生きたい夢魔君と、逝きたいミツル君

カミヤルイ

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初めてのキス

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「可愛いな。俺はラッキーだ。最初の獲物がお前みたいな好みど真ん中の清楚系だなんてな」

 嬉しくなる。好みのど真ん中と言ってもらえた。

 光瑠は身長一五八センチの体重四十二キロだ。髪はまっすぐなショートで、白い肌には口元のホクロ以外にニキビのひとつもない。 

 私服で黙って座っていると女の子に間違えられることもあるが、やはり本物の女の子ではないし、陰キャだったので「ナヨナヨしてんなよ、男女」と嘲笑されることも多かった。

 だがそれでも、好きな人に印象が悪くないよう、見た目の清潔感を大事にしてきた。

「お前、名前は?」
「光瑠」 
「ミツル、か、煽るんじゃねーよ」

 キヨラの喉がゴクリと鳴って上下する。

 煽ったつもりはないが、嬉しさで頬が赤く染まり、涙で瞳を潤ませたのがそう見えたのかもしれない。

「ん……」

 温かい親指で涙を拭われた。
 そのまま片頬を包まれ、顔が近づいて、唇が重ねられる。

 初キスだ。

 光瑠は緊張のあまり唇を固く結んでしまった。

「ミツル、力を抜いて、唇を開けな」

 濡れた舌先で唇の合わさりをツン、とつつかれる。

「んっ、キヨラ……」

 それだけで感じてしまい、唇は自然に開いた。

 キヨラの唇がまた重る。ちゅ、と下唇を吸われ、次に舌を差し込まれた。

 ああ、なんて幸せな気持ちになるんだろう。さすが夢魔。

「……なんだこれ、ゲロマズっ!」

 だが、キスに溺れそうになった瞬間に凄い勢いで両肩を押され、キヨラの顔と上半身が離れた。

「えっ、もしかして口臭!? 歯磨き、ちゃんとしたけど」

 大ショックだ。光瑠は両手で口を塞いだ。

「ちげーよ。お前の体液、生きる気力がまったくない腐った味がするんだけど!」
「腐……ひどっ。そうだよ、生きる気力なんてない。だからこうして深い眠りの中にいるんだ」
「はぁ? どういうことだよ。生気のない精気なんか搾取したって、役に立たねーじゃん」
「役に、立たない……」

 辛いことをすべて忘れたくて眠りに就いたのに、自分の夢の中でも辛い言葉を聞くことになるなんて。

「う……」
「お、おい、泣くなよ。役に立たないのはお前じゃなくてお前の精気だってば!」
「同じことだよ~」
「悪かった、悪かったってば!」

 謝られても涙は止まらない。光瑠は体育座りのコンパクトバージョンで膝をかかえて嗚咽を漏らした。

「ああ~~もう! このままじゃ俺の命にも関わる。話聞いてやるから顔上げろ!」

 ぐいっと額を押されて、無理に顔を上げさせられてしまう。
 キヨラは両頬を包み、舌を使って涙を拭ってくれた。

「げー。涙までマズいぜ」

 そうこぼしながらも、涙が止まるまで続けてくれた。
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