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幽韻之志
1/一切皆苦に鶯、鳴きて。
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1年前…
俺は新卒という一生に一度しか揮えない武器を失い、ネカフェに引きこもり金が底をついた生活困窮の末に歌舞伎青嵐と出会った。便所で抱きつかれ、ファーストキスを奪われた挙句、最愛の花形・玲音との悲恋の末に汚辱とオカルト体験の洗礼を受けた後、一番弟子にあたる隷属として人生を買われた。
この業界にはカースト制度が存在する。
王様(歌舞伎青嵐)
隷属(青嵐の身内また「青」の一文字を貰った最上位奴隷)
執行部(総務・花形や新造などの育成部)
S奴隷 一般的な奴隷
M奴隷 ↓
性奴隷 ↓(性的に消費される下位)
俺は二番目、青の一門と呼ばれる身内で青嵐直属の隷属。
一般選考からの成り上がり、調教師として修業する若きエース。
「とめき、おいで」
青嵐と隷属の間で呼ばれる愛称とめき(留吉)との俺のこと。
縄を束ねる手を止めて向かえば見たことがある男と、もうひとり…新人か?
「昌宗様。お久し振りでございます」
丁寧に頭を下げる丙對馬は関東随一を誇るミドルシニアの調教師。
調教師歴36年、青嵐に次ぐキャリアの執行部顧問の丙が若手を連れて来た。
M奴隷から羨望の眼差しを受け、親し気に話す姿は遠目に見ても特徴的な美しさを放つ。
「新造の瑠鶯と申します」
「見た目に素質を感じますね。花形は?」
「お恥ずかしながら、私の授かり者です」
「丙さんの受子なら有望株ですね」
「年季は明けておりますが、まだまだ未熟な若輩者です」
「あんなに奴隷達を手懐けて…立派です。これで青の一門も安泰ですね」
そうはさせるかと青嵐が会話に割り込んでくる。
「美しい弟は、嫌いかい?」
花形は将来を見込まれた新造に愛情を注ぎ育てる役目を担う。
瑠鶯は既に多くの信頼を集め、青嵐も捨て置けないと呼び込んだ特別な存在。血統を持たない一般選考は俺同様だがS特有な…あの眼。圧倒的に普通ではない。
「アイツに全部押し付けて破門されるのも、悪くない」
「逃がしはしないよ」
「なぁ、青嵐…」言いかけて、止める。
世間で人気のいわゆる「どエス」は優しさの中に冷酷さを潜ませ、特定の人物には心を許し甘えることが魅力的な生き物だ。愛情の在処は人それぞれ、愛さえあればどんな輩も正しく美しい。瑠鶯もまたその一人である印象を受けながら、花形と新造の睦まじい雰囲気から目を背ける。
昔、俺にも花形がいた。
俺の人生で最も輝いてた日々に今でも胸がときめく。ああ…愛は狂おしく切ない…渦中の存在を忌々しく感じるのは、俺の勝手だ。
「ご主人様。彼が噂の……狂犬……ですか?」
「君の兄師にあたるお方です。ご挨拶を…」
「は?イキリ散かしてる無礼者は同胞として認めません」
「ああ見えて可愛い所もあるんだよ」
「無理、ご主人様のブス専にはお手上げ。勘弁してください」
ぷ
青輝丸が、咽る。
聞けば真性Sには「好み」が無い傾向にある、らしい。
希少価値のある美人より、誰にも相手にされないブスの方が扱いやすく現金になる。それは夜の仕事において容易に考えられる所だが、真性Sの観点や拘りは違う所にあるという。
例えば可愛いアイドル集団の中にブスが一匹いると、非常に目立つ。
そこにしか目がいないほどに…
俺の立場はそこにある。でもブスにも権利がある事を、努々忘れるなよ?
「お前、どんな手を使って青嵐様に取り入ったんだ」
それはまるで悪魔の囁きのように、胸を騒がせる。
柔らかな物腰に冷淡な笑みを潜ませる瑠鶯
隷属に所すれば、覇王の気風に溢れ、最初からそこに居たかのように何の違和感なく溶け込めるだろう。耽美一貫を奇する青の一門に馴染めない末弟の俺とは「価値」が違う。とんでもない大型新人の誕生に誰もが期待する一方で、俺を蔑む。
「とめき、おいで…」この男以外は。
「瑠鶯は天性の才能に恵まれた神童だ。見目麗しく、何をやらせても上手に出来る。たまにいる……あーゆぅ……勝手に育ってくれる雑草みたいな奴」
草、生える。
もっと他にも例えがあるだろう、薔薇とか…あと何だ?花なんか知らねぇよ。
「隷属は一芸に秀でるものが無いと親の助けに至らない」
「俺以外は……な?」
「確かに。とめきは一番、乱暴で手のかかる子だ」
「出来が悪いのが俺の取柄だ」
「だから気が紛れていい」
青嵐が面倒見のいい奴だとは到底思えない。
俺は一生からかわれる玩具に過ぎないと呆れて視線を反らす。
至近距離で目が合うと、何とも言えない感情に囚われてしまうから…
「その一芸たるや、見つけて咲かせるのが花形のお役目だ」
かつての俺に連れ添った花形は…
俺の中に、何か見つけることが出来たのか?
粗暴で優しさという名の餌も食わない。抗い続けた先に「捨てられた」硬い蕾を未だ開かない、正真正銘の童貞。淫獣の青嵐ですら1年連れ添って貫通できない前代未聞の潔癖を誇る。なぜ至らないのか?
初めての相手は好きな人としたい、から。
至って純正な俺の意見を尊重してくれる、思惑とは?
俺は新卒という一生に一度しか揮えない武器を失い、ネカフェに引きこもり金が底をついた生活困窮の末に歌舞伎青嵐と出会った。便所で抱きつかれ、ファーストキスを奪われた挙句、最愛の花形・玲音との悲恋の末に汚辱とオカルト体験の洗礼を受けた後、一番弟子にあたる隷属として人生を買われた。
この業界にはカースト制度が存在する。
王様(歌舞伎青嵐)
隷属(青嵐の身内また「青」の一文字を貰った最上位奴隷)
執行部(総務・花形や新造などの育成部)
S奴隷 一般的な奴隷
M奴隷 ↓
性奴隷 ↓(性的に消費される下位)
俺は二番目、青の一門と呼ばれる身内で青嵐直属の隷属。
一般選考からの成り上がり、調教師として修業する若きエース。
「とめき、おいで」
青嵐と隷属の間で呼ばれる愛称とめき(留吉)との俺のこと。
縄を束ねる手を止めて向かえば見たことがある男と、もうひとり…新人か?
「昌宗様。お久し振りでございます」
丁寧に頭を下げる丙對馬は関東随一を誇るミドルシニアの調教師。
調教師歴36年、青嵐に次ぐキャリアの執行部顧問の丙が若手を連れて来た。
M奴隷から羨望の眼差しを受け、親し気に話す姿は遠目に見ても特徴的な美しさを放つ。
「新造の瑠鶯と申します」
「見た目に素質を感じますね。花形は?」
「お恥ずかしながら、私の授かり者です」
「丙さんの受子なら有望株ですね」
「年季は明けておりますが、まだまだ未熟な若輩者です」
「あんなに奴隷達を手懐けて…立派です。これで青の一門も安泰ですね」
そうはさせるかと青嵐が会話に割り込んでくる。
「美しい弟は、嫌いかい?」
花形は将来を見込まれた新造に愛情を注ぎ育てる役目を担う。
瑠鶯は既に多くの信頼を集め、青嵐も捨て置けないと呼び込んだ特別な存在。血統を持たない一般選考は俺同様だがS特有な…あの眼。圧倒的に普通ではない。
「アイツに全部押し付けて破門されるのも、悪くない」
「逃がしはしないよ」
「なぁ、青嵐…」言いかけて、止める。
世間で人気のいわゆる「どエス」は優しさの中に冷酷さを潜ませ、特定の人物には心を許し甘えることが魅力的な生き物だ。愛情の在処は人それぞれ、愛さえあればどんな輩も正しく美しい。瑠鶯もまたその一人である印象を受けながら、花形と新造の睦まじい雰囲気から目を背ける。
昔、俺にも花形がいた。
俺の人生で最も輝いてた日々に今でも胸がときめく。ああ…愛は狂おしく切ない…渦中の存在を忌々しく感じるのは、俺の勝手だ。
「ご主人様。彼が噂の……狂犬……ですか?」
「君の兄師にあたるお方です。ご挨拶を…」
「は?イキリ散かしてる無礼者は同胞として認めません」
「ああ見えて可愛い所もあるんだよ」
「無理、ご主人様のブス専にはお手上げ。勘弁してください」
ぷ
青輝丸が、咽る。
聞けば真性Sには「好み」が無い傾向にある、らしい。
希少価値のある美人より、誰にも相手にされないブスの方が扱いやすく現金になる。それは夜の仕事において容易に考えられる所だが、真性Sの観点や拘りは違う所にあるという。
例えば可愛いアイドル集団の中にブスが一匹いると、非常に目立つ。
そこにしか目がいないほどに…
俺の立場はそこにある。でもブスにも権利がある事を、努々忘れるなよ?
「お前、どんな手を使って青嵐様に取り入ったんだ」
それはまるで悪魔の囁きのように、胸を騒がせる。
柔らかな物腰に冷淡な笑みを潜ませる瑠鶯
隷属に所すれば、覇王の気風に溢れ、最初からそこに居たかのように何の違和感なく溶け込めるだろう。耽美一貫を奇する青の一門に馴染めない末弟の俺とは「価値」が違う。とんでもない大型新人の誕生に誰もが期待する一方で、俺を蔑む。
「とめき、おいで…」この男以外は。
「瑠鶯は天性の才能に恵まれた神童だ。見目麗しく、何をやらせても上手に出来る。たまにいる……あーゆぅ……勝手に育ってくれる雑草みたいな奴」
草、生える。
もっと他にも例えがあるだろう、薔薇とか…あと何だ?花なんか知らねぇよ。
「隷属は一芸に秀でるものが無いと親の助けに至らない」
「俺以外は……な?」
「確かに。とめきは一番、乱暴で手のかかる子だ」
「出来が悪いのが俺の取柄だ」
「だから気が紛れていい」
青嵐が面倒見のいい奴だとは到底思えない。
俺は一生からかわれる玩具に過ぎないと呆れて視線を反らす。
至近距離で目が合うと、何とも言えない感情に囚われてしまうから…
「その一芸たるや、見つけて咲かせるのが花形のお役目だ」
かつての俺に連れ添った花形は…
俺の中に、何か見つけることが出来たのか?
粗暴で優しさという名の餌も食わない。抗い続けた先に「捨てられた」硬い蕾を未だ開かない、正真正銘の童貞。淫獣の青嵐ですら1年連れ添って貫通できない前代未聞の潔癖を誇る。なぜ至らないのか?
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