専務、その溺愛はハラスメントです ~アルファのエリート専務が溺愛してくるけど、僕はマゾだからいじめられたい~

カミヤルイ

文字の大きさ
上 下
70 / 92
昏迷と混迷の間で

しおりを挟む
❋❋❋

 自宅待機になってから五日が過ぎた。

 千尋は外出もせず、成沢以外とは会わない日々を過ごしている。  
 成沢は光也から千尋の様子を確認するように言われているのだろう。光也が不在の間は不要だと断ったが、彼は毎日食事の用意に屋敷を訪れていた。

「藤村さん、体調がお悪いように見受けられますが……」

 夕食が用意されたダイニングテーブルで、頬の赤みと動きの緩慢さに気づいた成沢に言われ、千尋はぎくりとして腫れぼったい目を見開いた。

 期限がさし迫った提出書類に手もつけず、光也の部屋に籠っているからつい、光也の衣服に包まれて後ろをいじってばかりいる。ダイニングに降りる前にも没頭してしまったから、身体も顔も火照ったままなのかもしれない。

「あ……。いえ。少しだるくて熱っぽい感じはするんですけど、測ってみたら平熱でしたし、大丈夫です」

 笑顔を作り、ごまかした。気だるいのは嘘ではないが、日がな一日運動もせず頭も使わず自慰に没頭していたら、そうなっても仕方ないと思う。

「だるくて熱っぽい? もしかして発情期、では……? 随分フェロモン値も安定されているとお聞きしていますし、ない話ではありませんよ。病院のご予約、しておきましょうか。一度診察していただいてはどうでしょう」
「い、いえ。違います。これは、そういうのではなくて」

 発情は確かにしている。でも、それは光也の衣類と香りに包まれて「普通に欲情」をしているだけだ。恥ずかしすぎてとても言えることではない。

「光也様にもお伝えはしておきましょう。今からすぐにでも」
「い、いいえ! 大丈夫です。このあと、専務から連絡が入りますので、私から話します。それに、病院の予約は専務の帰国後に入れてあるので、そのときで間に合いますから」

 慌てて成沢の言葉に被せて言った。ブラジルでの仕事は順調な様子とはいえ、余計な心配はかけたくないし、そもそも発情期ではないのだから。

「そうですか? 私はベータなのでフェロモンの香りはあまりわからないのですが、ここ数日、藤村さんからクチナシのような香りを感じてもおりまして……」
「それは、みっくん……専務の。専務がご不在なので、その間フェロモン値が下がらないよう、お薬を多めに使っているからだと思います」
「ああ、なるほど。光也様お出かけになる前に、そうおっしゃっていましたね」

 成沢は納得したようで、うなずくと調理器具の片付けを始めた。


 その後成沢が帰宅するのをエントランスから見送ったあと、見計らったようにスマートフォンの着信音が鳴り、ここ数日入り浸っている光也の部屋に無意識に入っていた千尋は、画面をタップした。

「みっくん、おはよう」

 ブラジルとの時間は十二時間だから、あちらは朝の八時くらいだ。

「おはよう。千尋は夕食を終えたところだね。今日はちゃんと食べた?」

 毎日のことだがビデオ通話画面の光也は心配そうな顔をしている。
 成沢から聞いているが、光也はブラジルでの忙しい仕事の合間を縫って本社に連絡し、副社長や監査委員に千尋の件をかけあっているそうだ。
 だがのらりくらりとかわされ、日本にいて直接動けない光也は歯がゆい思いをしているらしい。

「大丈夫。日々食べる量は増えてるから」

 千尋は画面を少し引き気味にして答えた。顔がむくんでいるのを見られたくない。自慰に耽っているためとは思わないだろうから、また余計な心配をさせてしまいそうだ。

「千尋……? それ、どうしたの?」

 すると光也が眉根を寄せた。

(それ? 顔じゃなくて、それ……?)

「……あっ!」

 画面の向こうの光也の視線の先に気づいた。
 光也は自分のベッドの上の、千尋が作った「光也の城」を見ている。
しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...