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あなたの隣にいる器になりたいから

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「お勉強でございますか?」
「はい。おれ、学がないのでリューク様のお仕事に連れて行ってもらってもわからないことが多いんです。ウィンザー伯爵領のこともリューク様の教えてくださることしか知らないですし」
 
 指での慣らしが始まった数日後、執事さんにお願いに行った。

 ベッドで言われた「器じゃない」が身体のことだけではなく、おれ自身の性質のことのような気がして、娼夫以外の仕事ができないおれは、勉強を頑張って知識を増やし、リューク様の隣にいて恥ずかしくない人間になりたいと強く思った。

 先日ハーヴィー男爵が熱心に話しかけてくれて、水力発電の話はおもしろかったけれど、ちゃんと理解できたわけじゃないし、他の貴族の方や商人の方はにこやかに挨拶をしてくれるものの、仕事の話はおれにはしない。話しても理解できないのを知っているからだろう。

「夜の仕事もきちんとしますから、どうかお願いします」
「夜の?」
「はい、あの、その、リューク様の糖化を抑えるお役目を……」

 はっきりと接合とは言い難くて、もじもじと口ごもってしまった。

「ははぁ、なるほど……」

 すると執事さんは察したのかどうなのか、顎に丸めた手を当ててしばらく考え込む。

「……ふむ。どうも様子がおかしいと思っていたが、そうか、リュクソール様は……」
「え? なんですか?」

 執事さんの声がだんだん小さくなったけれど、「うっかりか、そちらには明るくないのか」と聞こえた気がして尋ねた。

「いいえ、なんでもございません。御当主様のお考えを無責任に推察するのは執事として失格です。そのときが来ればリュクソール様に確認することといたしましょう。それで、お勉強ですが」
「は、はい」
「良いお心がけです。すぐにリューク様にお伝えして講師を選んでいただきましょう」
「え? わざわざ先生を? おれなんかに? 結構です。文字は読めるので自分で本を読もうと、書庫に入る許可を頂きたかっただけですから」

 身を縮めて恐縮すると、執事さんは柔らかく微笑んだ。

「いいえ、ユアル様だからこそです。ユアル様に領地や当家のことを深く理解して頂くことは、大変重要なことです。良くぞ申し出てくださいました」

 大変重要? そうか、娼夫といっても伯爵様の娼夫だもの。やっぱり「隣にいる器」でないとウィンザー家の恥になるに違いない。

「はい……! リューク様に恥ずかしくないよう、頑張ります!」
「ええ、ええ」

 執事さんは満足げに頷いた。

 ────けれど。
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