸ばす。
 よかった、脈は落ち着いてる様だ。
 景虎はただ見守り、吐息が闇に消入る果てに…震えていた。
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