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奴隷島
はないちもんめ
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死ぬほど詰められる覚悟でいたが、多くの犠牲を払った事で隷属から冷ややかな視線を浴びせられる俺はここに来て漸く「あ、やらかした…」そんな態度に失意するその他大勢に属さない青嵐は鼻歌るるーん!玉露が注がれる茶碗を傾け、粉を落としながら豆大福を頬張る。
「とめきは忠興のお気に入りだね」
「科戸さんは恩人。誰かと違って、優しくて、料理も上手い」
「私だって蕎麦も打てるし、お料理くらい…」
「嘘吐きは喉に餅詰まらせて死んでくれ。遠慮は無用だ」
だだちゃ豆の大福をひとつ、差し出す。
「ああ、いけない。青い妖しに取り憑かれているね」
無表情の青輝丸が二番煎じを零れる勢いで俺に突き出し、その場を立ち去る。
怒るのも無理ない。
自分の一番弟子を危険に晒す判断を余儀なくされ、俺は一言も謝らずに大福を血で汚れた手で握り、何事も無かったかのように食べているのだから。
青嵐は足を組み替えて話を続ける。
「とめき、宇賀神の三男坊と付き合ってるそうじゃないか」
その名前にはっとして顔を上げると、一気に血圧が下がって眩暈を振り切るように目を閉じる。
晃汰のこと…曖昧にしていたけど宇賀神…どこかで聞いた名前だが思い出せない。
「ああいうのがタイプなの?」
「成り行きで…」
「本気じゃないの?」
「しつこい。お前に関係ねぇだろ」
手を拭いた除菌シートを丸めて投げようとしたら、晃汰が居た。
「青嵐さんより俺の方が好きだって、言ってくれるよね?」
胃袋で溶けた餅が逆流して気道を塞ぐ寸でに、ラウンド髭をこすらせながら顔を寄せて来る晃汰は男の可愛らしさを存分に放ち、冷静に見つめる青嵐の視線に戦慄。
何この公開処刑…う、浮気なんかしてませんよ?
「宇賀神…ん?三男坊って言った?」
「そう。アナスタシア関西支部の宇賀神姉妹。姉は女王様、妹はM嬢の奴隷」
ああ、それでか。
関東圏から出た事ないから他所の島には滅法疎いが、随分と鋭角で攻めて来たな。しかし晃汰は同業者ではなくあくまでも家族がというだけで、俺と出会ったのは偶然だと言い張るけど青嵐が遮る言葉に笑止。
宇賀神は青魄の一派で、畑違い。
青魄の隷属になれば一族諸共子々孫々と続く、血の契約。
俺はずっと青魄に付け狙われていた。
だから殺されなかった。命があるというのは『獲物』である証拠。
「待って、じゃあ…」言いかけて唇を噛みしめる。
青魄は花形の命、くれてやると言った。
あれが嘘じゃなければ玲音は青魄に渡って「お前は私から逃げられない」言葉の真意に近づいて震えあがる。
恋の障害は多いほどに燃えるということか。
もう、懲々だ。
闇に燈る青い火に踊らされてで飯事遊びに飴と鞭。全部仕組まれてたなんて、ふざけんなよ。この連中は、どこまで人のこと馬鹿にすれば気が済むんだ。
青魄に啖呵切って、殺されなかったのは不幸中の幸い。
知ったところでそれがどうした。
誰を親に選んでも、殺してでも手に入れたい男がいる現実に変わりはない。
そっと茶碗を置く青嵐が頬杖をついて微笑む。察しがいい…そういうことだ。
「叔父貴の犬でも、首輪を変えれば俺のモノだ」
「オジキって…何それ、ヤクザみたいな言い方」
「俺の父の弟だから、叔父さん」
「……え、なんて?」
「正月にお年玉いっぱいくれる金持ちの叔父さん」
「西の魔女に脅されて、ね?」
「に、西の…魔女?」
「親がヤクザだと友達もできなくて、あの頃は辛かったなぁ」
情報を整理しよう。
俺は、上司の息子とセックスを…してないしてない、未遂。
あっぶねぇ
これ関しては「記憶にございません」では済まされない。万が一、玲音の耳に入れば…いや、先の心配をしたって仕方ない。もっと建設的に考えよう。
「好きな人が誰でも俺の気持ちは止められないよ」
「…え?晃汰…俺のこと、好きなの?」
「コタ、うちの子から離れなさい」
「体は貰いましたから」
「言うなって…」
立ち上がる青嵐の首輪につけられたチェーンが伸びて、ガチャン!
「無駄な体力を消耗するな」
青輝丸の低い声に振り返る。
俺の位置からだと眼鏡のレンズが光ってて、すげぇー怖い。
「とめきは裏切ったわけじゃない。腐っても隷属、意地はある」
「おや、珍しいね。お前があの子を庇うなんて」
「次やったら、殺す」
「堪えなさい」
「今まで散々、子守をやってきた。もう…我慢の限界だ」
「それは我慢ではなくお前の我儘だよ。心を取り戻しなさい」
「こんな奴、いっそ青魄に…」
鎖を引きながら青嵐に訴えるも、冷酷な瞳にふと怯んだ隙に付け込まれて降り注ぐ唇を受け止め、桃色吐息を咲かせながら青嵐の胸に倒れ込む。
……うわぁ、言って駄目なら 犯 す 迄。
隷属は皆、親に忠誠を誓い命令は「絶対」だが対照的に、浮気っぽく親の鞍替えの寸でに奪還された俺は、青輝丸の通報が無ければ今頃は取り返しのつかないことになっていたのは確かだ。愚弟をもつ兄師の苦悩は計り知れない。それを根気よく説き伏せていくのが親の努め…という事か。
やれやれ、貫徹抗争モーニングは男同士の噎せ返るような青臭さが鼻につく。ソファに足を投げてひと眠りした後、ホテルで食事をする為、シャワーを浴びてスーツに着替える。
「これを」差し出されたのは仮面。
もう、嫌な予感しかしないんですけど…
「とめきは忠興のお気に入りだね」
「科戸さんは恩人。誰かと違って、優しくて、料理も上手い」
「私だって蕎麦も打てるし、お料理くらい…」
「嘘吐きは喉に餅詰まらせて死んでくれ。遠慮は無用だ」
だだちゃ豆の大福をひとつ、差し出す。
「ああ、いけない。青い妖しに取り憑かれているね」
無表情の青輝丸が二番煎じを零れる勢いで俺に突き出し、その場を立ち去る。
怒るのも無理ない。
自分の一番弟子を危険に晒す判断を余儀なくされ、俺は一言も謝らずに大福を血で汚れた手で握り、何事も無かったかのように食べているのだから。
青嵐は足を組み替えて話を続ける。
「とめき、宇賀神の三男坊と付き合ってるそうじゃないか」
その名前にはっとして顔を上げると、一気に血圧が下がって眩暈を振り切るように目を閉じる。
晃汰のこと…曖昧にしていたけど宇賀神…どこかで聞いた名前だが思い出せない。
「ああいうのがタイプなの?」
「成り行きで…」
「本気じゃないの?」
「しつこい。お前に関係ねぇだろ」
手を拭いた除菌シートを丸めて投げようとしたら、晃汰が居た。
「青嵐さんより俺の方が好きだって、言ってくれるよね?」
胃袋で溶けた餅が逆流して気道を塞ぐ寸でに、ラウンド髭をこすらせながら顔を寄せて来る晃汰は男の可愛らしさを存分に放ち、冷静に見つめる青嵐の視線に戦慄。
何この公開処刑…う、浮気なんかしてませんよ?
「宇賀神…ん?三男坊って言った?」
「そう。アナスタシア関西支部の宇賀神姉妹。姉は女王様、妹はM嬢の奴隷」
ああ、それでか。
関東圏から出た事ないから他所の島には滅法疎いが、随分と鋭角で攻めて来たな。しかし晃汰は同業者ではなくあくまでも家族がというだけで、俺と出会ったのは偶然だと言い張るけど青嵐が遮る言葉に笑止。
宇賀神は青魄の一派で、畑違い。
青魄の隷属になれば一族諸共子々孫々と続く、血の契約。
俺はずっと青魄に付け狙われていた。
だから殺されなかった。命があるというのは『獲物』である証拠。
「待って、じゃあ…」言いかけて唇を噛みしめる。
青魄は花形の命、くれてやると言った。
あれが嘘じゃなければ玲音は青魄に渡って「お前は私から逃げられない」言葉の真意に近づいて震えあがる。
恋の障害は多いほどに燃えるということか。
もう、懲々だ。
闇に燈る青い火に踊らされてで飯事遊びに飴と鞭。全部仕組まれてたなんて、ふざけんなよ。この連中は、どこまで人のこと馬鹿にすれば気が済むんだ。
青魄に啖呵切って、殺されなかったのは不幸中の幸い。
知ったところでそれがどうした。
誰を親に選んでも、殺してでも手に入れたい男がいる現実に変わりはない。
そっと茶碗を置く青嵐が頬杖をついて微笑む。察しがいい…そういうことだ。
「叔父貴の犬でも、首輪を変えれば俺のモノだ」
「オジキって…何それ、ヤクザみたいな言い方」
「俺の父の弟だから、叔父さん」
「……え、なんて?」
「正月にお年玉いっぱいくれる金持ちの叔父さん」
「西の魔女に脅されて、ね?」
「に、西の…魔女?」
「親がヤクザだと友達もできなくて、あの頃は辛かったなぁ」
情報を整理しよう。
俺は、上司の息子とセックスを…してないしてない、未遂。
あっぶねぇ
これ関しては「記憶にございません」では済まされない。万が一、玲音の耳に入れば…いや、先の心配をしたって仕方ない。もっと建設的に考えよう。
「好きな人が誰でも俺の気持ちは止められないよ」
「…え?晃汰…俺のこと、好きなの?」
「コタ、うちの子から離れなさい」
「体は貰いましたから」
「言うなって…」
立ち上がる青嵐の首輪につけられたチェーンが伸びて、ガチャン!
「無駄な体力を消耗するな」
青輝丸の低い声に振り返る。
俺の位置からだと眼鏡のレンズが光ってて、すげぇー怖い。
「とめきは裏切ったわけじゃない。腐っても隷属、意地はある」
「おや、珍しいね。お前があの子を庇うなんて」
「次やったら、殺す」
「堪えなさい」
「今まで散々、子守をやってきた。もう…我慢の限界だ」
「それは我慢ではなくお前の我儘だよ。心を取り戻しなさい」
「こんな奴、いっそ青魄に…」
鎖を引きながら青嵐に訴えるも、冷酷な瞳にふと怯んだ隙に付け込まれて降り注ぐ唇を受け止め、桃色吐息を咲かせながら青嵐の胸に倒れ込む。
……うわぁ、言って駄目なら 犯 す 迄。
隷属は皆、親に忠誠を誓い命令は「絶対」だが対照的に、浮気っぽく親の鞍替えの寸でに奪還された俺は、青輝丸の通報が無ければ今頃は取り返しのつかないことになっていたのは確かだ。愚弟をもつ兄師の苦悩は計り知れない。それを根気よく説き伏せていくのが親の努め…という事か。
やれやれ、貫徹抗争モーニングは男同士の噎せ返るような青臭さが鼻につく。ソファに足を投げてひと眠りした後、ホテルで食事をする為、シャワーを浴びてスーツに着替える。
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