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本編
つがい呼びの笛①
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翌朝。一晩休み、自分に回復魔法をかけた俺の身体はすっきりとしていた。クラウスとのことも決意をしたから、共に心もすっきりしている。だから仕事に行きたかったんだけど……。
「駄目よ!エルフィーちゃん、全然休んでいないもの。今日はお休みよ。出かけたいなら私と一緒に街にお出かけしましょ!」
「母上、疲労で倒れたエルフィーを連れ回すなど言語道断です」
「おいしい食べ物と綺麗な物は心身をいち早く回復させるのよ。文句があるなら、あなたもお休みなんだから用心棒としていらっしゃい!」
……と、豪華な羽根飾りのついた帽子をかぶった夫人に押し切られて、三人で王都の中心にある商業街へ来ていた。
「ほら~エルフィーちゃん、あなたにはこの装いも似合うわね! あら。こっちも素敵じゃない」
「エルフィーちゃん、ここのティーサロンのデザートは最高なのよ」
夫人は俺を王侯貴族御用達のテーラーに連れて行き、着せ替え人形のようにさまざまな服を着せたり、王都で老舗のティーサロンでケーキを頬張らせたりして、ご満悦だ。
俺も俺ですっかり体力が回復していたから、久しぶりの街はとても楽しかった。
思えばクラウスと番になってから、番を解消することばかりを考えて閉塞的になっていた気がする。ニコラと話すんだと決めても、いざとなるとどう切り出せばいいか思いつかず、頭を悩ませていたからいい気分転換になったかも。
そうだ。ニコラには支えてくれる人が必要だ。クラウスが遠征の間に家に帰らせてもらって、父様と母様に先に打ち明け、ニコラの支えになってもらうようにお願いをしてから話そう。
俺以外の前ではいつも笑顔を絶やさず、愚痴のひとつもこぼさないようなところがあるニコラだ。今回は悲しみの原因の俺に当たりはしても、慰められたくはないだろう。俺も……慰めることができる立場じゃない。
「エルフィーちゃん、お顔色がすっかり戻ったわね。良かったわ。ずっと塞いだ表情もしていたし、心配していたのよ」
三段式のアフタヌーンティースタンドの品をすべて平らげて満足感に浸っていると、夫人がほっとしたように微笑んだ。
ああ……夫人、俺のこと、よく見ていてくれるんだな。途中途中も何度も体調を気にしてくれていたし、もしかしたら今日も、屋敷にいたら我慢できずにラボに俺が行ってしまうとわかっていて、連れ出してくれたのかも。
「はい! 夫人のおかげです。ありがとうございます」
まだ婚約者になって日が浅いのに、暖かい心遣いを向けてもらえることが嬉しくて、自然と歯を見せた満面の笑みになる。外でこんな品のない笑顔、公爵家のお嫁さんとしては相応しくないかもしれないけど、自分の心を繕いたくない。
「まっ! エルフィーちゃんたら、本当に素直で可愛いこと! 我が家のどこぞの息子にも見習わせたいわ!」
「あなたの息子はここにおりますし、俺にはどうしたってこんなに美しく笑うことはできませんが、エルフィーの笑顔は世界一だと思います」
「はっ!? もう、クラウスはそういうのやめろよ。やっぱり人格変わってるんだってば!」
恥ずかしくなって唇が尖ってしまう。
あ~やっぱり駄目だ。二十歳にもなった男が子どもっぽい。もっとキリっとしなきゃ。
そう思って表情を作ろうとすると、夫人に心を読まれたのか、くすくす笑われている。
「いいのよ、エルフィーちゃん。あなたはそのままでいて。あなたがそうやって明るくいてくれるから、クラウスも人間でいられるんだもの。さあ、私は一足先に帰るから、後は二人でゆっくりなさいな。クラウスの出発まで間がないし、任務につけば心労もかかるわ。エルフィーちゃん、クラウスの鋭気を養うために、デートで思い出を作ってあげて」
ぱちん、とウインクされて、俺は顔を赤らめながらもうなずいた。
とは言ってもデートなんてしたことがない俺たちだ。あ、いや、前に騎士団の闘技練習場に行ったのもデートなんだっけ? わからないけど、あのときは「試合を見る」って目的があった。こんなふうに街でするデートって、どうしたらいいんだ? どうすればクラウスの鋭気を養える?
そう言えばクラウスは、どんなものが好きなんだろう。俺、クラウスのことなんにも知らないんだよな。どんな食べ物が好きで、どんな場所が好きで、どうしたら喜ぶのか……クラウスは俺のこと全部知ってるっていうけど、俺だってクラウスを知りたい。
「なあ、クラウス」
「エルフィー、どこか見たいところは」
「そこのお似合いのお二人さ~ん、こっち寄っていってよ!」
同じくデートについて考えていた様子のクラウスに声をかけようとすると、露店のひとつから店主の男に声をかけられた。俺とクラウスは目を合わせて無言で同意し合い、そっちへと向かう。
「これらは俺が外国を渡り歩いて集めたまじない品だ! お兄さん、恋人へのお守りにどうだい? こんな可愛い恋人がいたら、離れている間に不安になるだろう? 男避けのお守りもたくさんあるんだぜい?」
店主は腕を大きく広げて品物を自慢する。でもどれも怪しい形や奇抜な色をしていて、とてもお守りには見えない。
「うさんくさ」
「いただこう」
「えっ!?」
「駄目よ!エルフィーちゃん、全然休んでいないもの。今日はお休みよ。出かけたいなら私と一緒に街にお出かけしましょ!」
「母上、疲労で倒れたエルフィーを連れ回すなど言語道断です」
「おいしい食べ物と綺麗な物は心身をいち早く回復させるのよ。文句があるなら、あなたもお休みなんだから用心棒としていらっしゃい!」
……と、豪華な羽根飾りのついた帽子をかぶった夫人に押し切られて、三人で王都の中心にある商業街へ来ていた。
「ほら~エルフィーちゃん、あなたにはこの装いも似合うわね! あら。こっちも素敵じゃない」
「エルフィーちゃん、ここのティーサロンのデザートは最高なのよ」
夫人は俺を王侯貴族御用達のテーラーに連れて行き、着せ替え人形のようにさまざまな服を着せたり、王都で老舗のティーサロンでケーキを頬張らせたりして、ご満悦だ。
俺も俺ですっかり体力が回復していたから、久しぶりの街はとても楽しかった。
思えばクラウスと番になってから、番を解消することばかりを考えて閉塞的になっていた気がする。ニコラと話すんだと決めても、いざとなるとどう切り出せばいいか思いつかず、頭を悩ませていたからいい気分転換になったかも。
そうだ。ニコラには支えてくれる人が必要だ。クラウスが遠征の間に家に帰らせてもらって、父様と母様に先に打ち明け、ニコラの支えになってもらうようにお願いをしてから話そう。
俺以外の前ではいつも笑顔を絶やさず、愚痴のひとつもこぼさないようなところがあるニコラだ。今回は悲しみの原因の俺に当たりはしても、慰められたくはないだろう。俺も……慰めることができる立場じゃない。
「エルフィーちゃん、お顔色がすっかり戻ったわね。良かったわ。ずっと塞いだ表情もしていたし、心配していたのよ」
三段式のアフタヌーンティースタンドの品をすべて平らげて満足感に浸っていると、夫人がほっとしたように微笑んだ。
ああ……夫人、俺のこと、よく見ていてくれるんだな。途中途中も何度も体調を気にしてくれていたし、もしかしたら今日も、屋敷にいたら我慢できずにラボに俺が行ってしまうとわかっていて、連れ出してくれたのかも。
「はい! 夫人のおかげです。ありがとうございます」
まだ婚約者になって日が浅いのに、暖かい心遣いを向けてもらえることが嬉しくて、自然と歯を見せた満面の笑みになる。外でこんな品のない笑顔、公爵家のお嫁さんとしては相応しくないかもしれないけど、自分の心を繕いたくない。
「まっ! エルフィーちゃんたら、本当に素直で可愛いこと! 我が家のどこぞの息子にも見習わせたいわ!」
「あなたの息子はここにおりますし、俺にはどうしたってこんなに美しく笑うことはできませんが、エルフィーの笑顔は世界一だと思います」
「はっ!? もう、クラウスはそういうのやめろよ。やっぱり人格変わってるんだってば!」
恥ずかしくなって唇が尖ってしまう。
あ~やっぱり駄目だ。二十歳にもなった男が子どもっぽい。もっとキリっとしなきゃ。
そう思って表情を作ろうとすると、夫人に心を読まれたのか、くすくす笑われている。
「いいのよ、エルフィーちゃん。あなたはそのままでいて。あなたがそうやって明るくいてくれるから、クラウスも人間でいられるんだもの。さあ、私は一足先に帰るから、後は二人でゆっくりなさいな。クラウスの出発まで間がないし、任務につけば心労もかかるわ。エルフィーちゃん、クラウスの鋭気を養うために、デートで思い出を作ってあげて」
ぱちん、とウインクされて、俺は顔を赤らめながらもうなずいた。
とは言ってもデートなんてしたことがない俺たちだ。あ、いや、前に騎士団の闘技練習場に行ったのもデートなんだっけ? わからないけど、あのときは「試合を見る」って目的があった。こんなふうに街でするデートって、どうしたらいいんだ? どうすればクラウスの鋭気を養える?
そう言えばクラウスは、どんなものが好きなんだろう。俺、クラウスのことなんにも知らないんだよな。どんな食べ物が好きで、どんな場所が好きで、どうしたら喜ぶのか……クラウスは俺のこと全部知ってるっていうけど、俺だってクラウスを知りたい。
「なあ、クラウス」
「エルフィー、どこか見たいところは」
「そこのお似合いのお二人さ~ん、こっち寄っていってよ!」
同じくデートについて考えていた様子のクラウスに声をかけようとすると、露店のひとつから店主の男に声をかけられた。俺とクラウスは目を合わせて無言で同意し合い、そっちへと向かう。
「これらは俺が外国を渡り歩いて集めたまじない品だ! お兄さん、恋人へのお守りにどうだい? こんな可愛い恋人がいたら、離れている間に不安になるだろう? 男避けのお守りもたくさんあるんだぜい?」
店主は腕を大きく広げて品物を自慢する。でもどれも怪しい形や奇抜な色をしていて、とてもお守りには見えない。
「うさんくさ」
「いただこう」
「えっ!?」
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