俺のご主人様がこんなに優しいわけがない

及川まゆら

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淫内感染

都内イケメンガチナンパ

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 すっかり暗くなった外を歩く。
 この道を通るのは3回目、まだ道を覚えてないからまっすぐ帰れる自信なくてスマホが頼り。
 でもソファに投げたままで忘れて来た。
 やべぇ…スマホ決済ができない。
 財布には夏目がひとりぼっち。
 まぁ安いワインくらいは買えるだろうと思い直して歩みを進める先に古い桜の木を見つけた。街灯の下に伸びる細い枝が揺れ、俺は誘われるように策を超えてソメイヨシノの小さな花を指先に乗せる。

 とんでもないカップルの所に預けられたものだな。

 腐っても隷属の俺は金の沸く泉…とはいえ、愛の巣は浸水被害。
 迷惑かけないうちに出て行って独立しないと。
 100円を惜しんで求人を立ち読みする俺は背の高い男とすれ違い、気持ち少しだけ避けた。

 横に並んだので文字を目で追いながら一歩、横へ…おかしい。


 違和感しかない。


 顔は動かさずに視線だけ、左にやると腕時計が目に入った。
 「おひとりですか」
 聞き取りやすい柔らかい声色に撫でられ鋭く反応する、慌てて雑誌を閉じた。
 顔を上げるとガラス越しに眼鏡のお兄さん。単髪に耳から繋がる角のあるゴツいラウンド髭が抜群にセクシーだがベビーフェイス!顔面偏差値の高さが、脳に突き刺さる。

 不自然すぎるモテ期
 いきなりコンビニでイケメンに声をかけられるとか、奇跡だろ。

 「ん?誰かと待ち合わせしてるのかな」

 「ひとりです、何か」

 「よかった。じゃあ…今からホテルに行かない?」

 頭が真っ白になった。
 人生初の逆ナンパがホテル直行コース。
 恋愛経験こそあるが世の男は即ホテル連れ込みが一般的なんだろうか。
 そんなことは無い…返事、すぐ返事しないと。こっち見てる。

 「どういう意味ですか」

 「ナギん家から出てきたでしょう。ごめんね、気になって後をつけて来たんだ。何かあった?」

 俺の反応に笑ってみせるベビーフェイスに見惚れる。
 コンビニの入店音が天から届く祝福のメロディに聞こえてくるから不思議だ。

 「じゃあ、行こうか」

 微かに触れる冷たい指先に、ほんのり灯る期待に胸が焼かれる。

 ――――よかったのか?ホイホイついて来て。

 ビジネスだろうがラブホだろうが関東全域の宿泊先は仕事で把握している。部屋も料金も従業員も全部知っていて、顔が割れているのに男と来ちゃった。ご主人様には内緒だよ…とか、そんな話が通じる連中ではない。
 どうしよう、千載一遇のチャンスなのに行く先が無いなんて。
 何なら野外で?
 だめ、シャワーに入らないと無理(職業病)

 「バイクなんだけど乗ったことある?はい、これ」

 ヘルメットを受け取った俺は乗り気じゃなかったが男を見ると欲望が再加熱。
 バレなければいい、と。

 「あの…」唇を噛みしめて伏し目を放つ

 「俺こういうの初めてで…ホテルとか…怖い、です」

 「だよねぇ。いきなり声かけ事案で連れて来たちゃったけど、正直こんなに上手くいくと思ってなかった。僕ん家行こっか。そっから先のことはその時・・・に考えて?」

 これだから色男は…
 お持ち帰りはOKて意味だろ。
 土壇場で抗ったところで押さえつけられて成すがまま、同性に力の差で勝てないのはいつだって悔しいけれど、この男、服を着ていてもわかるくらい胸板が厚い(通称デカパイ)
 相当、体を鍛えていらっしゃる。いい体だな…
 趣向を変えてうちで働かない?スカウトしたいくらいだ。

 「名前教えて貰っていいですか」

 「晃汰。そっちは?」言いかけて、踏み止まる。

 本当の名前を言わなかったのは…
 これが一回きりの遊びにするつもりだったから、なのか。人に聞かせる名前なんてどうでもいいと浮足立った俺はヘルメットを被って晃汰の背中に抱きついた。
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