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秘されたディーヴァは暗闇で踊る

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 世界で暗躍する裏組織のトップの妾腹のαは、スーパーαである為、跡継ぎとして組織に君臨している。生まれた時から確約された地位・名誉・財産・才能。欲する前に全てが揃っていた。
 毎日がつまらない。渇望した事がない。
 だがある日、公安の「ディーヴァ」と呼ばれるΩに出会い、人生が変わった。

 公安外事課に、フェロモン作用が強い美貌のΩを集めてトラップに仕立てた「性的処理班」があることは認知していたがさして影響はなかった。たがここ最近、組織の鍛えられたα工作員が立て続けに狂わされている。

 調べで、コードネーム「ディーヴァ」を持つ新人Ω巡査に行き着いた。

「面倒な種は摘み取っておくか」
 αは資料に掲載された魅惑的なΩの写真にダーツ矢を指し 
「お前は俺を楽しませてくれるか?」と微笑んだ。


 Ωは普段はハウスクリーニングの職員らしい。近隣に住まいを借り早速呼び寄せた。

「こんにちは。ご利用ありがとうございます」

 現れたΩは資料写真や映像の色香は持ち合わせず、ひたすらに地味で純朴な様相でやってきた。

 当然だ。αも組織のナンバー2の気配を消し、持ち前の人身掌握術でΩの心に侵入していく。

 予め調べたΩの好みを
「俺もだよ。まさか、◯△も好きだったり?」
 と運命的に感じるように「同じだ」と披露する。

 友人になるのに時間はかからず
「他愛ないな。すぐに落とせる」
 と、αは組織に堕として利用する算段を立て、Ωを監視し行動を追う。
 ただΩは新人とはいえコードネームを与えられた巡査だ。
「何者か」の存在に気づき監視を逃がれる。

「こうでなくては」
 組織外の犯行の案件では最中まで追えず、愉しむα。


 αは予定していた組織の犯行をぶつけ、Ωがディーヴァとしてαを堕とすベッドシーンを見た。
 扇情的な表情で工作員αの上で艶かしく腰を振って踊り、情報を聞き出す姿。見たことがない姿に胸の奥でちりちりと熱いものが燃えた。
 Ωが任務を終え去った後、既に白痴状態となった工作員に銃を乱射していた。


「おはよう、α。お裾分けを持って来たよ」

 翌朝、純朴な青年の姿で家に来たΩの手には手作りの惣菜。一緒に食べようと言う。

 昨夜のことで荒ぶった自身にジレンマを抱え、苛ついていたαだが、心が凪いでいく。無意識にΩを抱きしめていた。

「どうしたの?」
 戸惑いながらも頬を赤らめるΩがかわいい。

 ──かわいい。欲しい。
 Ωに顔を寄せる。

「キスしたい。いい?」
 何かを欲したことも、他人に許しを請いたこともない。なのにそうしていた。

 Ωは恥ずかしそうに目を伏せ長いまつげを揺らしたが、コクリと頷いた。
 地味で純朴。でも、ガラス細工のような儚さと繊細さ、美しさがある。

 αは柄じゃない、重ねるだけのキスをした。
 するとΩが一筋の涙を流す。
「初めてのキスなんだ。暖かくて優しくて、君自身を唇でいっぱいに感じる」
 安いセリフだ。そう思うのに、αの中に熱い泉が湧く。

 朝食を取りながら
「Ωといると気持ちが安らぐ。仕事の疲れが消えていく」
 と悲しく微笑んでΩが言う。

 任務のことだろう。踏み込まないが心を乱される。
「そう。仕事はなんでも大変だよね。俺がΩの辛さを引き受けたいな。俺もね、Ωといると、ここに血が通っていると実感する」
 Ωの手を取り自分の胸に当てさせる。

「血が通う? なぁに、それ……あ……君の胸、凄くドキドキしてる」
「そうだ。Ωといると胸が高鳴る。胸が熱くなる。Ωはどうだ?」

 反対の手でΩの胸に触れると、ビクリと体が震えた。

「あ……僕も、同じ……」
 ウブな少年のような顔をするが、フェロモンを香らせた。自分への好意を感じ、より胸が高鳴った。

 手をずらし、シャツのボタンの隙間から指を入れる。
 Ωは抵抗しなかった。
 そしてその日、二人は肌を重ねた。

 腕の中のΩは初めて体験する者のようだった。少し触れるだけで目を潤ませ、硬くなった部分に触れればすぐに達してしまう。子供のようにか細い声を上げ、αにすがりつく。
 頭の中に昨夜の映像が浮かぶ。
 どちらが本当のΩだ。

 苛つく。撃ち殺した工作員をもっと痛めつけたい。だが、腕の中のΩを痛めたくはない。αは体の熱を冷ます為の行為しかしたことがなかったが、Ωを優しく抱いた。
 Ωの中に入れば、感じたことのない充足感に包まれる。
 行為が終わればしっかりと抱きしめて眠った。


 恋人になった二人だが互いに素性は隠したまま。Ωは任務を続けていて、知らぬ男達に脚を開いている。αには見せない顔で。

 自分を差し置き、騙されている感が強くなるα。
 Ωはαが甘い言葉を囁き、抱き潰しても理性を保っていてうなじを護る。

 スーパーαでフェロモンを自在に操れるαが、自分の誘惑に抗えないように操作しても、Ωは最後の一線を護る。

「ごめん。番にはなれない。君が望むなら別れるしかない」

 自分よりも任務を優先するΩに怒りが湧いた。
 無意識に、悲しみを屈辱感で覆い隠したαは本来の目的を思い出す。

(必ず堕として俺の忠実な犬にする。躾けてやらなきゃな)
 初めて自分以外の力──強力な媚薬を用意する。

(俺にここまでさせるお前は特別だ。特別な物には特別な印を与えてやる)
 最高のデートを用意し、ホテルのスイートでΩを甘やかす。

 だが、Ωはしおらしく言う。

「僕には豪華な場所は不釣り合いだ。海が見える静かな田舎で、君とだけひっそりと暮らせたらいいのに」

 何をいまさら。番になる気はないくせに。
 この俺が用意してやった最高級の部屋が気に入らないか? ああ、お前は任務で肥えた奴等の相手をしているから、飽き飽きしているのか。

 また胸がちりちりと熱くなった。

 媚薬を入れたシャンパンを飲ませるα。
 Ωは淫らになり、任務の時のように腰を振った。いや、それ以上に激しく、αを求める。
 任務中はしないキスをして、αの名を呼び続けて。

 そのことをαは知らないが、されるたびに泣きたいような切なさに襲われる。

 欲しい。Ωが欲しい。腕の中に閉じ込めておきたい。
 この気持ちはなんだ……ただの征服欲だ。今まで俺の手を煩わせる人間はいなかったから。

 欲しい。自分だけのものにしたい。誰にも触らせたくない。もう誰にも、Ωを穢されたくない──
 自分でも理解できない心。

 αは、今まで甘くΩを抱いてきたが、奥の奥まで熱塊を突き立て、子宮に亀頭球を食い込ませた。

「あっ、や、α…!」

 首を振りながらも抵抗できないΩを容赦なく責める。
 嘉悦に浸りきっているΩから発せられるフェロモンの強さに、αも自我を失いかける。

 瞳には桃色に染まったΩのうなじしか見えなくなり、やがて大きく口を開け、歯を立てて刻印を刻んだ。

「ぁあ…。α、あいして…る…」

 先に果てたΩを抱きしめながら、αは一晩中、自分の血潮を注ぎ続けていた。全てを捨てて、自分だけでいっぱいになればいい。

 その後、番ができたことから任務を降りると思われたΩだが、フェロモンの強制誘発剤や拒否反応緩衝薬を使いながら続けていると知り、αは次の行動へ出る。

 思い通りにならないΩを次こそ手中に収める。舞台を本拠地に移し、Ωをおびき寄せる為にテロ活動に乗じて姿を消し、謎を残す。

 公安のディーヴァなら必ず自分に辿り着くはずだ。
「待ってるよ、俺のディーヴァ。最高の地獄を見せてやる。暗闇でともに踊ろう」

 Ωが自分のことで必死になる未来が楽しみで仕方ない。初めての渇望と期待と昂揚感。
 その根底に狂おしい愛情が潜んでいることに、αはまだ気づいていない。
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