上 下
45 / 104
本編

お疲れさま

しおりを挟む
 ぶるっ……。

 身体の冷えを感じて、夢うつつの状態で上掛けを探す。
 昨日はクラウスがいなかったから、いつもみたいに頭からかぶらずに眠ってしまったんだ。

 ないよ……ない。どこに行ったの俺の上掛け。寒いよぉ。

 身体を起こせばいいのに、まだ夢の中に浸かっていたい気持ちが邪魔をして、目を閉じたままで手や足を動かし、上掛けを探した。

 すると、暖かくて柔らかい物が背から俺を覆った。同時に上掛けも首から下に降ってきて、ふわ~と身体があったかくなる。

 ふぁ~、最高。もっとしっかりくるまれたい。

 もぞもぞと身体を反転させ、背中を温めている弾力のあるなにかに向き合って身体を丸めようとした。
 でもこれ、なんだっけ。こんなのベッドの上にあったっけ?

 いよいよ閉じていた目の片方をうっすら開ける。

「ひ……!」

 驚いて、一瞬声が出なかった。俺が顔と身体をすり寄せたのは、ベッドに入ってきたクラウスだったんだ。

「エルフィー、戻ってきてくれた……」

 クラウスは小さくつぶやくと、逞しい腕を俺の背に回した。
 丸まったままの俺は、クラウスという寝具にすっぽりと包み込まれてしまう。

「こら、離せっ」
「……悪い……ホッとして……。少し休ませ……」

 すぅ……。
 
 振りほどこうとしたのに、クラウスは言葉を言い切らずに寝息を立て、すぐに寝入ってしまった。

「おい……!」

 よっぽど疲れて脱力しているのか、クラウスの腕は普段の朝よりずっと重い。

 そういえば、たった七日なのに顎が前よりも鋭くなってる? 
 カロルーナ地区での任務が激務だったんだろう。

「仕方ないな……起こしたら可哀想だから、今日だけ抱き枕になってやるよ」

 アカデミーにいるときの、友達同志の雑魚寝みたいなものだ。これはニコラへの裏切りじゃないよな?

「……お疲れ様、クラウス」

 室内は薄暗く、時計を見れば起きる時間には今少し早い。
 昨日の昼から眠っていた俺だけど、まだ少し眠り足りなかった。

「俺もあとちょっとだけ……」

 俺が抱き枕ならクラウスは筋肉毛布。暖かくてふわふわしていて……心地良くて。
 俺も再び、すぐに眠りの中に意識を落とした。




「そう。カロルーナ地区はそんなに緊迫した状況だったのね」
「はい。同じリュミエール国とは思えないほど、王都や王都近隣地区の穏やかさとはかけ離れてすさんでいました」
 
 朝食の席で、クラウスは今回の任務で見たことを重々しく語った。

 リュミエール国の騎士は、剣を持って悪賊や他国の侵略者と闘うだけが任務じゃない。モンテカルスト公爵閣下がまとめる防衛省に籍を置き、様々な方面からリュミエール国の安全保障を支えている。

 クラウスは近衛騎士団所属だから、要請時以外は王都での任務が主になっていくけど、新人の一年間は国内諸地域の防災や災害救助に従事する。

「大地震に見舞われて数年が経つが、領主が私利私欲にまみれたなまくら者だったために復興が遅れていたのだ。その日の水にもありつけない者で溢れ、疫病が流行しては落ち着き、また新しい疫病が流行する、という具合だ」

 閣下もため息混じりに言い、自身の管理不足を責めた。

「ともかく、疫病の収束と感染者の治療、栄養不足で身体を悪くしている方も多数おられます。父上……いえ、閣下。騎士団は一刻も早い対策を望んでいます」
「わかっている。本日の午後、王宮にセルドラン氏を招致している」
「父様を?」
しおりを挟む
感想 285

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

処理中です...