専務、その溺愛はハラスメントです ~アルファのエリート専務が溺愛してくるけど、僕はマゾだからいじめられたい~

カミヤルイ

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専務、その溺愛はハラスメントです

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 二日後。
 今回の不正でっち上げとともに、光也が専務就任後から隠密裏に調査していた過去の不正もすべて暴露された常務は失脚した。もう誰も常務を庇える者はいなかった。

 千尋は自宅待機が解け、専務執務室秘書とブラジルLNGプロジェクトのメンバーに復帰している。
 マップシステムの権限も無事に取り戻せたし、帰国したばかりのメンバーたちから土産をもらって土産話も聞いた千尋は気持ちを弾ませ、改めて仕事に対する意欲を高めた。

 そして、嬉しい話はもうひとつ。

「おめでとうございます。全て正常に機能しています」

 産科外来の受診時、医師の言葉に千尋と光也は共に破顔した。場所への配慮も忘れ、思わず抱きしめ合ってしまう。だが医師も看護師も誰も咎めない。

「頑張りましたね。お二人は新しい人生に向かってスタートを切られました。また次のご相談も、お待ちしていますからね」

 次の相談……妊娠だ。気の早い話だが、きっと近いうちにそうなるだろう。千尋と光也は幸せな笑顔で見つめ合った。




「着いたよ」

 病院を出たあと、光也が運転する車で向かったのは鎌倉だ。

「わあ……。素敵なおうちだね。白い椿と赤い椿の木、双子みたいでかわいい!」

 左右に頭を振りながら、門扉から玄関へ続く階段を上る。
 気分が高揚しているのは純和風の家屋に興奮しているからだけではない。今から、光也の両親に正式に挨拶をするのだ。

(あの日僕を助けてくれたのは、みっくんのお父さんだよね?)

 緊張で上がってきた唾液を飲み込むと、光也が大丈夫だよ、と千尋の手を取り、呼び鈴を押した。
 しばしの間があって、格子の引き戸に影が映って開く。

「千尋君、いらっしゃい! 待ってたよ!」
「……!」

 やはり、そうだった。あの日は作業着だったが、今日は深い緑色のニットを着て髪を下ろした美しいクリフ夫人が、笑顔で二人を出迎えてくれた。



 挨拶も結婚の相談もなんら滞りなく終わった。
 クリフが用意していてくれた夕飯はいつもの家庭料理だったが、品数が多く手作りの芋羊羹まであった。

 どれも胸が熱くなるほどおいしく、とくに芋羊羹は覚えのある味がして、なぜだか涙がひと筋こぼれた。すると、クリフは「日本の家庭料理の作り方は、全部千尋くんのお母さんから教えてもらったんだ。千尋君のお母さん、お菓子作りも上手だったね。特にこの芋羊羹は、お母さん独自の隠し味があるんだよ」と教えてくれて、千尋は溢れる涙を止められなかった。
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