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八漢地獄
ご存じ地獄の二丁目
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右の運転席から渡された一枚の名刺
都市開発局 Something+4(株)
住所からして新宿の街道沿いにある雑居ビルだろう。この辺りの地理に自信がない迷子になると必ず郵便局に辿り着くという俺にとってここはホラースポット。そこへ手錠をされたまま連れて行かれるなんて夢にも思わなかった。
「あ、印鑑忘れた」
唐突なボケは、エレベーターが動いてすぐ始まった。
とりあえず社長が取りに戻るまでの間、交渉よろしくと頼まれた俺は仕方なく先方の会社をひとりで伺うことに。何て言えばいいのか考えながらドアを開けた…
次の瞬間、俺は無言で閉める。
ここは男の花園、新宿二丁目。
もう夏は終わったというのに…
白タンクの下から乳の首を突起させた、体育会系の角刈り髭面がまっ昼間っから熱烈ディープキスに及んでも、なんら不思議ではない男闘呼(お・と・こ)の異世界。
このビルの下は、オカマバーの妖しいネオンがあったよな?
男が男を貪るハッテンバも、この近くだよな?
まさかこのお茶飲んだら前みたいに意識を失うなんてこと、無いと信じたい。
「いただきます」勇気と決断力は男の証
応接室で俺の正面に座る、小柄な男は太い首に派手な柄のスカーフを巻きラメ入りノースリーブに光沢のある薄紫のストールをゆるく肩にかけ、小指おっ立てて上品にほくそ笑む。
男っていうか、完全にオカマな仕上り。
「今日はどんなご用かしら?」軽いタッチと共に交渉開始。
「社長が書類を取りに戻っていますので、大変申し訳ありませんが少しお時間を
頂けませんか?」
「うふふ。これは、なに?」
「社長に先ほど付けていただいた、手錠です」
「素敵な口実ね…アタシ、ブラッディマリーの美穂。坊や名前は?」
吐き気を誘う香水の重圧とセクハラに耐えること小一時間(時計の長い針が2周)
どうやら美穂は若い男である俺から存分に鋭気を養ったようで、ご満悦の様子。
「じゃあ、約束のコレ」
「あ!鍵…どうして、美穂さんが持ってるんですか」
慌てる俺の後ろから腕を回して手錠を外す美穂は、同時に耳元で囁きながら上着の胸ポケットに四角いビニールケースを差し込んできた。
袋の中に、白い錠剤が2粒。
離れた美穂の指はそれが何か聞こうとする俺の唇を塞いだ。
「お遣いご苦労様。可愛がってあげるから、またいらっしゃい」
脳裏に過ぎった
―――――違法薬物の文字。
危険な密売に関与してしまった汚職を呪いながら、袋を握りしめる。
五反田の事務所に戻った俺は、玲音の呼び声に反応することなく突き進む。
社長を見ないでポケットから袋を取り出し
「こんなこと、俺にさせないでください」
「悪かった。でも美穂は男と引き替えに、コレ…くれるんだよ」
「俺、売られたって意味ですか」
憤りから今にも泣き出しそうな俺の言葉が漏れる。答えはなかった。
社長は玲音からグラスを受け取り薬と一緒に水を拭くに含む。黒い犯罪を見て見ぬ振りをする瞬間は、呆気なく終わってしまった。
「これで少しは眼精疲労も取れるだろう、玲音」
「はい」ひとつ返事で、俺に笑みを送る。
そして低い声を潜めながら薬の正体を俺に、そっと明かす。
「あれは筋肉の緊張を和らげる医薬品です」
「え…イッちゃう薬じゃないの?」
「青嵐様はドラッグを使用しなくてもナチュラルに決まってます」
「言い方な…じゃあ、なんで美穂が?」
「先日のパーティであの方と飲み比べた際に負けて常備薬を没収されたそうです。
返して欲しければ若い男を貢げと脅され…仕方なく」
俺が、餌食になったそうです。
製菓用のリキュール
カルバドス(アルコール40度)を湯水のごとく飲み干し、続けざまに瓶ごと冷やしたウォッカを飲むスピリッツ男爵の愛称で親しまれる男が飲み比べで負けるなんて事が
あるのか?おそるべし益荒男、ブラッディマリー美穂。
「新宿の魔女から無傷で逃げ帰るとは、ただ者じゃないね」
「無傷ってことはないと思いますけど」
「入れ食いの美穂が食えないほどのブサイク…ヤマダ…奇跡の生還」
「餅よく噛んで食べて下さいね。喉に引っかかって死にますよ」
俺と社長の愛憎トークに玲音は笑いを堪えながら椀におかわりの最中を入れ熱い湯をゆっくり注ぐ。寒いこの季節、和菓子しか食べない贅沢な社長のおやつタイムに便乗する俺は、店頭に並ばない予約で完売する高級和菓子に舌鼓。
汁粉を口いっぱいに含ませ、たまの幸せを噛みしめる。
都市開発局 Something+4(株)
住所からして新宿の街道沿いにある雑居ビルだろう。この辺りの地理に自信がない迷子になると必ず郵便局に辿り着くという俺にとってここはホラースポット。そこへ手錠をされたまま連れて行かれるなんて夢にも思わなかった。
「あ、印鑑忘れた」
唐突なボケは、エレベーターが動いてすぐ始まった。
とりあえず社長が取りに戻るまでの間、交渉よろしくと頼まれた俺は仕方なく先方の会社をひとりで伺うことに。何て言えばいいのか考えながらドアを開けた…
次の瞬間、俺は無言で閉める。
ここは男の花園、新宿二丁目。
もう夏は終わったというのに…
白タンクの下から乳の首を突起させた、体育会系の角刈り髭面がまっ昼間っから熱烈ディープキスに及んでも、なんら不思議ではない男闘呼(お・と・こ)の異世界。
このビルの下は、オカマバーの妖しいネオンがあったよな?
男が男を貪るハッテンバも、この近くだよな?
まさかこのお茶飲んだら前みたいに意識を失うなんてこと、無いと信じたい。
「いただきます」勇気と決断力は男の証
応接室で俺の正面に座る、小柄な男は太い首に派手な柄のスカーフを巻きラメ入りノースリーブに光沢のある薄紫のストールをゆるく肩にかけ、小指おっ立てて上品にほくそ笑む。
男っていうか、完全にオカマな仕上り。
「今日はどんなご用かしら?」軽いタッチと共に交渉開始。
「社長が書類を取りに戻っていますので、大変申し訳ありませんが少しお時間を
頂けませんか?」
「うふふ。これは、なに?」
「社長に先ほど付けていただいた、手錠です」
「素敵な口実ね…アタシ、ブラッディマリーの美穂。坊や名前は?」
吐き気を誘う香水の重圧とセクハラに耐えること小一時間(時計の長い針が2周)
どうやら美穂は若い男である俺から存分に鋭気を養ったようで、ご満悦の様子。
「じゃあ、約束のコレ」
「あ!鍵…どうして、美穂さんが持ってるんですか」
慌てる俺の後ろから腕を回して手錠を外す美穂は、同時に耳元で囁きながら上着の胸ポケットに四角いビニールケースを差し込んできた。
袋の中に、白い錠剤が2粒。
離れた美穂の指はそれが何か聞こうとする俺の唇を塞いだ。
「お遣いご苦労様。可愛がってあげるから、またいらっしゃい」
脳裏に過ぎった
―――――違法薬物の文字。
危険な密売に関与してしまった汚職を呪いながら、袋を握りしめる。
五反田の事務所に戻った俺は、玲音の呼び声に反応することなく突き進む。
社長を見ないでポケットから袋を取り出し
「こんなこと、俺にさせないでください」
「悪かった。でも美穂は男と引き替えに、コレ…くれるんだよ」
「俺、売られたって意味ですか」
憤りから今にも泣き出しそうな俺の言葉が漏れる。答えはなかった。
社長は玲音からグラスを受け取り薬と一緒に水を拭くに含む。黒い犯罪を見て見ぬ振りをする瞬間は、呆気なく終わってしまった。
「これで少しは眼精疲労も取れるだろう、玲音」
「はい」ひとつ返事で、俺に笑みを送る。
そして低い声を潜めながら薬の正体を俺に、そっと明かす。
「あれは筋肉の緊張を和らげる医薬品です」
「え…イッちゃう薬じゃないの?」
「青嵐様はドラッグを使用しなくてもナチュラルに決まってます」
「言い方な…じゃあ、なんで美穂が?」
「先日のパーティであの方と飲み比べた際に負けて常備薬を没収されたそうです。
返して欲しければ若い男を貢げと脅され…仕方なく」
俺が、餌食になったそうです。
製菓用のリキュール
カルバドス(アルコール40度)を湯水のごとく飲み干し、続けざまに瓶ごと冷やしたウォッカを飲むスピリッツ男爵の愛称で親しまれる男が飲み比べで負けるなんて事が
あるのか?おそるべし益荒男、ブラッディマリー美穂。
「新宿の魔女から無傷で逃げ帰るとは、ただ者じゃないね」
「無傷ってことはないと思いますけど」
「入れ食いの美穂が食えないほどのブサイク…ヤマダ…奇跡の生還」
「餅よく噛んで食べて下さいね。喉に引っかかって死にますよ」
俺と社長の愛憎トークに玲音は笑いを堪えながら椀におかわりの最中を入れ熱い湯をゆっくり注ぐ。寒いこの季節、和菓子しか食べない贅沢な社長のおやつタイムに便乗する俺は、店頭に並ばない予約で完売する高級和菓子に舌鼓。
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