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幽韻之志
3/我が世誰ぞ常ならむ
しおりを挟む「随分と生意気な弟だね」
ワイングラスを揺らしながら頬杖をつく青嵐は、ため息をつく青輝丸を見ないで話を続ける。
「俺の代わりに瑠鶯を隷属にすればいいのに」
「隷属は簡単に成れません」
「俺は……」
「とめきは私が決めた特例です」
「こっちにしてみたら、特別にハズレのくじを引いた気分ですよ。ご主人様」
渇いた笑いに鋭い圧を込める視線を交わしながら…
「俺、Mに転職しようかな」
呟くと一瞬で空気が張り詰める。ん……なんだ?
青輝丸が口を開く前に先手を打つ
「私の隷属にMは、要らない」青嵐の一言に、息を飲む。
カースト制度が厳しい裏社会において、下位のMと性奴隷は相応しくないということか。
「ご主人様になる過程としてMを経験するのなら別だが、私自身が性質の異なる者を愛でることが出来ないのだよ。過去に…」
M奴隷を隷属に迎え
親の一字を与えた青嵐は裏切られ破門した男がいる。
「翠嵐。宝珠の瞳を持つ男だ」
嵐の一字を授かったM奴隷
以降、青嵐は「青」の一字しか与えず、S奴隷だけを隷属にしている。
M転職は不可能とはいえ…自分がたまにそちら側ではないかと本気で思うことがある。一族の長にあたる青嵐の隷属でありながら身分の低い者に虐げられる自分の立場に違和感しかない。狂暴な本質を顕にすることを自身が恐れ、相手を傷つけないように耐え忍び、周囲から舐められ、残酷に晒され続けているうちに何も感じなくなってしまった。
結果Mの方が、楽だ。
性質的にみても繊細なSより、図太いメンタルで快楽の為なら恥も糞も撒き散らすMは恍惚に酔いしれ、愛されることで幸せの絶頂を得ているではないか。
正直、羨ましい。
他人に迷惑をかけても自分さえよければどうでもいい「人でなし」に憧れる俺はわざわざ先輩である丙の部屋に張り付き、幸せの断片をかすめ取る乞食と化した愚行を繰り返す。成らず者。
「一度、青嵐に縄を受けるといい」
青輝丸の意外な提案に、耳を疑う。
今まで一度も考えたことがなかったが、世界が認めるプロの緊縛はハイリスクノーリターン。
でも、青嵐に縄を受けたら…自分がどんな反応をするのか?
興味はある。
「受手、やってみる?」
すぐに返事が出来なかった。
受手とは緊縛を受けるモデルのこと。一般的には仕事として契約、または一般応募も行っているが青嵐の縄を享受する限り、必ずそこには本物の快楽が如かれる。
面白がってやるものではない。
剥き身にされて辱められる姿を撮影されるのが、ただ恐くて…唇を引いた。
「私に支配されて無責任に感じてごらん」
獲物を見つめる、その瞳に…狩られた。
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