全てを無くした転生者は、スキルの力で成り上がる

蒼田 遼

文字の大きさ
上 下
12 / 18

11話 母の気持ちと子の気持ち

しおりを挟む
 ~ベルside~

 ここは、私が暗殺業に疲れた時にゆっくりとできる誰にも知られていない秘密の場所。

 ノブル上流国の王都から北に少しいった森の中にある天然の洞穴。

 洞穴といっても、私が住める様に家具が置いてあり居住スペースとなっている。

 ここに来るまでポーラは無言だった。

 下を向きながらも私の後ろをついてくるあたり、かなりの訓練をこなしたであろうことが窺える。

 私はテーブルにコーヒーを入れたマグを二つ置きポーラと向かい合う様に座る。

 「で、ポーラ。お母さん、怒らないから何であの男と一緒にいたのか教えて。なんで、貴方がこの暗殺者の服を着ているのか、教えて?」

 「…………」

 ポーラは下を向きながら俯いている。


 「黙っていたって、分からないわ。ポーラ。お願いだから教えて。あの男は……この仕事は……とても……とても危険なのよ。私は貴方を巻き込みたくなかった。だから貴方が私と同じメイドになると言った4歳の頃も猛反対したの。メイドとなってしまえば、王の……王家の影に見られる可能性は高い……だから……」

 「……私に……私には。」

 ポーラが口を開き始めたので、私は私の言いたい事を我慢して、彼女の言葉を聞くことにする。

 「私には、お父さんは居ない……。私にはお母さんしかいなかった……でも、お母さんは毎日メイドの仕事で朝から夜までずっといなかった……。寂しかったの。毎日一人で遊んで、毎日、毎日、毎日、毎日。起きたらお母さんがいない日々が。夜寝てる時に少しだけ感じるお母さんの温もりをもっと感じてたかったのっ!」


 私は、そんな娘の言葉を聞いて、何も言えなかった。
 いや、何も言う資格がないと感じた。

 もうこれ以上言わないで欲しいと思うほど痛いところを突かれた。

 けど、私の思いとは裏腹に娘の開いた口はもう塞がらなかった。

 「私が、初めてメイドになりたいと言った日を覚えてる?本当は良い子でいなきゃって思って言うかどうかも迷ってた。でも、でもでもでも。お母さんととにかく一緒にいたかったのっ!だからあの日、私は夜遅くまで一生懸命起きてお母さんを待ってた。でも待ってみて初めて分かったの、こんなにも遅くまで働いて、あんなにも朝早く出ていくなんて。私を守るために頑張ってくれてるんだって。だから帰ってくるまでは、やっぱり言うのはやめようと思っていたの。ただ、おかえりってお母さんを起きて迎えようって。でも、あった瞬間に私のわがままが出てきちゃったの。気付いたらメイドになりたいってお母さんに言っちゃってた……。」


 私はポーラの言葉を静かに聞きながら初めて聞く可愛い娘の想いに、申し訳なさと後悔で涙が溢れ続けた。

 ポーラの方も、発言しながら大粒の涙が頬を伝っていた。


 「一度言ってしまったら、もう気持ちは収まらなかった。1分でも1秒でもお母さんと一緒にいれるならって、どれだけ反対されても私はメイドになりたかった。だから。5歳になってメイド見習いとしてお母さんと同じ職場で働けることは私にとって今までのどんな事より嬉しかった。それから職場でお母さんが褒められてるのを聞くと私も頑張らなきゃって思えたの。」

 「……ごめんね。ごめんね。ポーラ……」

 「ううん。でも9歳になったある日、お母さんが別の場所に移動になったって聞いた時はすごくショックだったし、私はまた1人にされちゃうと思った。そのくらいだったと思う。シャドウさんと知り合ったのは。」

 あの男は。あの男は。あの男は。
 娘の弱いところを、本当に弱いところをついて。

 怒りが沸々と湧き上がってくる。

 いや、でも、もう人のせいにするのはよそう。
 私がポーラを放置していたのだ、ポーラを誰よりも傷つけたのは私だったのだ。

 そんな私を見てポーラは寂しそうに笑う。


 「お母さん?私、シャドウさんに救われたと思ったのよ。人を暗殺することよりも自分が危険な場所に行くことよりも、知らないお母さんを知れて、しかも私も努力すればお母さんと同じところで働ける。お母さんと一緒に任務が出来ると思ったら、本当に嬉しかったの。」

 「ごめんなさい……ごめんね……ポーラ。私は……私は本当にダメな母で……。」

 「ううん。ダメなんかじゃないよ。お母さん。私にとってお母さんは最高にかっこよくて、本当にすごいお母さんなんだから。私こそお母さんの忠告を守らずに追いかけてばっかりで、悪い子でごめんなさい。」

 「ううん。子供はね。親に迷惑をかけていいのよ。かけなきゃだめなの。私がポーラともっと正直に話すべきだった。それこそ今の様にね。」

 私たちは、2人で笑い合った。
 そして、抱きしめ合い、2人して号泣した。


 「そうだ。ポーラ。私から提案がある。」


 こんな幸せな時間なんて久々だった。
 だからかもしれない。


 「今の私の任務が終わったら、私と一緒に王家の影を抜けて、2人で田舎に移り住みましょう。今まで取れなかった時間を取り戻すためにも。朝はゆっくり起きて、昼は買い物に行くの。夕方には帰ってきて、2人でゆっくり話して笑い合って、早めに一緒に寝ましょ。そしてポーラが大人になったらボーイフレンドを連れてきて私に紹介して頂戴ね。3人でお酒を飲んで、ゆっくり暮らすの。」

 
 私は、夢を見てしまった。

 影で生きると決めたあの日から、捨てたはずの幸せな未来を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...