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11話 母の気持ちと子の気持ち
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~ベルside~
ここは、私が暗殺業に疲れた時にゆっくりとできる誰にも知られていない秘密の場所。
ノブル上流国の王都から北に少しいった森の中にある天然の洞穴。
洞穴といっても、私が住める様に家具が置いてあり居住スペースとなっている。
ここに来るまでポーラは無言だった。
下を向きながらも私の後ろをついてくるあたり、かなりの訓練をこなしたであろうことが窺える。
私はテーブルにコーヒーを入れたマグを二つ置きポーラと向かい合う様に座る。
「で、ポーラ。お母さん、怒らないから何であの男と一緒にいたのか教えて。なんで、貴方がこの暗殺者の服を着ているのか、教えて?」
「…………」
ポーラは下を向きながら俯いている。
「黙っていたって、分からないわ。ポーラ。お願いだから教えて。あの男は……この仕事は……とても……とても危険なのよ。私は貴方を巻き込みたくなかった。だから貴方が私と同じメイドになると言った4歳の頃も猛反対したの。メイドとなってしまえば、王の……王家の影に見られる可能性は高い……だから……」
「……私に……私には。」
ポーラが口を開き始めたので、私は私の言いたい事を我慢して、彼女の言葉を聞くことにする。
「私には、お父さんは居ない……。私にはお母さんしかいなかった……でも、お母さんは毎日メイドの仕事で朝から夜までずっといなかった……。寂しかったの。毎日一人で遊んで、毎日、毎日、毎日、毎日。起きたらお母さんがいない日々が。夜寝てる時に少しだけ感じるお母さんの温もりをもっと感じてたかったのっ!」
私は、そんな娘の言葉を聞いて、何も言えなかった。
いや、何も言う資格がないと感じた。
もうこれ以上言わないで欲しいと思うほど痛いところを突かれた。
けど、私の思いとは裏腹に娘の開いた口はもう塞がらなかった。
「私が、初めてメイドになりたいと言った日を覚えてる?本当は良い子でいなきゃって思って言うかどうかも迷ってた。でも、でもでもでも。お母さんととにかく一緒にいたかったのっ!だからあの日、私は夜遅くまで一生懸命起きてお母さんを待ってた。でも待ってみて初めて分かったの、こんなにも遅くまで働いて、あんなにも朝早く出ていくなんて。私を守るために頑張ってくれてるんだって。だから帰ってくるまでは、やっぱり言うのはやめようと思っていたの。ただ、おかえりってお母さんを起きて迎えようって。でも、あった瞬間に私のわがままが出てきちゃったの。気付いたらメイドになりたいってお母さんに言っちゃってた……。」
私はポーラの言葉を静かに聞きながら初めて聞く可愛い娘の想いに、申し訳なさと後悔で涙が溢れ続けた。
ポーラの方も、発言しながら大粒の涙が頬を伝っていた。
「一度言ってしまったら、もう気持ちは収まらなかった。1分でも1秒でもお母さんと一緒にいれるならって、どれだけ反対されても私はメイドになりたかった。だから。5歳になってメイド見習いとしてお母さんと同じ職場で働けることは私にとって今までのどんな事より嬉しかった。それから職場でお母さんが褒められてるのを聞くと私も頑張らなきゃって思えたの。」
「……ごめんね。ごめんね。ポーラ……」
「ううん。でも9歳になったある日、お母さんが別の場所に移動になったって聞いた時はすごくショックだったし、私はまた1人にされちゃうと思った。そのくらいだったと思う。シャドウさんと知り合ったのは。」
あの男は。あの男は。あの男は。
娘の弱いところを、本当に弱いところをついて。
怒りが沸々と湧き上がってくる。
いや、でも、もう人のせいにするのはよそう。
私がポーラを放置していたのだ、ポーラを誰よりも傷つけたのは私だったのだ。
そんな私を見てポーラは寂しそうに笑う。
「お母さん?私、シャドウさんに救われたと思ったのよ。人を暗殺することよりも自分が危険な場所に行くことよりも、知らないお母さんを知れて、しかも私も努力すればお母さんと同じところで働ける。お母さんと一緒に任務が出来ると思ったら、本当に嬉しかったの。」
「ごめんなさい……ごめんね……ポーラ。私は……私は本当にダメな母で……。」
「ううん。ダメなんかじゃないよ。お母さん。私にとってお母さんは最高にかっこよくて、本当にすごいお母さんなんだから。私こそお母さんの忠告を守らずに追いかけてばっかりで、悪い子でごめんなさい。」
「ううん。子供はね。親に迷惑をかけていいのよ。かけなきゃだめなの。私がポーラともっと正直に話すべきだった。それこそ今の様にね。」
私たちは、2人で笑い合った。
そして、抱きしめ合い、2人して号泣した。
「そうだ。ポーラ。私から提案がある。」
こんな幸せな時間なんて久々だった。
だからかもしれない。
「今の私の任務が終わったら、私と一緒に王家の影を抜けて、2人で田舎に移り住みましょう。今まで取れなかった時間を取り戻すためにも。朝はゆっくり起きて、昼は買い物に行くの。夕方には帰ってきて、2人でゆっくり話して笑い合って、早めに一緒に寝ましょ。そしてポーラが大人になったらボーイフレンドを連れてきて私に紹介して頂戴ね。3人でお酒を飲んで、ゆっくり暮らすの。」
私は、夢を見てしまった。
影で生きると決めたあの日から、捨てたはずの幸せな未来を。
ここは、私が暗殺業に疲れた時にゆっくりとできる誰にも知られていない秘密の場所。
ノブル上流国の王都から北に少しいった森の中にある天然の洞穴。
洞穴といっても、私が住める様に家具が置いてあり居住スペースとなっている。
ここに来るまでポーラは無言だった。
下を向きながらも私の後ろをついてくるあたり、かなりの訓練をこなしたであろうことが窺える。
私はテーブルにコーヒーを入れたマグを二つ置きポーラと向かい合う様に座る。
「で、ポーラ。お母さん、怒らないから何であの男と一緒にいたのか教えて。なんで、貴方がこの暗殺者の服を着ているのか、教えて?」
「…………」
ポーラは下を向きながら俯いている。
「黙っていたって、分からないわ。ポーラ。お願いだから教えて。あの男は……この仕事は……とても……とても危険なのよ。私は貴方を巻き込みたくなかった。だから貴方が私と同じメイドになると言った4歳の頃も猛反対したの。メイドとなってしまえば、王の……王家の影に見られる可能性は高い……だから……」
「……私に……私には。」
ポーラが口を開き始めたので、私は私の言いたい事を我慢して、彼女の言葉を聞くことにする。
「私には、お父さんは居ない……。私にはお母さんしかいなかった……でも、お母さんは毎日メイドの仕事で朝から夜までずっといなかった……。寂しかったの。毎日一人で遊んで、毎日、毎日、毎日、毎日。起きたらお母さんがいない日々が。夜寝てる時に少しだけ感じるお母さんの温もりをもっと感じてたかったのっ!」
私は、そんな娘の言葉を聞いて、何も言えなかった。
いや、何も言う資格がないと感じた。
もうこれ以上言わないで欲しいと思うほど痛いところを突かれた。
けど、私の思いとは裏腹に娘の開いた口はもう塞がらなかった。
「私が、初めてメイドになりたいと言った日を覚えてる?本当は良い子でいなきゃって思って言うかどうかも迷ってた。でも、でもでもでも。お母さんととにかく一緒にいたかったのっ!だからあの日、私は夜遅くまで一生懸命起きてお母さんを待ってた。でも待ってみて初めて分かったの、こんなにも遅くまで働いて、あんなにも朝早く出ていくなんて。私を守るために頑張ってくれてるんだって。だから帰ってくるまでは、やっぱり言うのはやめようと思っていたの。ただ、おかえりってお母さんを起きて迎えようって。でも、あった瞬間に私のわがままが出てきちゃったの。気付いたらメイドになりたいってお母さんに言っちゃってた……。」
私はポーラの言葉を静かに聞きながら初めて聞く可愛い娘の想いに、申し訳なさと後悔で涙が溢れ続けた。
ポーラの方も、発言しながら大粒の涙が頬を伝っていた。
「一度言ってしまったら、もう気持ちは収まらなかった。1分でも1秒でもお母さんと一緒にいれるならって、どれだけ反対されても私はメイドになりたかった。だから。5歳になってメイド見習いとしてお母さんと同じ職場で働けることは私にとって今までのどんな事より嬉しかった。それから職場でお母さんが褒められてるのを聞くと私も頑張らなきゃって思えたの。」
「……ごめんね。ごめんね。ポーラ……」
「ううん。でも9歳になったある日、お母さんが別の場所に移動になったって聞いた時はすごくショックだったし、私はまた1人にされちゃうと思った。そのくらいだったと思う。シャドウさんと知り合ったのは。」
あの男は。あの男は。あの男は。
娘の弱いところを、本当に弱いところをついて。
怒りが沸々と湧き上がってくる。
いや、でも、もう人のせいにするのはよそう。
私がポーラを放置していたのだ、ポーラを誰よりも傷つけたのは私だったのだ。
そんな私を見てポーラは寂しそうに笑う。
「お母さん?私、シャドウさんに救われたと思ったのよ。人を暗殺することよりも自分が危険な場所に行くことよりも、知らないお母さんを知れて、しかも私も努力すればお母さんと同じところで働ける。お母さんと一緒に任務が出来ると思ったら、本当に嬉しかったの。」
「ごめんなさい……ごめんね……ポーラ。私は……私は本当にダメな母で……。」
「ううん。ダメなんかじゃないよ。お母さん。私にとってお母さんは最高にかっこよくて、本当にすごいお母さんなんだから。私こそお母さんの忠告を守らずに追いかけてばっかりで、悪い子でごめんなさい。」
「ううん。子供はね。親に迷惑をかけていいのよ。かけなきゃだめなの。私がポーラともっと正直に話すべきだった。それこそ今の様にね。」
私たちは、2人で笑い合った。
そして、抱きしめ合い、2人して号泣した。
「そうだ。ポーラ。私から提案がある。」
こんな幸せな時間なんて久々だった。
だからかもしれない。
「今の私の任務が終わったら、私と一緒に王家の影を抜けて、2人で田舎に移り住みましょう。今まで取れなかった時間を取り戻すためにも。朝はゆっくり起きて、昼は買い物に行くの。夕方には帰ってきて、2人でゆっくり話して笑い合って、早めに一緒に寝ましょ。そしてポーラが大人になったらボーイフレンドを連れてきて私に紹介して頂戴ね。3人でお酒を飲んで、ゆっくり暮らすの。」
私は、夢を見てしまった。
影で生きると決めたあの日から、捨てたはずの幸せな未来を。
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