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本編
お疲れさま
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ぶるっ……。
身体の冷えを感じて、夢うつつの状態で上掛けを探す。
昨日はクラウスがいなかったから、いつもみたいに頭からかぶらずに眠ってしまったんだ。
ないよ……ない。どこに行ったの俺の上掛け。寒いよぉ。
身体を起こせばいいのに、まだ夢の中に浸かっていたい気持ちが邪魔をして、目を閉じたままで手や足を動かし、上掛けを探した。
すると、暖かくて柔らかい物が背から俺を覆った。同時に上掛けも首から下に降ってきて、ふわ~と身体があったかくなる。
ふぁ~、最高。もっとしっかりくるまれたい。
もぞもぞと身体を反転させ、背中を温めている弾力のあるなにかに向き合って身体を丸めようとした。
でもこれ、なんだっけ。こんなのベッドの上にあったっけ?
いよいよ閉じていた目の片方をうっすら開ける。
「ひ……!」
驚いて、一瞬声が出なかった。俺が顔と身体をすり寄せたのは、ベッドに入ってきたクラウスだったんだ。
「エルフィー、戻ってきてくれた……」
クラウスは小さくつぶやくと、逞しい腕を俺の背に回した。
丸まったままの俺は、クラウスという寝具にすっぽりと包み込まれてしまう。
「こら、離せっ」
「……悪い……ホッとして……。少し休ませ……」
すぅ……。
振りほどこうとしたのに、クラウスは言葉を言い切らずに寝息を立て、すぐに寝入ってしまった。
「おい……!」
よっぽど疲れて脱力しているのか、クラウスの腕は普段の朝よりずっと重い。
そういえば、たった七日なのに顎が前よりも鋭くなってる?
カロルーナ地区での任務が激務だったんだろう。
「仕方ないな……起こしたら可哀想だから、今日だけ抱き枕になってやるよ」
アカデミーにいるときの、友達同志の雑魚寝みたいなものだ。これはニコラへの裏切りじゃないよな?
「……お疲れ様、クラウス」
室内は薄暗く、時計を見れば起きる時間には今少し早い。
昨日の昼から眠っていた俺だけど、まだ少し眠り足りなかった。
「俺もあとちょっとだけ……」
俺が抱き枕ならクラウスは筋肉毛布。暖かくてふわふわしていて……心地良くて。
俺も再び、すぐに眠りの中に意識を落とした。
「そう。カロルーナ地区はそんなに緊迫した状況だったのね」
「はい。同じリュミエール国とは思えないほど、王都や王都近隣地区の穏やかさとはかけ離れて荒んでいました」
朝食の席で、クラウスは今回の任務で見たことを重々しく語った。
リュミエール国の騎士は、剣を持って悪賊や他国の侵略者と闘うだけが任務じゃない。モンテカルスト公爵閣下がまとめる防衛省に籍を置き、様々な方面からリュミエール国の安全保障を支えている。
クラウスは近衛騎士団所属だから、要請時以外は王都での任務が主になっていくけど、新人の一年間は国内諸地域の防災や災害救助に従事する。
「大地震に見舞われて数年が経つが、領主が私利私欲にまみれたなまくら者だったために復興が遅れていたのだ。その日の水にもありつけない者で溢れ、疫病が流行しては落ち着き、また新しい疫病が流行する、という具合だ」
閣下もため息混じりに言い、自身の管理不足を責めた。
「ともかく、疫病の収束と感染者の治療、栄養不足で身体を悪くしている方も多数おられます。父上……いえ、閣下。騎士団は一刻も早い対策を望んでいます」
「わかっている。本日の午後、王宮にセルドラン氏を招致している」
「父様を?」
身体の冷えを感じて、夢うつつの状態で上掛けを探す。
昨日はクラウスがいなかったから、いつもみたいに頭からかぶらずに眠ってしまったんだ。
ないよ……ない。どこに行ったの俺の上掛け。寒いよぉ。
身体を起こせばいいのに、まだ夢の中に浸かっていたい気持ちが邪魔をして、目を閉じたままで手や足を動かし、上掛けを探した。
すると、暖かくて柔らかい物が背から俺を覆った。同時に上掛けも首から下に降ってきて、ふわ~と身体があったかくなる。
ふぁ~、最高。もっとしっかりくるまれたい。
もぞもぞと身体を反転させ、背中を温めている弾力のあるなにかに向き合って身体を丸めようとした。
でもこれ、なんだっけ。こんなのベッドの上にあったっけ?
いよいよ閉じていた目の片方をうっすら開ける。
「ひ……!」
驚いて、一瞬声が出なかった。俺が顔と身体をすり寄せたのは、ベッドに入ってきたクラウスだったんだ。
「エルフィー、戻ってきてくれた……」
クラウスは小さくつぶやくと、逞しい腕を俺の背に回した。
丸まったままの俺は、クラウスという寝具にすっぽりと包み込まれてしまう。
「こら、離せっ」
「……悪い……ホッとして……。少し休ませ……」
すぅ……。
振りほどこうとしたのに、クラウスは言葉を言い切らずに寝息を立て、すぐに寝入ってしまった。
「おい……!」
よっぽど疲れて脱力しているのか、クラウスの腕は普段の朝よりずっと重い。
そういえば、たった七日なのに顎が前よりも鋭くなってる?
カロルーナ地区での任務が激務だったんだろう。
「仕方ないな……起こしたら可哀想だから、今日だけ抱き枕になってやるよ」
アカデミーにいるときの、友達同志の雑魚寝みたいなものだ。これはニコラへの裏切りじゃないよな?
「……お疲れ様、クラウス」
室内は薄暗く、時計を見れば起きる時間には今少し早い。
昨日の昼から眠っていた俺だけど、まだ少し眠り足りなかった。
「俺もあとちょっとだけ……」
俺が抱き枕ならクラウスは筋肉毛布。暖かくてふわふわしていて……心地良くて。
俺も再び、すぐに眠りの中に意識を落とした。
「そう。カロルーナ地区はそんなに緊迫した状況だったのね」
「はい。同じリュミエール国とは思えないほど、王都や王都近隣地区の穏やかさとはかけ離れて荒んでいました」
朝食の席で、クラウスは今回の任務で見たことを重々しく語った。
リュミエール国の騎士は、剣を持って悪賊や他国の侵略者と闘うだけが任務じゃない。モンテカルスト公爵閣下がまとめる防衛省に籍を置き、様々な方面からリュミエール国の安全保障を支えている。
クラウスは近衛騎士団所属だから、要請時以外は王都での任務が主になっていくけど、新人の一年間は国内諸地域の防災や災害救助に従事する。
「大地震に見舞われて数年が経つが、領主が私利私欲にまみれたなまくら者だったために復興が遅れていたのだ。その日の水にもありつけない者で溢れ、疫病が流行しては落ち着き、また新しい疫病が流行する、という具合だ」
閣下もため息混じりに言い、自身の管理不足を責めた。
「ともかく、疫病の収束と感染者の治療、栄養不足で身体を悪くしている方も多数おられます。父上……いえ、閣下。騎士団は一刻も早い対策を望んでいます」
「わかっている。本日の午後、王宮にセルドラン氏を招致している」
「父様を?」
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