専務、その溺愛はハラスメントです ~アルファのエリート専務が溺愛してくるけど、僕はマゾだからいじめられたい~

カミヤルイ

文字の大きさ
上 下
64 / 92
昏迷と混迷の間で

しおりを挟む
 内容は、千尋が開発したマップシステムを初めて使った案件内で、見積もり書提出期限の五日前からデータの改ざんがあった、とするものだった。

 告発者はコスニ元課長の茂部。常務の承認を受けての告発だと付記されており、添付されていた資料はふたつで、千尋の異動日の前日に千尋のIDで提出されたデータファイルと、今回茂部が補正したデータファイルだ。

「これ……私が確かに送信しました。チームから随分前に外れていたのに、どうしてか私に連絡が入って、締め切りまで三分しかないから、課長のパソコンを使ってすぐに常務に提出を、と茂部課長から……」

 違和感は感じていた。送信のために案件ファイルを開いた際、長くログインしていないはずのデータの操作履歴に、自分のIDを見たのだ。だが電話口で課長に急かされ、その場では確認できずに送信した。
 そして送信後、改めてファイルを開けようとすると案件チームの一人が戻ってきて、課長のパソコンに触れていることを注意され、説明しようにも聞いてもらえず自分の席に戻るように言われてしまったのだ。

「それで次の朝、確認を申し出ると、いつも以上に課長が苛立って、私にお茶をかけようと……」
「あの日か」

  珍しく千尋が茂部に追及をした日。茂部に逆切れされたところに光也が現れ、千尋に専務執務室の異動を伝えた、あの再会の日だ。

「……仕組まれたんだ」

 光也の声が鋭さを増した。

「元々、常務と茂部は組んで建材の水増しをして、利益を不正に受け取るつもりだったんだ。うまくいけばそのまま、どこかで指摘されればオメガ社員が誤って数値を触ってしまったらしいとか、そのオメガ社員が作ったシステム自体の不具合が生じたとか、理由をつけて逃げられる道を用意して……それを今回、俺への報復に利用した」

 光也は専務としての立場を忘れるほど苛立っている。虚偽の不正告発に対してはもちろん、未然に防げなかった自身に落ち度を感じているのだろう。爪が食い込みそうなほど力を入れて手を握り、腕も怒りで震えていた。

「……専務、落ち着いてください。これから私はどうしたらよろしいですか?」

 動揺を隠して光也の手に手を重ねる。
 当然千尋も大きなショックを受けている。だが、今までもオメガ性が理由で理不尽なことは何度もあった。こんなとき、どこかで「オメガだから仕方ない」と事態を甘受する悪い癖がまだ残っている。
 ただそれよりも、光也の怒りと悔恨を強く感じ取って、この事態を少しでも早く回収しようとする気持ちの方がまさってはいた。

 不思議なもので、自分以上に自分のことで感情を高ぶらせてくれる者がいると、現状が客観的に見えてくる────千尋のためならどんな手段を使ってでも常務と茂部に報復をしてしまいそうな予感もしたので、冷静にならざるをえない部分もあったのだが。

「専務がこのような状態でお戻りということは、私のへ不正疑惑が晴れていないということですね?」
「ああ……」

 千尋の冷静さに、最初は驚いた顔をした光也だが、ふう、と深呼吸をし、身体のこわばりを解いた。

「今回の件は常務と茂部にも疑いの目が向けられている。だが相手が常務なのが厄介なんだ。KANOUは一族の血統が役員を占めているから、迂闊に常務に責任追及ができない。だが不正は確かにある。千尋が不正をしたことは虚偽でも、一度告発として監査委員に届けられ、名前が出たことで、調査チームを立ち上げざる得なくなっている。調査対象は……」
「……僕と、茂部課長だけなんですね」

  光也が重々しくうなずいた。
しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

処理中です...