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専務、その溺愛はハラスメントです
⑧
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光也に肩を抱かれながらひとしきり泣き、社長自ら入れてくれたほうじ茶を飲みながら昔話に花を咲かせたあと、千尋と光也はクリフに礼を伝えた。
「社長夫人がガーデニングの会社をされていて、外部としてKANOUに入っておられるなんて、驚きました。助けていただいてありがとうございました」
「本当だよ。義兄さんが知っていて俺が知らないのは驚いたけど、まさか社のセキュリティーの方とまで懇意とはね。父さん、今回はありがとう」
クリフはふふ、と笑った。
「趣味みたいなものだよ。体が回復してから暇になってしまって。もともと働くのが好きなのにKANOUに戻ることはできないし、社長夫人といっても、役員さんたちには嫌われているからね」
常務がクリフを悪く言っていたのを思い出せば、叶一族の彼への反感は年月を経た今でも根強く残っていることがわかる。けれどクリフの笑顔に陰りはない。
「それでも、昔みたいにミツがいるところで仕事がしたかったから、ミツにワガママ言って会社を作っちゃった。五階の空中庭園は僕がデザインして作ったの。ミツのお気に入りなんだよね。ね、ミツ?」
社長は目元も口元にも三日月を描いてクリフに微笑む。それを見て光也が嬉しそうにするのを見ると、千尋の胸はじわりと暖かくなる。
自分たちもこうなりたいね、とアイコンタクトを取った。
「守衛さんとはね、社員時代に遅くまで会社に残っていると、巡回の方が励ましてくださってね。その頃の方が数人残っているから、話が早かったんだよ。でも、今回はミツも僕も子どもたちのことに手出しをせず、自分たちで解決させようと話していたから、あの日千尋君が不調の中でも必死になって会社にこなければ何もしなかった。だからあの画像を手に入れたのは、千尋君自身だよ」
クリフは褒め称えるように千尋を見て、対面から手を握ってくれた。
「僕達オメガは社会的立場から受け身になりがちだけど、千尋君は自分の意志で行動して、自分の力で真実と未来を勝ち取ったんだ。胸を張っていい。これからも自信を失わず、顔を上げて生きていこうね」
「はい……! ありがとうございます」
千尋が笑顔で返事をすると、光也も社長も自分のことのように嬉しそうにうなずいた。
「社長夫人がガーデニングの会社をされていて、外部としてKANOUに入っておられるなんて、驚きました。助けていただいてありがとうございました」
「本当だよ。義兄さんが知っていて俺が知らないのは驚いたけど、まさか社のセキュリティーの方とまで懇意とはね。父さん、今回はありがとう」
クリフはふふ、と笑った。
「趣味みたいなものだよ。体が回復してから暇になってしまって。もともと働くのが好きなのにKANOUに戻ることはできないし、社長夫人といっても、役員さんたちには嫌われているからね」
常務がクリフを悪く言っていたのを思い出せば、叶一族の彼への反感は年月を経た今でも根強く残っていることがわかる。けれどクリフの笑顔に陰りはない。
「それでも、昔みたいにミツがいるところで仕事がしたかったから、ミツにワガママ言って会社を作っちゃった。五階の空中庭園は僕がデザインして作ったの。ミツのお気に入りなんだよね。ね、ミツ?」
社長は目元も口元にも三日月を描いてクリフに微笑む。それを見て光也が嬉しそうにするのを見ると、千尋の胸はじわりと暖かくなる。
自分たちもこうなりたいね、とアイコンタクトを取った。
「守衛さんとはね、社員時代に遅くまで会社に残っていると、巡回の方が励ましてくださってね。その頃の方が数人残っているから、話が早かったんだよ。でも、今回はミツも僕も子どもたちのことに手出しをせず、自分たちで解決させようと話していたから、あの日千尋君が不調の中でも必死になって会社にこなければ何もしなかった。だからあの画像を手に入れたのは、千尋君自身だよ」
クリフは褒め称えるように千尋を見て、対面から手を握ってくれた。
「僕達オメガは社会的立場から受け身になりがちだけど、千尋君は自分の意志で行動して、自分の力で真実と未来を勝ち取ったんだ。胸を張っていい。これからも自信を失わず、顔を上げて生きていこうね」
「はい……! ありがとうございます」
千尋が笑顔で返事をすると、光也も社長も自分のことのように嬉しそうにうなずいた。
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