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八漢地獄
宵闇の美しさは地獄の四丁目/1
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しかし一度現実に戻れば、ロマン輝く世界から一変。
真っ白なセキュリティスーツに顔面を覆うガスマスクという重装備で現れた社長の姿に硬直。朝っぱらからバイオハザード?
「どうした、鼻風邪でもひいたか」
そ、それは使用済みティッシュという名の白薔薇。
殺傷能力の高い危険な香りは全人類を死に至らしめると報告を受け、取り扱い危険物と化した残骸を回収。スプレータイプの除菌消臭剤を俺に撒布。
部屋の入り口で心配そうに様子を伺ってる玲音と空間を隔てる黄色いテープ。
なるほど、俺は自分を慰めることも許されないのか。
「俺、男ですよ。健康的かつ健全であることの証拠です」
「アレが生理現象だと?」
「そうですよ。社長も身に覚えがありませんか」
「生憎、遺伝子の無駄遣いをしている余裕がないもので…」
フォークの先と先で競い合う
熊本産あまおう苺の争奪戦に火花散る激トーク。
苛烈な嫌み合戦はお馴染みだが、事ある毎にバカにしてくる社長の頭にお子様ランチの旗を立ててやらないと気が済まない。
「一晩中ベッドが揺れて呻き声がするんだよ。レン、どう思う?」
「エクソシストですね。悪魔払いを呼びましょう」
「いや、台湾の占い師に見て貰おう。吉凶禍福が決まれば改装もやむを得ない」
俺の自慰とオカルトの混沌
社長アンタどんだけ話盛る気だ。本当のことが玲音にバレやしないか青ざめる俺の心配を余所に、悪魔払いならぬ事務所の改装工事をすることで決着がついた。
愛欲と業の深い職業柄
清めの煤払いは厄災を呼ばない為の大切な儀式。年末調整の一貫としてやると社長が言うのなら仕方ないが、住み込みで生活してる俺はどうなる?
まさかのお払い箱?
元凶は去るべくして何とやら。
往生せいやと流刑に処されたり、磔にされて燃やされたりして…
「心配ご無用、マミー型のシェラフを用意しました」
「ホームレス生活をしながら無銭で年末年始も働けと?」
「金と男の話しかできないのか。この守銭奴め…恥を知れ」
はぁ?風水の金銭アップとか気にするくらいなら俺に給料を払え。
現金収入でこっちは一挙解決だ。この野郎ふざけたことばっかしやがって…
「レン、あのね…」
「うわー!ごめんなさい。もう青嵐様のお好きなように、何なりと」
頬杖からの微笑。品種改良された花弁のような美しい唇が開けば呪いの言葉しか出てこないのに、この時ばかりは耳を疑った。
「命令だ。玲音、お前が可愛がってあげなさい」
主人には絶対服従という社訓のもと
始まる、俺と玲音の同棲生活。
社長の計らいは唐突過ぎて真意が読めないけど、この事は恩に着る。
惚れた男とひとつ屋根の下で暮らせるなんて毎日が幸せいっぱいのホリデーに違いない。
朝あどけない寝顔で「おはよう、昌」そして抱擁。
たっぷり愛くるしい姿なんだろうなぁ…
あはは……自主規制……
渋谷区千駄ヶ谷の古い貸しビルは、地上から階段を下りた所が1階になる変わった作りで、ガラス張りの扉を押し開ければ白いタイルが続く仄暗い通路に暖色の照明が人感センサーに反応して灯る。
基本コントラストは白と黒。
左側の棚には大きな生け花と横長の鏡。先を歩く玲音の姿に続き、俺が写って通路突き当たり、正面のドアから続く螺旋階段の下が居住区で、ガラスの壁に続く左側のドアから向こうは外から見通しの良い無機質な応接室。
ひとり掛けの椅子が二脚と豆のような形をした擦りガラス天板の長テーブル、葉が垂れ下がる観葉植物。すべて現代アートを匂わせる。
玲音の趣味なんだろうか?
「お邪魔します」
そして踏み出す、一歩。
緊張して、右手と右足が同時に出た。
「ただいまで、いいよ」
鍵を握って壁に手をつく玲音のSSS級極上スマイルで俺のHP全回復。
どの角度から見ても格好良すぎて目が眩む、意識不明の重体。
逞しい背中に倒れ込んでやりたい衝動を振るい飛ばし、男ふたりでは少々狭い螺旋階段を下りると、打ちっ放しコンクリートの壁に嵌め込みの窓をみつけた。この近辺は急勾配な坂に建物を詰め込んでいるため、表通りから見たら一段低く見えるけど
裏通りは平地なのでベランダや出入り口がある構造。なるほど…
住居としての賃貸物件ではないため、キッチンなどの生活スペースを作ったら狭いワンルームになってしまったと言いながら朱い江戸切子に入ったキャンドルに火を点ける玲音の手元から、ほんのり甘い香りが漂う。あ、この香り好きかも。
真っ白なセキュリティスーツに顔面を覆うガスマスクという重装備で現れた社長の姿に硬直。朝っぱらからバイオハザード?
「どうした、鼻風邪でもひいたか」
そ、それは使用済みティッシュという名の白薔薇。
殺傷能力の高い危険な香りは全人類を死に至らしめると報告を受け、取り扱い危険物と化した残骸を回収。スプレータイプの除菌消臭剤を俺に撒布。
部屋の入り口で心配そうに様子を伺ってる玲音と空間を隔てる黄色いテープ。
なるほど、俺は自分を慰めることも許されないのか。
「俺、男ですよ。健康的かつ健全であることの証拠です」
「アレが生理現象だと?」
「そうですよ。社長も身に覚えがありませんか」
「生憎、遺伝子の無駄遣いをしている余裕がないもので…」
フォークの先と先で競い合う
熊本産あまおう苺の争奪戦に火花散る激トーク。
苛烈な嫌み合戦はお馴染みだが、事ある毎にバカにしてくる社長の頭にお子様ランチの旗を立ててやらないと気が済まない。
「一晩中ベッドが揺れて呻き声がするんだよ。レン、どう思う?」
「エクソシストですね。悪魔払いを呼びましょう」
「いや、台湾の占い師に見て貰おう。吉凶禍福が決まれば改装もやむを得ない」
俺の自慰とオカルトの混沌
社長アンタどんだけ話盛る気だ。本当のことが玲音にバレやしないか青ざめる俺の心配を余所に、悪魔払いならぬ事務所の改装工事をすることで決着がついた。
愛欲と業の深い職業柄
清めの煤払いは厄災を呼ばない為の大切な儀式。年末調整の一貫としてやると社長が言うのなら仕方ないが、住み込みで生活してる俺はどうなる?
まさかのお払い箱?
元凶は去るべくして何とやら。
往生せいやと流刑に処されたり、磔にされて燃やされたりして…
「心配ご無用、マミー型のシェラフを用意しました」
「ホームレス生活をしながら無銭で年末年始も働けと?」
「金と男の話しかできないのか。この守銭奴め…恥を知れ」
はぁ?風水の金銭アップとか気にするくらいなら俺に給料を払え。
現金収入でこっちは一挙解決だ。この野郎ふざけたことばっかしやがって…
「レン、あのね…」
「うわー!ごめんなさい。もう青嵐様のお好きなように、何なりと」
頬杖からの微笑。品種改良された花弁のような美しい唇が開けば呪いの言葉しか出てこないのに、この時ばかりは耳を疑った。
「命令だ。玲音、お前が可愛がってあげなさい」
主人には絶対服従という社訓のもと
始まる、俺と玲音の同棲生活。
社長の計らいは唐突過ぎて真意が読めないけど、この事は恩に着る。
惚れた男とひとつ屋根の下で暮らせるなんて毎日が幸せいっぱいのホリデーに違いない。
朝あどけない寝顔で「おはよう、昌」そして抱擁。
たっぷり愛くるしい姿なんだろうなぁ…
あはは……自主規制……
渋谷区千駄ヶ谷の古い貸しビルは、地上から階段を下りた所が1階になる変わった作りで、ガラス張りの扉を押し開ければ白いタイルが続く仄暗い通路に暖色の照明が人感センサーに反応して灯る。
基本コントラストは白と黒。
左側の棚には大きな生け花と横長の鏡。先を歩く玲音の姿に続き、俺が写って通路突き当たり、正面のドアから続く螺旋階段の下が居住区で、ガラスの壁に続く左側のドアから向こうは外から見通しの良い無機質な応接室。
ひとり掛けの椅子が二脚と豆のような形をした擦りガラス天板の長テーブル、葉が垂れ下がる観葉植物。すべて現代アートを匂わせる。
玲音の趣味なんだろうか?
「お邪魔します」
そして踏み出す、一歩。
緊張して、右手と右足が同時に出た。
「ただいまで、いいよ」
鍵を握って壁に手をつく玲音のSSS級極上スマイルで俺のHP全回復。
どの角度から見ても格好良すぎて目が眩む、意識不明の重体。
逞しい背中に倒れ込んでやりたい衝動を振るい飛ばし、男ふたりでは少々狭い螺旋階段を下りると、打ちっ放しコンクリートの壁に嵌め込みの窓をみつけた。この近辺は急勾配な坂に建物を詰め込んでいるため、表通りから見たら一段低く見えるけど
裏通りは平地なのでベランダや出入り口がある構造。なるほど…
住居としての賃貸物件ではないため、キッチンなどの生活スペースを作ったら狭いワンルームになってしまったと言いながら朱い江戸切子に入ったキャンドルに火を点ける玲音の手元から、ほんのり甘い香りが漂う。あ、この香り好きかも。
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