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奴隷島

ライオンと一角獣

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 ―――――……あ、青輝丸だ。


 こっちを見て…口を開けたまま、幽霊に遭ったような顔してる。
 いや、俺まだ死んでないし。

 「こんな時間に散歩ですか」
 「お前こそ、何をしているんだ。ここ…泪町なみだまちだぞ」
 「最近、来たばかりなんだ」

 ようやく動き出す青輝丸は、遮断器に手を乗せたまま…黙っていた。

 「この先の店で世話になってる。大丈夫、悪い人じゃないから」
 
 追いかけて来た科戸さんが、俺の横に並ぶ。

 「こんばんは。照真てるま君…だったよね?」
 「知ってるの?」
 「ええ…彼が幼い頃に一度だけ、会ったことがあります」

 ふと手を繋がれて、生温かい夜風が差し込む。
 前髪が一束…はらりこぼれ落ちる宵の冥利に振り向くと、青輝丸は後退りながら恐怖に顔を強張らせ、首を横に振っていた。
 


 
 「私の名は、青魄そうはく
 君たちの親である歌舞伎青嵐の兄です」




 ゆっくりと視線を外す。
 それは月が陰るように消入る。科戸さんが…青嵐の…

 「ここは私の領域テリトリーです。本来であれば、誰も立ち入る事は許されない処。貴方は自分の意思でここへ来て、私と出会ったのは運命。さて、どうしますか?戻りたければどうぞ。ただし、血は流れます」

 左近治が遮断器を上げる。
 どうしますか、て…そんなこと言われても。

 「帰りませんよ。だって俺は間借りしているだけの立場で、科戸さんに頼まれてお遣いに出ているんです。ちゃんと帰らないと、きっと科戸さん…心配する」

 雲の隙間から差す月明かりに陰ろうと、真っ黒に開かれた瞳孔は獲物を正確に捕えた猛禽類のような獰猛さを放っている。青嵐と同じ瞳だ…目を逸らせない。血の流れに激しい気勢が迫り抗えない感情が混ざり合い、底に沈殿した淀みまですくい取られる。だめだ、見てはいけない。色を失くした真っ黒な瞳が、俺を…消す。

 「ごめん、青輝丸……俺……帰れない」

 頼る手が遮断機を掴み、視線から逃れることが出来た。
 振り返る先に見た青輝丸の遠く、背中を追いかける俺は最後の情景をみつめていた。兄師えしに見捨てられたら、こんな気持ちになるんだな…案外…平気?事の重大さを理解してないというより、胸のつかえが粘りながら腑に落ちるまでの間に、この命を奪われる覚悟で青魄を見つめていた。

 青魄はアナスタシアの総支配人で事実上、日本SM界の巨匠・黒鬼いづるの後継者に選ばれた右翼派。
 黒木の死後、本家の青魄が組織を強化する上で、歌舞伎一門の分家にあたる青嵐が表に立っていると話に聞いていたが何度か名前を聞くだけで、その存在は暗にされてきた。実在するのか?詳細不明な「青魄」が、まさか青嵐の実兄だったとは…
 麗子は間違いなく俺の死期を視ていた。
 命の灯が消えるまで、やり残したことは数知れず。
 臆病な俺が折角ここまで頑張って来たのに、一人前の調教師になることも出来ず…
 玲音を取り戻せないまま、死ぬのか。
 ああ、俺は何を間違えたんだろう?アイツが泣いて嫌がっても一度くらい、犯しておけば…クソ、そうじゃない!呟く先で、新しい電球を回して点ける。

 「噂に聞いてはいましたが、本当に…」
 「もう俺には玲音しか居ないし、他に楽しみも無いので」
 「青嵐が余程、嫌いとみた」
 「子どもは親を選べない。で、どうして俺を生かしてるの?」

 青嵐の隷属の中でも俺は末端の愚図、人件費のかかる問題児だ。

 「君がここへ疑いもなく戻ってきたのは、どうして?」

 質問に質問で返される。面倒くさい奴だな。

 「他に行く所なんか俺には無い、ここに居れば旨い飯食えるし…科戸さんが…いい人だから」
 「そう、人が人の元に集うのはそれなりの理由があります」

 泪町二十四軒の住人は…
 全員、青魄の奴隷。凶悪犯罪者と予備軍で、ヤバい闇の住人。俺に声をかけてきた奴ら全員が、国家機密レベルで保護される危険因子マーカーで番外地に収容されて保護観察を受けている。
 一度は線路を渡り空蝉リアルに戻った俺は奇跡の生還を果たしたにも関わらず自分の意思で再び戻って来た。出会ってしまったが最後、これは…縁か?
 今この瞬間も恐怖や迷いは一切ない。
 ただ自分が知らなかった事実を順に並べて淡々と受け止めている。

 「どっちを親に持ってもカタギには戻れない。地獄だな」
 「地獄で仏に遇ってみないか」

 はぁ?首を掻きながら頭を傾げる。
 



 「花形の…命、くれてやる」




 青魄の奴隷になって、
 玲音を手に入れるか、
 ここで死ぬか。

 玲音を引き合いにするとはこれ以上にない身に余る条件だ。
 そんなことで取り返せるなら迷わず、俺は……
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