俺のご主人様がこんなに優しいわけがない

及川まゆら

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幽韻之志

17/天鼓雷に轟きて功冥に尽きる

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 青嵐の名を襲名した、青輝丸。

 「もう一人の」青嵐として選ばれた、俺。 

 俺達は間違いなく資源にされて
 一生、青嵐を辞めることはできないだろう。
 それと引き換えに玲音を取り戻した。こんなにも愛くるしい無防備な姿で、俺の隣で眠る姿を拝めるのだから文句は言うまい。
 少し見ない間にまた筋肉を育てやがって。
 どんなトレーニングで外腹斜筋が割れるんだ?腰がくびれてケツの高さと程よい丸みをキープする美獣は甘えたような声混じりの吐息を奏でながら俺に抱きつく。
 晃汰が居ないと夜はベッドに忍び込んで来るのはいいが…


 神々しすぎて触れることが出来ない、禁断。


 久しぶりに勃起するから…恥ずかしいくらいに、痛いぜ?
 やらせろ、と言えば簡単に応じる奴隷根性が逞しいどMガチ勢の玲音は、タチ。
 男なんだから当然そうなる。
 俺の場合"したい"と思って玲音を妄想の餌食にしても、玲音を辱める卑猥なストーリーより、モヤッとした自己中心的な気持ち良さで抜いてた。否定的に俺を強気で求める内容が大好物。この時点で、どう考えても精神的に受身なのは薄々感じていたが、青嵐も受けであることの方が衝撃的で震える。
 
 受けと、受け…で、何をする気だったんだ?

 まさかディルド扱いされて青嵐のいいように搾取…うわぁ…身震いすると玲音が肌を寄せて来た。
 現状、声には鳴らないが、息にのせて僅かに発声ができるので会話は耳元で行う。科戸さんは唇の動きで読み取れるが、このやり方でしか会話が出来ないのは不自由だな。布団の中で抱き合っていると、その…腰が引ける。
 離れた勢いで玲音の下敷きにされ、恋人繋ぎで唇が降り注ぐ。
 <やめろ!!>
 素早く顔を背けて回避。
 興奮しすぎて射精したらお前どう責任取るつもりだ、いい加減にしろ。

 「昌ってほんと、変わらないね」

 おわ!どこ触って…んっ…ああああああっ顔が近い!!




 唇が触れる距離で、静電気バチン!!!!




 あまりの痛さに飛び上がって頭が衝突。
 ベッドの上に倒れる俺は自分の唇がついてるか…恐々触るがどうやら無事の様だ。この頃よくある静電気は乾燥によるものだと思っていたが、雨の日や風呂場では特に酷くて…ピカ…チュウ?晃汰は腹を抱えて笑っているが、科戸さんは気にしてグラスの水滴を拭ってから置く。

 「臨死体験後に体質が変わるのはよくある話です。それにしても…」
 「静電気にしてはって話だよな。昌、何か隠してない?」

 言ってる側からグラスに触って指が痺れる。

 「これでは生活に支障が出ますね」
 「篠峯さんに相談した方がいいんじゃない?」
 「そうですね、彼なら何か対処法を知っているかも知れません」

 話の途中で天上から軋む音に、科戸さんが顔を上げる。

 「いけない。左近寺を忘れていました」
 「あー屋根の修理頼んでるんだっけ。壊されないうちに…あ、何の音?」
 「とめき、様子を見てきて貰えますか」

 あいわかったと二階へ駆け上がり、渋い窓を開けたら桟に掴まり両腕を伸ばして屋根に上がる。
 よっ…と、ああ手を貸してくれてすまない。
 屋根の修理と古い配管の交換は終わったようだ。

 左近寺は寡黙で、人の気配を感知する性能が整っている。
 見た目は恰幅のいい男だが人ならざる者で様々な技術が内部に搭載されている"電偶でく"泪町の抗争で、身を挺して俺を護ってくれた左近寺はたすくの手により壊されたが、修復を繰り返しながら再起動した。
 風が強くなってきたな、そろそろ降りるか。
 ヒュッと吹く冷たい風が頬を切り、遠くから雷鳴。これは一雨来るぞと踏み出した先に雨粒が落ちる。

 「雨が来ます。こちらへ」

 左近寺の手を借りて足を下ろすと髪を引っ張られるような感覚に続いて体が前に進まない。手を伸ばす科戸さんが遠ざかり、俺…浮いてる?

 両腕を伸ばしてバランスを取りながら辺りを見回すと、屋根に置いてた工具も浮き上がり、取り外した古い配管は音を立てて折れ曲りながら同じ方向へ引き寄せられ、重力の起点となる元へ俺ごと集められていく。
 ギ……ギギギ……
 物音に気が付いて振り返ると釘が、目の先を掠める。
 次から次へと金属片が俺に向かって飛んでくる刃物沙汰を掻い潜るが、これ以上は…宙で磔にされ身動きが取れない。視線を下げると木刀を手に屋根の上を走る科戸さんの姿を捉えた。
 左近寺の背中に駆け上がった勢いで松の枝に蹴って宙を舞い、飛んでくる金属片を捌きながら俺の襟を掴む。科戸さんは俺と違って重力が下に向かっている為、片腕で自分の体重を支えながら木刀を振り回しているが俺を引き剥がすことはできず、親指を襟の奥に差し込み、渾身の力で俺の顔の高さまで上がって来た。

 「こう見えて、私…五十肩なんです」
 
 冗談言ってる場合じゃない。
 鈍色の長い刃物が飛んできて、科戸さんの腕を擦り抜けて顔に…瞬間、交わして髪が散る。

 「親方様、ここは私が引き受けます」

 空間に突き刺さる日本刀の柄に、玲音がぶら下がっていた。
 足を振り上げ刀に逆上がり、靴底を軋ませる。
 暗い空の下で雨をまとう姿は、どう見ても…乳首が…透けてる。大胸筋が発達し過ぎてボタン弾けそうになってやがる。死ぬかもしれない生命の危機感から、勃起。
 
 「直に雷が落ちます。その前に…」

 雨に濡れる腕が限界に達して、下に落ちる。
 最期まで俺の身を案じて視線を離さない科戸さんは左近寺に受け止められてもなお、俺を見上げていた。

 「落雷は負極性。地表のプラス電荷と交わる場所を探して電撃点で結合して中和される。天と地が結ばれる瞬間って、素敵だと思わない?」

 俺に肩車をするような格好で座る、玲音は日本刀を引き抜いて鍔に指を立てながら刃文の流れを眺めて口笛を吹き機嫌だが、お前の濡れた股間が頭の後ろにある俺の身にもなってくれ。生身でプラス極になりこれから落雷を受けるであろう焼失に下半身あっちの方が張り裂けそうだ。


 雷鳴に、空が裂かれる。


 雨に濡れて張り付く前髪を指に乗せる玲音と手を繋ぐ。
 お前と一緒なら、怖くない…
 切先の反射に反応して、雲の中に溜まり続けた電極が突き抜ける刹那に繋いだ指がすり抜けて真っ白な光に包まれた。
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