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夢魔のキヨラ
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今まで気が付なかったが、この夢の中は光瑠のベッドシーツと同じ黄緑色の、四方まるごとフカフカした空間だ。
「実はな、俺は今回の任務に失敗すると、魂を消滅させられてしまうんだ」
「えっ」
「最近の人間は睡眠時間も少なければ性欲も薄い。それに精気の活力もなくなった……現代社会の闇ってやつだな。働き方改革とかいうけど、忙しい人間は忙しいし、時間ができた人間はテレビやゲームや配信だと、結局夜ふかしをしやがる。するとどうなる。睡眠の質が下がる! なにが二次元彼女最高! だ」
「は、はぁ……」
夢魔のくせに光瑠よりも人間社会に精通していそうだ。
「それでな、元気な精気の人間は人間同士でやりまくって残りカスしかないし、やってない人間は力の強い夢魔が獲ってさっさと契約を結んじまう。俺は実は、夢魔に生まれてから一度も契約が取れていない……つまり、夢魔として役立たずなんだ」
威勢のよかったキヨラの声が尻すぼみになり、ゆらゆら揺れていた尻尾もへにょりと床に垂れた。
なんだか同調してしまう。
光瑠も気弱で要領が悪いから、家でも学校でも役立たずで、存在価値がなかった。
「わかるよ……僕も人間として役立たずで存在感がなかった。認識されたと思ったら’’ホモのキモいやつ’’だったし」
涙が瞳に膜を張る。
ただ恋をして、ごくたまに家で妄想をして自慰をしただけだ。誰にも迷惑をかけていないのに、どうしてあそこまで蔑まれなければならなかったのだろう。
「それだよ」
「へ?」
涙の粒が落ちた手を握られた。
「俺は男専門の夢魔なんだ。そっちの男を探していたものの数が圧倒的に少なくてな。それに、こんなに深い眠りの中にいる若い男にありつけたのは初めてだ。偶然この辺りを浮遊してたんだけど、他の夢魔に獲られる前でラッキーだったぜ。最後の最後でチャンスが回ってきたってことだ!」
今度は両手で手を握られた。
獲物にありつけた感激で高揚しているのだろう。紫色の瞳をキラキラさせている。
陽キャのようなテンションは、陰キャな光瑠が苦手とするところだが、やはり美形だ。体つきもテニス部にいそうな細マッチョで理想的だし、こんなかっこいい夢魔なら、最初で最後の相手として申し分ない。
「わかった。僕のでよければ、精気、奪って」
光瑠も両手でキヨラの手を握り、瞳をまっすぐに見つめ返した。
「話が早くてありがてえ。最高の経験をさせてやるから、俺に任せな」
歯が浮くようなセリフも、夢の中だから素直に受け取れるし頼りがいを感じる。
光瑠はキヨラに身体をもたれさせた。
「実はな、俺は今回の任務に失敗すると、魂を消滅させられてしまうんだ」
「えっ」
「最近の人間は睡眠時間も少なければ性欲も薄い。それに精気の活力もなくなった……現代社会の闇ってやつだな。働き方改革とかいうけど、忙しい人間は忙しいし、時間ができた人間はテレビやゲームや配信だと、結局夜ふかしをしやがる。するとどうなる。睡眠の質が下がる! なにが二次元彼女最高! だ」
「は、はぁ……」
夢魔のくせに光瑠よりも人間社会に精通していそうだ。
「それでな、元気な精気の人間は人間同士でやりまくって残りカスしかないし、やってない人間は力の強い夢魔が獲ってさっさと契約を結んじまう。俺は実は、夢魔に生まれてから一度も契約が取れていない……つまり、夢魔として役立たずなんだ」
威勢のよかったキヨラの声が尻すぼみになり、ゆらゆら揺れていた尻尾もへにょりと床に垂れた。
なんだか同調してしまう。
光瑠も気弱で要領が悪いから、家でも学校でも役立たずで、存在価値がなかった。
「わかるよ……僕も人間として役立たずで存在感がなかった。認識されたと思ったら’’ホモのキモいやつ’’だったし」
涙が瞳に膜を張る。
ただ恋をして、ごくたまに家で妄想をして自慰をしただけだ。誰にも迷惑をかけていないのに、どうしてあそこまで蔑まれなければならなかったのだろう。
「それだよ」
「へ?」
涙の粒が落ちた手を握られた。
「俺は男専門の夢魔なんだ。そっちの男を探していたものの数が圧倒的に少なくてな。それに、こんなに深い眠りの中にいる若い男にありつけたのは初めてだ。偶然この辺りを浮遊してたんだけど、他の夢魔に獲られる前でラッキーだったぜ。最後の最後でチャンスが回ってきたってことだ!」
今度は両手で手を握られた。
獲物にありつけた感激で高揚しているのだろう。紫色の瞳をキラキラさせている。
陽キャのようなテンションは、陰キャな光瑠が苦手とするところだが、やはり美形だ。体つきもテニス部にいそうな細マッチョで理想的だし、こんなかっこいい夢魔なら、最初で最後の相手として申し分ない。
「わかった。僕のでよければ、精気、奪って」
光瑠も両手でキヨラの手を握り、瞳をまっすぐに見つめ返した。
「話が早くてありがてえ。最高の経験をさせてやるから、俺に任せな」
歯が浮くようなセリフも、夢の中だから素直に受け取れるし頼りがいを感じる。
光瑠はキヨラに身体をもたれさせた。
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