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専務、その溺愛はハラスメントです
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四月。
千尋はブラジルLNGに関する業務に携わりながらも、専務執務室第一秘書としての能力を発揮しつつあった。
「本日は第二会議室で十時五十分まで西日本工業の新製品開発会議、十一時からブラジルとのリモート会議、一三時からは新入社員のリスク対策セミナーがありますので、昼食は手軽に食べられる……」
「昼食は五分で済ませます。それより激務続きの私には他にチャージすべきものがありますね。藤村秘書、あなたにも」
だが、今まですべて一人でこなしてきた叶専務は藤村秘書に言われるまでもなく、全てのスケジュールを頭に入れ、アクションプランも確立している。
「ええと……いったい何でしょう」
「教えて差し上げましょう」
春風を連れてきそうな笑みでデスクから立ち上がった光也は、長い足をさばいて千尋の前まで移動してくる。
背の高い光也に見下ろされ、わが社の専務は本当にかっこいい、と目が蕩けそうになっていると、顎をくいっと持ち上げられた。
♢♢♢
専務は突然秘書に唇を重ね、ちゅ、と下唇を吸った。
「頑張り屋さんの秘書にはご褒美が必要です。たっぷり甘やかしますので、口を開けて舌をお出しなさい」
「や……そんな……こんなところで、いけません」
言いつつも、秘書は震えながら赤い舌を出した。イケメン専務の甘い蜜をもっと吸いたい。
「かわいらしいお口ですね。下のお口もさぞやかわいいのでしょう。かわいがってあげますから、脱いでお見せなさい」
専務が秘書の背筋を指で伝い、尻のあわいをこすこすと撫でた。
「ぁん。だめ、専務、駄目ですぅ……!」
♢♢♢
「専務、駄目ぇ」
「駄目って言わないで、千尋。少しだけ……」
ちゅ、ちゅる。
舌の先を優しく吸われながら、スーツの上からさわさわと尻を撫でられる。甘い痺れが背筋を走った。
「ん……みっくん、ふぅん……んんん??」
(違う。これは妄想じゃない!)
蕩けそうなキスに没頭していたいのは山々だが、突如我にかえった千尋は光也の胸に手を当てて突っぱねた。
「いけません専務! ここはオフィスです! 仕事中です! 絶対にいけません!」
「残念。私の秘書はやはり真面目で手厳しい」
光也はくくく、と笑って目を細める。千尋は真っ赤になって細い肩を震わせた。
「当然です! 公私混同は禁止です」
妄想劇場に入り込み、キスに蕩けていた自分は棚に上げる。
「はいはい。ですが藤村秘書の顔、すごくえっちでしたよ。このまま奥に連れ込みたくなりました」
「え、えっちな……?」
(みっくんこそ、えっちな顔にえっちな舌にえっちな手だったくせに~)
恥ずかしさにますます身もだえてしまう。
「おっと、時間ですね。行きましょうか」
第二会議室に向かう時間だ。
凛とした表情に切り替えた光也は、ネクタイを直してくれるつもりなのか、千尋の襟元に手を伸ばしてくる。
自分で直せます! そう言おうと思って顔を上げた。
「ぁ……んん」
ネクタイを引っ張られ、顔が近づいたと思ったら強く唇を吸われている。さっきよりもいっそう濃厚で、下肢の力が抜けそうな、甘い甘いキスだった。
「……これでチャージ完了です。愛しい番のフェロモンが一番の強壮剤ですね。今日一日頑張るために、今だけ公私混同を見逃してください」
口内をひと通り愛撫されたあと、ぺろりと唇の端を舐め上げられる。
最後に琥珀色の瞳でウィンクまでサービスされて、とうとう腰が砕けた。
「おや、私の番もお疲れかな。もっとチャージが必要ですか?」
光也は千尋の腕と腰を支えて抱き上げ、からかうように唇を寄せる。
「~~! 不要です! 専務、これはハラスメントです。訴えますよ!」
これでは心も身体もでろでろに溶かされて、仕事に支障が出てしまう。
「おや、どんなハラスメントで訴えるおつもりですか?」
「どんな……?」
千尋はむむ、と口を曲げ、しばし考えてから思いついた────これだ。これしかない。
「専務、この溺愛は、ハラスメントです! 溺愛ハラスメントはおやめください!」
上手い、これで専務に一本取った。
だが、専務はあはは、と声を出して笑うと秘書を抱きしめ、再び唇を奪うのだった。
元・マゾヒストでいじめられオメガの藤村千尋の溺愛ハラスメント被害は、一生終わりそうにない。
(完)
千尋はブラジルLNGに関する業務に携わりながらも、専務執務室第一秘書としての能力を発揮しつつあった。
「本日は第二会議室で十時五十分まで西日本工業の新製品開発会議、十一時からブラジルとのリモート会議、一三時からは新入社員のリスク対策セミナーがありますので、昼食は手軽に食べられる……」
「昼食は五分で済ませます。それより激務続きの私には他にチャージすべきものがありますね。藤村秘書、あなたにも」
だが、今まですべて一人でこなしてきた叶専務は藤村秘書に言われるまでもなく、全てのスケジュールを頭に入れ、アクションプランも確立している。
「ええと……いったい何でしょう」
「教えて差し上げましょう」
春風を連れてきそうな笑みでデスクから立ち上がった光也は、長い足をさばいて千尋の前まで移動してくる。
背の高い光也に見下ろされ、わが社の専務は本当にかっこいい、と目が蕩けそうになっていると、顎をくいっと持ち上げられた。
♢♢♢
専務は突然秘書に唇を重ね、ちゅ、と下唇を吸った。
「頑張り屋さんの秘書にはご褒美が必要です。たっぷり甘やかしますので、口を開けて舌をお出しなさい」
「や……そんな……こんなところで、いけません」
言いつつも、秘書は震えながら赤い舌を出した。イケメン専務の甘い蜜をもっと吸いたい。
「かわいらしいお口ですね。下のお口もさぞやかわいいのでしょう。かわいがってあげますから、脱いでお見せなさい」
専務が秘書の背筋を指で伝い、尻のあわいをこすこすと撫でた。
「ぁん。だめ、専務、駄目ですぅ……!」
♢♢♢
「専務、駄目ぇ」
「駄目って言わないで、千尋。少しだけ……」
ちゅ、ちゅる。
舌の先を優しく吸われながら、スーツの上からさわさわと尻を撫でられる。甘い痺れが背筋を走った。
「ん……みっくん、ふぅん……んんん??」
(違う。これは妄想じゃない!)
蕩けそうなキスに没頭していたいのは山々だが、突如我にかえった千尋は光也の胸に手を当てて突っぱねた。
「いけません専務! ここはオフィスです! 仕事中です! 絶対にいけません!」
「残念。私の秘書はやはり真面目で手厳しい」
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「当然です! 公私混同は禁止です」
妄想劇場に入り込み、キスに蕩けていた自分は棚に上げる。
「はいはい。ですが藤村秘書の顔、すごくえっちでしたよ。このまま奥に連れ込みたくなりました」
「え、えっちな……?」
(みっくんこそ、えっちな顔にえっちな舌にえっちな手だったくせに~)
恥ずかしさにますます身もだえてしまう。
「おっと、時間ですね。行きましょうか」
第二会議室に向かう時間だ。
凛とした表情に切り替えた光也は、ネクタイを直してくれるつもりなのか、千尋の襟元に手を伸ばしてくる。
自分で直せます! そう言おうと思って顔を上げた。
「ぁ……んん」
ネクタイを引っ張られ、顔が近づいたと思ったら強く唇を吸われている。さっきよりもいっそう濃厚で、下肢の力が抜けそうな、甘い甘いキスだった。
「……これでチャージ完了です。愛しい番のフェロモンが一番の強壮剤ですね。今日一日頑張るために、今だけ公私混同を見逃してください」
口内をひと通り愛撫されたあと、ぺろりと唇の端を舐め上げられる。
最後に琥珀色の瞳でウィンクまでサービスされて、とうとう腰が砕けた。
「おや、私の番もお疲れかな。もっとチャージが必要ですか?」
光也は千尋の腕と腰を支えて抱き上げ、からかうように唇を寄せる。
「~~! 不要です! 専務、これはハラスメントです。訴えますよ!」
これでは心も身体もでろでろに溶かされて、仕事に支障が出てしまう。
「おや、どんなハラスメントで訴えるおつもりですか?」
「どんな……?」
千尋はむむ、と口を曲げ、しばし考えてから思いついた────これだ。これしかない。
「専務、この溺愛は、ハラスメントです! 溺愛ハラスメントはおやめください!」
上手い、これで専務に一本取った。
だが、専務はあはは、と声を出して笑うと秘書を抱きしめ、再び唇を奪うのだった。
元・マゾヒストでいじめられオメガの藤村千尋の溺愛ハラスメント被害は、一生終わりそうにない。
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