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秘めやかな愛に守られて、お嫁さんになりました
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約一年後、梅雨の晴れ間の、薄い水色の空が綺麗な日。
僕と月華は伊集院家の人たちと、日向と十六夜に見守られて祝言を挙げた。
世間ではケダモノへの視線の冷たさは変わっていないけれど、伊集院家の人たちは僕を本当の家族のように思ってくれる。
男娼として名を馳せた月華も家族から労りは受けたけれど、憐情をかけられることはなく、経験を糧と励みにしろとお義父様やお祖父様に叱咤激励を受けながら、経営の勉強に励んできた。
また僕も、経理の勉強をしたいと申し出て月華の隣で学び、元いた世界で中学受験の勉強を頑張っていたからかな? 月華にも伊集院家の人たちにも計算が早くて正確だと驚かれ、期待をかけてもらえている。
そして小さいけれど、先月から月華と共に林業の会社を任されて、仕事を始めた。
「月華、鞠也、おめでとう!」
十六夜が涙で頬を濡らして祝ってくれた。その隣では日向が寄り添い、頷いている。
君たち二人も、彩里国の遊郭に落っこちて右も左もわからなかった僕をずっと見守っていてくれたね。
「ありがとう。十六夜と日向にお祝いしてもらえてすごく嬉しい。来てくれてありがとう」
「当たり前でしょ~。僕は毬也が大好きなんだから、いつでもどんなときでも駆けつけるよぅ!」
十六夜が手を伸ばして僕に抱きつく準備をして、僕も腕を広げた。
けれど……。
「俺の嫁さんに気安く触るな」
後ろから逞しい腕が回ってきて、ぎゅう、と抱きしめられる。
ただでさえ白無垢の下の色掛下をきつく着付けられて苦しいのに、もっと苦しくなる。
「月華、苦しいいよ」
だけど月華はもっと腕に力を入れて、僕の頬をペロペロ舐めてくる。
「月華は仕方ないな。昔とちっとも変わらない」
日向はため息を吐いたものの、月華ごと僕に腕を回して、首の匂いをすんすん嗅いできた。
「そうだよ! 今は毬也を一日中独占してるじゃない! ずるいよ! 今日くらい僕らの鞠也にしてよ」
小さな十六夜も負けじと僕の腰に巻き付いて、指先を甘噛みする。
僕はもう、もみくちゃだ。
月華のお父さんやお母さんが「あらあら」「おやおや」と微笑むのが見えた。
「あはは、くすぐったい、くすぐったいよ!」
幸せな窮屈さとこそばゆさに、僕は声を立てて笑った。途端に体がふわりと浮く。
「毬也救出! 大丈夫か、毬也」
月華が僕を横抱きにしたのだ。
「月華。……うん、僕、今、とっても、幸せだよ!」
月華の首に手を回して顔を見上げ、笑顔で答えると、月華もはじけんばかりに笑った。
「これから、もっともっと幸せにしてやるからな」
いつも僕のそばにあるこの笑顔。離れた日々もあったけれど、そんなときでも君は秘めやかに僕を守ってきてくれた。そして、愛し続けてくれた。
この笑顔も言葉も、きっと永遠。もう見失うことはない。
だから僕も、結婚のこの日に誓い直すよ。
「月華がそばにいてくれるだけで、僕は強くなれるよ。僕も月華を守って、月華を幸せにするからね」
僕たちはふたりで支え合って、分かち合って生きていく。どっちもがどっちもを思い合って、幸せを重ねて紡いでいく。
片方だけじゃない。ふたりの、重なる思い。
それをきっと「愛」というのだろう。
頬にキスを贈る。
「月華、愛してる!」
月華は耳をピクピク動かし、尻尾をゆらゆらと揺らして、僕の唇を塞いだ。
完
僕と月華は伊集院家の人たちと、日向と十六夜に見守られて祝言を挙げた。
世間ではケダモノへの視線の冷たさは変わっていないけれど、伊集院家の人たちは僕を本当の家族のように思ってくれる。
男娼として名を馳せた月華も家族から労りは受けたけれど、憐情をかけられることはなく、経験を糧と励みにしろとお義父様やお祖父様に叱咤激励を受けながら、経営の勉強に励んできた。
また僕も、経理の勉強をしたいと申し出て月華の隣で学び、元いた世界で中学受験の勉強を頑張っていたからかな? 月華にも伊集院家の人たちにも計算が早くて正確だと驚かれ、期待をかけてもらえている。
そして小さいけれど、先月から月華と共に林業の会社を任されて、仕事を始めた。
「月華、鞠也、おめでとう!」
十六夜が涙で頬を濡らして祝ってくれた。その隣では日向が寄り添い、頷いている。
君たち二人も、彩里国の遊郭に落っこちて右も左もわからなかった僕をずっと見守っていてくれたね。
「ありがとう。十六夜と日向にお祝いしてもらえてすごく嬉しい。来てくれてありがとう」
「当たり前でしょ~。僕は毬也が大好きなんだから、いつでもどんなときでも駆けつけるよぅ!」
十六夜が手を伸ばして僕に抱きつく準備をして、僕も腕を広げた。
けれど……。
「俺の嫁さんに気安く触るな」
後ろから逞しい腕が回ってきて、ぎゅう、と抱きしめられる。
ただでさえ白無垢の下の色掛下をきつく着付けられて苦しいのに、もっと苦しくなる。
「月華、苦しいいよ」
だけど月華はもっと腕に力を入れて、僕の頬をペロペロ舐めてくる。
「月華は仕方ないな。昔とちっとも変わらない」
日向はため息を吐いたものの、月華ごと僕に腕を回して、首の匂いをすんすん嗅いできた。
「そうだよ! 今は毬也を一日中独占してるじゃない! ずるいよ! 今日くらい僕らの鞠也にしてよ」
小さな十六夜も負けじと僕の腰に巻き付いて、指先を甘噛みする。
僕はもう、もみくちゃだ。
月華のお父さんやお母さんが「あらあら」「おやおや」と微笑むのが見えた。
「あはは、くすぐったい、くすぐったいよ!」
幸せな窮屈さとこそばゆさに、僕は声を立てて笑った。途端に体がふわりと浮く。
「毬也救出! 大丈夫か、毬也」
月華が僕を横抱きにしたのだ。
「月華。……うん、僕、今、とっても、幸せだよ!」
月華の首に手を回して顔を見上げ、笑顔で答えると、月華もはじけんばかりに笑った。
「これから、もっともっと幸せにしてやるからな」
いつも僕のそばにあるこの笑顔。離れた日々もあったけれど、そんなときでも君は秘めやかに僕を守ってきてくれた。そして、愛し続けてくれた。
この笑顔も言葉も、きっと永遠。もう見失うことはない。
だから僕も、結婚のこの日に誓い直すよ。
「月華がそばにいてくれるだけで、僕は強くなれるよ。僕も月華を守って、月華を幸せにするからね」
僕たちはふたりで支え合って、分かち合って生きていく。どっちもがどっちもを思い合って、幸せを重ねて紡いでいく。
片方だけじゃない。ふたりの、重なる思い。
それをきっと「愛」というのだろう。
頬にキスを贈る。
「月華、愛してる!」
月華は耳をピクピク動かし、尻尾をゆらゆらと揺らして、僕の唇を塞いだ。
完
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全23話、5万文字内の一週間の短期連載になります。よろしくお願いいたします。
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