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本編
テラスで幼馴染と③
しおりを挟むなんだ? なにが起こってる?
唖然としていると、クラウスは漏れ聴こえる演奏に合わせて、俺とワルツを踊り始めた。
「ちょ、クラウス……!」
どうして俺とダンスを……さてはクラウス、ワインの一気飲みで悪酔いしたな? 完全に俺とニコラを混同しているに違いない。
「クラウス、待て待て! 俺はニコラじゃない!」
「暴れるな。狭いから、壁に当たる」
耳元で囁かれてゾクリとした。
なんて甘い声を出すんだ。力が抜けておまえに寄りかかっちゃうじゃないか。
こんなシーンをあのニコラに見られたら、勘違いされて修羅場になってしまう。早く振りほどいてここから立ち去らないと!
けれど意外にもうまいクラウスのリードは俺をしっかりと支え、軽やかに回転させる。まるで幻想の世界に導かれたように、頭上の星もくるりと回る。
そして、クラウスのたくましい胸や腹、太ももが俺の体に触れている。
鍛え抜かれた体に月日の流れと包容力を感じて、瞳に映る美しさと体に与えられる安心感に陶酔してしまった。
……いや、ニコラの好きな相手とのダンスにうっとりしてどうする!
我にかえると、動揺で心臓が跳ね出した。当然だ。ニコラに知られたら大変なことになるんだから。
そう、この動悸にそれ以外の意味はない。早く終われ、早く終われ。演奏の途中から踊り始めたから、終わるまであと少し。……よし、終わる!
演奏が止まった。同時につま先立ちだった俺の足はゆっくりと床に付いた。
「ファーストダンスを、ありがとう」
「あ? ……あっ! ……え? ええ~~?」
クラウスの言葉の後、俺の感情はめまぐるしく回り始めた。
そうだ、これは俺のファーストダンスだったんだ! フェリックスが他の人と踊っても、俺の初めてはフェリックスのために取っておいたのに!
それに、それに、それに……なんとクラウスは、俺の手の甲にキスをしたのだ!
手だといっても、他人からキスをされるのなんて生まれて初めてだった。
「この酔っ払い! 双子だからって俺とニコラを間違えるにもほどがある! いいか、ここでのことは他言無用。というか、今すぐ全部忘れろ!」
即座に手を振り払う。
頭に血が上って声も身振りも大きくなって、このままじゃ誰かにふたりでいるところを見られてしまうと焦って、急いで室内に戻った。
だから聞こえなかった。クラウスが「エルフィー、絶対に忘れない」と言っていたことは。
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