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奴隷契約
汝、目覚めよ。
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俺は歩いてた。
真っ暗闇に靴音が響く。後ろから聞こえてくる笑い声に耳を貸すなと、もうひとりの自分が背後からしがみついてきて、踏み出した一歩…まっ逆さま。
一瞬の浮遊感はリアルに感じられ、続けざま頭の中で鈍い音がした。
「うわ、本気で痛ぇー!」
起き上がって頭を抱える俺の視界に飛び込んできたのは日焼けとは無縁の白い素肌
う系の疑問詞を繋げながらベッドに逆戻りする。
なぜ?全裸でキングサイズのベッドに寝ているのか。
お茶を飲んでひっくり返ったのを最後に昨日は終わってる。
現実はこうだ。
住所不定無職のネカフェ難民だった俺が一夜にしてアングラ業界に飛び込み時給1$の安月給にあり就いた。この時給は店の規約によるもので一般的な全国水準を下回るどころか1日働いてもタクシー初乗り料金に劣る。
目覚めよニッポン、俺は円高を望んだりしないぞ。
ベッドカバーを折り畳んで胸から下が隠れるよう体に巻いて部屋から出てみよう。話はそれからだ。
次の瞬間、何かが割れるような大きな音が張り裂ける。
慌てて金細のドアノブを引っ張った。まるで張り込み中の刑事みたいにドアを背にした俺が見たものは、何かを投げる…あの男、歌舞伎青嵐の後ろ姿。
音の正体は、猛獣使いの長鞭。
俺の記憶が正しければ、あの弾けるような音は床を叩く時に生じるものではなく音速でしなる際に真空を切り裂く衝撃破。問題はそれを朝から振り回してる社長だ。
「おはよう。よく眠れた?」
「はい、お陰様で」
あの、社長…
鞭の素振りをするのはいいけど、上半身裸の漆黒レザーパンツ一枚は刺激が強すぎて直視できません。なんて言えるか、バカ野郎!
朝の真っ白な光に貫かれた社長は顔の輪郭を消して、あの印象的な瞳だけが浮かび上がる。金色の羽に変わる睫毛は透き通っているが色濃い影を落とし生き物じゃない絵のようにただ美しかった。
「…あ、そうだ俺のスーツ。どこにも無いんですけど」
「汚いから捨てた」
「はぁ?!今、何て言った」
「嘘です。クリーニングに出しました」
頼んでもいないのに余計なことを。
こっちは借りる金はあっても、返す金はねぇーんだよ。
意を決し社長に向かって突き進み、文句に文句を重ねに荒げる俺を素通りして
シャツの袖に腕を通す。
「着替え、そこにあるので良ければどうぞ」
鞭を丸めながら顎で示す方を見ると、段ボール箱の中にリングやチェーン付きボンテージやマイクロサイズの派手なビキニ。切れ目が入ってる女物の薄いレースの下着ごっそり。どこから足を入れるのか?
まず、それがわからなかったので丁重にお断りした。
余計なことは考えるな。
今まであった楽しいことを思い出せ。
ここではビジネスライクな会話があれば、俺は充分だ。それなのに…
目の前で始まる、ガチSM。
身じろぎもできないくらい厳しい緊縛を受けた顔面フルマスク、バイブ搭載の男が凌辱の限りを尽くした装い、海の生き物みたいな呻き声を反芻させる。馬尻をひっぱたく鞭を容赦なく背中に浴びせられ、責め立てられる激しい音が耳障りで仕方ない。男が男を弄る狂い咲き陵辱シーンは俺が持ってるカメラに収まり、これからプロモーションビデオに生まれ変わる。戦慄の60分一本勝負は終了。真っ赤に腫らした肌を愛おしそうにひと撫で土下座をする男は最後までフルマスクを外さなかった。
どうやって呼吸しているんだ?
驚愕の濡れ場に残された、汚物。
処理したのは、誰?
俺。
山田昌夫(22歳・獅子座) 性別:DT
一仕事終わった後にデスクを見たら、俺の履歴書ひらり。
写真にマジックで鼻毛のイタズラ書きが施してあるのを見つけ次第、また社長に詰め寄る。
想像を絶する苛烈な8時間労働は、食事休憩なしで腹の虫が悲鳴を上げる。
社長のランチは正月フライングな早とちりおせち料理風の三段重。
贅を凝らした内容に飢えた獣のような熱視線を送る俺を鼻で笑いながらいい匂いだけさせて一口もくれない。社長アンタは罪な男だ。
住み込みで働くというより、これじゃ拉致監禁。
夕方5時を過ぎた頃、スーツに着替えた社長が自分の財布から初任給8$を取り出し
「お疲れ様でした。行ってきます」
早口で挨拶を残して消えた。
本気の$払いに、開いた口が塞がらない。
銀行で両替したいけど窓口が閉まってる已然の問題を抱える俺は8$を握り顔を伏せる。腹減った。食料はないけど、朝まで途方もない時間がある。
与えられたパソコンは自由に使えるので、空腹という現実逃避を兼ねオフィシャルサイトや、店のホームページ関連リンクを見ることにした。
真っ暗闇に靴音が響く。後ろから聞こえてくる笑い声に耳を貸すなと、もうひとりの自分が背後からしがみついてきて、踏み出した一歩…まっ逆さま。
一瞬の浮遊感はリアルに感じられ、続けざま頭の中で鈍い音がした。
「うわ、本気で痛ぇー!」
起き上がって頭を抱える俺の視界に飛び込んできたのは日焼けとは無縁の白い素肌
う系の疑問詞を繋げながらベッドに逆戻りする。
なぜ?全裸でキングサイズのベッドに寝ているのか。
お茶を飲んでひっくり返ったのを最後に昨日は終わってる。
現実はこうだ。
住所不定無職のネカフェ難民だった俺が一夜にしてアングラ業界に飛び込み時給1$の安月給にあり就いた。この時給は店の規約によるもので一般的な全国水準を下回るどころか1日働いてもタクシー初乗り料金に劣る。
目覚めよニッポン、俺は円高を望んだりしないぞ。
ベッドカバーを折り畳んで胸から下が隠れるよう体に巻いて部屋から出てみよう。話はそれからだ。
次の瞬間、何かが割れるような大きな音が張り裂ける。
慌てて金細のドアノブを引っ張った。まるで張り込み中の刑事みたいにドアを背にした俺が見たものは、何かを投げる…あの男、歌舞伎青嵐の後ろ姿。
音の正体は、猛獣使いの長鞭。
俺の記憶が正しければ、あの弾けるような音は床を叩く時に生じるものではなく音速でしなる際に真空を切り裂く衝撃破。問題はそれを朝から振り回してる社長だ。
「おはよう。よく眠れた?」
「はい、お陰様で」
あの、社長…
鞭の素振りをするのはいいけど、上半身裸の漆黒レザーパンツ一枚は刺激が強すぎて直視できません。なんて言えるか、バカ野郎!
朝の真っ白な光に貫かれた社長は顔の輪郭を消して、あの印象的な瞳だけが浮かび上がる。金色の羽に変わる睫毛は透き通っているが色濃い影を落とし生き物じゃない絵のようにただ美しかった。
「…あ、そうだ俺のスーツ。どこにも無いんですけど」
「汚いから捨てた」
「はぁ?!今、何て言った」
「嘘です。クリーニングに出しました」
頼んでもいないのに余計なことを。
こっちは借りる金はあっても、返す金はねぇーんだよ。
意を決し社長に向かって突き進み、文句に文句を重ねに荒げる俺を素通りして
シャツの袖に腕を通す。
「着替え、そこにあるので良ければどうぞ」
鞭を丸めながら顎で示す方を見ると、段ボール箱の中にリングやチェーン付きボンテージやマイクロサイズの派手なビキニ。切れ目が入ってる女物の薄いレースの下着ごっそり。どこから足を入れるのか?
まず、それがわからなかったので丁重にお断りした。
余計なことは考えるな。
今まであった楽しいことを思い出せ。
ここではビジネスライクな会話があれば、俺は充分だ。それなのに…
目の前で始まる、ガチSM。
身じろぎもできないくらい厳しい緊縛を受けた顔面フルマスク、バイブ搭載の男が凌辱の限りを尽くした装い、海の生き物みたいな呻き声を反芻させる。馬尻をひっぱたく鞭を容赦なく背中に浴びせられ、責め立てられる激しい音が耳障りで仕方ない。男が男を弄る狂い咲き陵辱シーンは俺が持ってるカメラに収まり、これからプロモーションビデオに生まれ変わる。戦慄の60分一本勝負は終了。真っ赤に腫らした肌を愛おしそうにひと撫で土下座をする男は最後までフルマスクを外さなかった。
どうやって呼吸しているんだ?
驚愕の濡れ場に残された、汚物。
処理したのは、誰?
俺。
山田昌夫(22歳・獅子座) 性別:DT
一仕事終わった後にデスクを見たら、俺の履歴書ひらり。
写真にマジックで鼻毛のイタズラ書きが施してあるのを見つけ次第、また社長に詰め寄る。
想像を絶する苛烈な8時間労働は、食事休憩なしで腹の虫が悲鳴を上げる。
社長のランチは正月フライングな早とちりおせち料理風の三段重。
贅を凝らした内容に飢えた獣のような熱視線を送る俺を鼻で笑いながらいい匂いだけさせて一口もくれない。社長アンタは罪な男だ。
住み込みで働くというより、これじゃ拉致監禁。
夕方5時を過ぎた頃、スーツに着替えた社長が自分の財布から初任給8$を取り出し
「お疲れ様でした。行ってきます」
早口で挨拶を残して消えた。
本気の$払いに、開いた口が塞がらない。
銀行で両替したいけど窓口が閉まってる已然の問題を抱える俺は8$を握り顔を伏せる。腹減った。食料はないけど、朝まで途方もない時間がある。
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