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奴隷契約
噂の真相マガジン、創刊。
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「はい、それで吉祥寺のアパートを社宅として借りたんですが家賃が全額負担になって先払いした分も全部戻らないまま契約違反で追い出されました」
「再就職は、どうなんだい?」
「それが全然。あんな形で職を失って、履歴書になんて書けばいいか…住所も無いからバイトの面接も絶望的ですね。今のところは」
一夜明け、トイレの連れ込み男と改めて外で会うことになり、自分の生活苦を語る一方で冷えたグラスに口を付け、冷静になろうとするのには訳がある。
俺の所持金は1000円も無い。
ロイヤルな空間で優雅なランチをご馳走して貰えるとわかった今、空腹と恐縮の狭間で脳内キャリーオーバー。名も知らぬ男は、命の恩人だ。
噂の真相は、フリーで売春をやってる未成年がネットで話題を呼び、完全予約制で自ら考案したルールで無断営業。何も知らない俺は危なく生活資金を水の泡にする所だった。そんなことがまかり通る深夜のネカフェ営業恐るべし。
男は青少年育成法なんとかで、夜間の人が集まる場所を巡回をして未成年に指導するボランティア活動に取り組んでいる。そのせいか鋭い眼光で銀色の細いフレームの奥に潜む、二重の切れ長な瞳が印象的。
背格好は俺よりずっと大きい推定190㎝超え。
流行の英国風クラシックのスーツを着こなし、嫌みじゃないが長い脚を持て余しているように見えた。一方で俺は160㎝ジャストサイズ。量産型の店で安売りしてたチェックの長袖に着古して柔らかくなったMサイズの黒シャツ、時代錯誤のケミカルウォッシュのジーンズに汚れたハイカットシューズは24㎝(男子シンデレラサイズ)
女物しか着たことがないので、激しく3Lに憧れる。
見た目からして格差社会を感じる俺は、顔を上げられないでいた。
「自己紹介ついでに。よかったら、これどうぞ」
高校時代から使い込まれたリュックの中から名刺代わりの履歴書を取り出して見せるなんて、やっぱり俺は常識無いんだろうか?そう思った頃には目を通されていた。
「なるほど。語学力は?」
「TOEFLのスコアは、まずまず…ですかね」
高校から海外留学を考えていたので、一般的な実力試験は受けていた。そこに気がついて貰えるとは光栄だ。他にも資格あるぞと言いたげに口を結んだ。
「まぁ、国内の企業に勤めるなら必要無いかもね」
俺のとっておきは見事に玉砕。
次に男が名刺を差し出して来た。条件反射で立ち上がる自分は社会人の真似事してる気恥ずかしさからやや虚しさを我が身に感じつつ、ありがたく名刺を頂戴した。
これも何かの縁だろう。
甘い予感を匂わせる薄紫の高級和紙には見たこともない目新しい単語と直筆のような行書体で印刷されていた。
風俗コーディネーター とは?
急激に心拍数が上がる。
早まるな、俺…「ご職業は?」聞いてはいけない。だめ、絶対。
しかし若獅子たる驚異的な好奇心がそれいけと背中を何度も蹴飛ばしてくるから俺史上初の一大決心が、次の一言に凝縮される。
「あの、失礼ですが、業界の方(小声)でいらっしゃいますか?」
「はい、そうです。調教師を生業としてます」
類い希なるストレートに打ち砕かれた一般人代表の俺には荷が重すぎるぜ。
人生は悪しき冗談だと、昔の人はよく言ったものだ。
カメラがどこかに隠れて撮影する番組のご冗談あはは!だと笑い飛ばしたいが俺の日常からして、既にギャグ。
昨日の出来事は紛れもないリアル。そんな俺に更なる追い打ち。
「じゃあ、君…採用ね。
詳しい勤務内容等は明日説明します。午前11時迄に事務所へ来て下さい」
「えええ!面接だったんですか」
「雇用の心配は要らないよ。保証制度もあるから。何よりもこの業界…」
「…はぁ」間抜けなため息を打ち破る男の一言
「不況に強い」マジですか!!
落雷のような俺の悲鳴に、男は微笑む。
研修期間は2ヶ月。それまで続けば本採用として正社員の契約すると約束され固い握手で結ばれた。風俗店経営?ちょっと想像できないけど冷静に考えて金欠が先立ち仕事を選ぶ余裕など、どこにも無い。その証拠に預金は底をついてた。
男がスマートに立ち去った後
皿の窪みに残ったスープに、ぼんやりとした俺の顔が浮かんでいた。
意識を取り戻した俺は、カップラーメンのスープをこぼす寸前でセーフ。
口に入るものはすべて貴重な栄養源なので無駄にできない。
黒い天上に登る途中で消える湯気
安穏とした暗い部屋。何が現実で自分が誰なのか、わからない日々に終止符を打つ一枚の名刺。
「騙されたと思って来てごらん」
男が残した言葉が胸に残る。
これが嘘じゃなければ…俺はこの東京砂漠で、ホームレスになることは免れる。
たかが風俗業界に身を置くことくらいどうということはない。無職で生きる術を失い男ながらに借金にまみれ体を切り売りするかよマシだろう。心配いらない。
卓上カレンダーは、教えてくれる。
今日は、先勝。
明日は、仏滅(ちょっと不安…)
「再就職は、どうなんだい?」
「それが全然。あんな形で職を失って、履歴書になんて書けばいいか…住所も無いからバイトの面接も絶望的ですね。今のところは」
一夜明け、トイレの連れ込み男と改めて外で会うことになり、自分の生活苦を語る一方で冷えたグラスに口を付け、冷静になろうとするのには訳がある。
俺の所持金は1000円も無い。
ロイヤルな空間で優雅なランチをご馳走して貰えるとわかった今、空腹と恐縮の狭間で脳内キャリーオーバー。名も知らぬ男は、命の恩人だ。
噂の真相は、フリーで売春をやってる未成年がネットで話題を呼び、完全予約制で自ら考案したルールで無断営業。何も知らない俺は危なく生活資金を水の泡にする所だった。そんなことがまかり通る深夜のネカフェ営業恐るべし。
男は青少年育成法なんとかで、夜間の人が集まる場所を巡回をして未成年に指導するボランティア活動に取り組んでいる。そのせいか鋭い眼光で銀色の細いフレームの奥に潜む、二重の切れ長な瞳が印象的。
背格好は俺よりずっと大きい推定190㎝超え。
流行の英国風クラシックのスーツを着こなし、嫌みじゃないが長い脚を持て余しているように見えた。一方で俺は160㎝ジャストサイズ。量産型の店で安売りしてたチェックの長袖に着古して柔らかくなったMサイズの黒シャツ、時代錯誤のケミカルウォッシュのジーンズに汚れたハイカットシューズは24㎝(男子シンデレラサイズ)
女物しか着たことがないので、激しく3Lに憧れる。
見た目からして格差社会を感じる俺は、顔を上げられないでいた。
「自己紹介ついでに。よかったら、これどうぞ」
高校時代から使い込まれたリュックの中から名刺代わりの履歴書を取り出して見せるなんて、やっぱり俺は常識無いんだろうか?そう思った頃には目を通されていた。
「なるほど。語学力は?」
「TOEFLのスコアは、まずまず…ですかね」
高校から海外留学を考えていたので、一般的な実力試験は受けていた。そこに気がついて貰えるとは光栄だ。他にも資格あるぞと言いたげに口を結んだ。
「まぁ、国内の企業に勤めるなら必要無いかもね」
俺のとっておきは見事に玉砕。
次に男が名刺を差し出して来た。条件反射で立ち上がる自分は社会人の真似事してる気恥ずかしさからやや虚しさを我が身に感じつつ、ありがたく名刺を頂戴した。
これも何かの縁だろう。
甘い予感を匂わせる薄紫の高級和紙には見たこともない目新しい単語と直筆のような行書体で印刷されていた。
風俗コーディネーター とは?
急激に心拍数が上がる。
早まるな、俺…「ご職業は?」聞いてはいけない。だめ、絶対。
しかし若獅子たる驚異的な好奇心がそれいけと背中を何度も蹴飛ばしてくるから俺史上初の一大決心が、次の一言に凝縮される。
「あの、失礼ですが、業界の方(小声)でいらっしゃいますか?」
「はい、そうです。調教師を生業としてます」
類い希なるストレートに打ち砕かれた一般人代表の俺には荷が重すぎるぜ。
人生は悪しき冗談だと、昔の人はよく言ったものだ。
カメラがどこかに隠れて撮影する番組のご冗談あはは!だと笑い飛ばしたいが俺の日常からして、既にギャグ。
昨日の出来事は紛れもないリアル。そんな俺に更なる追い打ち。
「じゃあ、君…採用ね。
詳しい勤務内容等は明日説明します。午前11時迄に事務所へ来て下さい」
「えええ!面接だったんですか」
「雇用の心配は要らないよ。保証制度もあるから。何よりもこの業界…」
「…はぁ」間抜けなため息を打ち破る男の一言
「不況に強い」マジですか!!
落雷のような俺の悲鳴に、男は微笑む。
研修期間は2ヶ月。それまで続けば本採用として正社員の契約すると約束され固い握手で結ばれた。風俗店経営?ちょっと想像できないけど冷静に考えて金欠が先立ち仕事を選ぶ余裕など、どこにも無い。その証拠に預金は底をついてた。
男がスマートに立ち去った後
皿の窪みに残ったスープに、ぼんやりとした俺の顔が浮かんでいた。
意識を取り戻した俺は、カップラーメンのスープをこぼす寸前でセーフ。
口に入るものはすべて貴重な栄養源なので無駄にできない。
黒い天上に登る途中で消える湯気
安穏とした暗い部屋。何が現実で自分が誰なのか、わからない日々に終止符を打つ一枚の名刺。
「騙されたと思って来てごらん」
男が残した言葉が胸に残る。
これが嘘じゃなければ…俺はこの東京砂漠で、ホームレスになることは免れる。
たかが風俗業界に身を置くことくらいどうということはない。無職で生きる術を失い男ながらに借金にまみれ体を切り売りするかよマシだろう。心配いらない。
卓上カレンダーは、教えてくれる。
今日は、先勝。
明日は、仏滅(ちょっと不安…)
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