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ひとりじゃ生きてはいけない

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 家族を殺された。

 おれの一家は第二性が「フォーク」だから。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 もうどれくらい走ったんだろう。昨日まで優しかった村の人たちに、予備殺人鬼と忌み嫌わるフォークだと知られて、フォーク狩り放火をされた。

 すぐに煙が回って、母さんが息絶えた。父さんは首を掻きながらもおれを裏口から逃し、「生きるんだ」と言ってドアを締めたんだ。

 怖くつらかったけれど、こうして知らない土地の山奥まで逃げて、ひとり生き残ってしまった。

 でももう疲れた。足が痛い。身体が重い、喉が乾いた……!

 走れなくなって膝を付くと、もう駄目だった。昼過ぎから星が出始めた今まで、棒切れのような足の痩せっぽっちの身体で、ずっと走っていたんだ。

 おれは山へと続く道の真ん中で仰向けに倒れ込んだ。

「……城……?」

 真ん前しか見ていなかったから気が付かなかった。道から続く山の頂上に、夕闇色に染まった夜空に浮かぶように、尖った屋根がたくさんある大きな城が建っている。

 あんなところに住む貴族は、たとえフォークでも怯えることなく暮らしているんだろう。
 いつフォークだとバレるか気にすることもなく、いつもおいしい食事をお腹いっぱいに食べて……。

「はは、おれ、バカだな。フォークならお金持ちでも、ケーキの人以外はなにを食べてもおいしくないよ……」

 涙をこぼしながらつぶやいていた。


 この世には男女性の他に「ケーキ」、「フォーク」という第二性がある。
 人口の九十パーセントは第二性を持たない「ノーマル」だけれど、おれの第二性であるフォークは成長期を迎えるころから正常な味覚を失って、ケーキが持つ甘美な血肉の香りを感じ取り、ケーキのものなら、涙も皮膚も、髪の一本でさえも、跡形も残らずすべてを食したいと欲してしまう生き物だ。

 けれどそれでは人を殺して喰らう「人喰い」になってしまう。

 誰がそんな事実を受け入れられる? 味覚を失うまではノーマルだったんだ。

 殺人鬼になんてなりたいはずがない。多くのフォークは味覚がしない食料を感謝して食べ、ノーマルだったとき以上に誠実に、身を潜めるように生きている。おれの家族も、フォークになって五年ほどになるおれも、例外じゃなかった。

 ただその一方で、出会ったケーキへの衝動を抑えられずに襲うフォーク、数少ないケーキにありつけず、見境をなくしてノーマルにまで襲いかかるフォークが一定数いるのも事実だ。
 それゆえにフォークは迫害され、国はフォーク狩りを認めている。

 そしておれは、家族も家も失った。ただ、フォークというだけで。


「父さん、母さん、逃げてきたって、フォークのおれがひとりじゃ生きていけないよ……一緒に死にたかった……」

 涙で目がかすむ。夜空もシリウスほしもぼやけて、だんだんなにも見えなくなる。

 おれは瞼を閉じ、そのまま意識を失った。
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