54 / 92
お願い、僕をいじめて
④
しおりを挟む
それより一週間後、病院から宅配便が届いた。
夕食後のリビングルームで二人、並んで包みを開ける。中に入っていたのはスプレーボトルに入った液体と、チューブに入った粘りのあるローションだ。
説明を見ると、液体は毎朝トワレのようにオメガの身に振りかけ、ローションは三日おきに後孔内に入れ、中の柔軟性を高めるために使う、と書いてあった。
「あ、すごい。ちょっとだけみっくんの匂いがする。なになに……効力は弱めてあるが、使用量は必ず守るように、か」
ローションのキャップを開けてくんくんと匂いながら嬉しそうに話す千尋に対し、なんとも複雑な表情になる光也。
光也的には採精室でのことを醜態だと思っているらしく、三日間千尋に謝り続けていたから、今も気にしているのだろう。
「飲み薬じゃなくてほっとした……」
つぶやくように言う光也に千尋は笑う。
「みっくんのなら飲んでも全然いいんだけどね。……というわけで、少し話があるんだけど、いい?」
ソファの上で正座になると、光也は「ん?」と首を傾げながら隣に座った。
ホワイトのトップスキンレザーが張られたソファはウレタンチップと羽毛がふんだんに敷き詰められていて、雲の上をイメージさせる柔らかさだ。それなのに男らしい体躯の光也がすぐ隣で腰を下ろしても、千尋の身体を振動させない。
光也の身のこなしがスマートなのはもちろんだが、こういった小さなことにまで、いつも細やかに気を遣っているのを千尋は知っている。
「みっくんが全方向に配慮がある人なのはわかってる。そして、特に僕をたくさん気遣ってくれてるってことも……でもそれって、僕が嫌な思いをしないようにって、自分を抑えてるよね?」
「何? 急に。好きな子にはいつも幸せな気持ちでいてほしいんだから、自分の思いよりも優先したくなるの、自然なことじゃない?」
千尋は頬を撫でようとする光也の手を阻み、ソファの上で握った。
「ほら、それだよ! それでどうして自分だけ我慢するの?」
「我慢? 我慢してると思ったことなんて……」
「してるよ。病院で言ったよね。今日は抑制剤を持っていないって。抑制剤を使わなかったあの日、確かにみっくんはいつもと違ってた。だから僕、先生に聞いたんだ」
ずっと引っかかりはあった。光也は千尋を「運命の番」だと言ったのに、千尋が会社でヒートを起こした夜も、別荘でも、それからも。光也は一度も最後までしてない。
初めは千尋の気持ちが固まるまで待つと言い、同居が始まってからは千尋が気を失ってしまうから中断している。
だが運命の番というなら、その相手とベッドを共にして、ここまで理性を保てるものなのだろうか。
千尋に魅力が少ないから、あるいは「運命の番」ではないからではないのだろうか。そんなふうにマイナスに思う時さえあった。
けれど採精室での光也は強く発情し、性交に至っているわけではないのに我を忘れていた。あんな姿を見るのは初めてだった。
「みっくん、三か月前から抑制剤を欠かさず処方してもらっているんでしょう? 僕と会ってからはずっと、抑制剤の注射を打っていたんだね……」
夕食後のリビングルームで二人、並んで包みを開ける。中に入っていたのはスプレーボトルに入った液体と、チューブに入った粘りのあるローションだ。
説明を見ると、液体は毎朝トワレのようにオメガの身に振りかけ、ローションは三日おきに後孔内に入れ、中の柔軟性を高めるために使う、と書いてあった。
「あ、すごい。ちょっとだけみっくんの匂いがする。なになに……効力は弱めてあるが、使用量は必ず守るように、か」
ローションのキャップを開けてくんくんと匂いながら嬉しそうに話す千尋に対し、なんとも複雑な表情になる光也。
光也的には採精室でのことを醜態だと思っているらしく、三日間千尋に謝り続けていたから、今も気にしているのだろう。
「飲み薬じゃなくてほっとした……」
つぶやくように言う光也に千尋は笑う。
「みっくんのなら飲んでも全然いいんだけどね。……というわけで、少し話があるんだけど、いい?」
ソファの上で正座になると、光也は「ん?」と首を傾げながら隣に座った。
ホワイトのトップスキンレザーが張られたソファはウレタンチップと羽毛がふんだんに敷き詰められていて、雲の上をイメージさせる柔らかさだ。それなのに男らしい体躯の光也がすぐ隣で腰を下ろしても、千尋の身体を振動させない。
光也の身のこなしがスマートなのはもちろんだが、こういった小さなことにまで、いつも細やかに気を遣っているのを千尋は知っている。
「みっくんが全方向に配慮がある人なのはわかってる。そして、特に僕をたくさん気遣ってくれてるってことも……でもそれって、僕が嫌な思いをしないようにって、自分を抑えてるよね?」
「何? 急に。好きな子にはいつも幸せな気持ちでいてほしいんだから、自分の思いよりも優先したくなるの、自然なことじゃない?」
千尋は頬を撫でようとする光也の手を阻み、ソファの上で握った。
「ほら、それだよ! それでどうして自分だけ我慢するの?」
「我慢? 我慢してると思ったことなんて……」
「してるよ。病院で言ったよね。今日は抑制剤を持っていないって。抑制剤を使わなかったあの日、確かにみっくんはいつもと違ってた。だから僕、先生に聞いたんだ」
ずっと引っかかりはあった。光也は千尋を「運命の番」だと言ったのに、千尋が会社でヒートを起こした夜も、別荘でも、それからも。光也は一度も最後までしてない。
初めは千尋の気持ちが固まるまで待つと言い、同居が始まってからは千尋が気を失ってしまうから中断している。
だが運命の番というなら、その相手とベッドを共にして、ここまで理性を保てるものなのだろうか。
千尋に魅力が少ないから、あるいは「運命の番」ではないからではないのだろうか。そんなふうにマイナスに思う時さえあった。
けれど採精室での光也は強く発情し、性交に至っているわけではないのに我を忘れていた。あんな姿を見るのは初めてだった。
「みっくん、三か月前から抑制剤を欠かさず処方してもらっているんでしょう? 僕と会ってからはずっと、抑制剤の注射を打っていたんだね……」
42
お気に入りに追加
1,161
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる