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そうだ、ビッチのふりをして抱いてもらおう①
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***
「……ハア……」
吐き気が収まり、無残に潰れたチューリップの花弁がついた手のひらを払った。
今からどうしよう。帰って横になりたいけど、アパートには悠生と郁実君がいる。
悠生は自分がいないところで郁実君と関わりを持つなと言ったけれど、自分がいるときにはこれ見よがしに見せつけてくる。
俺は郁実君との幸せをひけらかしてくる悠生と離れたくて、半年ほど前に親に学生アパートでの一人暮らしを相談したのに、それなら二人で一緒にやってみなさい、なんて言われて結局は一緒に住んでいる。これなら家にいた方がましだった。
アパートには親の目がないから悠生はやりたい放題だ。郁実君だけじゃなく、他にも友人を断りなく連れてきて泊まらせたり、遅くまでゲーム配信をしていたり。中でも郁実君との出来事を長い時間上機嫌で語ることがあり、俺は気が滅入ってしまう。だからお風呂と寝るとき以外はあまりアパートにいないようにしている。
それなのに今日は郁実君と悠生がいるところに出くわしてしまった。これから俺は、身体が弱っていくにつれ外出も減っていくだろう。
「すぐにでも実家に帰ろうか……」
独り言を零しながらアパートに向かったとき、俺と悠生が住む部屋の玄関ドアが開いた。悠生と郁実君が出てきて、少し言葉を交わすと悠生は向こう側へ走り出し、郁実君は俺がいる方に歩いてくる。
俺は隠れる場所もなく、うつむいて通り過ぎようと思った。
「……真生」
それなのに、声をかけられると足を止めてしまう。
「顔色、悪いね。バイト遅くまで頑張ってるそうだね。無理しちゃ駄目だよ?」
優しい声に顔を上げてしまう。
だって、好きなんだ。やっぱりどうしても好きなんだ。あきらめようと何度もした。でも駄目だったんだ。だから俺は、花吐き病を患って────
「う。ぐっ……」
腹が圧迫される。また花が生まれる。駄目、駄目だ。知られたくない……!
「真生!? どうした?」
膝を崩してしゃがみ込みかけた俺を、郁実君が抱き止めた。
力強い腕に暖かい体温。不思議とすうっと吐き気が引いていく。
聞いたことはないけれど、思いが叶わなくても、好きな人に触れてもらうだけで症状が緩和するとかあるんだろうか。
ずっとこうしていてほしい。郁実君に抱きしめていてほしい……触れたい、もっと。
キスしてほしい、キスしたい。
……抱いて、ほしい。
「!」
「真生? 大丈夫?」
自分の中に生まれた欲に驚いて身体が強張った。郁実君が俺の顔を覗き込み、近い距離で視線が絡む。
……ああ、好きだ。郁実君が好き。郁実君にキスされて抱かれたいよ……。
「だい、じょうぶ……じゃない」
俺を抱き止めてくれているしなやかな腕に、ぎゅっと掴まる。
「大丈夫じゃないって、どんな感じ?」
「ごめん、とにかく部屋に連れて行って……」
心から心配してくれる様子の郁実君によりかかる。
頭の中では浅ましい考えが浮かんでいた。
今、悠生はいない。郁実君と過ごす時間を捨ててまで出かけた。急いでいるようにも見えた。多分しばらく帰らない。
だから、抱いてもらおう。
どうせ俺は死ぬんだから、ビッチのふりして郁実君に抱いてもらえればそれでいい────思いは伝えない。郁実君に罪悪感を抱かせることがないように。
「……ハア……」
吐き気が収まり、無残に潰れたチューリップの花弁がついた手のひらを払った。
今からどうしよう。帰って横になりたいけど、アパートには悠生と郁実君がいる。
悠生は自分がいないところで郁実君と関わりを持つなと言ったけれど、自分がいるときにはこれ見よがしに見せつけてくる。
俺は郁実君との幸せをひけらかしてくる悠生と離れたくて、半年ほど前に親に学生アパートでの一人暮らしを相談したのに、それなら二人で一緒にやってみなさい、なんて言われて結局は一緒に住んでいる。これなら家にいた方がましだった。
アパートには親の目がないから悠生はやりたい放題だ。郁実君だけじゃなく、他にも友人を断りなく連れてきて泊まらせたり、遅くまでゲーム配信をしていたり。中でも郁実君との出来事を長い時間上機嫌で語ることがあり、俺は気が滅入ってしまう。だからお風呂と寝るとき以外はあまりアパートにいないようにしている。
それなのに今日は郁実君と悠生がいるところに出くわしてしまった。これから俺は、身体が弱っていくにつれ外出も減っていくだろう。
「すぐにでも実家に帰ろうか……」
独り言を零しながらアパートに向かったとき、俺と悠生が住む部屋の玄関ドアが開いた。悠生と郁実君が出てきて、少し言葉を交わすと悠生は向こう側へ走り出し、郁実君は俺がいる方に歩いてくる。
俺は隠れる場所もなく、うつむいて通り過ぎようと思った。
「……真生」
それなのに、声をかけられると足を止めてしまう。
「顔色、悪いね。バイト遅くまで頑張ってるそうだね。無理しちゃ駄目だよ?」
優しい声に顔を上げてしまう。
だって、好きなんだ。やっぱりどうしても好きなんだ。あきらめようと何度もした。でも駄目だったんだ。だから俺は、花吐き病を患って────
「う。ぐっ……」
腹が圧迫される。また花が生まれる。駄目、駄目だ。知られたくない……!
「真生!? どうした?」
膝を崩してしゃがみ込みかけた俺を、郁実君が抱き止めた。
力強い腕に暖かい体温。不思議とすうっと吐き気が引いていく。
聞いたことはないけれど、思いが叶わなくても、好きな人に触れてもらうだけで症状が緩和するとかあるんだろうか。
ずっとこうしていてほしい。郁実君に抱きしめていてほしい……触れたい、もっと。
キスしてほしい、キスしたい。
……抱いて、ほしい。
「!」
「真生? 大丈夫?」
自分の中に生まれた欲に驚いて身体が強張った。郁実君が俺の顔を覗き込み、近い距離で視線が絡む。
……ああ、好きだ。郁実君が好き。郁実君にキスされて抱かれたいよ……。
「だい、じょうぶ……じゃない」
俺を抱き止めてくれているしなやかな腕に、ぎゅっと掴まる。
「大丈夫じゃないって、どんな感じ?」
「ごめん、とにかく部屋に連れて行って……」
心から心配してくれる様子の郁実君によりかかる。
頭の中では浅ましい考えが浮かんでいた。
今、悠生はいない。郁実君と過ごす時間を捨ててまで出かけた。急いでいるようにも見えた。多分しばらく帰らない。
だから、抱いてもらおう。
どうせ俺は死ぬんだから、ビッチのふりして郁実君に抱いてもらえればそれでいい────思いは伝えない。郁実君に罪悪感を抱かせることがないように。
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