専務、その溺愛はハラスメントです ~アルファのエリート専務が溺愛してくるけど、僕はマゾだからいじめられたい~

カミヤルイ

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昏迷と混迷の間で

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「今回は叶専務の厳密な管理下でデータが組まれたためミスはないと判断されましたが、逆に言えば今後使用する際にも厳重管理が必要ということになります。その無駄を省くためにも始末書の他、システム修正改善済みの報告書を上げてください。そうすればブラジルプロジェクトについても引き続きシステムを利用することが可能です」

 次から次に、端的に言葉を重ねられる。
 やはりヒアリングなどではなかった。懸念したように、会社は是が非でも「日々のありがちなミス」として処理しようとしている。

「……わかりました」

 千尋は歯を食いしばり、絞るように声を出した。
 不本意だが、断れば千尋が関わったデータは全削除され、旧型のシステムを使ってデータを再作成しなくてはならなくなる。ここまでやってきたチームの頑張りを無駄にしてしまう。

「それでは、ヒアリングは本日で終了です。始末書と修正書の雛形はこちらで用意したものを送信しますので、作成後に自署を加えて週明けまでに提出をお願いします」
「はい。……あの、ひとつ確認させてください。この件かおさまれば、私はプロジェクトチームに戻ることができるのですか?」

 先程、画面の向こうの調査委員は「ブラジルプロジェクトについても引き続きシステムを利用することが可能」と言った。継続が可能ならば、システムを作った千尋のチーム残留も望みがあるのではないか。

「そちらは叶専務が戻られてからの調整になりますが、おそらく難しいと思います」
「どうしてですか!?」
「藤村さん、あなたは秘書として専務執務室に異動になりました。プロジェクトにエンジニアとして関わることは秘書の範疇を超えています。今回は叶専務の業務執行権によりあなたもチームに入りましたが、役員会でも、社内でも否定派が多数います」

 閉口する。もっともな言葉だと思った。専務室に異動して秘書らしい仕事はほとんどしていない。専務みつやに守られ、専務が組んだ人徳者のチームに守られて、コストエンジニアの仕事を継続させてもらっていた……否定派の意見が耳に届くこともなく。

「それから藤村さん」

 うなだれていた千尋に、画面の向こうから声がかかる。

「……はい」
「マップシステムの権限は放棄していただくことになります。修正改善書の提出後は、権利はコストエンジニアリング部第二課に移ります」

 そんな……。

 もうその言葉さえ出なかった。今まで多くのものを奪われてきたけれど、コストエンジニアとして足跡を残したただひとつのものまで奪われてしまう。

「役員会ではあなたの解雇処分も議題に上がりましたが、社長と叶専務のご意向を踏まえて却下されています。こちらで済んだことで、お心をおおさめくださいね」

 調査委員は淡々と言って回線を切った。
 言い表せない脱力感が千尋を襲う。
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