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日々①
しおりを挟む「毬也もそろそろ水揚げだな。僕が買ってあげようか? ん?」
「あ、あの、お客様、体に触れるのは……」
「触れるのは、なんだい?」
日向のお座敷の手伝いに入っていると、まだ若いお客様に腰を抱かれて体に引き寄せられた。
まだ春を売っていない蕾に触れたり、遣手の橘さんを通さずに水揚げの話に触れるのは御法度でも、このお客様は太客のお客様のご子息だから、無碍にすることができない。
────月華は僕を部屋付きにすると言っていたけれど、水揚げしたばかりで実績のない月華の言葉は翌朝楼主様に即却下された。また、僕は、「間違いの元だ」とお叱りを受け、逆に月華に近づかないように言われて、月華のお座敷に入ることもない。
だから今はこうして日向や他の上位の花のお座敷に入り、褥仕事の準備や今までと同じ裏方仕事をやって、食事やお給金を頂いている。
やっぱり僕が「ケダモノ」だから、僕がいると将来性がある月華の格を落としてしまうということなのだろう。
「毬也は他の花や蕾と違って甘い肉の香りがするねえ。肌も柔らかいし、尻尾もずいぶんと柔らかいねえ……」
「あ、あの!」
尻尾を触られてはっと我にかえった。あまり触られると、偽物の尻尾だとばれて大変なことになってしまう。
「──っ毬也! ……その、お酒がなくなってしまった。新しいのを頼むよ」
「……は、はい!」
僕が逃げられずに困っていると、日向が声をかけてくれた。
お客様は小さく舌打ちするけれど、花の指示は蕾には絶対だ。僕はお客様に頭を下げて、執拗な腕から抜け出した。
ありがとう、日向。
花になってからも、日向はまだ同じ蕾仲間の十六夜と共に、今でも僕を気にかけてくれている。
「はあ……ドキドキした……」
人間の僕は獣人とは匂いが違うらしい。
特に、虎や獅子などの、僕のいた世界でいう肉食獣に当たるお客様には匂いを指摘されることがある。ほとんどのお客様は高級遊郭のお客様らしい振る舞いを崩さないけれど、たまにああいうお客様がいて、そのたびに「ケダモノ」だとばれたらどうしようかと、冷え上がってしまうんだ。
深呼吸をして、つけ耳とつけ尻尾を正し、厨房でお酒を受け取ってからお座敷へと戻る。その途中でさっきのお客様と出くわした。
違う……僕を待ち伏せしていたんだ。
「毬也、酒の瓶が重いだろう。持ってあげようね」
「い、いえ、結構です。そんなことをして頂いたらあとで叱られてしまいます」
「いいからいいから、ほらおいで」
「あっ」
酒瓶ではなく腕を掴まれる。
「本当にいい匂いだ。牙を立てて、この柔肌を割いてあげたくなるよ……血も綺麗な色なんだうねぇ」
お客様はベロリと舌なめずりをすると、口を開いて尖った牙を見せつけてくる。
「……ひっ」
怖いっ、誰か……!
「たっ」
叱られてもいいから、お帳場にいると思われる橘さんを呼ぼうと口を開いたそのときだった。
バシャッ、ボトボトボトボト……。
僕が持っていた酒瓶を奪われて、中身を頭からかけられた。
え……なに、これ。なにが起こったの?
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